ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
鮮血が舞う。
赤い赤い、ルビーの様な、彼の髪と同じ色。
放り出された人形のように、転がる身体からは内臓が溢れ出る。
医術の心得が無くとも、誰だって一目見れば確信する致命傷。命にまで到達する傷。
このままでは間違いなく死ぬ。
アミッド・テアサナーレはそれを許さない。
誰かが傷つき、死ぬなどと言うことを絶対に認めない。
「【癒しの雫、光の涙】───!!」
すぐさま癒やしの祝詞を刻む。人喰花はヴァハに向かって追撃を仕掛けていた。だが、アミッドの魔法が唱え終わる方が速い!
ヴァハはレベル1とは思えぬほどの戦闘力を有している。まだ距離があるこの状況、回復さえ出来れば対処出来るはずだと確信があった。故に、食人花の突然の動きに対処が遅れた。
「オオオオオオオオッ!!」
食人花が振り返る。モンスターが、傷ついた近くの人間を無視して魔法を発動しようとした人間を狙う。
ありえない。直ぐに『魔力』に反応したのだろうと結論づけるも、遅い。食人花はアミッドを認識した。
地面の下を何かが突き進み、石畳を砕いて地上に姿を表した、その瞬間───
「───っ!?」
「オア!?」
ドォン! と爆音が響き渡る。ゴロゴロと雷鳴が聞こえる。
雷光に目が眩む前、アミッドの視界で食人花の動きが一瞬止まるのが見えた。すぐに爆音と眩い光に何もわからなくなるが何かに引っ張られる。
「【血に狂え】………」
ヒュンと風切り音が聞こえ、続いて何かが倒れる音と砕ける音が聞こえた。
「う、っ………な、何が」
「あうう、目がチカチカするぅ」
何が起きてるか解らず混乱するアミッド。まだ耳鳴りがするが何とかエルフィの声が聞こえた。割と近くに。
「静かにしろ」
「この声、ヴァハ!? 大丈夫!?」
「だから黙れ」
エルフィが声を荒らげるが続いてモゴモゴとくぐもった声が聞こえてきた。恐らく口を抑えられたのだろう。
だんだんと視界が戻ってきた。どうやら屋台の影に隠れたようだ。向こう側、つまり広場から音が聞こえる。そっと覗くと無数の街灯が倒れており、魔石灯から魔石が落ちており、食人花はそれを食べているようだ。
「ハハァ……彼奴、お前が魔法を使おうとした瞬間地面の中移動する速度を上げやがった。魔力に反応してんだろうよお」
なる程、だからヴァハを回復させようとした瞬間振り返り、雷の魔法に反応し止まったのだろう。
「っ! ヴァハ、貴方怪我は……!」
そんな事よりも、アミッドにとっては怪我人が居ることの方が重要だ。慌てて振り返りヴァハを見る。横では「あー、視界が戻ってきた」とエルフィが気の抜ける事を言うが、そんな事など気にならない。
「魔法は使うなよ? せっかく止血したんだ……」
体中に火傷を負い、傷口も焼かれ血が止まっている。先程の雷はこのためなのだろう。無茶が過ぎる。
「まあ、街灯切るのに少し使っちまったがなあ………見立てでは何分持つよ」
「喋らないでください。命を縮めます………持って、10分。なぜ平然としているのですか貴方は………」
「んっんー…………人より頑丈だからなあ。んで、どうするよ」
死にかけの状態でヘラヘラと笑うヴァハ。命を失うかもしれないこの状況を楽しんでいるのだろう。怪我人でなければひっぱたいてやりたい。
「ど、どうするって?」
と、エルフィが恐る恐る尋ねる。
どうするも何も何もしない方がいいのではないかと言うのが彼女の見解だ。
「奴には目も鼻もねえ。んじゃ、どうやって獲物を見つけるでしょーか」
「それらの感覚器を持たぬモンスターで多く見られる代替機能は、体に生えた微細な毛です。空気の流れを感知して…それもあるのかもしれませんが、散らばった魔石に反応するなら」
「…………魔力?」
「だろうなあ……」
となれば魔石を喰い終えれば、魔道士であるエルフィや都市最高の治癒師であるアミッドはきっとすぐに見つかるだろう。何気に長時間魔法を維持できるヴァハだって恩恵を刻んだ際には見えない元々の強さ、隠しステータスとしての魔力はきっと相当高い。極上の餌だ。
ならば今のうちに逃げるかと言われれば、動きを感知され向かってくる可能性も捨てきれない。
「食事が終わるまでに冒険者が来るか、終わって見つかるかの2つに1つだなあ。ハハァ………それが嫌なら、戦うしかねえ」
「た、戦うたって………」
エルフィは遠征に出たこともある。しかしあんなモンスター見たことがない。新種か、さらに深層のモンスターだろう。少なくとも平行詠唱も使えぬ後衛のエルフィと治癒師のアミッド、レベル1の駆け出しヴァハの敵う相手では無い。
