ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
オラリオに幾つもある外壁の上。ヴァハは迫りくるナイフをかわす。
「にゃ〜っ! この、避けんにゃ!」
「やだね」
速度はクロエの方が上。しかしヴァハの先読みは寧ろ強い人間相手にほど発揮する。クロエが攻撃を開始した時点では既に回避行動を取り、裏拳を鼻に当てる。
「みぎゃ!?」
「ハハァ………」
Lv差2つで手加減もされているとは言え、鼻は少し痛いし目の前に掌が迫れば体が反射的に固まる。訓練によりそれは常人より短くとも僅かな隙を、ヴァハが見逃すはずもなく足を絡ませられ、肩を掴まれ体が浮き上がる。そのままひっくり返し後頭部を踏み付け地面に顔面を激突させるヴァハ。起き上がろうとしたクロエの尻尾を握る。
「ひにゃああああ!?」
因みに獣人は尻尾や耳を触られると、特に感じぬ者痛がる者、気持ち良くなる者など様々だが、ヴァハは力一杯握るので当然痛い。痛がるクロエを見てゲラゲラ笑う。
「ぶっ殺してやるにゃー!」
「カモォン……」
「流石Lv.4。身体強化なしならきついなぁ」
「きついで済むのが可笑しいのにゃ………」
「ハハ。拗ねるな拗ねるな」
毒使えれば楽勝だったのに、とふてくされるクロエの頭を撫でてやるヴァハ。ナデナデ、ではなくグシャグシャという擬音だが。クロエがペシ、と手を叩く。
「にゃ〜、どうせ膝枕なら美少年がいいにゃ。お前何歳にゃ」
「16って事にしてる」
「してるってなんにゃ…………16。まあ、ギリギリ」
「つまりお前は16をガキと思える年齢、と」
「うるせえにゃー!」
ヴァハの言葉にムキーと怒るクロエ。現在クロエはヴァハに膝枕されていた。空もまだ暗い。早朝どころか日を跨いだばかりの時間帯。ふにゃあ、と欠伸をしたクロエはそのままスウスウと寝息を立て始めた。
「お、来た来た」
ヴァハは別の外壁の上に現れた影を見つける。ベルとアイズだ。アイズがベルをボコボコにしている。ベルは、防御が下手だ。回避が上手いから、ではない。攻撃が当たることを恐れているからだ。
「……っと」
ベルが不意に周囲をキョロキョロ見回し始める。アイズもそんなベルに倣い周囲を警戒し始めたので気配を殺し外壁頂上の塀の陰に隠れる。ゴン! という音とギニャ!? という悲鳴が聞こえたが起き上がらないように足で首を捉え床に押し付ける。
「静かにしろよ、見つかるだろ?」
「だ、だったらもう少し優しく降ろすにゃ」
「え? やだ………じゃなくて、あー………無理だ。ベルは普段からある女に視姦されてて視線に敏感だからなぁ」
「おい、今やだつったにゃ?」
「んで、アイズは気絶したベルに膝枕をしてたな。しかも、気絶させりゃ逃げられないと思ったのかその後何度も気絶させては膝枕。ああ、後頭を撫でてた」
「くっ…! ふっ、ふふ…………くくくく………」
ヴァハの報告に肩を震わせ笑うリヴェリア。腹を抑え、目尻に涙を溜め吹き出すのを堪えるその姿は
「は、ははは! 私の言葉を鵜呑みにしたのか、あの子は」
とうとう堪え切れず吹き出したリヴェリア。どうやらアイズに『膝枕されて喜ばない男はいない』『逃げられたのはアイズのやり方が悪かったのでは?』などと言ったらしく、アイズはそれを本気にしてリベンジしたのだろう、との事だ。
「っ………いや、笑い事ではなかったな。お前の弟に、すまない。私から言って───」
「耐久がつくなら別に良いんじゃねーの?」
「いや、しかし………」
「むしろ惚れた女に遠慮させんのは、ベルが落ち込むだろうからなあ」
何せベルは元々アイズに時間を割かせることを後ろめたく思っている。だから初日、エルフから全力で逃げた訳だし。そういえばあのエルフ、目の前のハイエルフの弟子だ。教えた方がいいのだろうか?
