ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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火炎魔術師の覚悟

 バチバチと大気を焼く雷。その魔力に向かって無数の触手を伸ばす食人花。ヴァハは体内に雷を流し、無理やり己を加速させる。

 

「オオオオオオッ!!」

「ハハァ……」

 

 最早レベル2に匹敵する敏捷性。それでもまだ食人花の方が速いはずなのに、ヴァハは全て紙一重で避ける。

 初動が違う。目が良い。動きをしっかり見て、未来予知に近い予測でかわしていく。少しでも読み間違えれば一撃で死ぬ。それだけの実力差。

 故にミノタウロスとの戦闘で『あ、死んだ』と思った時同様興奮し、しかし頭は冷静。訓練による賜物などでは決して無く、ただただ並外れた才能(センス)によるもの。

 ヴァハは弟と違い、英雄へと至ることの出来る才能があった。祖父はそう称していた。しかし弟にはある気概がない。

 ある程度、常人と喜びを共に出来る感性はあれど、心の底から退屈を消せない。故に世に退屈し、死に恐怖する人間を悦び、やがては殺し合いに楽しさを見出した彼の在り方は英雄とは真反対を行く。それでも良識を理解している故に無闇矢鱈に暴れ回らないのが救いだと。

 逆に言えばヴァハは普段やりたいことをやれていない。それをストレスと感じなくても退屈は感じる。だから、とても楽しそうだ。

 アミッドはやはり、ヴァハの在り方が理解出来ない。そして、腹立たしい。

 祭りの時、踊ればいいとからかう様に言ったときや、普段浮かべている軽薄な笑みとは異なる本当の笑み。

 それがどうしようもなく彼を()()()()()と認識させる。治癒を施した後の急患が浮かべる、生を実感し喜んでいる顔に重なる。

 アミッドは治癒術師。人の死を忌避し怪我を嫌悪し、命を尊ぶ。そんな彼女をして、今のヴァハに、危険に飛び込むヴァハに生を感じてしまう。治癒術師の本能か、アミッド個人の気質か、あの顔を見ていたいと思ってしまう。

 

「オアアアアアアアッ!!」

「ハハ! ハハハハ!!」

 

 無数の蔓が殺到し、かわしきれなかった一本が頬を切る。血が流れ、しかしヴァハは楽しそう。バチリと紫電が手を覆い、振り下ろせば雷が落ちる。

 空気が熱せられ爆ぜる。振動し音を奏でる。それでも、モンスターは健在。むしろ魔力に反応し勢いを増す。

 

「【癒しの雫】──」

「────?」

 

 そしてヴァハが魔力を潜め、アミッドが魔力を放った事により食人花の感知機能が混乱を起こす。恐らく一瞬ヴァハが消えたかのように感じた事だろう。

 そして、直ぐに高い魔力を放つアミッドの方向に向き直る。

 

「───っ!!」

 

 しかしアミッドもレベル2。十分距離があれば、なんとかかわせる。振るわれる蔓の鞭を回避しかける。追おうとする食人花だったが───

 

「【血に狂え】」

 

 再び別の魔力を感じて動きを止める。無数の赤い短剣が突き刺さる。

 

「オオオオオッ!?」

 

 深くはない。浅い。だが、刺さった短剣が内部で枝分かれして、溶けて消えた。

 

「んんー………予め命令は出来る、と。ハハァ……()()()は手に入れたばっかだが、使いやすくて良い」

 

 食人花に刺さらず地面に刺さったナイフでも同様の変化が起きていた。こちらは石を貫けず地面の上で広がるだけだが。

 次は圧縮してみる。地面に広がっていたライガーファングの血を操り生み出した球体を口内に放つ。魔法を解けば、圧縮された血が元の体積に戻ろうと膨らみ大気を押しのけ爆発する。

 

「─────!?」

「クハっ! 頑丈だなぁ、壊しがいがある!」

 

 しかし砕けない。やはり頑丈。ライガーファングはもちろん、ミノタウロスよりも。

 と、食人花が迫る。血液の圧縮には集中力が思いの外かかる。この距離では動きを止める程の圧縮を行うことは不可能と判断し距離を取ろうとするも追いかけて来る。

 再びアミッドの祝詞(うた)が響く。すぐさま振り返る食人花。

 

(………単純だ。いや、むしろ単純すぎる)

 

 モンスターは獣よりは知能がある。獣だって学習する。なのに、食人花は魔力に襲いかかるばかり。

 妙だ。それこそまるで、魔力を集めるためだけに存在しているような………。

 

(魔力………魔石? 強化種か?)

