ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
24階層の
これまでの道のり同様緑の肉に包まれた広大な空間は、まだ良い。ただ、そこから大きさの異なる蕾が至るところに垂れ下がっており、大主柱には
毒々しい極彩色の花頭の数は三輪。3匹のモンスターと言う事だろう。このモンスターの触手や根は緑の肉壁にそのまま繋がっている。今回の異変の元凶は、間違いなくアレだ。
そして、その場に集まる謎の集団。上半身を隠す大型のローブに、口元まで覆う頭巾、額当て。種族も所属も解らぬ者達はアスフィ達を指さし大声で警戒を呼びかけ合う。
その中で、ルルネだけは別の物を見る。巨大花が巻き付いた柱の根本に存在する球体。その中には女である事を主張するように髪が生えた胎児が蹲っていた。彼女はそれを知っている。つい最近、18階層で起きた殺人事件の犯人である女が狙っていた物で、モンスターに寄生し変異させる力を持つ。あれがあるなら、今回の件も前回と何か関係があるのか?
「ここまで来たか、
不気味な一団の中で一人だけ異なる衣装の者がいた。全身白ずくめの衣装に、くすんだ白髪。顔を隠すように被るのはモンスターの
侵入者を骨の眼窩の奥から睨みつけ、ローブの一団のリーダー格であろう色の異なるローブの男に声をかける。
「仕事をしろ、
「っ! 言われなくとも」
宝玉の胎児を見ながら瞳を歪め踵を返す男は、部下であろうローブの者達に向き直る。
「同志よ! 我等が悲願のため刃を抜き放て! 愚かな侵入者共に死を!」
「死を!」「死を!」「死を!」「死を!!」
「おい! 彼奴等やる気満々だぞ!」
「応戦します」
大空洞全体に響き渡るほどの声量で叫ぶ一団を見てルルネが冷や汗を流し、アスフィは冷静に観察する。
アスフィの目線の先には食人花の入った檻。地上にも現れたらしい食人花の運搬ルートは未だ不明。そもそも食人花自体見つかったばかりの新種で、それが正に生み出されている光景。彼等には聞きたいことが幾つもある。
「前衛は食人花に警戒しながら前進、距離を詰めたら中衛の後ろに下がりなさい。中衛は接敵後前に出て交戦。可能であれば敵一人捕縛しなさい。後衛は合図するまで魔法・魔剣は禁止。回復薬の準備を」
「アスフィ、中衛の指揮は俺に任せてくれないか?」
それぞれに指揮を出す中、声を掛けてきたのはエルフのセインだ。エルフらしく神にも劣らぬ美貌だが、どこか軽薄さを感じされる態度は高潔なエルフらしくない。
「アスフィはうちの要だ。何かあったらヘルメス様に合わせる顔がない。相手は謎だらけ、指揮官は全体を見据えるべきだろ?」
「……解りました。頼みます………ところでその格好の声マネ止めませんか?」
自らの主神に対する親愛と尊敬をその行動で示すエルフに対し、アスフィは疲れたように抗議する。口元に僅か笑みを浮かべ息を吸う。
「かかりなさい!」
「殺せえ!」
奇しくも両方の指揮官が、十分士気が高まったと判断したのはほぼ同時。【ヘルメス・ファミリア】と
タンカーのドワーフのエリリーと獣人のファルガーが大盾で飛んでくる矢を防ぎ、彼等を足場に
「悪いけど君を逃がすつもりはないぜ?」
「このっ!」
挑発とも取れるその態度に激高しナイフを振るう。セインはそれを避け、腕と首元を掴むと男を投げる。
彼の主神がさる武神を怒らせ食らった技だ。あちらは相手の力も利用した見事なもので、これは見様見真似、冒険者の膂力に言わせた形だけ。
「だけど結構効くだろ?」
動きからしてレベル1程度。つまり少なくとも恩恵を受けている。セインはルルネに『
セイン達はレベル3。捕まった彼に逃れる手段はない。男は諦めたように目を瞑る。
「神代、盟約に沿って捧げます」
「何?」
頭巾越しに聞こえたくぐもった神への言葉に訝しむセインは、しかし直ぐに異変に気づく。服の下に何かを仕込んでいる。そのうえで、懺悔するような捧げるという言葉。
「ルルネ! 離れろ!」
今まさに瓶の蓋を開けたルルネを押し退ける。まさにその瞬間、男は何かを抜きながら叫ぶ。
「この命、イリスのもとにぃ───!!」
次の瞬間、男は爆砕した。巻き起こった大爆発により発生した熱風と欠片の雨がルルネに襲うも、セインがとっさに押してくれたから何とか無事ですんだ。だが──
「じ、自爆…した!?セイン……? セイン!!」
ルルネを助けるために手を伸ばしたセインは爆発をもろに浴び倒れていた。