(まあ、面白いし放置しとくか。しかしある意味やらかして、追われる。ベルの奴も変わらねぇなあ)
昔を思い出し空を見つめるヴァハ。子供になろうと大人になろうと、空は何時までも変わらないものだ。
「? 空に何か?」
「随分遠くまで来たと思っても、空を見るとそんなこたぁねぇんだなぁってな………」
「……………そうだな。ここから見える空も、故郷の森で見た空も、変わらん。場所も、時も関係なくな」
「ババくせえ」
「なっ!? お、お前こそ16の分際で年寄りみたいな事を………!」
確かに長命故にエルフとしては若くとも、他の種族から見れば年寄と言われることの多いのがエルフだ。それでも女性、年寄り扱いされればムキにもなる。
「俺はいーんだよ」
「どういう理屈だ!」
「ほら、人類って基本的に自分がやられて嫌なことを他人にするじゃん? 俺は別に爺扱いされても本物の長生き過ぎる爺知ってっから若いぜぇと思えるから気にしねえけど」
「その理屈で言うなら、私も平気だな。お祖父様達に比べれば私もまだまだ子供だ」
「やーい、ガキィ」
「それでもお前より年上だ………」
王族としてエルフに敬われ、最強の魔道士として冒険者に敬われ、軽く扱ってくるのなどセクハラしてくるロキか、同じファミリアのフィン達ぐらいなリヴェリアにとって他所のファミリアでありながらこのような接し方をしてくるのは新鮮なのだが、思ったより疲れる。
だが、まあ、悪くない。アイナの土産話にはなるだろう。
ダンジョン中層でモンスターを狩るヴァハ。
やはり調子が良い。ステータスが上がったのもあるが、それ以上に24階層であの力を使ったからか。
「ヴオオオォォォォォッ!!」
「お、ミノタウロス」
振り下ろされた石斧を躱して首を蹴り飛ばす。倒れた死体から魔石を抜き取る。
「……………ミノタウロスねぇ、ベルのトラウマは間違いなくコイツだし、いっそブツケてみるか?」
しかしよりによって、他でもないベルがミノタウロスにトラウマって…………アルゴノゥトみたいになるんじゃなかったのか…………と考えていると、ヴァハの鼓膜を僅かな金属音が揺する。
「? 何だ、この音………」
力任せに叩きつけるような音。中層に来られるような冒険者が? いや、それだけなら珍しくはないが、叩きつけてる
「………ふーん」
興味が出たので行ってみることにした。
「ふむ………やはり、モンスター相手に教えるのは中々骨が折れる」
オッタルは大剣を持ったミノタウロスを前に呟く。何せ言葉も解せぬ獣相手に、手解きの方法など文字通り体で覚えさせるしかない。そう、オッタルはミノタウロスを鍛えていた。
理由は、とある冒険者にけしかけるため。嫌がらせ? 殺すため? 否だ。敬愛する女神が欲する相手を殺そうなどと考えない。ただ、ふさわしくなって貰いたいだけ。故に試練を与える。
「まあ、多少はマシになってきている。まだ時間もある、続け…………」
「ヴォ?」
と、近付いてくる気配を感じるオッタル。遠巻きに此方を観察している視線には何度か気づいたが、とうとう近付いてくる気配が現れた。
「よお、オッタル………何してんだ?」
「……………お前か」
「お? ミノタウロスか…………ふーん、いいなそれ。ベルにぶつけるから寄越せ」
「もとよりそのつもりだ」
「あ、そう………ああ、フレイヤの試練って奴か。ん?」
と、ヴァハはミノタウロスを見て首を傾げる。
「どうした?」
「……………お前、本気でこのミノタウロスを、ベルにぶつける気か?」
「…………邪魔をする気か?」
それならば叩き伏せると言わんばかりに威圧するオッタル。ミノタウロスが思わず後退る………かと思いきや、足音は下がった音ではなく前に進んだ音。
「くは! ははははは! ぎゃはははははははは!! オッタルぅ、お前最高だなあ! よりによって、そのミノタウロスをベルに宛行うか! 良いな、それは良い! その戦い、是非とも俺も観戦させてもらうぞ!」
「……………邪魔をしないなら、それでいい」
「しないさ。するものか………寝物語に聞かされた、数千年来の戦いだ。それの決着が見れる。あー、どうにか戦いの光景を写して爺にみせてえ」
心底楽しそうに笑うヴァハ。その笑みを、オッタルは何処かで見たことがある気がする。そう、フレイヤとロキのファミリアが最強と詠われる以前、最強の名を手にしていたファミリア…………その主神が浮かべていた笑み。困難を自ら切り開く者を見て、絶対を覆す者を見ては楽しそうに笑っていた彼の大神の浮かべていた笑みだ。
「よし、じゃあ俺はベルの方を少し鍛えてくるぜ。こりゃ楽しくなってきちまったなぁ……ベルにぶつける日は教えろよお? あ、つってもお前地上に出るわけにゃいかねえか、逃げられると困るし」
と、ヴァハは顎に手を当てる。
「フレイヤの方にも言っとくわ。彼奴が多分、使いを届けてくれんだろうよ」
そう言って、ヴァハは笑みを浮かべながら地上にいる弟の下へ歩きだした。
ヴァハ、祖父が聞いたらワシも見たーいと言うであろう戦いが近い事を知りテンションアップ
感想お待ちしております
ヴァハ君のヒロイン
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フィルヴィス・シャリア
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アスフィ・アル・アンドロメダ
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アミッド・テアサナーレ
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エルフィ・コレット
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メイナちゃんやティオナを混ぜて全員