ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
今日も今日とてベルを気絶させ膝枕するアイズ。癖のあるモフモフの髪を堪能する。けどさっきはともかく、今回はベルが勝手に倒れた。少し心配だ。あと少ししても起きなかったら、どうしよう?
「う、あ………」
「あ、起きた……?」
「…………アイズ、さん? 普通の、アイズさんですか?」
「? …………んっと、そうだと思うよ」
普通の、というのが解らないが自分は自分だ。だから、取り敢えず肯定する。そのアイズを見て何時ものアイズであると判断するベル。そして、自分が膝枕されている事に気付き飛び起きる。
「ひ、膝枕!? また………!?」
「いきなり起きたら危ないよ?」
「あ、す、すいません……」
修行で気絶し、膝枕されるのがすっかり習慣になってしまった。と、アイズが咄嗟に己の手を背中に隠したのが見えた。
「あの………もしかして、僕の頭とか撫でてました?」
「っ!」
「アイズさん………?」
「そ、んなこと……ない、よ」
目を逸らしながら応えるアイズに、撫でていたんだなぁと理解するベル。だからあんな夢を見たのだろうか?
そうだと思いたいけど、と唸るベルを見てアイズが首を傾げた。
「どうしたの?」
「あぁ、いや………なんでもないですアイズお姉ちゃん!」
「アイズ………お姉ちゃん?」
「アバババババッ!! ち、違います! 何でもありません! 間違えました!!」
「…………アイズお姉ちゃん」
慌てて弁明するベルに気づかずアイズはベルの言葉を復唱する。
「ア、アイズさん…………?」
「…………………」
「あ、あの───」
「ねえ」
「は、はい!」
「もう一回、お姉ちゃんって呼んで………」
「へあ!?」
アイズの発言にベルが思わず吹き出した。
「お姉ちゃんって、呼んで……」
「な、何言ってるですか!?」
「後一回だけでいいから」
「出来ないです無理です死んじゃいますぅ!」
「ねえ………」
「ちょっ! 近い、近いです!!」
「さん、はい………」
「勘弁してくださーーい!」
「……………何やってるにゃお前等」
と、そんな呆れた声が聞こえた。ビクぅ! と震えた二人が振り返ると声と同じく呆れた様子の黒髪の
のこぎり型狭間の上に立つ彼女の隣の凸には、赤髪の少年が腹を抱えて震えていた。
「ククククッ。お姉ちゃん? お姉ちゃんと来たか。寝ぼけてたにしても最高だなベル………」
「お、お兄ちゃ………兄さん!?」
と、そこで漸くベルは己がアイズに迫られた体勢であることを思い出し慌てて抜け出る。そのまま逃げようとするがクロエに捕まった。
「逃げるにゃ少年。逃げると尻を揉みしだくにゃん!」
「ええ!? なんでお尻!? に、兄さん助け…………」
「あわ、あわわわ………」
「おー、おもしれえコイツ」
身の危険を感じ兄に助けを求めるも、ヴァハはバレたらリヴェリア達に怒られる。というか人の弟をボコボコにしてた事をまず怒られるかもと混乱の極みにより固まっているアイズの頭を掴みグリグリ揺らしながら遊んでいた。普通に触れる。羨ましい。
「あ、あの……ごめんなさい…………その、ベルを、別にいじめた訳では」
「ああ、良いって良いって。ベルは痛いの好きだから」
「好きじゃないよ!?」
何弟の性的嗜好を盛ってるんだこの人は!
