ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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今回はSAN値チェック必要なシーンがありまふ


正義はなくても人を救われる

 空気中の水分が凍りつき、壁や床に付着している。いや、量が多いから魔力が直接氷に変換されているのだろう。ここまでの規模となると『千の妖精(サウザンド・エルフ)』や『九魔姫(ナイン・ヘル)』クラスでないと然う然う行えないだろう。

 人は、誰も死んでないな。瀕死だが、加減は無意識にされたのか距離があっただけか。

 暫く進むと特大の氷柱に貫かれた扉を見つける。剣山のような氷を避け中に入ると気絶したノエルとアンナ。

 

「うっわ、サム……」

 

 中はまるで氷室のよう。テッドは氷の中にいた。

 冷気こそあるものの、ノエルより後ろは比較的に凍っていない。アンナは寒さにやられ青白くなっている。微かに震えているから生きているだろう。

 

「【血は炎】っと」

 

 火をつけてやり温める。テッドの入った氷も血をぶち撒けてから燃やす。氷から出てきたテッドの心音は、止まっていた。

 

「動け」

「パウ!?」

 

 胸を踏みつけ電撃を流せば奇声と共に心臓が動き出す。ひっくり返し、逃げ出そうとするテッドの頭を床に踏みつけ服を引き裂くと『解錠薬(ステイタス・シーフ)』でステイタスを顕にする。

 

「やっぱテッドじゃんお前。うわ、ステイタス低すぎ」

「き、貴様! ふざけやがって、貴様も道連れだ!」

「あぁん?」

「捕まるまでの間、手下共を使って噂をばらまいてやる! 暗黒期の生き残りと、貴様がつるんでいる事をなぁ! 奴等自身、どれだけ懸賞金がかけられているのか知らんだろう!? いいや、お前がアストレアと繋がっていたことも話してやろうか!?」

 

 【アストレア・ファミリア】に恨みを持つ悪党は山ほどいる。【ロキ・ファミリア】のような大派閥ならともかく、少派閥に隣人がいるとなれば腹いせに来る者が現れるのは間違いない。つまりは殺したい放題。

 

「とはいえ、店に来られても困るからなあ」

「ひっ!」

 

 ポン、とテッドの頭に手を置くヴァハ。カタカタと寒さ以外の理由でふるえるテッドに、何時ものように軽薄な笑みを向けた。

 

「走馬灯って知ってっか? 一瞬でこれまでの人生追体験するって奴。あと、死を前にすると時間がゆっくりになったりするよなあ」

「な、何が言いたい!?」

「お前って記憶力高いか?」

「─────」

 

 

 

 

 何処だ、ここは?

 気が付けば真っ暗な空間にいた。自分が立っているのか、浮いているのかわからない。何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。

 感覚のない体を動かすなんて出来ず、時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 

「なるほどなぁ、五感は加速してねえからこうなるのか」

 

 テッドの思考能力を速めた結果、思考能力に五感からの情報伝達がついてこず恐らく何も聞こえてないし何も見えていない。ここで刺したところでその痛みが届くのは、果たしていつになることやら。

 

「まあ安心しろよ。人間の脳ってのは、案外違和感を調整する機能に優れてる」

 

 例えば上下逆さまになるレンズをつけて生活しても、そのうち脳が勝手に矯正するようになる。現実時間と思考時間の差異もそのうち修正される。それがテッドにとってどれだけの時間かなんて知らねえが。

 ヴァハはノエルとアンナを抱えると歩き出す。ついでに重い何かを腹いっぱい詰めた赤子達がズリズリとお腹を引きずりながらついてきた。

 

 

「………あ、れ………ここ、は?」

「よお、起きたかアンナ」

「え、あ……く、クラネルさん!?」

 

 火事から避難した客たちに紛れ脱出したあたりでアンナが目を覚ます。抱きかかえられているのだから当然顔が近く、ヒェと顔を赤くした。

 

「ポーションを飲ませたが、もう怪我はないか?」

「は、はい………」

「良かった」

 

 怪我云々で金をごねられたら、死体が生まれるところだった。母親の方はともかく父親の方は信頼していない。

 何を勘違いしたのか赤くなるアンナに、ちょろいな此奴と考えるヴァハ。このまま暫く遊ぶのも、彼女のファンの神々を差し向けさせる布石になるだろうか、と思った時だった。

 

「あ、兄さん!?」

「おお、ベルか。お前もこんな所に来るんだなあ」

「あ、あはは………モルドさん達に誘われて」

 

 確かベルに嫉妬して絡んできた冒険者だったか。以前歓楽街にベルを誘おうとしてヘルメス共々ボコボコにされていた。

 

