ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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少年の英雄譚

 ぶつかり合うミノタウロスとベル。ミノタウロスは遥かなる強者から学んだ剣を振るい、ベルは憧れの強者から学んだ駆け引きを行う。

 アイズは、その光景を黙って見つめる。と──

 

「どけアイズ! 俺がやる!」

 

 なんの心変わりか弱者を蔑視するベートがミノタウロスを倒そうと動く。その声にヴァハが反応し、意識が朦朧としている小人族(パルゥム)の少女に目を向ける。

 彼女の懇願を、弱者の願いを踏み付けるのは強者の特権ではあるがいたぶる奴になる気はないのだろう。とはいえ邪魔されては困るとヴァハが動こうとして、ベートの動きが止まる。その視線は、ミノタウロスと少年の攻防に釘付けになる。

 

「僕の記憶が正しければ、一ヶ月前あの少年は()()()()()()()()に見えたんじゃなかったのかい?」

 

 その通りだ。戦いの何たるかを一切知らない、逃げ惑うしかできていなかった愚かな雑魚。後にその兄と思いがけぬ共闘をする事になりこのアホは弟に何を教えてたんだと内心毒づいたものだ。

 なのに、今目の前で起きてる光景は、何だ?

 Lv.2でも苦戦する、場合によってはLv.3ですらやられる事があるミノタウロス。それも、冒険者の武器を扱い、しかも十全に使いこなす限りなくLv.3に匹敵するモンスター相手に、駆け出しの筈の少年が戦っている。

 誰一人として、動けなくなる。瞬きすら惜しいと思え、まるで時が止まったかのように立ち尽くす。

 この中の、誰か一人でも加勢すれば終わる戦いを、しかし決して邪魔させてはならぬと本能が訴えかける。

 

「………………」

 

 フィンは冷静に分析する。大凡Lv.1とは思えぬ身体能力。やもすれば身体系のステイタスが軒並みAかSという、1ヶ月ではありえぬ値にまで成長したのかと思うほど。

 それでも、それだけではミノタウロスに勝てるはずがない。ミノタウロスはLv.2なのだから。

 それでも少年が互角の勝負を繰り広げられるのは………

 

「勇気………」

 

 臆せば死ぬ極限状態の中、己の全てを全霊でぶつける事のできる勇気。それが速度では勝る少年の判断速度をさらに上げている。

 知らず知らずに拳を握る。【勇者(ブレイバー)】であるフィン・ディムナが、他者の勇気に感服させられている。

 

「………いいね。彼は…………すごく良い」

「っ……!?」

 

 笑みを浮かべるフィンの側で、ベートは己の毛が逆立ち、体が疼くのを感じる。

 魅入っていた、この光景に。こんな、程度の低いはずの戦いに。

 

(クソが……っ! 何なんだ、彼奴は!)

 

 その悪態は、果たして本当に少年のものに向けられたのか、あるいは少年を認めてしまう………

 

「………アルゴノゥト」

 

 ティオナはヴァハから聞かされた、もう一つの道化であり英雄の少年の物語を思い出す。

 誰かを笑顔にするためにあえて騙されて、涙を封じ、無力な己に絶望しながらも、英雄を鼓舞できれば良いと言いつつも、誰よりも英雄に憧れていた少年の物語を。

 

「…………バーチェ」

 

 ティオナが昔から知っていた方のアルゴノゥトを語り聞かせてくれた女の名を思わず口にする。ティオナが知る中で、とっても強くて、だけど何時も何かに怯えていた彼女に、こんな光景を見せたい。こんな光景を見られる喜びを、分かち合いたい。

 

「……………………」

 

 誰もがその光景に見惚れ、忘れかけていた白い何かを胸の奥底で灯す中、一人だけ、その胸にどす黒い闇を落とす者がいた。

 己の全てを賭して、誰にも汚せない誇りを胸に、怪物に挑む。

 なんと高尚な姿だろうか。

 なんと眩い光景だろうか。

 なんと誇り高い戦いだろうか。

 自分だって、ああなってみたかった。己の死を前に、己を貫き通せる、そんな者達が仲間だったのなら、自分は()()()()()()()()()()()()()!! いっそ理不尽な迄に嫉妬が溢れ、憎悪へと変ずる。あの荒々しくも神々しい戦い───否、決闘を汚してやりたい。

