ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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ヴァハの情景

 火炎球を直接当てず、地面にぶつけ暴発させたため、威力は直接喰らうよりだいぶマシだったが、それでもエルフィのローブは殆ど焼け、体にも火傷を負った。エルフィを咄嗟に守ったフィルヴィスに至っては美しい黒髪も半分以上が焼け、交差していた腕の一部は炭化している。

 

「フィ、フィルヴィスさん!」

「っ………私は、大丈夫だ………この程度なら、それよりクラネルは」

 

 慌てるエルフィを諌め取り出したハイポーションを飲むフィルヴィス。傷は直ぐに癒えていく。万全とは言えないが戦闘はまだ行えるだろう。視線を彷徨わせると炎に焼かれ崩れかけた血の盾が形を崩していく姿が見えた。

 

「コレット、クラネルに必要なのはマナポーションだ。血を操る魔法で止血していただけで、その魔法が切れれば今の私達に血を止める手段はない」

 

 現状で止血を行えるのはヴァハの操血魔法のみ。しかし詠唱を封じられた今、魔法が途切れた後再び止血する手段は消える。フィルヴィスの言葉から察したエルフィも慌ててヴァハの下に走る。

 

「グウウウウウウウ」

 

 竜の鱗は火にも強いらしい。ヴァハの雷による熱でも火傷を負っていたのは鱗に覆われていない被膜だけ。しかし口内はそうではないのか焼けだだれた歯茎からズルリと牙が何本か落ちる。しかしその目から未だ戦意は衰えず。フィルヴィスは短剣を構え、足元に落ちていた石を投げつける。

 投石により獲物が生きている事に気づいたワイヴァーンは最も憎き、濃い血の匂いのする雄から生意気な雌へと標的を変えた。空は飛べぬ。牙も使えぬ。しかし爪と尾、強靭な鱗は第二級冒険者には十分驚異のままだ。

 

「オオオオオオオオオオッ!!」

 

 疎らに牙が生える口を開けフィルヴィスへと迫るワイヴァーン。バチン! と口が閉じれば噛み合わぬ牙が己の口を貫く。それでも気にせず爪を振るう。

 

「くっ………ぐう!?」

 

 捌こうとするフィルヴィスだったが武器は通じず、切り札たる魔法も使えない。そう簡単にやられる気はないが、勝てると断言できない。むしろ、負ける可能性の方が高い。

 

「─────」

 

 自身の死のイメージが流れてくる。ギリッ、と顎に力が加わり歯が音を立てる。死にたくないとでも言うつもりか、あれだけ死を振りまいておきながら。

 『死妖精(バンシー)』………まるで否定できないではないか。

 

「くそ、忌々しい男だ!」

 

 そんな私を、美しいと言うな。()()()()などと抜かすな!

 ()()()()()()()()()。だから本心からの言葉であると解ってしまった。

 何も知らぬくせに、あの方と同じ事を言うな!

 本当にあの者と同じなら、ここで死んだ方が世のためだろう。下界だろうと天界だろうと存在するだけで悍しく他者を傷つけずには居られないということなのだから。だというのに………

 

(何故私を庇った、コレットを庇った……!)

 

 だというのに、その在り方はあまりに高潔に見えた。己のみの危険を顧みずに他者を守る姿は、フィルヴィスには眩しすぎた、煩わしく思えるほどに。それでも今のフィルヴィスは焦がれてしまう。

 フィルヴィスはごく最近の出来事を思い出す。殺し合いを心底楽しんでいた彼が、悍しいはずの彼が、自分と同じく汚れているはずの彼が、怪我を負い、気を失い、なのに目覚めて真っ先に他者を心配したと聞き自分とは違い綺麗なのだと思った。

 自らを殺そうとした仮面の女に惚れただの会いたかっただのと嘯く彼の姿にやはり狂っているのだと思った。

 

(解らない。解らない………お前は、あの方と同じなのか?)

