ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
「…………知らない天井だ」
ヴァハが目を覚ますと見覚えのない天井が見えた。周囲を見回す。どうやら病室のようだ。輸血パックを見つけ、腕に刺さった針を抜くとパックに穴を開け中身を飲み干す。
先ほど絶品の血を味わったばかり故に物足りなく感じるが体力は回復したし傷も癒えた。魔力も万全とは言わないがある程度回復した。便利なスキルだ。
恩恵を得たとはいえ代償もなしに得られるスキルとしては破格にすぎる。
まあ、そもそも
「さて、と………ああ、ここか」
窓から外に出ると見覚えがある景色。【ディアンケヒト・ファミリア】の近所が見えた。ここは【ディアンケヒト・ファミリア】のホームだったか。
場所がわかったので、窓から外に出る。それなりの高さはあったが十分だ。
しかし今日は楽しかった。2度も楽しめた。
「極東には2度あることは3度あるとか言う諺があったなあ………」
路上を歩き、目的の場所に来る。周辺の街灯が倒れ、闇が広がる広場。砕けていたり、焼け焦げていたりする。ヴァハとライガーファング、食人花などの戦闘のあとだ。
「お、あったあった………」
拾ったのは魔石。中を覗きこめば、何やら紫紺一色のはずの魔石でありながら極彩色の彩りが見える。
ダンジョンが生んだモンスター………ではない。ダンジョンの力を使って、
「普通の魔石じゃ、ねえよなあ…………」
そもそもあのモンスターは何処から来たのか。あの打たれ強さに対してあの見た目、調教には無駄に時間がかかるから、恐らく【ガネーシャ・ファミリア】のショーの為に連れてこられた訳ではない。時間がかかるショーならそれこそ龍種など見栄えも迫力もあるモンスターにするべきだ。
(ギルドの目を盗んで? あのサイズを? ダンジョン内で子供として生まれるわけねえし、魔石があるし、あの強さ。ダンジョンの外で繁殖した個体じゃねえ)
となると、【ガネーシャ・ファミリア】か『ギルド』が黒幕?
いや、そんな単純なやり方を
「────あ?」
と、不意に背中から衝撃が走り吹き飛ばされる。ギロリと背後を振り向くと男女とも解らぬ紫の
「何すんだテメェ……」
一撃で
『───!?』
明らかに背骨が砕ける感触があった。腰もあらぬ方向に曲がっていた。なのに空中で腰の位置が戻り、何事もないかのように立ち上がったヴァハに驚愕し固まる
「【血に狂え】」
血の短剣を生み出し斬りかかる。
『貴様、マサカ私ト同ジ…………イヤ、ダトシタラ貧弱スギル。スキルカ……』
様々な肉声が合わさったような不気味な声色。男か女か判断が付かない。正体を徹底的に隠しているようだ。
『魔石ヲ渡セ、死ニタクハナイダロウ』
「魔石を渡せば殺しませーんってかあ? ハハァ、嘘付けえ。目撃者の俺を生かしまーすなんて言葉、だぁれが信じるかよバーカ」
べぇ、と舌を突き出しケタケタ笑うヴァハ。襲撃者はすぐさま動く。地面が砕けるほどの踏み込み。体を横にずらし回避する。
すぐに裏拳が飛んでくるが地面に伏せ、立ち上がると同時に跳ね、血の短剣を投げる。上空からの一撃。重力に引かれ多少速度が上がったような気もするが、さしたる違いは無い。片腕を凪いだだけで弾かれる。
『鈍ラダナ………』
「あー、やっぱりい? こんなんただの剣の形した固まりだしなあ」
地を蹴り向かってくる襲撃者。空中では踏み込めない。力も出せない。故に、
内側から慣性を無視して加わる力に違和感を覚える。関節が妙な音を立てたが気にせず蹴りを首に向かって放つ。
『───!!』
予想外の攻撃だったのだろう。まともに入る。つまり、
足を掴まれ、その足に指が食い込む。引き寄せられ、放たれる抜き手。狙いは頭蓋。レベル差から考えて頭に穴が空く威力。
「────!!」
かわそうにも捕まっている状態。首だけなんとか動かせば指先は口に入り左頬肉を抉る。その手が引き寄せられる前に伸ばした牙を突き立てた。
『───くっ!?』
刺さったのは僅か。肌を薄く傷つけるのみ。本来の耐久によほど自身があるのか、着ている
慌てたように足から手を離し噛みつかれた腕を振るう。その際ヴァハの蹴りが当たるがやはり効かない。
ヴァハは片付け前の屋台にぶつかり屋台を破壊した。
「ハハ! その潔癖さ、さてはエルフだなてめえ! 後、柔らかかったな。女だな! ハハハ! これだけ解ってだから何だって話だがなあ!」
破片が体を貫きかなりの重症を負いつつ楽しそうに笑うヴァハに、襲撃者……女は思わず後退る。
「逃げんなよ!