 ゆっくりと持ち上がる腕。しかしその手首を別の手が抑える。

 その手の持ち主が今まさに決闘している少年の兄であることに気付き身が強張る。

 

「なれやしねーよ…………」

「………え」

「どれだけ憧れても、望んでも、てめぇが()()()()()になれるかよ。俺とおなじさぁ、光り輝く英雄譚に、俺もお前も立てやしねえ………今は黙ってみてようぜ?」

「………………」

 

 お前は彼の兄だろう。あんな戦いができる男を、オラリオに来るまで支えていた家族の一人だろう。

 そんなお前が、なぜなれないなどと嘯ける。そう叫びたいが、声は出なかった。

 手首に添えられた手には力なんて入ってなく、指も絡まっていない。簡単に振り解ける。もしも彼が同胞のあの少女であったなら、己などに触れさせてしまった事に後悔し、その手を振り払った事だろう。汚してしまうから。

 だが、その手は別段振り払う気にもなれなかった。手が繋がったまま、再びその景色へと視線を向ける。己には眩しすぎて、目も、心も焼いてしまいそうなその光景を、その男と共に見つめる。

 

 

 

 何だろう。この感覚は。

 凄く、怖い。勝てなきゃ、殺される。なのに、何だか、凄く………楽しい!

 ずっと待ちわびていた何かを、ようやく行えたようなそんな高揚感が胸を襲う。同時に思う。倒したいではなく、勝ちたいと!

 

 

 怪物は、それを理解しない。()()()の子である人類を滅ぼすように作られた怪物がおおよそ持ちえぬ物を、理解出来ない。

 ただ1つ解ることがあるとすれば、決着を!

 

 

 トラウマの筈なのに、怖いはずなのに、もっと長く、この戦いを続けたい! だけど、終わらせたい。たった一つの形で……

 

 

 今まさに己の命を奪おうとしている相手との戦いを、少しでも長引かせたいのに、全霊を以て叩き潰したい! 叩き潰す。それが意味する事は、殺すという事ではない。

 

 

 一人と一匹、2つの戦士が思うことは、たった一つ。

 

「うおおおおおおおお!!」

「グオオオオオオオオ!!」

 

 コイツに、勝ちたい!!

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 紅の雷。否、雷の形をした炎がミノタウロスに当たり爆発する。

 

「速い! 超短文詠唱!?」

「ていうか詠唱してた、今!?」

 

 してない。する必要がない。これはそういう魔法だ。本来ならあり得ない無詠唱の速攻魔法。詠唱がない故に超短文詠唱にすら劣る攻撃魔法としては最弱の筈の魔法。

 ミノタウロスには、通じない。

 硬い筋肉の鎧に覆われたミノタウロスにはベルの持つナイフや魔法では威力が足りたない。ベルがもつ漆黒のナイフ、《ヘスティア・ナイフ》ならダメージを与えられるが、ミノタウロスはその瞬間防御をかなかなぐり捨てて襲い掛かるだろう。リーチの短いナイフでは深く差し込むために隙を生む。肉を切られても、骨には達さない。

 

「ヴァアアアアア!!」

「───っ!!」

 

 バキィンと音を立てベルが持つ短剣がへし折られる。ベルには、ミノタウロスに通じる武器がない。

 いや───

 

(()()なら、ここにあるだろう!!)

