ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
アイズの圧倒的な力にエルフであり、都市最強の魔道士であるリヴェリアから師事を受けているレフィーヤは震える体を止められずにいた。
オリヴァスもあまりの出来事に頬を引つらせていた。
「ぐお!?」
「カハハ。隙ありだぜ、間抜け」
そのオリヴァスを、ヴァハが蹴り飛ばす。髪の色と瞳の色が兎を連想させる色になったヴァハにアイズが一瞬目を奪われ、首を傾げる。誰かに見間違えたのだろうか?
「ぐっ! ちょこまかと………レヴィス! 『ミノス』だ! 『剣姫』は捕らえられずとも、せめてコイツだけでも!」
「『ミノス』だと? そいつが?」
レヴィスがヴァハに視線を向け、見失う。
「───っ! チィ!」
「おお……」
無造作に振るった腕がヴァハの剣を弾く。ヴァハの動きを先読みしたのだ。戦闘技術に関してはオリヴァスより遥かに上だ。
「よし、逃げるか」
速さはこちらが遥かに上。ヴァハは背を向け走り出した。
「っ! おのれ、
『アリア』は強さで、『ミノス』は速さで確保が不可能と判断したのかせめてこの場に侵入した冒険者だけでも殺そうとするオリヴァス。食人花の群がアイズに殺到し巨大花がレフィーヤ達に襲いかかる。
「みんな! 『魔石』があるのはやっぱり頭の方だ! 花の部分を狙え!」
と、不意に声が響く。見ればルルネがアイズが斬り殺した巨大花の死骸から魔石を探し出したらしい。
とはいえ魔力に反応して決定打を与えられるであろう魔道士に優先的に襲いかかる蔦の鞭が無数に存在するモンスター。先程ヴァハがやったような戦いながら詠唱など早々誰もが出来るわけではないのだ。
「ベート、穴を開けろ!」
「ちっ、指図すんじゃねえ!」
ヴァハの言葉に文句をつけながらもベートは巨大花の体躯を駆け抜け頭部を蹴りつける。皮膚が吹き飛び肉が丸出しになったそこに、ヴァハは片手を突き出す。
「【血に狂え】」
「あぁ!?」
ベートも目を疑う威力を持っていた魔剣ではなく、短文詠唱を行うヴァハにベートが思わず叫ぶ。しかし、ヴァハは気にせず血の長槍を生み出し傷口に向かって放つ。突き刺さり潜り込んでいく槍の柄を、空に蹴りつけ加速させる。
『──────!?』
「おい、効いてねえぞ!」
「いーんだよ、殺す気ねえから」
暴れまわるモンスターにしがみつきながら文句を言うベートに、ヴァハはケラケラと笑う。
「ぶっ殺せ、クソ花」
「何!?」
ヴァハの言葉と同時に巨大花は突如転身してレヴィスへと襲いかかる。格好からして彼女もバリバリの近接戦特化。巨大モンスターを一撃で葬る手段はあるまい。
「ハハァ………」
「お前、何をし───」
巨大花から飛び降り笑うヴァハに、ベートが問いかけるも不意に止まる。妙な音が聞こえた。ピシリと、何かがひび割れるような音。ヴァハの方から聞こえたが、鎧も剣も特にひび割れた様子がない。
「貴様! 何をした!?」
「…………
と、オリヴァスが向かってきた。動揺と激昂、混乱を宿す瞳でヴァハを睨み殴りかかってくるが、万全ではないオリヴァスなどヴァハでも十分相手できる。
「ベート、お前はお姫様達を頼む」
「あ? 何また命令してんだてめえ!」
「こいつは俺の獲物だ。地上に戻ったらドッグフード奢ってやるからあっち行ってろ」
「…………地上に戻ったらその腐った性根叩き直してやる」
ベートはそう吐き捨てると僅かに残る
「何故だ! 何故、『彼女』の使徒が操られる!?」
「その女も、俺も、性質は違えど本質は同じだからなあ。そいつに出来て俺に出来ねえなんて事は結構少ねえぜ? まあ、お前が崇めてんのはその程度の存在ってことさ」
「っ! 貴様!」
べえ、と舌を突き出したヴァハにオリヴァスが迫る。疲労してもなおミノタウロスさえも粉砕するであろう剛力の拳。しかし怒りに染まり単純になった攻撃など、ヴァハには通用しない。
速度だけではなく攻撃力、魔法の威力も跳ね上がったヴァハに一方的に傷を付けられていくオリヴァス。それでも、まだ回復力と力任せに互角に持ち込む。
しかし、均衡とは何れ傾くもの。ピシリと音がなる。ピキピキ罅が広がるような音が、静かに、だが確かに響く。
「─────」
オリヴァスの大振りを避けるべく後ろに飛び退いたヴァハ。近場の岩に着地した瞬間、
「……………はは!」
何が起きたか解らず一瞬固まるオリヴァスだったが、血を吐き体を曲げるヴァハを見て即座に笑みを浮かべ貫手を放つ。
「ご、がは………!」
「は、はは………ははは! このまま死ね!」
「なんつって………」
