ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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英雄譚の幕開け

 始まりは、兄だった。次に祖父。

 今も昔も変わらぬ祖父と兄は、ゴブリンが出ようとレッドアルマジロが出ようとリザードマンが出ようとたった二人でボコボコにして、その日は鍋になった。

 祖父が死んで、兄と共にオラリオに来て、新たな憧れが生まれた。いや、それはもはや恋だった。

 身の程知らずにも程がある恋。それすら自覚せずに、同じ街に住んでいるのだから何時か出会い、仲良くなり、そして──

 そんな夢に心躍らせ、それだけで幸せになっていた。

 

──雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ

 

 そうとも。その通りだった。言いかえせるものか。それでも一瞬、助けを求め兄を見てしまい、こちらに視線を合わせない兄が、その言葉に何を思っているのか理解して飛び出した。

 アイズ・ヴァレンシュタインに認められていないのは当たり前だ。彼女からすれば知り合いですらない。兄にも認められていなかった。悔しかった。

 それが当然である事を誰よりも理解していたから。

 モンスターや獣を退治して戻ってくる兄や祖父に話を強請り、瞳を輝かせ、自分は何をしてきた。

 してこなかった。

 何時かとか、夢見るとか、何かを期待して待っているだけの自分が、許せない、

 何もかもすべきだったのに、何もかもしなければあの人達と並ぶことなど出来ないのに。

 だから、出来ることはやった。ダンジョンに潜り経験を積み、エイナからモンスターの倒し方を学び、体を鍛え、リリの手助けで金を稼ぎナァーザ達からポーションを買い、更に潜り。

 だけど自分が憧れた人達は、やっぱり遠かった。兄は世界記録(ワールドレコード)を塗り替えた。アイズはLv.6と、オラリオの最高クラスのランクへと踏み込んだ。

 追いつきたい人達は、ほんの少しでも近づけてきたと思った人達は、あっさりと遠のく。

 『同じ冒険者』なんかじゃない。アイズに言われた言葉も、兄から振るわれた暴力も、事実だ。未だ影に怯え、下に向かえない自分は冒険なんかしていない。

 今もこうして、ミノタウロスを前に動けなくなり、あの時のように憧れに助けられる。

 何も変わらず、弱いまま。

 

「……大丈夫? ……頑張ったね」

 

 頑張った? 誰が? 僕が?

 頑張ったか? 本当に? ああなるほど、リリを逃がすために頑張ったかもしれない。労りの言葉に、心臓が早鐘を打つ。

 

「今、助けるから」

 

 助け、られる? またこの人に、助けられる?

 

「ッッッっ!!」

 

 立て

 立て!

 立てよ!

 格好悪い自分はもう嫌なんだ! 強くなるって決めたんだ!

 憧れた人がいるんだ。ここで、今ここで立ち上がらなくちゃ、高みに手を伸ばさなきゃ、いつ届くって言うんだよ!?

 

 

 

 

 背後から、地面を踏みしめる音がなった。アイズのすぐ後にいるのは、たった一人。その人物は、だんっ、と。地面を蹴り飛ばす音を鳴らした。

 振り返ったアイズの金色の双眸に、立ち上がった少年が映る。キズだらけで、しかしその瞳を燃やし。

 

「………ないんだっ」

 

 アイズの左手を握りしめ、背後へと押しやる。少年は一歩、前に出る。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかないんだっ!!」

 

 どうして、立ち上がれる?

 アイズは知っている。少年は『器』ではない事を。

 平和な場所で、家族と過ごすべきただの少年である事を。

 勝てない相手に武器を取る。それはまるでかつての、今も尚変わらぬ自分のよう。黒い炎に身を焦がす、復讐を誓ったアイズ・ヴァレンシュタイン(復讐姫)のよう。

 それなのに、少年の目は何処までも真っ直ぐで、真っ白で、アイズは固まる。その目を、その綺麗な目を失わせたくなくて、アイズは慌てで少年の背に手を伸ばし、しかし固まる。

 

──そこにいなさい、アイズ

 

 漆黒の渦に突き進んだ父親の背中と、紅き猛牛に歩みだす少年の背中が重なる。今度こそ止めたかったはずなのに、今度こそ隣に立ちたかった筈なのに、アイズはその場に立ち尽くす。

 一人の少年が歩み出した『英雄』への一歩を目にして、アイズの体は動かなくなる。

 

 

 ああ、カッコつけといて、何だが、怖いなぁ。凄く怖い。自分よりずっとデカい相手。己にトラウマを刻んだ相手。そういえば、兄が何か言っていたな………

 

──怖いなら寧ろ笑え。全然余裕だ、お前なんか怖くないと笑え。とにかく笑え

 

「………は、はは…………ははははは」

「ヴ、ォ?」

「あはははははははは!!」

 

 突然笑い出したベルにミノタウロスは困惑するように呻く。アイズに追いついたティオナ達も。ベートは気が触れたかぁ? と弱者を何時ものように嘲笑する。

 

「全っ然、怖くない! お前なんか、少しも怖くないぞ!」

 

 誰がどう見ても、単なる強がり。失笑を買うべき愚行。だが……誰も笑えなかった。『本当の冒険』を行おうとする者を笑える、『冒険をする気もない』愚か者は、ここには一人も居なかった。

 

「……………ヴ、ァ…………」

 

 ()()ミノタウロスは生まれて間もない。最初の記憶は、己に向かってきた人間。恐怖に顔を歪めながらやたらめったら剣を振り回すだけの取るに足らない、敵でもない獲物を殺し、次に出逢ったのはまた敵ではなかった。己が、彼の敵たりえなかった。

 彼に剣を渡され、彼に向かって振るい続けた。時折浅く反撃され、少しずつ、少しずつ剣の使い方を学んだ。

 だから()()()()()()()()()()。思い出す程の時間がないミノタウロスにとって、あり得ざる過去の記憶。

 

──愉快に、滑稽に笑おう! そして腹を抱えて笑われよう! さぁ、ミノタウロス、君も笑え!

 

 此処ではない何処か。人工的に作られた地下迷宮。

 恐れ逃げ惑う人間達。無意味に散り、己の糧となる同胞達ばかりを相手していた中、初めて現れた『敵』。己の『好敵手』!

 目の前の少年とよく似た白い髪に赤い瞳の少年。

 口角が、吊り上がる。それは紛れもない笑み。モンスターが笑みを浮かべた。だが、それは、きっと嘲笑ではない。

 

「ヴゥオオオオオオオオオッ!!」

 

 放たれる咆哮。大気を揺らし、砂塵を巻き上げる怪物の恐嚇(うた)。Lv.6すらやってきたというのに、誰もが固まる。恐怖、ではない。もっと、別の何か。

 

「…………おい、ベル」

「…………兄さん?」

 

 そんなLv.6すら止める咆哮をものともせず歩き出そうとしたベルを、ヴァハが呼び止める。

 

「負けるなよ」

「…………うん!」

 

 怪物と少年の戦い。そう聞けば冒険譚のようで。

 ミノタウロスとLv.1。そう聞けば愚かな身の程知らずの喜劇のようで。

 だけど、確かな英雄譚が、かつて誰もが夢見た戦いが、始まろうとしていた。




オリジナル小説も書いてみました。そちらのよろしければお願いします

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ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員
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