ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
ヘルメスをボコボコにしてから数日。今日もダンジョンに潜ろうかとバベルに向かって歩くヴァハは、不意に歩みを止める。
「終わったかぁ?」
「はい。オッタル様は、仕上がったと………故に、お迎えに上がりました」
ヴァハが呟いた言葉に返すのは、戦乙女のエンブレムをつけた少女。たしか、ヘルンとかいう名だったな、とヴァハは己の記憶を探る。
「楽しみだな。ああ、あの時の約束が今果たされる訳だ」
「? 約束、ですか?」
「てめえにゃ関係ねえよ。知るのは俺と爺と、ティオナ………まあ次点でメイナぐらいで良い」
そういう意味ではヘルメスも知ってるんだよなぁ。記憶を失うまで殴ろうかな? いや、爺が散々自慢話で聞かせたからだけど。
「…………クラネル?」
「あん?」
ヘルンと共に歩いていると聞き覚えのある声が聞こえる。振り返ると、フィルヴィスがディオニュソスと共に歩いていた。
「よお、あの事件以来だなあ」
「ああ。体は、もう大丈夫なのか?」
「おう、もう完治した………」
そう言って腕を見せるヴァハ。全身に広がっていた亀裂はもはや少しも残っていない。
「それは良かった。ところで、そちらの女性は…………っ!?」
と、ヘルンに視線を向けたフィルヴィスは【フレイヤ・ファミリア】のエンブレムを見つけ目を見開く。
「貴様等は、またクラネルの下に、今度は何をする気だ!?」
以前オッタルがヴァハを殺しかけたのを思い出し同じ所属のヘルンを警戒するフィルヴィスに、ヘルンは顔をしかめる。オッタルがヴァハに行ったことは知っている。その後なぜかヴァハが普通にオッタルに酒を奢らせる約束をしたこともオッタルが律儀に酒を用意したことも。
とはいえ目の前の少女からすれば自分はヴァハ・クラネルを襲撃したファミリアの一員。素直に通してはくれないだろう。残念ながらヘルンは
「ダンジョンデートだ、邪魔するな」
「何………?」
「へ?」
ヘルンが困っているとヴァハが助け舟を出す。なるほど、男女が共に出かけていてデートと聞かされれば早々邪魔できないだろう。片方が片方を殺しかけた奴と同じ組織所属じゃなければ!
というか嘘を見抜く神もいるのに、とディオニュソスを見るとディオニュソスは何やらにやりと笑う。
「どうやら私達は邪魔なようだ。行こうか、フィルヴィス」
「え、ディ……ディオニュソス様?」
嘘を見抜けるはずの神がヴァハの言葉を否定しなかった。己の主神の言葉故にフィルヴィスも困惑する。
「で、ですがクラネルが騙されているやも………この女は、以前クラネルを襲った【ファミリア】の………」
「では、フィルヴィス。お前が守ってやってはどうだ?」
「「…………はい?」」
フィルヴィス、ヘルン、仲良く首を傾げる。
「ヴァハ、デート中であるとは重々承知だが、フィルヴィスは君を心配しているみたいでね。どうか、連れて行ってやってはくれまいか?」
「危険な目に遭うかもしんねーのに?」
「その時は、君がフィルヴィスを守ってくれるだろう?」
「まあ、それは別に良いけどよぉ」
何考えてんだこの神、とヴァハはディオニュソスを見据える。正直言ってフィルヴィスを守る守らぬは良いとして、フィルヴィスが、潔白なエルフが弱者を守ろうとする可能性がある以上あまり連れて行きたくはないのだが。
「ディオニュソス様! しかし、私には貴方の護衛が……!」
「しかし、ヴァハも心配なのだろう? 彼はどうも、女にだらしない。騙されている可能性もある」
「そ、それは………」
「あの、我々は急いでいるのでここで………」
「おう、じゃあなフィルヴィス」
ヘルンが歩き出したのでヴァハもそれに続く。それを見てフィルヴィスはあ、と声を漏らす。
「〜〜っ! 申し訳ありません、ディオニュソス様!」
「ああ、行ってきなさい」
ヴァハ・クラネルには借りがある。そして、ヴァハが当たり前のように何度も死にかけているのを目にしているフィルヴィスは気が気ではなくヴァハの後を追いかける。
「ふふ。同族の少女以外にも、心が開けてきているようだな、フィルヴィス」
そんなフィルヴィスを、たいへん愛らしく思う。同時に祈る。何度も死にかけているらしいヴァハが、今度こそ死にかけないように。
フィルヴィスの心は、弱い。本当は寂しがり屋で、だからこそ本心から受け入れてくれる者達に心を開き、支えにしてしまう。その支えを、失ってしまうと思うと………
「嗚呼、フィルヴィス………そしたらお前はきっと、泣いてしまうのだろうな」
だからどうか、死なないでくれヴァハ・クラネルよ。
葡萄酒の匂いを漂わせるディオニュソスは、心の底からそう願った。
「結局ついてくんのなあ」
「お前は警戒心がなさすぎる!」
ダンジョンの中をヘルンの先導のもと駆け抜けるヴァハとフィルヴィス。フィルヴィスとしては何度も死にかけるヴァハを怪しい輩と一緒にはしておけなかった。というか、思い返せばヴァハなら騙される以前に自分から危険に飛び込むだろうし。
「………フィルヴィス様は、ヴァハ様の恋人なのですか?」
「なっ!?ち、違う!」
「そうですか。それは良かった……」
何せヴァハの愛はさる美神に捧げられるべきものなのだ。とはいえそれを知らぬフィルヴィスから見ればまさかデートというのは本当に? という気分になる。と、その時、複数の気配を前方から感じる。
「っ! 【フレイヤ・ファミリア】!?」
複数のアマゾネス達だ。ヘルンを見て、驚愕ししかしすぐに敵意をにじませ、先頭のヘルン目掛けて突っ込んでくる。動きからして、Lv.3……いや、4か? 何で光ってんだ?
