ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
翌日の昼。ミアハとナァーザが迎えに来た。ディアンケヒトはニヤニヤと笑っている。
「ぬっふっふ。ミ〜ア〜ハ〜、お前の眷属をワシの眷属が救った! ならば、解るな?」
「ああ、もちろんだ。金であろう? 我が
「………………」
勝ち誇ったような笑みを浮かべたディアンケヒトに対してミアハは柔らかな笑みを浮かべる。女を何人も落とした笑みだ。
なんだろうか、この光景。親にすごいんだぞぉ! と自慢してる子供がすごいねー、と軽く流されたように感じる対応をされ悔しがってる時に似てる。見た目の年齢は逆だが。
「お代なら【ガネーシャ・ファミリア】から既に渡されました」
「なにい!?」
「なんと………いや、しかしそれは……ヴァハは私の眷属であって」
「昨日のモンスターの脱走、手引した者が居るのは明らか。夜間の警戒をしていて不審者を見つけられなかった責任は取る、と………それに、ヴァハはスキルのおかけで治療費はさしてかかりませんし」
「…………スキル?」
と、ナァーザが反応した。その視線はヴァハに向き、ヴァハは笑いながら肩を竦めた。後で殴ってやろうかコイツ。
「そうか………ヴァハのあのスキルは、忌避する者も多く居るであろう。知ったのがそなたで良かった」
「い、いえ……私は、そのように言われるほどの事は」
「優等生ぶるな人形女」
「ッ! エリスイス!」
何となくこの場の人間関係が分かってきた。ナァーザがやたら悪く言うのも、女故か。予想してたけど。
「ぬう、しかしな………」
「
「………うむ、そうまで言われるなら。というわけだ、ディアンよ………もちろん、お前が【ガネーシャ・ファミリア】から受け取らぬと言うなら私から出すが」
と、あくまでも自分で出したいという姿勢を崩さぬミアハにナァーザとアミッドは何処か呆れた様子だ。
「ぬぬぬぬ………ええい! 金が払われておるなら良いわ! ミアハよ、覚えておれぇぇぇぇぇ!」
「ん? ああ、うむ………」
三下台詞を吐き捨て立ち去るディアンケヒト。あれだ、毛嫌いしているくせに居ないと探す面倒くさいタイプだ。まああの性格なら【ミアハ・ファミリア】の借金の利権を誰かに渡すなんてことはしないだろう。
「アミッドよ、今回も世話になった。改めて礼を言わせてくれ。ヴァハ、お前からも何か」
「Thank you」
「天界で流行った言葉だな。懐かしい………一応、礼を言っている」
「大丈夫です。彼からまともな感謝は期待していませんから」
「オ〜〜〜ゥ」
アミッドの言葉にわざとらしく困ったような顔をするヴァハ。アミッドは、初めて人を殴りたいと思った。
「つまりお前は、犯人について何も知らぬと?」
「ええ、おそらくは女、としか」
【ガネーシャ・ファミリア】ホーム『アイアム・ガネーシャ』の中でシャクティと言う女性の質問に答える。彼を知る者が見たら誰だお前!? と思わず叫ぶであろう爽やかな笑みを浮かべるヴァハ。
「狙いはわかるか?」
「何かを探していたようです。それ以上は………」
「そうか、感謝する」
「いえ、善良な市民として当然の事です」
「フッ。ならば夜は出歩かぬ事だな」
さて、取り調べからようやく開放されたヴァハ。ミアハに3日間休息………つまりダンジョン探索禁止を言い渡されたヴァハ。することが無い。
どうしたもんかなぁ、と適当に街を歩く。カジノにでも行くか。
「ハハァ。あのデブ、ぜってぇ
勝ちまくって、金をむしれるだけむしったあと、貴賓室に誘われた。なので『勝ってる間に切り上げるのが吉なんだなあ。また来るから俺の金をキチンと用意しとけよお?』と挨拶して立ち去った。
結果放たれた刺客。冒険者崩れのレベル2の護衛だろう。オーナーの近くを守っていた二人は来なかった。
「こ、こんな事してただで済むと思うな! 俺は単なる雑魚だが、彼処にはあの『黒拳』と『黒猫』がいる!」
「……………誰それ?」
「………う、裏社会でも名のしれた殺し屋だ!」
「おー、殺し屋が名を知られるって三流の証だなあ」
背中を踏み付けていた男が何やら叫ぶがヴァハはケラケラと笑う。どうやら裏社会で名の知れた暗殺者の仲間がいると言えば逃してもらえるとでも思ったのかギャーギャー喧しい。
なのでたっぷり説得してオーナーの正体を話してもらおうとしたが何も知らないらしい。
「んー、殺し合いは望むとこだが、搦手で来られると迷惑かかるかあ………」
ふと、ダイダロス通りが見える。ふむ、と顎に手を当てる。
「ハハァ、受け取れ受け取れ……」
その日ダイダロス通りの彼方此方に無数の金貨が降り注いだ。それはもう大騒ぎ。噂ではカジノの職員達もやってきて必死に回収しようとしたとか。