「………ヴァハ・クラネルさん」

「お、いたいた」

 

 と、ベルと一緒にいたのだろう、タキシードのリューとドレス姿のシル。彼女達と合流していたらしいクロエとルノアの姿も。

 

「んじゃリオン、用意してる場所に案内しろ」

「…………はい?」

「もう、ヴァハさん。それじゃ伝わりませんよ? こんばんは、貴方がアンナさん?」

 

 突然の要求にリューが固まり、シルがやれやれ、と肩をすくめアンナに話しかける。

 

「は、はい………」

「良かった。私達は別口で貴方を助けに来たの。カレンさん達………ご両親の下まで向かう馬車を用意してるから、ついてきてくれませんか?」

 

 不安そうにヴァハを見てくるアンナ。ヴァハが頷くとはい、と返した。

 

「…………貴方が助けたのですか?」

「金もらったからなあ。別に、正義の味方じゃなくても人は救える。喜べよ、結果は変わらねえんだから」

「もうヴァハさん? あんまりリューをいじめちゃめ、ですよ?」

「はいはいあざといあざとい」

 

 指をピン、と一本たて注意してくるシルをぞんざいに扱うヴァハ。シルはベルに慰めてくださ〜い、と抱きつく。

 

「ところで、そちらの女の子は?」

 

 アンナを下ろした際おんぶに変えたノエルを見るシル。

 

「………ノエルだ」

「そういう事じゃないんですけど」

「ところでそのドレス似合うな」

「おや? わかりますか? ふふ、ベルさんも見惚れてくれたんですよ!」

「まあベルは爺のせいで女体に目がねえからなあ」

「ちょっ!? に、兄さん!」

 

 ベルが赤くなってアワアワしだす。

 やがて裏で用意されていた馬車に辿り着く。

 

「じゃあな、次からは捕まるなよ?」

 

 そう言ってヴァハが馬車の扉を開けると、アンナは意を決したような顔でヴァハを見る。

 

「あのっ! 貴方には妻子がいるのは解っています!」

 

 子はいるけど妻はいないが、まあ良いだろう。

 

「私なんかより素敵な愛人の方々がいる事も………」

 

 愛人だってにゃ、あんたのことっしょっ、とクロエのルノアがお互いを指差す。

 

「これから言う事は、あなたを困らせてしまう事も………でも、それでも私はあなたの事が!」

 

 ベルは顔を赤くしてええ、と狼狽える。

 

「私は、貴方に恋を──」

「ごめん、俺恩恵ない女に興味ないんだ」

 

 

 

 

「あの振り方は無いんじゃないですか〜?」

「だってなぁ、恩恵持ちと無しじゃ血の味全然違ったし」

 

 判断基準はそこ………ではないのだろうな。ヴァハ・クラネルにとって人間の価値は自分に何かをもたらすか、でしかない。確かにアンナ・クレーズはやっかみを生みヴァハに戦いを運ぶかもしれないが………。

 

「もし何処かの眷属になって来たら、その時はきちんと相手してあげるんですよ?」

「何だお前、彼奴の味方かぁ?」

「恋する女の子は何よりも綺麗なんです。私、美しいものの味方なんですよ?」

 

 ふふ、といたずらっぽく笑うシル。ヴァハとシルの仲良さげな雰囲気にリューはどうしたものか、狼狽えていた。恋、と言うには少し違う。友人? それも、かなり気の合う。

 

「なら美の女神のイシュタルでも崇めてろよ」

「え〜、あの神さま品性が足りないじゃないですか。ていうか、美の神って私にその話題を出すんですか?」

 

 もう、と拗ねたように頬をふくらませるシル。ヴァハはベルに預かってろ、とノエルを預けると歩き出す。

 

「に、兄さん? 何処へ……」

「もう少し遊んでから帰る」

 

 

 

 

 ダイダロス通り、迷宮のようになっている住人さえ迷う事のある入り組んだ区画に、二人の男が居た。

 

「間違いない、あの娘だ。ヴィトー様に報告を……」

「ああ、これで使命を一つはたぺ」

「おい、何をふざけ………な!?」

 

 妙な言葉を放った仲間に咎めるように叫ぼうとすれば、固まる。巨大な鉤爪が4本、男の首に刺さっていた。まるで巨大な蜘蛛に捕まったかのような男は天井からぶら下がる鉤爪が短くなり浮き上がる。自重で皮膚が裂け、肉がみちみち嫌な音を立てる。ゴポゴポと穴と口から泡立った血を出しながら藻掻く仲間を見て固まる男の後方から、声が聞こえた。

 