「まあそれは冗談として、最初から知ってたからなあ」
「この事は、リヴェリア達には………」
「あ、リヴェリアにだけは伝えてる」
「………………」
アイズの戦い方は【ロキ・ファミリア】で培った財産だ。それを他所のファミリアに教えたとなれば、怒られる! と顔を青くするアイズ。ヴァハはもちろんリヴェリアが怒っていないことなど教えない。
「どーだベル? もう少し下に、潜れそうか?」
「下?」
「んー、そうだなぁ…………ミノタウロスからは、今度こそ逃げられるかぁ?」
「───っ!!」
ビクリと肩が震える。肩だけではなく、全身が小刻みに震える。アイズが心配そうにベルの肩に手をおいた。
「ハハァ。まあ、別にいーんじゃねえの? また、誰かが助けてくれるさ。どーせ何時かは勝てるだろうし、それまでは可愛い剣士様に守ってもらえよ」
ニヤニヤ笑うヴァハの言葉にベルは拳を握りしめ俯く。アイズがムッとヴァハを睨むが当然ヴァハは気にしない。
「んじゃ、どれぐらい強くなったか見てやるよ…………久々に、きょーだい仲良く遊ぼーぜえ」
カモォン、と手をクイクイ動かすヴァハに、ベルはえ? と声を上げる。
「む、無理だよ。僕なんか、兄さんに傷一つつけられる訳ないって」
「何言ってんだ。当たり前だろ? お前が俺に傷ぅ? はは、恩恵貰う前から俺に勝てた事もねぇのに、恩恵を得てレベル差ができた俺になんでお前が傷つけられるよ」
「むぅ………そんなこと、無いよ。ベルはそのへんのLv.2にだって、善戦出来ると思う」
「そりゃそうだ。そうじゃなくちゃなあ…………いや、寧ろ互角程度じゃ困る。普通より強いミノタウロスにも勝てるぐらいじゃねえと」
「む、無理だって! そもそもミノタウロスにだって、勝てる筈────っ!?」
ドゴッ! と腹に衝撃が走る。吹き飛ばされたベルは街壁の堀を転がりゲホゲホ咳き込む。
「な、何を…!」
「おおっと、こっから先は通さないにゃん」
「っ! どいて……」
「…………ねえねえ、逃げていい?」
突然の事で反応が遅れたアイズだが直ぐにベルを助けようとして、クロエが止める。ギロリと睨むとクロエが思わず後退った。
「別にいいぜぇ? そしたら、お前が陰でやってる護衛依頼を、どんな相手から依頼受けたかまでリューとミア母ちゃんに教えるがなあ」
「ぐぬ、ぬぬぬ………そ~言う訳で通さねえにゃん! 言っとくけど、お前よりかーちゃんの方が怖いにゃ!」
鈍い痛みが腹からズクズクと広がる。重い何かをずっと乗せられているような感覚。と、足音が聞こえる。
「ほら、立てよベル……」
「───っ!」
ゴッ! と顎を蹴られ無理やり体を起こされる。そのまま後ろに倒れそうになるも踏み留まり、放たれた蹴りを受け止める。交差した腕に衝撃が走り、靴底を削りながら何とか倒れずに踏みとどまる。
顔を上げ、映るのは笑みを浮かべながら迫るヴァハ。
「ひっ!!」
振るわれた拳をかわす。頬を掠り、引っ張られた皮膚がプツンと切れる。刺すような痛みが走り、再び迫る拳を見て慌ててヴァハから距離を取ろうとして、ベルの斜め前に現れたヴァハが片足を引っ掛けてくる。
「わっ! と…………」
「ハハァ!」
「っぐが、あああ!?」
慌てて体勢を戻そうとするも遅く、ガードも間に合わず、無数の殴打を受ける。殴打が止んだと思えばヴァハがギャリリと鉄板仕込みの靴裏から火花を散らし回転するのが見え、慌てて回し蹴りから逃れようと後ろに飛ぼうとして、しかし間に合わず蹴り飛ばされる。
空が見えた。それと、下には街並み。壁の外まで吹っ飛ばされたのだと気付き、あ、死んだと何処か他人事のような感想が出てくる。
「って、うわああああああ!!」
「はぁ」
「ああ………あぎゅ!?」
迫りくる地面。吹き荒れる風。それは死を実感させるには十分だった。が、何かに足を掴まれ落下が止まる。その際舌を噛んだ。
「怯え過ぎた馬鹿が」
「に、兄さん………」
赤い紐を街壁ののこぎり型狭間に絡め付け、それを伸ばし壁に垂直に立ったヴァハが呆れたように言う。街壁の向こうから、空が見える。後、心配そうに覗き込んでくるアイズも。
「あれは、やりすぎだった。ベル、大丈夫?」
アイズはベルの頭を撫でながらヴァハを睨む。ヴァハはどうでも良さそうに首をコキコキ鳴らす。
「やりすぎ? 俺は防げる攻撃しかしてねえぞ? ベルが喰らいまくったのは、ビビって避けようとするからだ」
