ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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地下水路

「食人花について何も載ってねえなあ……」

 

 モンスターの脱走、様々な憶測こそあれど、明らかな下層級以上のモンスターであり、重傷人を出した食人花についても、その魔石を探していたであろう不審者についても書かれていない。

 ギルドにもみ消されたか?

 

「どう思うよアミッド……」

「なぜ私に聞くのですか」

「お前だって襲われたろ」

 

 ヴァハは現在【ディアンケヒト・ファミリア】に来ていた。かんたんな調合しかできないヴァハは製薬時少ししか手伝いをしない。ダンジョンに潜らぬ以上素材も増えない。要するに仕事がなくて暇なのだ。

 

「私としては貴方を襲った何者かについて記述されていない事に疑問を懐きますが」

「混乱を広げたくないんだろ。闇派閥(イヴィルス)が生きてるかもしれないとか、何処ぞのファミリアが悪巧みしてるとか妙な考察を広げられちゃかなわねえ」

 

 確かにそうだ。暗黒期は終わったとはいえ、まだほんの数年前。訪れたばかりの平和を崩すなど、簡単なことだろう。

 

「だがモンスターに関しては別だ。【ロキ・ファミリア】んとこのレベル5も4匹相手したんだろ?」

「うん。ティオナさんとティオネさん、後アイズさんにレベル5じゃないけどレフィーヤも」

 

 と、ヴァハと同じく【ディアンケヒト・ファミリア】に訪れていたエルフィが肯定する。

 

「それなら、むしろ秘匿は当然なのでは? レベル5でも苦戦するモンスターが地上に現れた、などそれこそ混乱を招きます」

「もう終わってるのにか?」

「【ガネーシャ・ファミリア】が連れてきたモンスターではないとの事ですし、把握しきれていないだけでまだ居ると警戒しているのかと」

「違うな。ギルドが警戒してんのは()()()()()()()()()()()()()()()()事だ」

「…………え?」

 

 何でもないことのようにとんでもない事を言ってのけたヴァハにアミッドとエルフィが固まる。ヴァハは気にせず新聞をめくる。

 

「ダンジョンの入り口は一つだけ。だが、そこは常にギルドの監視の目がある。1匹2匹ならともかく数匹持ってくるなんて不可能だ」

「ですが、早計なのでは?」

「どっちも地下から現れてるらしいからなあ。下水道あたりが怪しい。早計なのは認めるが、隠そうと俺を襲う奴もいるぐらいだ。少なくとも普通のモンスターじゃねえんだろうなあ……」

 

 魔力に対する反応から見て、下に行くならともかく上に向かうとは考えにくい。となればやはり誰かに連れてこられたと考えるべきだ。だとするとギルドの監視をくぐる必要がある。

 

「普通に正面から、どうにか隠して連れてくるならリスクを考えて一匹で十分だ。強さ自体申し分ないしな」

 

 それが5匹。あまりに過剰だ。モンスターの脱走さえなければ【ロキ・ファミリア】の対応が遅れ確実に死人が数人出た事だろう。

 

「あ、そっか。大事に至った人がいないって安心してたけど、あのモンスターが【ガネーシャ・ファミリア】のとこじゃないのが本当ならアイズさん達の対応も遅れてたのか」

「そう考えるなら、確かに違和感を覚えますね。5体も運ぶリスクに対してリターンが過剰すぎる。逆に、オラリオで大量の死者を出したいのだとしたら5体は少ない。遅れながらも上級冒険者に対処されてしまう」

 

 ヴァハの言葉になる程と納得する二人。オラリオは冒険者の街。その強さは世界有数。オラリオの外と中では同じ恩恵持ちでも天と地との差がある。それこそ、毎度懲りずに攻めてくるラキアに対して商人達が「客が減るから殺すな」と言って、その要望が通る程に。

 そんなオラリオで、如何に強いと言っても斬撃に弱く魔法でも死ぬ対打撃特化のモンスターなど数人も殺せばすぐに殺される。であるなら5匹は確かに少ない。しかも内4匹は同じ場所に現れた。

 

「混乱だけが目的ならやはり5匹は割に合わない。だから、正規の入り口以外があると?」

「俺はそう思ってんよ。つー訳で探しに行くぞエルフィ」

「ほえ? わ、私も?」

「俺じゃあ今の決定打にかけるからなあ」

「待ちなさい。ミアハ様から忠告されている筈ですし、自ら危険な場所に向かうなど治癒術師として感化できませんよ」

「ダンジョンに潜るわけじゃないし、危険じゃなぁい。危険かも知れないだけだ」

 

 屁理屈だ。完全に。しかし文句を言おうにもヴァハはさっさと歩き出す。エルフィは迷ったあと、ヴァハは一人でも行くつもりだと判断しついていくことにした。

 誰とでも仲良くなれるを自称する彼女にとってはヴァハはもう友達なのだ。アミッドに頭を下げ、危なくなったら首根っこを掴んでも連れて帰りますから、と苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