ヴァハの胸を貫き狂笑するオリヴァスだが、やはり彼ではヴァハの笑みを崩すことは出来ない。
「【血は炎】」
詠唱と同時に、舌を噛み千切るヴァハ。頬を膨らませ、開くと同時に大量の血液が口から溢れ落ちようとして渦巻き表面が燃え上がり光り輝く。
「─────っ!?」
轟音が響き渡りヴァハとオリヴァスが炎に飲まれる。
「っ! ヴァハ!」
「クラネル!?」
爆発の発生源がヴァハのいた所と気づいたアスフィとフィルヴィスが慌てて叫ぶと、その隙を逃さんとばかりに数える程になった
「しま───っ! なに?」
「ユミル! 許し、グハ!」
その胸を赤い杭がついた鎖が貫く。ご丁寧に、枝分かれした紐が着火装置と手に絡みつき起動できないようにしている。
「うわ、うっ………ああああ!!」
鎖に引き寄せられ未だ煙が燻ぶる爆心地に引きずられる
「ぎあ!?」
そして、
「ぷはぁ〜………レベル1かよ………ちょっとしか回復出来ねえの。まあ、数が居るか」
重傷をある程度直したヴァハは再び血の鎖を周囲に放った。捕らえられた
「ば、化け物………」
そう呟いたのは、敵か味方か。しかし敵の士気は明らかに下がっていく。誰かが、後退り逃げ出した。途端に残りが逃げていく。
「クラネル! 後ろだ!」
と、フィルヴィスが叫ぶ。ヴァハはすぐさまその場から飛び退くと所々炭化したオリヴァスが拳を振り下ろした。
「とと、あぶねえあぶねえ……あー、防具が殆ど溶けちまった」
「その程度なのか…………っ。お前、その体はどうした?」
「過ぎたる力に身が崩れかけた………」
ヴァハの全身に広がる亀裂を見て目を見開くフィルヴィスにヴァハは軽く笑う。が、ふらつく。
「く、くく………私の、勝ちだ」
「あ? もう勝負ついてるだろお前」
「何? ───っ!?」
ヴァハの言葉に訝しむより先に怒りが沸いたのか眉間にシワを寄せ踏み出そうとした瞬間、足が崩れ落ちた。
「な、あ………? が、ぐあああああ!?」
片足を失った事により地面に倒れ伏したオリヴァスの体が陸に上がった魚のように跳ねる。爪が剥がれるほど地面をかきむしり、その指も灰となって崩れていく。
「な、何をした………」
「魔石に小さくない傷を付けた。魔石はモンスターの核。身体の元素をあの形に構築する重要器官。砕ければ死に、失っても死に、砕けずとも傷つけば、ああなる」
そう言って、ヴァハはニヤニヤ笑いながらオリヴァスを見た。
「ぎぐ、ぎあああ! おのれ、おのれぇぇぇ! 『ミノス』……『ミノズゥゥゥゥ』! 許さぬ、許さんぞおおおぼおおああああ! ぐぃあああ!!」
痛みにのたうち回りながら血反吐を吐き灰へと還っていくオリヴァス。その悍しい死にゆく姿に、フィルヴィスは顔を青くする。と、オリヴァスの横に誰かが降り立つ。
「………レ、レヴィス………助け、助けてくれ…………ま、魔石を、魔石さえあれば」
「…………ふん」
グシャリと音が響いた。オリヴァスの脳漿が飛び散る。
レヴィスはヌチャリと赤い糸を引く足をどけオリヴァスの胸から罅が入った魔石を取り出す。
『─────!!』
そんなレヴィスにヴァハに操られた巨大花が迫り、その巨体が蹴り返された。
「…………な」
「────っ!!」
ヴァハの隣でフィルヴィスが目を見開く。おそらく誰よりもレヴィスの実力を知るであろうアイズも息を呑む。つまり、アイズの知る強さを超えたのだろう。
「仲間を食うなんて酷えやつだなぁ」
「くだらん。私も、こいつも、彼奴も、所詮アレの触手に過ぎん」
ヴァハの言葉にそう吐き捨てたレヴィスは地面に手を当てる。と、身をのけぞらされた巨大花が再びレヴィスへと襲い掛かり───切り裂かれた。
緑肉の地面から抜き放たれた紅の大剣で、巨大花の頭を切り裂き、魔石を砕いたのだ。
灰へと還る巨大花。砕かれた魔石の欠片の間で紫電が一瞬だけ走った。
「……『アリア』よりは弱そうだが、この場に於いて面倒そうなのはお前だな………その雷、オリヴァスの言葉………お前が『ミノス』か」
「だから違うっての」
はぁ、とため息を吐くヴァハ。その身に纏う雷が衰えていき、新雪のように白かった髪も赤に戻っていく。体の亀裂は、むしろ広がる。
「? 何だ、その罅は? いや、良い。捕らえて、しまいだ…………っ!」
「くっ!」
ヴァハへ歩みだそうとしたレヴィス。しかしそのレヴィスにアイズが斬りかかり、攻撃を弾かれた。明らかに強さが跳ね上がっている。
この場に現れたばかりのアイズはオリヴァスが何だったのかを知らない。それでも、灰へと還った体に、その胸から取り出された結晶。それを飲み込む事で強さが増したレヴィス。この情報で一つの単語が頭に浮かぶ。
───強化種!?