ここ最近のベルは頑張って前に出ていた。それは、惚れた女に臆病と言われ、情けない姿を見せたくない故に。言ってしまえばアイズの前でしか出来ない行為だ。それでは意味がない。
「実際加減はしてやったんだ。てめえがビビらず、防御しようとすりゃ守れる程度にはな………」
「……もしかして、ベルを昔から、虐めてる?」
もしやベルが怯える『何か』とはヴァハなのではないかとアイズが何処か剣呑な気配を醸し出す。それに気づいたヴァハは、当然笑みを浮かべる。
「まっ、待ってください! 違うんです! 兄さんにいじめられた事なんて、一度も……! それに、僕は兄さんを怖いと思った事は一度しかないです!」
「…………一度は、あるんだ」
「一度はあったのか」
「…………あ」
しまった、というように口を押さえるベル。申し訳なさそうにヴァハを見つめる瞳には、恐怖はない。イジメられてないというのは、本当なのだろう。
「まずベル。お前臆病だ。村にいた頃よりさらに臆病だ。何なら巣に帰れひ弱兎って悪口を子供に言わせたいぐらい臆病になってやがる」
ここで言われるではなく言わせるがヴァハクオリティ。しかしベルは何も言えなくなってしまう。
「臆病なぶん避けるのは上手くなったが、それを一度でも崩されて痛みを思い出せば途端に体の動きがぎこちなくなる。たりめえだ、痛いかもってビビんのと痛かったからでビビんのは訳が違う」
「じゃ、じゃあどうすれば」
「笑え」
「…………え?」
「怖いなら寧ろ笑え。全然余裕だ、お前なんか怖くないと笑え。とにかく笑え」
「え、それ………単なる強がりじゃ」
「ああ。ガキの強がり。でもぷるぷる産まれたての小兎みてぇに震えるよりはマシだろ?」
「兎も、生まれたてはプルプルしてるんだ………」
アイズはまた一つ賢くなれたとでも言うように頷いた。
「でも、もうベルを虐めちゃ駄目」
「…………ま、良いさ」
文字通り好きな子の前でボコボコにしてやったんだ。ベルも男の子なら、少しはやる気を上げるだろう。後はそれに賭ける。
「と、そうだ………『神の鏡』の使用許可貰わねえと。ついでだし、爺の分も貰ってやるか」
確かパシリに現在の祖父の居場所は聞いていた。そこに『神の鏡』が出現するように現オラリオにおいてトップクラスの神格を持つ神のもとに向かう。
「こ、困ります! ここから先は、ギルド職員であろうと有事の際以外は」
「…………ん?」
休憩中、煙草を吹かしていたローズはそんな声に反応する。五感が優れた獣人は音に敏感なのだ。
「はぁ、面倒くせえなあ。ええっと、ああ………アムピュトリオンの関係者が来たっていやあ話が通じるはずだ」
「!?」
だからこそ、聞こえてきたその声に思わず目を見開く。休憩室から飛び出るとギルド職員に止められるヴァハの姿が。
「ちょっ!? あんた、何して………!」
「ローズ! 丁度いい、お前の担当だろ、なんとかしろ!」
先輩職員がこちらに向かって叫ぶ。何とかしろと言われても、そもそもどういう状況だ? とりあえず、普通に関係者以外立入禁止の廊下まで入ってきてるのは確かに問題だが。と、その時ドスドスと重い足音が聞こえてきた。ローズは思わずうげ、と言いたそうな顔をする。
「こ、これは何の騒ぎだ! おい、そこのお前ここが何処だか解っているのか! 所属ファミリアと名前、担当の職員を名乗れ!」
現れたのは他の職員に比べ遥かに品質の良いスーツを着込んだエルフ。しかし、そのスーツははち切れそうな程盛り上がり、一般的なエルフ像とはかけ離れたシルエットをしている。
「おぉ〜、言葉を話すオークたぁ珍しいなあ」
彼こそギルドの最高権力者であり、豪遊に溺れ醜く肥太りエルフから「ギルドの豚」と唾棄され、リヴェリアにさえ「一族の恥」扱いされるロイマン・マルディールである。
「所属は【ミアハ・ファミリア】………ヴァハ・クラネルだ。よろしくなぁ、豚人。担当受付嬢はそこのローズだ」
「うげ………」
「っ! お前か、一体こいつにどんな教育を───」
『ロイマン……』
と、その時廊下の奥から声が聞こえる。ロイマンも含め、誰もが動きを止めるほどの厳威が込められていた。
『名も知らぬ少年よ、アムピュトリオンと言ったか? ヘルメスの知り合いか?』
何故此処でヘルメスの名が出るのか、と困惑するギルド職員をよそにヴァハは話が早くて助かると笑う。
「俺はヘラクレス。そういや、お前にも意味が解るだろ?」