 

 モンスターは同族たるモンスターの胸に埋まる魔石を食う事で力を増す。そして、その味を覚えたモンスターはモンスターを襲う。

 一瞬目の前のモンスターもその類かと思ったが、何か違う気がする。

 と、アミッドとヴァハに翻弄されていた食人花が不意に動きを止め一方向を見る。

 

「気付かれたか」

「っ! エルフィさん!」

 

 食人花が顔を向けた方向。そこには詠唱を唱えるエルフィの姿が。詠唱は完成に近づいたのか誘導するために魔力を出したり抑えたりしていた二人より、濃密な魔力。その気配に誘われ食人花は唾液を垂らしながらエルフィへと向かう。

 

 

 

───エルフィ、お前の役目が重要だ

 

 そう言われ、戸惑いはなかった。ヴァハはレベル1だし、アミッドはレベル2とはいえ治癒術師。明らかな下層、深層クラスのモンスターに対する決定打はない。唯一魔道士であるエルフィだけが、魔法という起死回生の可能性があった。

 頼られて嬉しい。嬉しいが、気が引ける。

 だって自分は未だ中堅止まり。レベル3など【ロキ・ファミリア】からすれば遠征に参加出来る()()でしかない。

 

(荷が重いよぉ…………でも!)

 

───頼りにしてるぜ? お前がしくじりゃ、他の冒険者が間に合わなかったら死ぬだけだからな

 

 何度でも言う。頼られて嬉しいと。

 しかもヴァハだ。レベル1でミノタウロスとやり合えるような、今もレベル1とは思えぬ動きをする、絶対にすぐに追い抜かれてしまう存在だと、彼なら第一級冒険者になるんだろうという確信が持ててしまう相手から頼りにされたのだ。

 そうだ、何を呆けていた。自分は今、彼より上だろう。いや、今はじゃない。それはつまり、追い抜かれる事を、負けることを受け入れるということ。そんなのはごめんだ!

 私だって、冒険者なんだ!

 

「オオオオオオオオッ!!」

 

 詠唱はやめない。魔力は流れ続ける。食人花が迫り、しかし無警戒になった背後から追いついたヴァハが拳を叩きつける。雷が空気を熱し、爆発を引き起こす。

 

「ゴア!」

 

 地面に叩きつけられた食人花。文字通り触れるほど近くの魔力に反応し蔓を伸ばすが、僅かに遅い。ヴァハが飛び退く。

 

「【ファム・リヴィエール】!!」

 

 詠唱の完成。ヴァハが離れたことによりエルフィへと狙いを変えた食人花に向かい、正面から炎の奔流が襲いかかる。エルフィが持つ魔法の中で、最強の魔法。レベル4のモンスターであろうと当たればただでは済まない。

 

「──────!!?」

 

 炎に包まれのたうち回る食人花。やった、だろうか?

 

「オオオオオオオ!!」

「っ!!」

 

 最期の意地か、或いは闇雲に暴れた結果か、燃え盛る食人花がエルフィに向かってくる。口の中に魔石を見つけたが、だからといってどうする事も出来ない。

 

「残念だったなあ………今回は、俺らの勝ちだあ」

 

 と、馬鹿にするような声が聞こえた。ヴァハがエルフィの前に現れ、左手を突き出す。食人花はその腕を食いちぎろうと噛みつき、後頭部から雷が飛び出した。

 

「─────」

 

 ボロリと食人花の体が灰となって崩れる。大火傷を負った左腕は、アミッドの血を飲み得た治癒力も無くなってきたのか再生が遅い。それでも、モンスターは灰となった。生き返らない。

 

「…………お、終わっ………た?」

「みたいだな………」

「……………ほへ」

 

 気が抜け腰を落とすエルフィ。ヴァハはその場にぶっ倒れた。

 

「ヴァハ!?」

「大丈夫ですか!?」

 

 エルフィが慌てて抱え上げ、アミッドが駆け寄る。寝息が聞こえた。

 

「…………ね、寝てる?」

「全身を内から焼かれ、左腕に関しては丸ごと焼け、左肩は千切れかかっているのに……」

 

 スウスウ寝息を立てるヴァハにエルフィが戸惑いアミッドは触診し呆れたようにため息を吐く。

 

 

 

 

 その光景を見つめる者がいる。美の体現と言っても差し支えない美女は、その光景に微笑を浮かべる。

 

「今日はあの子だけで我慢しようと思ったのに、思いがけず良いものが見れたわ」

「…………」

 

 その言葉に彼女の側に控える大男は無言で倒れているヴァハを見る。

 

「貴方から見て、彼はどうかしら?」

「才能は十分でしょう。しかし心持ちが異質にすぎる。それに、アレンを挑発するためだけに貴方を傷つけようとしたと言うあの者を個人的には気に入りません」

「そう言わないの。そういうところも、可愛いじゃない」

「…………」

「ふふ。同じファミリアになったら仲良くするのよ」




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ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員

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