邪魔されたことに何を感じたのかは分からないがレヴィスは標的をアイズへと切り替える。ヴァハはその場で膝を突き、息を荒くする。
「クラネル!? おい、どうした! と、とにかく………わ、私の血を飲め!」
「肉体つー概念が壊れかけてる。血を飲んだ所で、気休めにしかならねえよ」
袖をめぐり肌を顕にするフィルヴィスだったがヴァハは腕をパタパタふる。
「それよりアレだ。今回の騒動の種、持って帰んぞ。念の為触れときてぇ、支えろ」
「あ、ああ………」
ヴァハが宝玉の胎児を指差し立ち上がろうとしたのでフィルヴィスが肩を貸す。
ヴァハはあれが何なのか気付いているようだが……と、不意にヴァハがフィルヴィスを押しのけた雷霆の剣を背後に振るう。
『!』
紫の
『………何故ダ』
「あ? ぐぅ!」
不気味な声が、問い掛けてくる。襲撃者はヴァハの首を掴むと地面に叩きつける。全身の亀裂が広がり血が吹き出す。
『見テイタ………血ヲ啜リ、傷ヲ癒ヤスオ前ヲ…………ナノニ、何故オ前ハ恥ズカシゲモナク地上ヲ歩ケル! オ前ノヨウナ化物ガ何故………何故何故何故何故何故何故!!?』
問いかけているが答えを聞く気はないのかヴァハの首を抑え力を抜かない仮面の襲撃者に、ヴァハは笑みを浮かべる。
「光を浴びる事を否定したのは、お前自身だろぉ? なぁに自分は我慢しなくちゃいけないのに、みたいな寝言吐いてんだあ? 相変わらず面白い女だ」
『っ! 黙レ!』
「あぁ………っ…そ、いやお前、あいつ等の仲間なら魔石持ってんのか?」
『黙レ……!』
「良いなぁ、それ。どうやってなりゃ良い?」
『…………何?』
ヴァハの言葉に思わず腕の力が緩む。
「どうせなら魔石を食って取り込みたい奴がいるからなあ。その体、羨ましいぜ」
『フザ、フザケルナ!!』
「────!!」
ミシミシと腕に力が入っていく。罅が更に広がり片目にも亀裂が伸びる。と──
「ヴァハから離れなさい!」
アスフィが短剣を振るう。首を狙ったその一撃に、襲撃者はヴァハの上から跳び退いた。
「女性だそうですね、ヴァハを押し倒すなど、こんな状況であろうと許しませんよ!」
そう言うとヴァハをその腕に抱き寄せ『
「【い──】」
「させん!」
魔力の流れからして魔法を放とうとしたのだろう。だが、フィルヴィスが邪魔をする。
「………こーしてみると、戦い方こそ似てるがやっぱフィルヴィスの方が圧倒的に弱いな」
アスフィの腕の中で戦いを観戦するヴァハはそう呟くと、その口にアスフィが試験管を突っ込む。
「んぐ!? げほ、気管に少し入った………」
「私が手を加えたハイ・ポーションです。気休めにはなりましたか?」
「ああ………まあ、彼奴が俺を逃してくれる気があるならな」
ヴァハはそう言ってフィルヴィスと戦いながらも此方にずっと殺気を向けてくる仮面の女を見下ろした。
「エニュオに届けろ! 完全に育ったとは言い難いが十分だ! それがお前の仕事だろう!」
『────!』
レヴィスの言葉に動きが止まる仮面の女。仮面越しにヴァハを一瞥すると宝玉の胎児を握り締め駆け出す。
「逃してはなりません! 最悪、宝玉を破壊しなさい!」
あれが恐らくオラリオを滅ぼす計画に必要なもの。叶うなら確保したいが不可能ならこの場で破壊する。アスフィの言葉に【ヘルメス・ファミリア】が後を追おうとする。
「
だが、そこでレヴィスが叫ぶ。アイズを吹き飛ばし、最後の巨大花に命を飛ばす。
「
瞬間、大空洞が鳴動する。巨大花が震えたのだ。巻き付いている
1匹、2匹ではない。文字通り全ての、まだ産まれるまで時間があったであろう未成熟な食人花も目覚め産声を上げ、数多の産声が反響し悍しい合唱を奏でる。
「これは、まさか………」
生まれ続けるモンスターに、アスフィの腕が震えヴァハに動揺を伝える。
───
感想お待ちしております
ヴァハ君のヒロイン
-
フィルヴィス・シャリア
-
アスフィ・アル・アンドロメダ
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アミッド・テアサナーレ
-
エルフィ・コレット
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メイナちゃんやティオナを混ぜて全員