「良いことしたな〜………」
金の奪い合い。殴り合い。罵り合いを背にダイダロス通りの光景を見つめるヴァハは孤児院を見つけ、そっと金を茂みに隠し、残った金で何か食うかと記憶に残る程度には味が気に入った店に向かう。
「やってる〜?」
「あ、ベルさんのお兄さん。こんばんは」
『豊穣の女主人』に入ると銀髪の店員が真っ先に反応した。どうやら彼女のなかではヴァハはベルのついでの扱いらしい。
「昨日は大変でしたね。ベルさんは、あれから大丈夫でしたか?」
「ん? ベル?」
「はい。シルバーバックに襲われたらしくて」
「ハハァ。彼奴も襲われたのか、兄弟揃ってついてねー。まあいいか、酒だ。とりあえず酒よこせ」
そう言って席に座るヴァハに、エルフの店員が近付いてきた。
「それだけですか。彼は駆け出しだ。大怪我を負ったかもしれないと、心配にならないのですか」
「お前等が落ち着いてる以上それはねーよ」
「貴方は彼の家族でしょう……」
「知ってるか? エルフってのは、森以外には3種類いる」
「………?」
突然話題を変えられ眉間にシワを寄せる店員。突然なんだ。3種類? 通常、ハーフ、ダークと言うことだろうか?
「はじめから森の外で生まれた奴と、森の外に憧れた奴。んで、高慢な同族を見て自分は違うんだー、と森を飛び出す奴」
「っ!」
「ハハァ。やっぱりなぁ………家族を捨てて飛び出しておいて、高慢な在り方を変えれなかった奴が他人の家族間の問題に口挟むなよ」
「───っ!!」
エルフの店員が目を見開き腕を振り上げる。ヴァハがニヤニヤと笑いながら迎え撃とうとするも、しかしエルフから怒気が消える。
「…………貴方の言うとおりだ。昔の友人にも言われた。結局、直せなかった」
「……………」
怒気も殺気も消え失せ哀愁のみを漂わせるエルフに、ヴァハは目を細め腰を下ろした。人を怒らせ、殺しにこさせるのは確かに好きだ。だが敵でもない傷付いた迷子の子供を追い込む程、ヴァハは常識知らずではない。先程語ったベルへの思いも本心だ。
「失う時は、我々が想像しているより簡単にやってきてしまう。だから、どうか、きちんと考えて欲しい。見て欲しい。あの時こうしていればと、後悔しないように………」
「飯食ってからなあ」
「あ、兄さん!」
ダンジョンの入り口で待っていると弟がかけてくる。傍から見れば仲睦まじい兄弟。
「昨日は大変だったらしいじゃねーか。もうダンジョン行って平気なのか?」
「うん! 新しい武器の調子を、確かめたくって! 兄さんは?」
「昨日死にかけて、ミアハ様が暫くダンジョンに潜るなとよー」
「えっ………だ、大丈夫なの!?」
死にかけたと聞き慌てて兄の体を弄る。くすぐってえと額を小突かれた。周りの女神の何名かが鼻息を荒くしていた。
───大怪我を負ったかもしれないと、心配にならないのですか
「………やっぱ、ならねーな」
「? 何が?」
「別にぃ」
戦闘行為を見ずとも、こうして側で観察するだけで解る。強くなっている。普通の冒険者ではありえぬ速度で。おそらくヴァハのように、ヴァハより真っ当な成長スキル。
その存在を今日初めて知った。ベルの強さも身内びいきせず判断しているつもりだ。少なくともシルバーバックに勝てるのはありえないと話を聞きながら思っていた。仮に勝てても五体満足とは行かない実力差がある筈だったとヴァハは推測していた。
その上で、こうして五体満足で元気にダンジョンに挑む姿を見ても安心するなんてことは無い。
「あ、そうだ兄さん。ご飯食べた? まだなら、一緒に食べに行こうよ」
「…………あー、喰ってなかったなあ。奢りかあ?」
「じ、自腹で………ごめん、今度お金が溜まったら」
「ハハァ。俺より稼げたらなあ」
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ヴァハ君のヒロイン
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フィルヴィス・シャリア
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アスフィ・アル・アンドロメダ
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アミッド・テアサナーレ
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エルフィ・コレット
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メイナちゃんやティオナを混ぜて全員