魔石を見せびらかし、口に含むヴァハ。ゴクリと喉を鳴らしブェアと口を開く。魔石は無かった。
「ほら、欲しけりゃ俺の腹を抉ってみろよ、なあ!」
『…………狂ッテイル』
「いきなり人を殺そうとする奴に言われたかねーよ。世間一般じゃあてめえもイカれてる扱いなんだろ?」
『……………』
「あん? ああ、てめえ、他人と違うと言われるのが嫌なのかあ。ハハァ、手を見ろよ。真っ赤に染まってんだろ?」
『…………』
その言葉にビクリと震えヴァハの血に染まった己の手袋を見て慌てて血を振り払う。
「何を気にしてやがる。たかが殺しただけだろ。ああ、それとも、本当は殺したくなかったか? でも、殺した。んー、一人二人じゃねえなあ……」
反応を見て、推測し、ケラケラと楽しそうに笑うヴァハ。女の体が小刻みに震え、殺気が、怒気が肌を刺すほど感じる。
「…………いいねえ………いぃい殺気だあ! 惚れちまいそうだよ! もっと、もっとだ! 殺す気で来い! 俺に生を実感させろ!」
『ッ!惚レルナドト、下ラン戯レゴトヲ!』
「何だあ? 人と違うと言われるのは嫌、好かれるのも嫌………いんやあ、好かれるのは……怖いのか? ハハ! 可愛らしいなあ! ますます好きになれそうだ!」
『黙レ!』
先程とは比べ物にならないほど速く、そして
ヴァハの並外れた未来予測による初動を持ってしても間に合わぬほど速いから。
『何モ知ラヌクセニ、巫山戯タ事ヲ抜カスナ! 私ヲ愛セルノハ、コノ汚レタ体ヲ受ケ入レテクダサルノハアノ方ダケダ!』
無数の拳が叩き付けられる。皮膚が裂け、肉が千切れ、赤い結晶が飛び出す。それはヴァハが硬化した血管内の血液。鋼鉄クラスの耐久値を得たヴァハに、確実なダメージを与える女は怒りのままにヴァハの腹を貫く。
「ご、あ………」
ゴボリと口から大量の血を吐き出すヴァハ。引き抜こうとしたのか、女の腕を掴む。
「カ、ハハ………恋に生きる女か。ますます愛らしいねえ……」
『貴様───!』
「知るかよてめえの事情なんか。重要なのは、てめえが俺を殺しに来て、その顔も知らねえ雄の願いを叶えず死ぬことを怯えるって事だ……」
『───!!』
いや、違う。
ヴァハはギシリと指に、腹に力を込める。無理に引き抜こうとしてもヴァハごと付いてくる。
『コノ───!』
「今回はここまでだ。また
頭を砕く為に拳を振り上げる。次の瞬間、全身を焼く光が降り注ぐ。
『──!?』
体が痺れる。人外たるその身の桁外れの回復力と耐久力で致命傷には至らぬものの、耳鳴りがして目が眩む。
今の爆音だ、異変に気づいた者達が飛んでくる。
『聞コエテイルカハ知ランガ、覚エテイロ。貴様ハ必ズ私ガ殺ス!』
そして、紫の
「それで、勝手に病室から抜け出した挙げ句再び死にかけるなんて、何か言い訳はありますか」
アミッド・テアサナーレは激怒した。必ずやこの命を命と思わぬクソ野郎を矯正してみせると。
「あ、あの………起きたのなら、事情聴取をさせてもらいたいのだが」
「はい……?」
「ひっ!?」
【ガネーシャ・ファミリア】の団長は、自分より背が低く、レベルも下の、人形のように無表情な少女に割とマジで恐怖した。
「………それで? どうせ、楽しかったと言うのでしょうが、どうでした?」
「死ぬかと思った。いやあ、楽しかったわあ……」
「…………生きてて、良かったですね。そのまま一生余韻に浸れれば良いのに」
「そんな奴らばっかなら、冒険者はとっくに消えてるだろうよお」
「彼等には彼等なりの憧れや、生きる目的がある。貴方と一緒にしないでください」
「言うねえ」
ケラケラと楽しそうに笑う。そう、きっとこういう会話にだって彼は楽しいと思うのだろう。それでも、殺し合いのほうが好きなのだ。
「…………普通に生きていて、自分が生きていると感じられないものなんて、案外居ると思います」
そもそも一々日常の最中自分の生を実感する者など居ないだろう。それでも、彼等は死を忌避する。死を前にせずとも、生を実感できる。
「何故あなたは、そうなってしまったのですか………」
「ねえよ理由なんて。生まれ付きだ」
「………そうですか」
ヴァハの答えに、アミッドは目を伏せた。
「ミアハ様達にはこちらから連絡しておきました。明日の昼には、退院できるでしょう」
「血を飲めりゃ直ぐなんだがな」
因みに現在ヴァハは輸血パックに手が届かないように両手両足を手錠のようなもので拘束されていたりする。
「少量ですが飲ませましたよ。気絶している間に………私の血は、余程貴方に
「味は俺にとってはポーションみてぇだが、めっちゃ美味い。怪我がなくても飲みてえぐらいにはな………ああ、くそ、気絶したのが悔やまれるぜ」
「血は、材料費も製薬工程もありません。貴方が仕方なく強敵と接敵し重症を負った場合には、そちらの方が早いので与えますがわざと攻撃を食らうようなら二度と与えません」
まあ、殺し合いを楽しみたいこの男が敢えて死にかけるなんてことはしないと思うが。
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ヴァハ君のヒロイン
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