「爆発!?」
「ちょっ……! お前等正気か!? そんなもん体に巻きつけるなんて……!!」
彼等が体に巻きつけていたのは『火炎石』と呼ばれる深層のモンスター『フレイムロック』から入手できるドロップアイテム。強い発火性と爆殺性を持つそれは売れば高く値がつくであろう大型で、それを数珠のようにいくつも繋げて巻き付けていた。
「こっ……こいつ等、こいつ等
情報漏洩を防ぐために己の命を文字通り吹き飛ばす事を厭わぬ者達。全員が目に狂気を宿し、ステイタスで遥かに上回る【ヘルメス・ファミリア】に向かっていく。
「愚かなるこの身に祝福をぉぉぉっ!!」
そう叫び走ってきた男はそのまま爆発した。キークス達がうろたえる中煙を突き破り新たに現れる。彼らもまた、発火装置に手を添えている。
「咎を許したまえソフィア!」
「レイナ、どうこの精算をもってええ!」
「あぁ、ユリウス!!」
男も女も関係ない。何者かの名を叫びその命を文字通り散らす。
「同志よ! 死を恐れるな!! 死を迎えたその先が我々の悲願だ!」
色違いのローブを守った男は血走った目で叫ぶ。ローブの一団は咆哮を以て返答し、次々に自爆していく。
「ありったけのポーションです! これでセインの回復を!」
「はい!」
「ドドン! メリルを連れてポーションが切れた団員に治療魔法を!」
ネリー、メリル、ドドンに指示を飛ばすアスフィ。己の命を次々と捨てる集団との戦闘経験はない。取り敢えず指揮を出したが、どうするべきか。撤退も容易ではない。と、視界のスミで白装束の男が腕を動かすのが見えた。次の瞬間、食人花の群が現れた。
「───っ!」
一匹二匹ではない。複数体。敵も味方もなく襲いかかりローブを咥えたと思えばローブはそのまま【ヘルメス・ファミリア】の方へ食人花を誘導し自爆した。
戦線が乱れる。アスフィは冷や汗を流しながらも冷静に周囲を把握する。冷静でなくてはならない。自分がこの場の仲間の命を背負っているのだからだ。
(『雷霆の剣』を………いえ、まとめて消し飛ばせなければ意味がない)
何せ使えば確実に数秒の隙を晒すことになるのだ。その数秒で回復を行えなければ確実に足手まといになる。
指揮官を潰して相手側にも混乱をもたらすしか無い。死兵を指揮する色違いのローブに、合図と同時に食人花を出現させた
まずは道を作るためにローブの集団に手製の爆薬を投げつける。
「ファルガー、指揮を! 全員をかき集めて持ちこたえなさい!」
実力、指揮能力共にナンバー2のファルガーに指揮を任せ駆け出すアスフィ。その後にキークスが続く。
「アスフィさん! 援護します! させてください!」
「……頼みます、キークス」
チラリと一瞬だけ視線を向け、許可を出す。キークスは嬉しそうに破顔した。
かけてくるアスフィに対し、やはり死兵であっても進んで死にたくないのかナイフで応戦しようとするローブ達だったがキークスの投石が正確に頭部を狙う。
「怯むな! 所詮は投擲武器、数に限りが──!」
ある、と言い切る前に近衛が全員やられる。意識はあるがふらつき、アスフィに対して反応できない。
「ここはダンジョンだぜ? 投げる石がなくなるかよ、バーカ」
キークスがニヤリと笑う。彼が作った道を駆け抜けたアスフィが色違いローブの男の首をナイフで切る。すぐさま白ずくめに向かうと食人花が襲いかかる。
「【タラリア】」
だが、まだ
これこそアスフィが作り出した傑作の
「
そう言ってアスフィが大量の瓶を投げ落とす。キークスは慌ててしゃがみ込み、次の瞬間大爆発。炎と暴風が食人花を焼き尽くす。白ずくめの男もモンスターを操り盾にしていたがそのモンスターも絶命した。アスフィは急降下し、地面スレスレを滑空しながら男に迫る。
男が気づいたが、遅い。避けられる距離ではなく、事実避けられなかった。
「なっ…!?」
男は
アスフィはすぐさま距離を取ろうとするが敵はそれを許さない。
「ぬんッ!」
「ぐあっ!?」
胸ぐらを捕まれ、地面に叩きつけられる。とんでもない怪力だ。痛む体に鞭打って立ち上がり距離を取ろうとするも、男の姿がない。
「忘れ物だ」
「───づっ!?」
後ろから声が聞こえ、腹にズンと鈍い痛みが走る。そこにはアスフィのナイフが生えていた。衣服を血化粧で染めていく。
アスフィが視線を後ろに向ければ男はそこにいた。
「冒険者のしぶとさは身に沁みている。この程度では簡単に治るだろうな……」
「あっ……! ああぁぁぁあああ!!」