「そういや昨日、ステイタス更新はしたか?」

「あ、うん。あんな戦いの後だからね。結構上がってたよ? ヴァハは?」

「ん……」

 

 と、ヴァハはスキルや魔法の部分を切り取ったステイタスが書かれた羊皮紙を渡す。

 

『力:B782

耐久:S960

器用:S908

敏捷:S981

魔力:A852』

 

「…………駆け出しだよね?」

「駆け出しだけど?」

「…………あ、そっかぁ」

 

 エルフィは考えるのを止めた。

 

「というかこれ、もうランクアップできるんじゃ」

「出来ねぇよ。溜まったところで、壁をこえちゃいねえからな」

「昨日のあれは壁じゃないんだ………所で、どこに向かってるの?」

「下……下水道を調べんぞ」

「危なくなったら撤退ね?」

「わかってんよ。俺は楽しめるならいいけど、お前は別だろ? 昨日の仲間使った殺し合いも楽しいが俺以外の命がかかってんなら仕方ねえから優先するさ」

 

 逆に言えば、自分の命だけならさして優先しないのだろう。いや、殺し合いをまた楽しむために生きようとはするのかもしれない。

 

「〜〜〜〜〜♪」

 

 絶対に危険があることを承知している。それでも他人を連れて行くあたり、確かに死ぬ気はないのだろう。死んでしまえば終わり。楽しめない。死にたくない。だから、殺し合いが楽しい。そういう趣向らしいし。

 

「う〜ん、わかんないや………」

「あん?」

「ヴァハが何考えてるか」

「は、何を今更………」

 

 

 

 カツンカツンと水路を歩く。意外と臭くない。エルフィ曰く魔石製品の一つである浄水柱の効果らしい。

 そんな綺麗な水だからか、モンスターも住んでいるらしく水流から飛び跳ねてきた『レイダーフィッシュ』を掴み血を啜るヴァハ。魔石はない。古代地上に『進出』したモンスターの子孫なのだろう。水の出口である汽水湖から遡ってきたか。

 

「血って美味しいの?」

「スキルのおかげかね、美味く感じる。このスキルについてはおまえんとこのダンチョに喋って良いぞ」

「あ、うん。エルフの人とかかは、嫌厭しそうだもんね、そのスキル」

 

 一応【ロキ・ファミリア】とパーティーを組む予定。ダンジョン内での戦い方はまだ見ていないがそれも終わればフィン達が彼の戦闘スタイルにあった相手を見繕うだろう。

 そこに自分が居るとは限らない。折角友達になったのだ。今のうちに彼の事を知っておこう。そう思えるあたり、『誰とでも仲良くなれる』は自称でもないのかもしれない。

 

「…………エルフィ、詠唱しろ」

「ほえ?」

「全力のは使うなよ? 崩落する」

「え? えっと、何でいきなり……」

葡萄酒(ワイン)の匂いだ。誰か居る………【血に狂え】」

 

 ヌル、と爪と肉の隙間から血が流れる。まだ形を定めていない。

 エルフィは詠唱を唱え、立ち止まる。並行詠唱はできないからだ。ヴァハは先を歩く。見つめる先には、曲がり角。敵か、それとも自分達と同じように昨日の件を調査している何者かか………分からぬ以上、迂闊に………

 

「って、え!?」

 

 冷や汗を流しながら警戒していたエルフィ。が、ヴァハが飛び出した。

 

「───ッ!!」

 

 ギィン! と音を立てて血の短剣と短杖(ワンド)がぶつかり合う。受け止めたのは、黒髪に紅宝石(ルベライト)の瞳のエルフの少女。

 端正な顔立ちを驚愕に歪め、彼女の後ろで金髪の貴公子然とした男性が目を見開いている。

 

「貴様は───っ!!」

「どっかで会ったかあ? 会ったような気もするなあ、昨日の奴と体格とか匂いが少し似てる。けど彼奴より圧倒的に弱い、同郷の修行仲間か、姉妹? それとも本人で、弱いふりか? なら、後ろの殺せば本気になるかあ?」

 

 ニヤニヤ笑みを浮かべるヴァハに、エルフの少女は怒りを顕に腹を蹴りつける。ヴァハの体が浮き上がり後ろに飛ばされるが堪えた様子もなく着地し鉄板仕込の靴裏が石の床を削り音を立てる。鉄を叩くような感触。ヴァハが体内の血液を硬化させたのだ。

 

「やっぱり、弱ぇ………かと言って手加減してるようにも見えねえ…………すまん、人違いだったわ」

「ふざけるな!」

「んっんー♪ ハッハ………ギャハハハ!」

 

 怒りに燃え駆け出すエルフに、そのエルフの殺気に興奮しブルリと体を震わせたヴァハ。二人の獲物が再びぶつかった。




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ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員

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