『─────っ。なるほど、通せ』
「なっ!? ウ、ウラノス!?」
『良いと言っている。お前達は下がれ』
呻くロイマンはしかし押し黙りヴァハを一睨みすると去っていく。他の職員達も困惑しながら持ち場に戻る。ただ一人、ローズはまだ動けないでいた。
「あんた、一体…………」
「それは秘密だ。にしても……お前、煙草始めたのか?」
「え、あ………」
ローズは自分が喫煙可能な休憩室から煙草を持ったまま飛び出したのに気付き慌てて火を消そうとするも、ここに灰皿は無い。ヴァハは煙草奪うとそれを咥える。
「獣人が吸うだけあって匂いが気にならねえな。これもこれで良い…………所で、祭壇って禁煙?」
「いや、どうだろ。そういう話は、聞かないけど」
「なら、こいつは貰ってくな」
ヴァハはそう言うと廊下の奥へと進んでいった。
天界の神々は悠久の時を生きる。何せ死なないのだから。いや、厳密には神を殺す方法はある。あるがどうせ1万年ほど経てば新しく生まれ変わる。記憶も、何もかも失いつつ確かにその神として。
ならば年齢に差などないのかと問われればそうでは無い。生まれ変わる以前の問題で、神とはその概念が存在した時にこそ生まれる。
その中でも特に古参の神がいる。原初の天界を統べていた強大なる神の王。その名を、天空神ウラノス。
殺し合いを行おうと最期のその時まで笑うのが神という異常者だとある神が実感するほどに暇つぶしという名の殺し合いが起きていた天界に於いても
「お前が、ゼウスの残した次代の英雄か」
「いんやぁ、俺は違う。それはベルに宿った。才能も、記憶も、何もかも受け継がず、それでも確かな英雄としての心意気が買われたのか、強い俺じゃなく弱いベルになった。そういう意味じゃ、俺はヘラクレスじゃねーんだよなあ。騙して悪いな」
ケラケラと笑うヴァハを見て、老神ウラノスは顔色一つ変えない。老神と言っても2
「改めて名乗らせてもらおうか。俺はヴァハ・クラネル。ゼウスの、まあ
「そうか。それで、如何なる用でここに来た」
「後でここにヘルメス送るから『神の鏡』の使用許可を出してくれ」
「……………何?」
その謎の要求にウラノスは訝しむ。『神の鏡』………下界の催しを覗くための神の目。何故それを?
そういえばとある美の神も『神の鏡』を使おうと色々と裏で手を回しているようだが、それと関係あるのだらうか?
「オラリオ内で開くわけじゃねえよ。ヘルメスにゃ、別に見せなくていいし。爺に見せたいんだ」
「何をだ」
「冒険者とミノタウロスの戦い」
そんなものに何の意味が、と思うウラノス。冒険者とミノタウロスの戦いなど、最早何の価値もない。ミノタウロスが強大な怪物だったのは世界初のランクアップが成される前だ。
「色々と、事情があんだよ。しっかしダンジョンはおもしれえなあ。まさかモンスターも人間と同じように転生してやがるとは」
「………………っ」
「…………あ?」
僅かに身を震わせるウラノス。それは悪手だ。ヴァハの前では、如何なるヒントも出してはならない。
「……………記憶の引き継ぎ………」
全てのモンスターに行われるわけではないだろう。それなら、モンスター達はもっと厄介な存在として冒険者を苦しめる。何が条件だ? 例えば、忘れたくない記憶。つまり、感情
「………そういや
「それを知り、どうする気だ」
「別に? ただ、ヘルメスにはよろしくなぁ」
ヴァハはそういうと残った煙草のフィルターを雷で焼き尽くし、背を向けて歩き出す。ウラノスは、その背中を黙って見送った。
感想お待ちしております
ヴァハ君のヒロイン
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フィルヴィス・シャリア
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アスフィ・アル・アンドロメダ
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アミッド・テアサナーレ
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エルフィ・コレット
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メイナちゃんやティオナを混ぜて全員