ゆっくりと持ち上げられるナイフがブチブチと不吉な音をアスフィの内から奏でる。あまりの痛みに叫ぶアスフィに【ヘルメス・ファミリア】に動揺が走る。
「これでそうそう全快はすまい。だがまだ死ねんだろう」
「アスフィさんに!」
苦しむアスフィに嘲笑を浮かべる男だったが、その男に向かって叫ぶ男が居た。キークスだ。
「汚ねぇ手で触んじゃねえ!!」
薬品の入った瓶を投げつけると男の手に当たり、跳ね返り男の被る骨の兜にぶつかり割れる。中の液体はすぐさま気化して煙に変わる。
「くっ…目くらましか!? 無意味な事を!」
煙はすぐに散らされ男は足元に倒れるアスフィを見る。何かを叫ぶキークスを見て嗤うと足を振り上げアスフィに振り降ろそうとして、二条の雷鳴が大空洞に響き渡った。
男が振り返ると暴れ回る
「ハハァ。何だお姫様、こんなところに来て死にかけてやがる」
下の方から聞こえた声に男は慌てて距離を取る。新たな侵入者達に意識を割いたその瞬間に接近したであろう少年がアスフィを見つめるようにしゃがんでいた。
「だから言ったろお? 弱っちい奴を連れてくのは嫌だって。おいほら、あの時言ってた台詞言ってみろよ『私は、ずっと外の世界に憧れていた。そのための準備もしていました』って、ホレホレ………」
重症人であるアスフィを煽りケラケラ笑いながら頬をつつく少年。アスフィが首だけ動かしその指に噛みつこうとするもあっさりかわされる。
「お、おいてめえ! なにもんだ!? 俺のアスフィさんから離れやがれ!」
「お〜……あれお前の男お?」
「仲間、です……」
「そうかそうか。んじゃほれ、さっさと回復させろ」
ポイとアスフィをキークスに投げ渡す少年。立ち上がり白ずくめの男を見据える。
「ウチの弟と同じ白髪かぁ。彼奴もこんな変なお面つけるようになっちまうのかねえ………」
「……………やれ、
突然現れた少年に警戒し、食人花をけしかける男。
「ヴァハ!」
「ああ、そうだ
アスフィが少年の名を叫び、少年が思い出したかのようにアスフィに手を向ける。と、アスフィの背負っていた剣がまるで磁石に引かれるように少年の下に向かって飛びその手に収まる。
バチリと紫電が迸る。少年から何かを吸い上げるように柄の方から雷光を帯びていく剣。雷光が剣全体を覆うと少年──ヴァハの体も雷に包まれる。
「ハッハァ!」
獰猛な笑みを浮かべ、『雷霆の剣』を振るう。極光が大空洞を包み込み内臓を揺さぶるような爆音が響く。
食人花の群は、消し飛んでいた。地面すらも大きく抉れていた。
「な、なな…………なぁ!?」
アスフィが使った時も規格外だったが、今回は更に上を行く威力。魔剣として有り得ない性能にキークスがあんぐり口を開ける。
魔法に対して高い適性を持つエルフ達もあり得ざる光景に固まっていて。
「んっん〜、流石俺の剣。良く
「気を付けてください。幾らその剣の
ハイポーションを飲み回復したアスフィが息を整えながら忠告する。ヴァハはアスフィと異なり特にダメージを負った様子はないが、己の腕を見てへいへい、と嘆息する。
「まぁ、それができる相手ならなあ」
「………どういう」
「くくく……」
アスフィが訝しむ中、煙の向こうで声が聞こえた。白ずくめの男の声だ。
「モンスターを盾にして、逃げたか。壁は数秒しか持ってなかったが、逃げ足は速えなあ」
ヴァハの馬鹿にしたような言葉に、しかし男は反応せずただ笑う。
「今の雷………そうか、お前か」
「あん?」
「先日、彼女が見つけた気配! 新たに彼女が会いたいと願った相手! 貴様が『ミノス』だな!?」
「違うが? 違うが………てめえ、その名を何処で知った」
感想お待ちしております
ヴァハ君のヒロイン
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フィルヴィス・シャリア
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アスフィ・アル・アンドロメダ
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アミッド・テアサナーレ
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エルフィ・コレット
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メイナちゃんやティオナを混ぜて全員