ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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揺るがぬ姿勢

「よお、今月の金持ってきたぜえ」

「………できません」

「なぁ、そこをなんとか頼むよ。最近、金欠でさあ」

 

 【ディアンケヒト・ファミリア】のホームに行くと、アミッドが客らしき男と話していた。どうやら男が値引き交渉をしようとしているらしい。

 

「私どもの薬品は、命を繋ぐものと自負しております。その理由では、値引きなど以ての他です」

 

 そりゃそうだ。命は金に換えられないなんて言葉は、よく聞く。まあ金で買える命は割とあるが。

 それでも、男はなかなか食い下る。僅かに声色に苛立ちが交じる。

 

「なあ、何時もここで買ってんだろ? たまにはマケてくれたって、罰は当たんねえよなあ?」

「お客様がいらしたのは、今回で3度目だと記憶しています。以前の2回もお買い上げはございませんでしたが」

 

 彼奴、客の顔全部記憶してんの? と尋ねるようにアミッドを指差しながら他の店員に視線を送るとコクリと頷かれた。

 

「はあ!?」

「あちらの高級回復薬(ハイ・ポーション)万能薬(エリクサー)を手に取り、値札を見て、置いて帰られたかと」

 

 まあ、高いものなあ。普通の冒険者じゃ手に入らない代物だ。何なら小規模派閥が念を入れて一つ買い、リーダーに使用の判断を任せるだろう。ロキやフレイヤのところのような大手が異常なのだ。

 

「くっ、この………!?」

 

 男は図星を突かれたようで、男は明らかに狼狽える。

 さあて、どうなるかなぁ、とワクワク見ているとふいに肩を叩かれる。振り返るとエルフの女性団員がコソコソ話しかけてきた。

 

「アミッド様が困ってるわ。今がいいところを見せるチャンスよ」

「…………はあ?」

「アミッド様と仲良いでしょ? 知ってるのよ、アミッド様が、よく身だしなみを気にしてるし」

 

 それはミアハが来るからなんだが。

 

「た、ただの記憶違いだろーが!? 客の顔を全部覚えてるわけ……!」

「縁あって薬舗においで頂いたからには、顔に限らず全ての方々の症状や必要な薬を覚えておくことが必須だと思っています」

「うぐっ……!」

 

 男の顔が、益々怒りに満ちていく。そして、商品棚に向かって腕を振るう。当然薬品が床に落ちてガラスが砕ける音が響く。

 

「あ〜あ、あんたがあまりに強情だからせっかくの商品が壊れちまったなあ?」

「………………」

「お、何だその目? やるってのか?」

 

 アミッドがLv.2とはいえ治癒師(ヒーラー)である事を知ってか、男は睨んでくるアミッドに対してニヤニヤと笑う。

 

「その薬一本で、一つの命が繋げたかもしれません。その自覚はお有りで?」

「ああ!? 知るかんなことぁ!」

「脅しですか? 残念ながらそんなものに屈しません」

「いいからテメェは、薬を寄越しゃあいいんだ! 迷惑料ってことで収めてやっからよ!」

「迷惑料かぁ、いいこと言うなあ。なら俺もこれで手を打ってやるぜえ」

「ああ!? んだてめ………っ!? そ、それは俺の財布!!」

「…………ヴァハ?」

 

 突然声をかけてきたヴァハに男が叫ぶがヴァハが自分の財布を持っているのを見て慌てて腰に手を当てる。

 

「テメェのせいで買い物ができなあい。けど迷惑料を払ったからなあ、もう少し続けていいぜえ? あ、アミッド。この金で買えるやっすーいポーションくれ」

「………そのお金を、その方に返しなさい」

「いいのかあ? 床に散らばった商品分ぐらいは取り返さねえとぉ、頑張って調合した薬師達に申しわけねえだろ?」

「……………………そうですね」

 

 あまり納得がいった顔ではないが、それでも薬師達の腕に金を払う価値があると言われればアミッドは黙り込む。当然、無視された男は額に青筋を浮かべる。

 

「テメェ等、調子乗ってんじゃねえ!」

「────っ!?」

 

 ここで財布を盗ったヴァハではなく、女のアミッドに殴りかかる辺りこの男の器が知れる。

 手首を掴まれ、拳が止まる。少しも動かせない。

 

「く、くそ! こんな事して、【ガネーシャ・ファミリア】に通報してやる!」

「お前が薬品落とした事も罪だがなあ。その慰謝料としてとったつえば、どっちに味方するかわかるよなあ? 俺は解るつもりだが、お前はどうだあ? 貢献度の高いファミリアと、Lv.2になりたての俺にも勝てねえ、迷惑かけるだけのオラリオに必要ない冒険者、どっちの味方になるかなあ?」

「─────っ!! お、覚えてやがれ!」

「やだねぇ」

 

 ヴァハが握る力を弱くするとバッ、と振り払い三下台詞を吐き捨てながら去っていく男にヴァハはべぇ、と舌を突き出す。

 夜道で襲うような馬鹿だったら、遊べるなぁ、と暫く夜が楽しみになった。

 

