ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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混戦

「極彩色の、魔石………」

 

 人の身には有り得ぬ魔石を持ったオリヴァスの胸を見て、目を見開き声を漏らすレフィーヤ。

 

「貴方は、一体何なんですか!?」

 

 人なのか、あるいは人を象ったモンスターなのか。人とモンスター、どちらの要素も持つ異質な存在に吐き気が込み上げ、アスフィが思わず叫ぶ

 

「人とモンスター、2つの力を備えた至上の存在だ」

 

 口角を吊り上げ、己が上故に目の前の冒険者達が下とでも言うように見下した視線を向けてくる。

 

「───っ!」

 

 人とモンスターの『異種混成(ハイブリッド)』。

 人が持つ知性の能力(ステイタス)怪物(モンスター)の怪力と回復力。妄言めいた言葉に信憑性をもたせるには十分な戦闘を先程から見せていた。今も、剥き出しになった魔石。埋まるように胸の傷も癒えていっている。

 

「……ざけんな……ふざけんなよっ!! 闇派閥(イヴィルス)の残党が今度は半分モンスターになって調教師(テイマー)のマネごとか!? てめーらのせいで一体何人の冒険者が死んだと……!」

 

 死んだ筈の人間が生きており、それがモンスターを操り嘗てのように冒険者達に害をなす。そんなふざけた出来事にルルネが叫ぶとオリヴァスは闇派閥(イヴィルス)の残党に目を向け、同胞ではなくヴァハ達に向けるのと同じく見下した笑みを浮かべた。

 

「私をあのような残りカス、神に踊らされる人形と一緒にされるとは心外だな。ましてや調教(テイム)などという児戯と同列に扱われるとは」

 

 男はそう言うと未だ灰に還らぬ魔石の残った食人花の頭を拾い、掲げる。

 

食人花(ヴィオラス)も、私も、全て『彼女』という起原を同じくする同胞(モノ)! 『彼女』の代行者として私の意思にモンスター共は従う! これこそその苗床(プラント)! 食料庫(パントリー)に寄生させ食人花(ヴィオラス)を生産させる、深層のモンスターを浅い階層で増殖させ地上に運び出すための中継点だ!」

 

 モンスターがモンスターを生むという事実に目を見開く一同。モンスターはダンジョンが生む。これに例外はない。

 地上で繁殖したモンスターは、もはやダンジョン産のモンスターとは別物なのだ。食人花のように魔石を持つモンスターをモンスターが産むなどありえない。

 

「ふーん、でぇ? そのダンジョン相手に腰振ってガキを拵えてるビッチの目的はなんだ?」

「……………」

 

 ケラケラ小馬鹿にしたように口を歪めるヴァハの言葉にオリヴァスはもちろんそのあまりの喩えに潔癖なエルフ達も顔を顰める。もちろん、ヴァハが気にするはずがない。

 

「知れた事を………この軍勢を率い、迷宮都市(オラリオ)を滅ぼすのだ」

 

 その言葉に、誰もが愕然と立ち竦む。今、この男はオラリオを滅ぼすと言った。このダンジョンの上に存在する、街を。

 

「……じ、自分が何を言っているのかわかってるのかよ」

 

 尻尾をたれさせながら身を震わせ、ルルネが呟く。

 オラリオは蓋だ。『巨塔(バベル)』というダンジョンの入り口を塞ぐ蓋と、街の中にいくつも存在する嘗て()()()()()()()()()()()()に、モンスターを狩る冒険者達。それら全てを内包した街を破壊するということは、即ち千年続いた平和の終焉。人類と怪物(モンスター)の戦乱の世の幕開け。さる道化が始めた『英雄神話』の否定。

 

「理解しているとも。お前達には聞こえないのか、『彼女』の声が!?」

 

 戸惑うルルネ達に向かって、彼は背後を示した。広げる片腕の先には宝玉の胎児。

 

「『彼女』は空を見たいと言っている! 『彼女』は空に焦がれている! 『彼女』が望んでいるのだ、ならば私はその願いに殉じてみせよう!」

 

 吐き出される言葉は『彼女』に対する妄執、信仰、忠誠を超えた、悍しい何か。

 

「邪魔な都市を滅ぼし愚かな人類と無能な神々に代わって『彼女』こそが地上に君臨すべきなのだ! 私が! 『彼女』に選ばれた私だけが『彼女』の願いを成就できる!」

 

 レフィーヤが顔を青くする。レフィーヤだけではない、何人も。それこそ闇派閥(イヴィルス)の残党さえも竦んでいた。ただ──

 

「『彼女』こそが私の全てだ!」

「御託はいい」

「お前気持ち悪ぃなあ……」

 

 ヴァハと、ベートを除いて、だが。

 

「とにかくてめえは大人しくくたばれ。回復の時間稼ぎにベラベラ喋りやがって。どうせもう碌に動けやしねえんだろ」

「おー、気づかなかったぜ流石第一級冒険者ぁ。なら回復の間を与えず殺しに行けよ」

「てめえも黙れ!」

 

 ベートの指摘にオリヴァスは一瞬だけ真顔になり、しかしすぐに笑みを浮かべる。

 

「見抜いていたとは恐れ入る……私を生かそうとしてくださる『彼女』の加護は未だにこの身には過ぎた代物……貴様の言うとおり今の私は碌に動けん」

 

 その言葉を肯定するように、オリヴァスの足は微かに震えていた。

 

「───()()()

 

 だが、不敵に笑う。

 

「やれ──巨大花(ヴィスクム)

 