「いいねえ。命が散るかもってこの瞬間、失いたくないものができた瞬間こそ生きてるって感じがする………ほれ、食事もそう時間がかからんぞ? 早く決めろ」
「楽しそうに……死にかけなのに。やはり貴方は、理解できません」
「ハハァ………」
「……何故、私を助けたのですか?」
アミッドはそう尋ねる。自分だって誰かの命を助ける為なら一人でも下層に向かいかねない女傑は偽りは許さぬとばかりにヴァハを見つめる。
「お前が生きてりゃ俺の怪我が治る。ある程度治すだけでも、俺は死なねえからなあ」
「戦ったとして、あのモンスターに勝てますか?」
「無理だな」
「そ、即答………」
エルフィが呆れる。アミッドも………しかし理由は異なる。
(やはり冷静………)
実力を良く理解して、正確な判断を下す。恩恵得たて、あるいはランクアップしたてには良くあることなのだが己の実力を履き違えて無謀な突貫をする事がある。ヴァハは、しない。なのに死地には喜んで飛び込んでいくだろうと短い付き合いなのに確信してしまう。
「私、少し貴方に腹が立ちます」
「へぇ、ダンチョが言ってたとおりだなあ。嫉妬による偏見があると思ってたんだが」
「私だって、人間ですから………」
きっと何と説得しようと彼は止まらないだろう。アミッドが良く使う、死んでしまえばそれで終わりという言葉も意味をなさない。彼は己の命を掛け金にようやく生きられるのだから。そんな闘争の中でしか、命の危険の中でしか生きられぬ存在がいる事に、救い方が解らぬ存在に、救えぬ己自身に、腹が立つ。
「だから貴方を生かします。貴方がどれだけその命を差し出しても構わないと思う闘争をしようと、私は貴方を死なせない」
彼は間違いなく闘争に、死地に向かい続ける。止められない。ならば
「作戦を。私は
「で、でもアミッドさん。ヴァハの傷は………」
今この状況でアミッドクラスが魔法を使えば間違いなく見つかる。エルフィの言葉に、アミッドは簡単ですと呟き己の体を漁る。
「何方か、刃物は持っていませんか?」
「んー……」
「ご、ごめんなさい。お祭りだったから……」
ヴァハは肩をすくめる。エルフィは申し訳なさそう。アミッドはそうですかと返し、己の手首を噛みちぎった。
「な!? ア、アミッドさん、何を!?」
「エルフィさん、お静かに……ヴァハ……これで足りますか?」
ドクドクと体内から溢れる血を掌に流れるように傾けヴァハに見せるアミッド。同時に、ゴリガリと聞こえていた咀嚼音が消える。
「お前も大概、おかしな奴だな……」
ヴァハはアミッドの手首を掴み、口元に引き寄せた。
「ああ、その前に作戦を言うぞ? エルフィ、お前の役目が重要だ────」
作戦を伝えたヴァハはアミッドの掌という杯に溜まった血を呷る。
エルフィの目にそれは、泉の精が聖水を英雄に与えるようにも、騎士が姫に忠誠を誓うような神聖なものに見えると同時に、悪魔が女の手から命を吸い取り食らうようにも見えた。
食事を終えた食人花は、続いて魔力を内包した生物を見やる。影に隠れているようだが魔力の流れで分かる。
動く様子はない。なら慌てる必要もない。口を大きく開け近付き───
「ハハ!」
ドゴォ! と蹴りつけられる。大して痛くない。だが、大気に溶け込む魔力そのものを感じ振り返る。
「うめえ! ちょーうめえ! それに、レベル2だからか? 治癒師だからか? 傷に良く効くなぁ! 代わりに魔力の回復は普通だけど」
先端が切られた街灯の上に立ち楽しそうに笑うヴァハ。その身体からバチバチと紫電が迸る。その魔力に、惹かれる。
「オオオオオオッ!!」
「ハハハハ! 第2ラウンドと行こうぜ、クソ花ぁ!」
アミッド。モンスターを除いてヴァハが初めて直接血を啜った相手。血は絶品(ヴァハ談)。味は酸味と甘みが混じった味(ヴァハ談)。
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ヴァハ君のヒロイン
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フィルヴィス・シャリア
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アスフィ・アル・アンドロメダ
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メイナちゃんやティオナを混ぜて全員