「申し訳ありません。助かりました………あのままでは、床に散った薬を無価値にしたまま追い返すところでした。まあ、元が取れたわけではありませんが」

 

 と、財布の中身を見て呟くアミッド。片付けをしますから、後でと床にしゃがみ込み大きめの破片を拾っていく。

 

「あ、アミッド様! 片付けならば自分達が……!」

「そうですね、では箒とチリトリを持ってきてください。お客様に怪我をさせてはいけないので、なるべく早めに」

 

 団員が慌てて駆け寄ってくるのでそちらに頼み、改めてヴァハに向き直る。

 

「お待たせしました。今月のお支払いでしたね」

「おー。あ、後ポーション頼む。ダンチョにゃ悪いが、こっちのが効果高いからなあ」

「ポーション、貴方が、ですか?」

 

 桁外れの再生能力、最早修復能力と言っても過言ではないスキルを持つヴァハには正直必要ないと思うのだが………。

 

「弟が昨日ミノタウロスと戦ってなあ。勝てたご褒美に買ってやろうかなあ、と」

「そうですか…………え? ミノタウロス? 勝った? あの、貴方の弟って、貴方と共にオラリオに来たのですよね? 1ヶ月半前に…………ああ、いや、そういえば貴方の弟でしたね」

 

 そういえば目の前の男は3週間でランクアップしたのだった。それの弟、何もおかしな所は……

 

「いえ、やはりおかしいでしょう」

「だよなぁ。俺と違って、強い奴の血をひいてるわけじゃねーのに」

「………? ご兄弟なのでは?」

「父親が違う。俺もベルも母親似だから、顔はそっくりだがなあ」

「……すいません」

「気にすんな。だいたい全部ヘルメスが悪い……」

「…………ですが、おめでとうございます」

「あん?」

「弟さんの、ランクアップです……」

 

 ランクアップは、どれだけ時間をかけようとも褒められるべき偉業だ。身内がなしたと言うなら、称賛を贈ろう。

 それに対しヴァハはあー、と返す。

 

「ベルも喜ぶと思うぜ。彼奴、可愛い女にはすぐ顔を赤くするからなあ」

「それは、私が可愛いということでしょうか?」

 

 と、天然な返しをするアミッドに周りの団員達がヴァハを見る。

 

「ああ、可愛いだろ?」

 

 良く言った! とばかりに盛り上がる団員達。ヴァハの躊躇いない称賛に、流石のアミッドも少し赤くなる。

 

「し、しかしランクアップと言うことは、近日行われる神会(デナトゥス)で二つ名を与えられますね」

 

 誤魔化すように話題を逸らすと、ヴァハは何処か嫌そうな顔をした。アミッドは興味ないが、普通の冒険者は喜ぶところではないのだろうか?

 

「俺、二つ名系統苦手なんだよなあ…………やはりヘルメスを今の内に殺しとくか?」

「何故、ヘルメス様に殺意が高いんですか貴方は………その、パシリなのでは?」

「ハハァ。そりゃ、あいつがやったこと考えりゃあパシリで済ませてやってるだけでも温情だからなあ………まあ、別段彼奴がやったこと自体は、どうでも良いがなあ」

「………………?」

 

 良くわからないというように首を傾げるアミッド。小さな身長も相まって子供のようだ。

 

「殺意云々に関しちゃ、さっきの男もまるで親の敵でも見てるみてぇだったなあ。夜道にゃ、気を付けろよお」

「ばかー!!」

「!?」

「あん?」

 

 ヴァハがケラケラ笑いながら脅すような忠告をするとエルフの女性が叫ぶ。

 

「そこは、『夜道は危険だから俺が守ってやるよ』って言うところでしょうが!!」

「……………ああ?」

「そうだそうだ! なかなか休まないアミッド様と一緒にいられる時間を少しでも伸ばそうと考えないのか!」

 

 アミッドは知る由もないが、危険な行為を平然と行い、死地には自分から飛び込むヴァハの行動を気にして、運び込まれれば誰より早く向かい、その後忠告として説教を行う行動は傍から見て、気にかけているようにしか見えない。特に説教については誰も知らないからアミッドが怪我をしたヴァハの部屋に入ってはなにやら長い時間出てこないように映る。

 それに、彼女がヴァハと祭りを回っていたという目撃証言もある。とどのつまり、勘違いした彼等は男の影が微塵もなく、仕事ばかりでプライベートも何時の間にか仕事関連になり結婚どころか恋人すらできなさそうなアミッドに漸く来たかもしれない春を全力で応援する気なのだ。

 当然アミッドは気づかずヴァハは気づいて面白がる。その辺の感性は神に近い。それに、仮にあの男が来れば合法的にぶち殺せる。

 

「いいぜ。しばらく俺が護衛してや…………んっんー…………」

「……………?」

「約束する。俺がお前を、誰にも傷つけさせねえ」

 

 無駄に真面目な顔で、無駄に真面目な声色を放つヴァハ。周りの女性団員達はキャアキャアと黄色い声を上げ、アミッドは…………

 

「…………すいません。貴方がそのようなことをすると、失礼とは承知していますが気持ちわ…………いえ、違和感が」

「まじウける」




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ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
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