 その言葉と同時に、大主柱(はしら)に巻き付いていたモンスターの一体が動き出す。

 階層主を優に超える巨体を持ったモンスターは、手足を持たない。持つ必要がない。ただその身を叩きつければいいのだから。

 

「散れ!」

 

 ベートの叫びにすぐさま散開する一同。ヴァハは放心するフィルヴィスを見つけ、抱え上げかけだす。

 

「……………」

 

 仇敵が生きていた、というだけじゃねえな。何かに裏切られた? これはそういう顔だ。オリヴァス・アクトの死は、フィルヴィスにとって信用できる相手からもたらされた情報ということか? いや、公式発表では下半身が見つかったからのはず。そして今のオリヴァス・アクトは人の足をしていない。

 

「………………」

「フィルヴィス、ボーッとするな。戦え……このままじゃ、レフィーヤが死ぬぞ」

 

 ヴァハの言葉にハッと正気に戻るフィルヴィス。同胞(エルフ)から公然と『恥晒し』と呼ばれた自分を綺麗だと言ってくれた、初めての同胞。

 ディオニュソスやヴァハのように、自分を綺麗だと、美しく、優しいと言ってくれた少女。

 

「すまない、もう大丈夫だ」

 

 本当に美しいのは、優しいのは彼女の方だ。だから、絶対に死なせはしない!

 飛び出したフィルヴィスを見送り、ヴァハは巨大花を見つめる。でかすぎてベートの攻撃を食らってもピンピンしている。決定打となるには、それこそ魔法クラスの力が必要だろう。

 ヴァハは雷霆の剣を構え、しかしその場から飛のく。

 

「貴様の相手は私だ、『ミノス』!」

「だから、ちげえつってんだろ」

 

 ベートは巨大花を相手している。他の連中では、残念ながら足を引っ張られるだけ。単身で相手するしかない。

 

「後でアミッドにまぁた小言言われるかもなぁ………【我を呪え清浄なる血脈】」

「っ! させん!」

 

 詠唱を唱えたヴァハを見て、オリヴァスが魔法を阻止しようと接近する。

 

「【我こそ異端の使徒。神の定めし英雄譚を血で汚す者】」

「────!?」

 

 しかし、止まらない。オリヴァスが無数の拳を叩きつけようとするも全て回避、或いは弾き、オリヴァスが懐に飛び込まないよう後退していく。

 

「【神の分身に手にかけし血に染まりし怪物よ、峡谷を閉ざせ。哀れな兵を閉じ込めよ。兜を壊し、悍しき(アギト)を晒せ】」

 

 攻撃、防御、回避、移動、詠唱。その全てをこなすそれは、平行詠唱と呼ばれる高等技術。しかも長文詠唱。そんなことが可能な者は、オラリオでも数人しかいないはず。

 

「【その身を血で汚せ。支配者(おう)より賜りし鎧を赤く染めよ。代行者たる我が名は雷公(ミノス)。雷の化身、雷の将軍(しょう)。我が敵こそ我が後継者。雷纏し雷公(らいこう)の英雄】」

「【アルゴノゥト】」

「───っ!!」

 

 バヂィ! と食人花の群を一層した時に匹敵する雷光が輝き、オリヴァスの体に無数の裂傷が刻まれる。

 ヴァハの速度に慣れてきたつもりだった。なのに、更に跳ね上がった。傷も、万全ならともかく今は浅いとは言えない。

 

「貴様……! っ!? ……………貴様、何だ、その姿は………」

 

 ヴァハは雷を纏っていた。そこまで文にするなら、先程までと同じ。だが、先程までとは明らかに違う。

 髪は白く染まり、瞳は血のように赤く染まっていた。

 

「教えるわけねえじゃん。常識考えな」

 

 ニヤニヤと笑うヴァハ。と、その時、大空洞の一角が爆発した。

 壁を突き破り幾筋もの煙を絡めて飛んできたのは赤髪の女。地面を削りながら、なんとか立ち上がる。

 

「口だけかレヴィス、情けない」

 

 恐らくオリヴァスの仲間なのだろう。が、オリヴァスは女に対して嘲笑を浮かべ、新たに開いた穴の入り口に立つ少女、アイズを睨む。

 

「『ミノス』に続いて『アリア』………どちらも逃がすわけにはいかんな。いいだろう、『彼女』が望むと言うなら!」

「やめろ!」

 

 レヴィスと呼ばれた女性の制止も聞かず、オリヴァスはアイズに手を向ける。

 

「やれ、巨大花(ヴィスクム)! 『剣姫』を殺せ!」

 

 その言葉に先程迄冒険者を相手していた巨大花がアイズに襲いかかる。

 

「………馬鹿だなぁ」

「──馬鹿が」

 

 おそらくこの世界で誰よりもアイズの力を感じ取れるヴァハはオリヴァスの行動を嘲り、レヴィスが舌打ちした。

 

「……行くよ」

 

 迫りくる巨大花に対して、アイズは剣を構え、詠唱を唱えた。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 呼び起こされた風の大渦が周囲の空気を押しのけた。愛剣(デスペレート)を中心に生まれた竜巻は、アイズが一閃すると同時に巨大花の首を両断した。

 

 

 

 

「…………違うな。ありゃ、精霊の加護じゃねえ。精霊の力、そのものだ」

 

 例外なく誰もが固まる中、ヴァハだけがアイズを見て目を細める。

 てっきりこの時代に珍しい、精霊との契約者かと思っていた。だが、違う。想像以上に、()()()()。だが安定しすぎている。

 

「つまり、ジジイが言ってた、奇跡の子か………寝ぼけてんのかと思ってた」




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ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
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