「───っ!?」
突然の奇襲に固まるヘルン。しかし放たれた蹴りは、空を切る。ヴァハがヘルンを抱き抱えかわしたからだ。
「【血に狂え】」
彼女達が何者かなどヴァハは興味がない。敵対してきた以上、殺しても文句は言われないことは確かだ。体内の血を操り、血液の流れを速め、身体機能を大幅に強化する。
「ちぃ!」
短髪のアマゾネス。ランクはLv.3程度だろう。ヴァハはそのアマゾネスの拳を受け止め別のアマゾネスに向かって叩きつける。が、耐久が高いのか呻きながらもまだまだ戦えそうだ。さすがアマゾネス。何度殴っても喜ぶ奴等が多かっただけはある。
「もう少し遊んでやりてえが───」
バチリ、とヴァハの脚から紫電が迸る。
「───急いでんだ。邪魔すんな」
そして、ヴァハの姿が消えた。困惑するアマゾネス達は、次の瞬間鮮血を吹き出す。斬られていた。Lv.4の光っているアマゾネスはギリギリ回避したがそれでも他のアマゾネスより軽症なだけ。
「っ! てめぇ!」
「なんだよ、やるか?」
睨んでくるアマゾネスにヴァハがニィ、と笑みを浮かべる。何だったら四肢を切り落として血の匂いに誘われたモンスターの餌にしてやりたいとヴァハの中の残虐性が顔を覗かせる。と───
「素敵、素敵ね!」
とても明るい声が聞こえてきた。ヴァハが目を見開き血の大剣を生み出すと双剣とぶつかり合う。腹を切り裂かれた女が、熱に浮かされたような顔でかヴァハを見つめる。
「貴方、すごく速いのね? サミラの攻撃も止めてたし、力も強いのかしら?」
「────!」
この女、力が強い。ヴァハの動きに反応できなかったくせに、パワーに物を言わせた戦闘スタイルか?
「【
「何、彼奴が? まずい、クラネル! その女から離れろ!」
「あ?」
「あん!」
取り敢えず腹の切り口に爪先をねじ込みながら蹴り飛ばすと恍惚とした声が帰ってくる。
「その女は自分を倒した相手に惚れて付きまとい、付きまとわれた男は行方不明になるんだ!」
「……………へえ」
しまった、とフィルヴィスは後悔した。ヴァハが、興味を持った。
「とはいえ俺は忙しい。てめぇ等も怪我人の治療してぇだろ? 今日はここで手打ちにしようぜ」
「アタシ等を追ってきたんじゃないのかい?」
「んな暇あるかボケ。勝手に勘違いして襲ってきて返り討ちに遭う雑魚なんざに興味ねえんだよ」
「…………退くよ、お前等」
代表らしきアマゾネスの言葉に比較的傷が浅いアマゾネスが傷の深いアマゾネスに肩を貸し歩き出す。ユノは、フラフラと起き上がり血を吐きながらニッコリと微笑む。
「クラネル、だったかしら? 私はユノ………今度、ぜひ指名してね」
「おう、またなあ」
手を振り別れる2人。フィルヴィスは絶対に関わるなと言いたかったが、絶対に関わろうとする事はこの数週間の付き合いで想像に難くなかった。
そして再びヘルンの案内のもとダンジョンの中を進むと、9階層であり得ざる光景を見つける。
中層にいるはずのミノタウロスがいたのだ。しかも、白髪の、明らかに駆け出しの冒険者が襲われている。
すぐに助けに行こうとするフィルヴィスだったが、その前に金色の影がミノタウロスと少年の前に割り込む。アイズだ。
オラリオで有名な彼女の登場にフィルヴィスは安堵する。彼女ならミノタウロスに遅れを取るまい。そう、彼女なら。
「……ないんだっ」
少年は、アイズの左手を掴み己の背後へと押しやる。
「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかないんだっ!!」
ヘルンは主が少年に興味を持った理由の一端を知る。
フィルヴィスは、その少年の行為が理解できず固まる。
ヴァハは、楽しそうに笑っていた。
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ヴァハ君のヒロイン
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フィルヴィス・シャリア
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アスフィ・アル・アンドロメダ
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アミッド・テアサナーレ
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エルフィ・コレット
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メイナちゃんやティオナを混ぜて全員