 

 砕けた短剣を投げつける。銀の矢となって己の目に迫る剣だった残骸を小賢しいとばかりに片角で弾き飛ばすミノタウロスに、ベルは()()迫っていた。

 

「───!?」

 

 ミノタウロスは神のナイフを防ぐべく防御の構えを取る。しかし、それは悪手。刺突を放つために捻っていた体に隠れていたのは折れた短剣。ナイフは、左手。

 それはミノタウロスの手首に突き刺さる。

 

「ヴオオオオオ!?」

「ああああああ!!」

 

 突き刺したナイフを捻る。余りの激痛にミノタウロスが腕を振り上げ、しかし握力が消えてしまい大剣は宙を舞い、離れた場所に突き刺さる。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 咄嗟に剣に視線を送ったミノタウロスに炎雷が襲いかかる。大したダメージにはならないものの、視界が煙で塞がれ、煙が晴れると大剣を持ち咆哮を上げるベルの姿が見えた。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 まともな一撃が入る。それでも満足せずに、再び大剣を振るう。何度も何度も。下手くそだが、休まることなく斬撃の渦がミノタウロスに傷を与えていく。

 

「ヴオオオオオオオオ!!」

 

 しかしミノタウロスも負けじと拳を振るう。ただでさえ絶ちにくい筋肉鎧を力強く纒め鋼鉄の如き強度を得た拳で大剣を迎え打つ。

 

「んのおおおおおっ!!」

 

 加速していく一撃一撃。ベルが僅かに勝り脇腹からミノタウロスの腹を切る。しかし強靭な筋肉に止められる。が、力任せに押し切りミノタウロスを吹き飛ばす。

 

「ブフ────ッ! フゥ、ブフウウウウウ!!」

 

 ミノタウロスが拳を地面に叩きつけた。

 ()()()を踏みしめ、角はベルに向けられる。まるで猛牛の突撃体勢のように臀部が持ち上がる。まるで、ではない。事実、突撃するのだ。進行上にある全てを粉砕して突き進むミノタウロスの奥の手。

 前へ、前へと進むだけの技。避けようと思えば、あるいはベルのステイタスなら可能だろう。だが──

 

「あああああああああ!!」

「ヴアアアアアアアアアア!!」

 

 ベルもまた前に飛び出す。

 

「若い!」

「馬鹿が!」

 

 リヴェリアが真っ向勝負を挑んだベルを見て目を細める。青い矜持にベートが吐き捨てる。

 ぶつかり合う、大剣と角。果たして勝ったのは───ミノタウロスの角だ。

 摩耗した大剣は砕け散り結果としてベルは衝撃により吹き飛ばされる事はなくミノタウロスと互いに脇をすり抜ける。ミノタウロスが己の勝利を確信し、勝利を求め獰猛に、豪快に笑う。

 

(本、命は───!)

 

 ベルに向かって最後の拳を振り下ろそうとする。勝利を確信しつつも油断はしない。出来る相手ではない!

 

「──【ファイアボルト】ォ!!」

「ブヌァ!!」

 

(──こっちだ!)

 

 ヘスティア・ナイフがミノタウロスに突き刺さり、ベルが砲声した。体内で何かが爆発したかのように、膨らむ。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 傷口から火炎の息吹が溢れ出し、口から血と共に火の粉を吐き出すミノタウロス、

 

「ヴァハッ! ガハッ! …………ンブヌアアアアアア!!!」

 

 それでも、ベルに攻撃すべく、腕を振り上げた。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 再び体内が火炎で焼かれる。それでもミノタウロスは、止まらない。ベルもまた、攻撃の気配を感じつつも決して離れない。

 その光景は、冒険者なら誰もが一度は夢見た戦い(すがた)

 忘れて

 失って

 それでも胸の奥にくすぶり続ける───

 

「ファイアボルトォォォォォォォッ!!」

 

 真っ白な情熱(ほのお)

 ミノタウロスの体がまるで風船のように膨らみ、あと一秒で振り下ろされる一撃は間に合わず、ミノタウロスの体が爆散。

 

 体内に押し込められていた炎が噴火のように吹き出しダンジョンの天井を焼く。血と肉の雨が焼け焦げながら落ちてくる。

 巨大な魔石と、角が地面に落ちた。

 

 

 

「勝ち、やがった………おい小人族(パルゥム)、あのガキは一体!?」

「ベル様………ベル様ぁ!」

 

 ベートは己がミノタウロスを一人で倒せるようになったのは何時だったかと、どれだけ時間を有したかと思い出しかけ苛立ちと羞恥から叫び声を上げリリへと声をかければ、リリは覚束ない足取りでベルへと駆け寄る。