 

 邪悪なのか、善良なのか。

 ふと、己の主神の笑顔が浮かぶ。優しく、慈悲深く笑う彼と全てを馬鹿にしたように普段からヘラヘラと口元を歪めるだけのヴァハは似ても似つかぬというのに。

 

「オアアアアアアッ!!」

「っ! しま───!」

 

 短剣とワイヴァーンの爪がぶつかり合う。何度も熱せられた短剣は硬く、故に脆くなっており、砕ける。

 飛び散る破片が周囲の火に彩られる。キラキラと輝く破片の奥で、ワイヴァーンが嘲笑ったような気がした。その顔もすぐに視界の端に消える。ワイヴァーンが体を横に回転させたのだ。

 世界がゆっくりに見える。迫ってくる尾が見える。衝撃に備えようにも、思考に体の反応が追いつかない。

 

(───まず、回避……間に合わ)

 

 と、そこでフィルヴィスの視界がブレた。同時に襲う浮遊感。ブン! とワイヴァーンの尾が空を凪いだ。

 

「ハハァ………間一髪だなあ………」

「クラネル………っ! は、放せ!」

 

 ワイヴァーンの尾からフィルヴィスを救ったのはまたしてもヴァハだ。エルフィは間に合ったらしい。

 安堵し、直ぐにヴァハの腕の中にいることに気付き押し退ける。ヴァハはケラケラと笑いながらワイヴァーンへと向き直った。

 

「赤星」

「───っ!? ゴアアアアア!!」

 

 ヴァハがワイヴァーンに指を向け赤星を放つ。翼の付け根たる肩へと飛んだ一撃は見事に骨の隙間に入り込み、炸裂し右の翼の根本を破壊する。引きちぎる程の威力は出なかったが機動力はだいぶ減った事だろう。

 

「オオ───オオオオオオオオ!!!」

 

 竜として、強者として生まれたワイヴァーンは人間に傷つけられた事実を許せずヴァハに迫る。

 

「赤星」

「ルアアアア!!」

 

 再び放たれた赤星を十分警戒するワイヴァーン。出来る限りその巨体を傾けかわす。上空からも獲物を捉えるその視力を持ってして、敵の攻撃の前には必ず血が集まるのを捉えていた。連発は出来ない。

 

()()

「───!?」

 

 だから、その判断が覆され思わず硬直する。言葉は解せぬ、されどその鳴き声が攻撃の合図だと学んだ。血は集まってない。何故!?

 

「ハハァ。やっぱ、それなりに頭良いなあお前」

 

 ヴァハはその硬直を見逃さずワイヴァーンに接近する。振るわれようとしているのは、赤黒い大剣。

 赤………こいつの振るう赤い武器は自分を大して傷つけられない。腕で振るう分にはほぼ鈍器と変わらず、自分にはなんの意味もない。このまま、押し殺す!

 無事な翼の爪を振るうワイヴァーン。これまでと同じように一方的に傷を刻む。

 

 

 

その筈だった。

 

 

「─────!?」

 

 翼が切り裂かれる。かろうじて被膜でくっついただけの無様を晒す。混乱するワイヴァーンに、翼を切り裂いた勢いそのまま回転したヴァハの剣が迫り慌てて炎を吐き出すワイヴァーン。ヴァハは直ぐ様距離を取り、ワイヴァーンは近付けてなるものかと特大の火炎球を吐き出す。

 

「ハハッ!」

 

 ヴァハが雷を打ち出し相殺した。それだけにとどまらず、ワイヴァーンに到達した。とはいえ、中層クラスのモンスターであり、さらに亜種たる漆黒のワイヴァーンの一撃を打ち消すには魔力を相当消費したのか帯電する己の手を見るヴァハ。

 

「クラネル、私のマナポーションを───」

「いや、それじゃ足りねえなあ」

「クラネ……? っ!?」

 

 困惑するフィルヴィスの肩を掴み後頭部に手を添えると首を傾けさせ、その首に食らいつくヴァハ。犬歯が鋭く伸び皮膚を貫き血管に到達する。

 

「っ! な………く、ぁ………」

 

 抵抗しようとして、傷口から広がる甘い快楽に力が抜ける。ジュルジュルと血を啜る音が聞こえる。数秒ほどでヴァハはフィルヴィスの首から口を離し舌なめずりをした。

 

「オオオオオオ!!」

 

 痺れから回復したワイヴァーンが再び炎を放とうとして雷が落ちる。

 

「ハハァ。妖精(エルフ)の血も美味えなあ………魔力の回復は、『魔導』を覚えてるからかぁ? エルフィと同じぐらいで、アミッドより上か………ま、どの道今は回復力より魔力だ……」

 

 バチバチと帯電するヴァハは再びワイヴァーンに落雷を落とす。レベル1とは思えない威力。これを詠唱なしのスキルとして使うなど、()()()()()

 しかしこうして現実に起きている。一体、何なんだこいつは?

