ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
「シッ!」
白んで来た空の端から顔を出した日が、2本のナイフを照らす。相対する男は高速で放たれる無数の攻撃を、全て対処する。
ナイフを振るう女は目を細め、速度を上げる。まだまだ本気ではなかったらしい。
相対する男はニヤニヤと馬鹿にするように笑っていた。その喉にナイフが迫り、ガギィン! と金属音を立て弾かれた。
「んっんー……身体強化は上々。切り替えも、今の所問題ねえ。後は硬化したまま動けるのが理想だな」
ヴァハは首をコキコキ鳴らしながら己の体を確かめる。毛細血管が数か所切れたがこの程度なら問題ない。実践で使うぶんには十分極められた。3日で。
今日からダンジョンで使おう。
「3日で慣れるって、早すぎニャイ?」
「ハハァ。俺は
コイツは自分にはないものを持っているな、そんな風に感じるなどよくある事だ。その逆もまた然り。こいつは、俺が持ってるものを持ってないと感じることもある。それが数回も続けば、そいつが劣っているのではなく自分が優れている事を自覚しければならない。
だって、そうしないと本物の凡人が可愛そうじゃないか。だからヴァハはベルの心意気こそ認めていたが、才能に関しては見下していた。最近その才能も手に出来たようで何よりだが。
「それでも、現状、ベルが俺に勝てる姿は想像できねえがなあ。彼奴は今、心に影がある。その影を払拭しねえことには前に進めねえ」
野菜サンドを食いながらヴァハは『自分で自分を天才って言う奴は早死するにゃ』と言ってきたクロエに対して己の自論を語った。クロエ自身、才能云々に思うところがあったのか黙って野菜サンドを食った。
「あ、美味しい」
「俺は食事担当だったからなあ」
ベルと祖父は畑だ。雷雲のような匂いを発する祖父は老人とは思えぬ速度で土を耕していた。まあ、老
「おミャーは良い嫁になるにゃ」
「俺は男だ」
「じゃあ婿にゃ!」
「俺と結婚する奴は相当変人だろうな」と笑うヴァハは、ショタコンのクロエから見てもまあイケメンだった。朝日が似合う。多分、月の光のほうがもっと似合う。ちょっと見てみたい。そう思うほどには整った顔立ちをしていた。
第一印象は最悪だけど。なにせリューと睨み合っていたのだ。もちろん、リューにセクハラでもしたなら良くあることだし、リューが過剰反応する事も多々ある事。でもあの時は違った。明らかにリューと殺し合いをしようとしていた。
次は、まあ普通に客としてきた。リューと何か話していて、また剣呑な雰囲気になったがその時は何も起きなかった。
そして、いい匂いのする酒を持ってきたかと思えば言うことを聞けという。どんな願い事かと警戒すれば子供に修行を付けることと、今回みたいなたまに鍛錬だ。正直、子供は飲み込みが早いしヴァハはかなり動けるから自分も運動になるし、楽しい。
けど、意外だ。この男が他人の子供のために頼み事をするなど。
「はっ! まさか、おミャーはミャーと同じ!?」
「子供は好きだがてめえみてえに性的な目で見てねえよ」
「えー、本当かにゃ〜? おミャーが子供好きってかなり怪しいニャア。裏があるに決まってるにゃあ! ミギャ!?」
ヴァハは失礼な物言いをするクロエに笑みを浮かべたままデコピンを食らわせる。
銀髪の女神はその光景を眺める。弟とよく似た透明の魂。価値観の違い故に弟より残虐でありながら同じ性質を持つ兄と、純真無垢な弟。そんな兄弟を欲しいと思っている彼女は兄の方と最近仲の良い女に目を向ける。
「……………」
クルクルと髪を指に絡め、トントンと机を指で叩く。その動作に気づき、自分が意外と嫉妬深いことに気付いた。
彼女が、ヴァハの魂をより輝かせるなら後数日は許容できたかもしれない。
「…………けど、下手に手を出してもねえ」
彼なら喜んでそのまま殺し合いをしそうだ。敵対は、しない方向でいきたい。少し脅すぐらいはしておこう、と、方針を決める。2つとも手入れたい。それこそ、死んだら天に帰ってでも。だが片方だけが死んでは、片方しか手に出来ない。全能なる神ではあるが世界とはなんともままならぬものだ。
「オッタル」
「はっ……」
その翌日、早朝の組手も終わり、んーと伸びをするクロエは本物の猫みたいだ。茶髪の方と異なりスラリとした体は猫っぽい。どこがとは言わないが。
「ん、この匂い……」
「にゃ? どうしたニャン? ミャーの魅力的な匂いに興奮しちゃったニャ?」
ニヤニヤと笑うクロエを無視して鼻をスンスン鳴らすヴァハ。すると、曲がり角から貴公子然とした男神が姿を表す。