 

「リヴェリアッ、彼奴の【ステイタス】を教えろ!」

 

 先の先頭でボロボロになったベルの服は、背中を顕にしていて。それを見てベートが叫ぶとリヴェリアが顔をしかめる。

 

「………私に盗み見をしろというのか、お前は」

「あんな堂々と晒しておいて盗み見になるかよ! あれをこのまま放置しておけば、お前が見なくたって他の奴らが目にするだろうぜ!」

 

 その暴論に呆れながらもリヴェリアもまた興味があるのかベルの背中へと視線を走らせる。

 

「おい、まだかよっ」

「待て、もうすぐ読み終わ──」

 

 せめてもの謝意としてあくまでも覗いている部分だけ見ていた翡翠色の瞳が見開かれ、言葉を区切る。

 

「………くっ、ふふ、はははっ」

「何なんだよ、オイっ!? ったくっ、アイズ、お前もちっとは【神聖文字(ヒエログリフ)】が読めんだろ! 何かわからないのかよ!」

 

 心底おかしそうに肩を震わせるリヴェリアに悪態をつき今度はアイズに向かって叫ぶ。アイズは、少年以外何も見えて居ないかのように視線をその背に注いだいた。

 

「………S」

「……はっ?」

「全アビリティ、オールS」

「「「オールS!?」」」

 

 驚愕するベート達に、リヴェリアはこれは隠したほうが良さそうだと一つのアビリティを見つめる。

 999(限界値)を突破したアビリティ。興味が尽きない。

 

「名前は?」

 

 と、フィンが尋ねる。

 

「彼の名前は?」

「し、知らねぇ………聞いていない………」

「リヴェリア。何時までも笑っていないでくれ」

「ふふっ………ああ、すまない。それで、何だっか?」

「彼の【ステイタス】を読み取ってくれ。彼の真名を、だ」

「……………ベル」

 

 リヴェリアがステイタスに刻まれる決して偽れざる真名を読み取ろうとした時、アイズが呟く。

 

「ベル・クラネル……」

 

 その名前を、アイズはもう、忘れない。

 だけど…………まだ、気になる事がある。アイズは気絶しているベルの下へと近づいていく。

 限界を超えた【ステイタス】。あり得ない速度の成長。その秘密は、やはりスキルだろうか?

 泥と血にまみれた布の奥を知ろうと、手を伸ばすアイズ。だが…………

 

「それ以上は道理に合わねえなあ」

 

 横から現れたヴァハがアイズの手首を掴む。突然のヴァハの出現に、誰もが驚く。

 

「………ごめん、なさい」

 

 申し訳なさそうに言うアイズにヴァハは興味なさそうに目を逸らす。

 

「………お前も、見ていたのか?」

 

 と、リヴェリアが尋ねる。ヴァハはああ、と肯定した。

 

「………助けようと、しなかったのか?」

「助けるべきだったと思うか?」

「……………失言だ。忘れてくれ」

 

 そうリヴェリアが言うとヴァハはベルを抱えようとして、アイズが待って、と声をかける。

 

「………私に、運ばせて」

「………………まあ、その方がベルも喜ぶか」

 

 ヴァハはそう言うと代わりにリリを抱え上げる。

 

「ベルの戦いを邪魔しなかった礼に、一つ教えてやるよ。59階層にいんのは、恐らく尖兵だ。そいつに遅れを取ってるようじゃ、オラリオを守るなんて夢のまた夢…………俺の弟は限界を超えたぞ。お前等も、都市最強派閥を自称すんならやってみろ」

 

 

 ギルドへのイレギュラーの報告もある為に、リヴェリアも付いていき地上に戻る。

 再びダンジョンへと潜ろうとするリヴェリアとアイズだったが、不意にヴァハがアイズを呼び止めた。

 

「………アイズ、お前はそのまま進み続けろ。そうすりゃベルも強くなれる。お前は、何時だって彼奴の道標(アリアドネ)だからなあ」




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ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
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