 

「グ、オ………オオオオオオオ!!」

「てめえ等はただの()()()だ。さっさと死ね………」

 

 

 

 

 時を少し遡る。全方位に放たれた炎の爆発に押し飛ばされたヴァハは消えかける意識の中冷静に己の血を操り失血死を防いでいた。とは言え所詮死の先延ばし。だからか、走馬灯を見た。過去の記憶が蘇った。

 物心ついた頃から共に過ごしていた祖父に弟。祖父と共に会いに行った祖父の愛人の顔。祖父のパシリと旅した記憶。

 旅…………そう、そこで自分は運命にあった。

 漆黒の鱗を持つ、片目に傷を持つ隻眼の黒竜。祖父のパシリ曰くまだ目覚めているはずが無い、破壊の化身。

 ああ、殺し合ってみたいな。

 破壊の化身と謳われるその身を殺し、血を啜りたい。あの力で以て、矮小なこの身を壊されてみたい。血と血が地面で混ざり合い、境界が崩れ去るまで互いを破壊したい。それはきっと、とても甘美なひと時となるだろう。

 だが、今の自分が挑んだ所でただ一方的に殺されるのが関の山。力がいる。隻眼の黒竜と殺し合える力が…………力?

 

──お前は、強くはなれない。なれはしない

 

──お前自身、強くなる気がない。お前が好きな殺し合いをするのに必要なそれを、欲するまでもなく手に出来てしまっていたからだ

 

 ああ、そうだ。忘れていた。驕っていた。

 欲する必要があった。欲する理由を思い出した。再びまみえ、殺し合うために。そのために、あの程度に躓くわけにはいかない。

 

「ヴァハ!」

 

 エルフィが駆け寄ってきた。ポーチから取り出したマナポーションを飲まされる。魔力が回復し、血が操りやすくなる。

 

「ヴァハ、フィルヴィスさんが………どうしよう、今の私じゃ……でも、ヴァハなら………」

 

 混乱しているのだろう。恐らくフィルヴィスがワイヴァーンを引きつけてくれている。だが、詠唱が封じられた今第二級冒険者で近接が主体ではないフィルヴィス達には勝ち目がない。可能性があるとすれば詠唱を必要としない特異なスキルを持つヴァハ。

 

「魔力が足りない……」

「そんな、でも………マナポーションはもう………あ」

 

 と、そこでエルフィは思い出す。あの怪物祭(モンスター・フィリア)の一件で、ヴァハが言っていた言葉を。

 

──治癒師だからか? 傷に良く効くなぁ! 代わりに魔力の回復は普通だけど

 

 アミッドの血を飲んで、そう言っていた。それはつまり、血を飲めば魔力が回復するということ。刃物は、駄目だ。無い。だが、確かヴァハは歯を牙に変えライガーファングの肉を食いちぎっていた。

 

「ヴァハ、私の血を上げる。それで、魔力の回復出来るでしょ?」

 

 

 

 

 エルフィの血もフィルヴィスの血もアミッドに劣らぬ美味だった。気分が良い。かつての情景も思い出せた。

 

「カモォン」

 

 言葉は解さぬ。それでも、馬鹿にされていることを理解したのか最大最強の一撃を放とうとするワイヴァーン。その口内に、剣が突き刺さる。

 

「────!?」

 

 攻撃準備の硬直時間。それでも十分距離はあったはず。だが、ヴァハはあろう事かワイヴァーンに唯一通じる武器をあっさり手放した。

 

「死ね」

「────!!」

 

 最大火力の雷撃が剣に向かって落ちる。柄に落ち、刀身を通りワイヴァーンを内から焼き滅ぼした。

 

「クラネル………お前、お前の、その力は………クラネル? お、おい!」

 

 脅威が去り、フィルヴィスがヴァハへ問いかけ用とした瞬間ヴァハが倒れる。慌てて駆け寄る。抱えあげると、ヌルリと生温かい感触。

 血だ。

 ヴァハの操血魔法が、途切れた。よりによって、今。

 

「おい! しっかりしろ!」

「ちょ、ヴァハ! 大丈夫!?」




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ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員
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