「よお、やっぱりお前か。この前の
見つけるの大変そうだな、と芳香な
「なんにゃなんにゃ? 美味い酒でも知ってるのにゃ? ミャー達にも教えるにゃー」
ここ数日でヴァハは鼻がよく、酒好きであることを知ったクロエ。そんなヴァハが飲みたがる酒と聞いて興味を示しディオニュソスに詰寄ろうとするもフィルヴィスが割って入ってきた。宝物を取られまいとする猫と奪おうとする猫みたいだな、とその光景を見て思った。
「ふむ、いや、すまない………今日は
聞けばダイダロス通りに住む多くの者達に捧げ物をされる女神なのだとか。ケチ臭く、仮に酒の出処を聞いても渡した奴に聞きな! とでも叫ばれ唾を吐かれる可能性もあるそうだ。
「とはいえ、広大なダイダロスを彼女ほど知る者も居ないだろう。君の言う、道を探していてね」
「ああ……」
ダンジョンのもう一つの出入口、それを探していたのか。嘘は、ついていない。ヒトたる身で神の神意など覗ききれないだろうが少なくともそう見える。
「しかし、君もすみに置けないな。こんな朝早く、美しい女性を連れているなんて………ミアを怒らせないようにするんだよ?」
「ああ、違う違う。ちょっくら修行に付き合ってもらってただけだ………ミアハ様にも危険な所に行こうとしたこと怒られたし、強くなっとけば自由が増えるだろうなあ、って」
「そうか。頑張ると良い………」
と、ディオニュソスが応援する。途中まで一緒にどうだい? と誘われ共に歩こうとした瞬間、ヴァハがクロエを抱き寄せる。クロエが目を見開き、何かを叫ぼうとした瞬間ヴァハの背中を高速で駆け抜けた何かが抉った。
「────っ! ってえな」
「そんな女をかばうからだろう。不愉快だ、あの方の寵愛を受け入れられる身でありながら、その寵愛を汚そうとするなどと……」
身長160
「何だ何だ、アレンじゃねえかあ」
懐から取り出した赤い液体が入った小瓶。中身を飲み干すとあっと言う間に傷が癒える。
傷を癒やしたヴァハはすぐに立ち上がり、親しげに話しかける。
「貴様、何者だ!?」
「───っ!!」
フィルヴィスとクロエが己の得物を構え青年を睨むが、青年は煩わしそうに耳を動かしたあとふん、と鼻を鳴らす。顔の上半分を隠す金属のバイザーのせいで表情は解らないが不機嫌そうだ。
「なんだよ、俺と遊んでくれんのか?」
対してヴァハはやはりニヤニヤ笑う。
「てめえを痛めつけてえのは同意だが、俺はそこの女………ついでに増えたそいつも邪魔しねえように来ただけだ。てめえは後ろのデカブツを相手してろ」
後ろ、と言われアレンを警戒しつつ振り返る一同。そして、固まる。
デカブツと呼ばれるのがなるほど、納得の大男。鍛え抜かれた身体は巌のよう。
そして何より、存在感が違う。ヴァハが知る限り最強クラスの人類だったフィンをも凌駕する圧。殺気はない。それでも、生物としての本能が目の前の存在から逃げろと訴えかけてくる。フィルヴィスやクロエも目を見開き冷や汗を流す。
「………お、【
その名を知らぬ者は、オラリオには居ないだろう。オラリオにて冒険者を目指す者なら誰しも必ず耳にする名前。最強にして唯一のLv7。【フレイヤ・ファミリア】所属、オッタル。
「…………神ディオニュソスよ、神威による妨害は、遠慮して頂きたい。手が滑るかもしれぬ」
この場を諌めるために地上の子を萎縮させる神威を放とうとしたディオニュソスだったが、オッタルが見咎める。こいつは恐らく、
ヴァハは
「ヴァハ・クラネル。手合わせ願おう」
「んー……」
加減されている。慢心、ではない。単純に実力が遥か高みにある事を自覚している故の譲歩だ。
「上等、死ね」
勝ち目は無し。だが、戦わぬ理由も無い。ヴァハは全身からバチリと雷を迸らせた。
ヴァハ君のヒロイン
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フィルヴィス・シャリア
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アスフィ・アル・アンドロメダ
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アミッド・テアサナーレ
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エルフィ・コレット
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メイナちゃんやティオナを混ぜて全員