「なるほどなるほど。これが秘密の通路への入り口か。地下に伸びてんのか? 暗黒期……よりも前か。で、これが鍵と」

「なっ!?」

 

 Dの文字が刻まれた球体を片手で弄ぶ赤髪の男。咄嗟に取り出したナイフはしかし弾かれ、腹を蹴られる。

 

「案内ご苦労。門はそのうち【ロキ・ファミリア】が見つけるだろ。怪しいの後ここだけだろうし」

 

 ルノアとの約束もその時期にするか。行方不明の【デメテル・ファミリア】の団員捜査。未だなんの手掛かりもなしなら、そもそも存在が知られていない場所に隠されていると考えるべきだ。

 

「お、おのれ! こんな所で! 俺は、娘に!」

「娘? 娘かぁ。俺も最近娘できたし? 気持ちはわからなくもないかもしれんな。よし、会わせてやろう」

 

 ヴァハはそう言って男の頭に血の針を複数突き刺す。骨の隙間を縫い、脳に到達した。

 

「いい夢見ろよ〜」

「あば!? べ、ばばば!!」

 

 

 

 

 

 

 男は気付けば、草原に居た。

 ここは何処だ? 何処か、懐かしいような気がする。

 ポツンと建った一軒家。そこで遊ぶ、少女の姿が見えた。

 

「え? あ、そんな………まさか!」

 

 見間違えるはずが無い。ずっと、ずっと会いたかったのだから。

 

「パパ!」

 

 向こうも気づき、駆け寄ってくる。ああ、もしや自分は死んだのだろうか? そして、こうして次の生で巡り合った。あの約束どおりに!

 

「おかえりなさい!」

「…………え?」

 

 だけど、娘は横を通り過ぎ、見知らぬ男に抱きついた。頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細める。

 

「だ、誰だそいつは!?」

 

 叫べば、ビクリと震える。それは、知らない他人に叫ばれた反応。

 

「なんですか貴方は! 娘になんのようですか!?」

 

 怒りを顕に叫ぶ男。違う、お前の娘じゃない! その子は、俺の!

 

「どけ!」

「うっ!」

 

 ズン、となれた感覚がした。これは、人を刺す時の感覚。見れば何時のまにかナイフが握られており、男の腹を突き刺していた。

 

「あ……や、いやぁ! パパ!? パパァ!」

 

 倒れた男に駆け寄る娘の姿に、思わず後ずさる。それでも、懸命に笑い声をかける。

 

「違う………違うだろ? お前のパパは、俺で………俺が」

「違うもん! パパだもん、私のパパは! パパだけだもん! 来ないで、人殺し!」

「…………なん、で………?」

 

 何の為に………()()()()この手を血に染めたと思っている!?

 もう一度、お前に会いたくて、この腕に抱き締めたくて!

 何で忘れる? 自分なら、絶対に忘れない! この愛は本物だから、生まれ変わっても絶対に覚えているのに!

 

「……この子が親として愛しているのは、僕だから」

「っ………」

 

 倒れた男が呟く。死体のように無機質な瞳が此方を向く。

 

「違う違う違う違う違う違う違う違う!! こんな、こんなことがあるものか! なあ、思い出してくれ! 俺だよ! パパだ! もう一度お前に会うために、俺は全部捨てたんだぞ!」

「い、いや! 触らないで! 血に汚れた手で、触らないで! ()()()()()!!」

 

 何で、どうして。自分はお前に会うために。きっと、一人で泣いてるであろうお前を助けるために。なのに、どうして………どうして他の誰かを父と呼ぶ!? そいつがお前の為に何をしたっていうんだ! 俺はお前のためなら何人でも殺す! この命だって惜しくないのに!

 

「……………あ」

「………え」

 

 気づけば、ナイフは娘の胸を貫いていた。目が、合う。憎しみに満ちた目。自分に、多くの一般人や冒険者達が向けてきた、敵を見る目。

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああAAAAAAAAAAAAaaaaaaa■■■■■■■■■!!」

「あ、起きた」

 

 絶叫と共に飛び起きた男にヴァハは読んでいた本を閉じる。

 

「娘と再会できたかぁ? お前の中の僅かな罪悪感とか忘れてたらどうしようっつー恐怖もすこーし混ぜたが、大半は再会への渇望だから夢の中とはいえ再会出来たとは思うんだが」

「ああ、あああああ!!」

 

 と、男は落ちていたナイフを掴むと、己の胸に突き刺した。何度も何度も、喉や腹、目や頬にも突き刺していく。

 

「ばん、でべぇ………おでば、にゃんのあめに…………」

「自分の胸に聞いてみたらどうだ? 無理か、自分でズタズタにしちまったし」

ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員
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