ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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聖女の休日

 アミッド・テアサナーレの休日の過ごし方と言えば、何故か休息なのに治療院にいるか、書店巡りだ。

 書店巡りでは新しい調合法や、ダンジョンの無い都市の外の薬学なんかが載っている本を求めて様々な書店に足を運ぶ。基本的には、一人で。

 

「………申し訳ありません。日中は不要と言ったのですが」

「ハハァ。気にすんな、報酬ももらってるからなあ。ダンチョはあんまり乗り気じゃねえが、それでも心配はしてたしなあ」

 

 が、今回はヴァハが隣を歩く。本は持たない。女の荷物を持ってやれ? 面倒くさいことはやらない。というか護衛だし手が塞がるのは普通に悪手だし。

 

「しっかしなんで調合用の服なんて着てんだ?」

 

 アミッドの現在の服装は、何時もと異なる。白いマントに、薄桃色のドレス。髪も後ろで束ね、何ならアミッドを知るものからすればめかし込んでいるようにしか見えない。

 現に見惚れるような視線や、隣に歩くヴァハへ嫉妬の視線が集まっている。が、ヴァハは生地の質からそれが薬剤調合のための服とあたりをつける。実際マントは埃が滑り落ちるように、中の服は水を弾くように出来ている。

 しかし作業服とは思えぬ程華やかだ。アミッドの物静かで、どこか神聖な雰囲気に合わせた控えめな装飾。まあ、作業服と言うには華美かもしれないが理由はある。衣服屋が、独断で付け足した。

 かの【戦場の聖女(デア・セイント)】にみすぼらしい格好はさせたくないという思いから生まれたのだ。

 

「男性と二人きりで出掛ける場合、最低限華やかな方がいいと………とはいえ、私は冒険用、店舗用、調合用の3つしか持っておらず、ならばせめてこれを、と勧められまして………」

「ああ〜」

「良く解らないのですが、そうなのでしょうか?」

「まあ隣に歩く女が周りの目を引きつけるほど綺麗なら悪い気はしねえなあ………」

「そうですか…………」

「ああ、けど………なるほどなあ」

「?」

 

 だからなんかいきなり金を渡され『アミッド様に私服をプレゼントしろ』なんて言われたのか。面倒臭ぇなあ。とはいえ生真面目なアミッドはヴァハの言葉に「やはりこれではいけなかったでしょうか」と己の服を見る。彼女からしたら、最低限の華やかさもなにも、調合用の服だから。

 

「じゃあ服買いにいこーぜ」

「そうですね。私は、服装などを意識したことがないので良ければ見繕ってください」

「店員に頼め」

 

 

 

 

 と、ヴァハの言葉に素直に従うアミッド。店は適当。だが、アミッドは有名人。そんな彼女を好きに着せ替えられると知って店員達は大盛り上がり。

 

「ほらほら、これなんか似合いません!?」

「おー、似合うなあ」

 

 白のゴシックロリーター。身長が低いから似合う。

 ただ、装飾が多くアミッドは(他人には分からない程度に)微妙な顔をしている。薬品調合には絶対向かないだろう。

 

「これもありだと思いませんか!」

「おー、似合うなあ」

 

 神が持ってきた衣服の文化、『ナース服』なる格好をしたアミッド。医療系らしいし、薄い桃色は先程の服と同じ色でアミッドにはよくあっている。

 ただ、ミニスカだしスリットが入っていて健康的な太ももがさらされアミッドは恥ずかしそうにスカートの裾を押さえる。

 

「あえて裏をかいてパンクに!」

「おー、似合うなあ」

 

 右肩を露出させ肩にかかったスポブラの一部を見せる。更にゴテゴテとした金属の装飾品をバランス良く散りばめる。

 足はホットパンツと短めだが、長めのストッキングを履いているので露出は少ない。

 

「…………あの、さっきから似合ってるしか言ってませんが、本当ですか? 毎回趣向が異なるのですが」

「まあ着てる奴がいいからなあ。個人的には今の服が一番好きだが、聖女ってイメージ考えると……」

 

 そう言うとヴァハは衣料店の服を物色しだした。

 

 

 

「「「おお〜」」」

 

 客、店員、男女問わず感嘆の吐息が溢れる。白の長衣と単純なものだが控え目な装飾はアミッドからしても好感が持てる。更にはヴァハが髪を編み込みシニヨンにして、深紅のゼラニウム髪飾りが添えられている。

 

「似合っていますか?」

「似合うと思ったから着せた訳だしな」

「………ありがとうございます」

「じゃ、これ買うわ。値段は?」

「いえ、お金なら私が」

「お前んとこの団員に頼まれたんだよ。金も貰ってる」

 

 そう言うとさっさと払ってアミッドがごねる間に腕を引き店から出す。本を買ったから手持ちでは足りない。少なくとも今の状況では後で払いますとしか言えないだろう。

 

「…………あの、本当によろしいのですか?」

「構わねえよお? 女が、俺の選んだ服を着てんだ、そりゃなかなか楽しいのさあ」

「そういう、ものですか………」

 

 とは言え奢らせたことに不満な様子のアミッド。と、その時だった………

 

「あの、ちょいとすいません」

「あん?」

 

 不意に声をかけられ振り向くと柄の悪そうな男が3人ほど立っていた。

 

「あんたじゃねえ、用があんのはそっちのお嬢さんだよ」

「アミッドに?」

「おおー! やっぱりアミッドさんですかー!?」

「貴方がたは……以前私どもの治療院で………」

 

 どうやらもとアミッドの客らしい。アミッドを街で見かけ、声をかけたのだろう。

 アミッドに覚えていてもらい、とても嬉しそうだ。遅効性の毒に侵されていたらしくアミッドに癒された。アミッド曰く、肌の色なんかで解るらしい。冒険者達は休日に働かせてしまった事を申し訳なく思い治療費を払おうとしたがアミッドに止められた。

 休日だから、勝手にやったとの事だ。

 

 

 

 

 

 冒険者達と別れ、数分。帰路についたアミッド達は何やら騒がしくなってきたことに気づく。何かあったのだろうか?

 

「おい! 早く応援を呼んできてくれ!」

「はいっ! すぐに!」

 

 命令する男とそれに応える女の声が聞こえた。女の方には、聞き覚えがある。

 

「よお、ベルの担当受付嬢じゃねーか」

「え……ベル君のお兄さ………クラネル氏? と、テアサナーレ氏!?」

 

 慌てた様子で走ってきたのはベルの担当受付嬢エイナ・チュールだった。アミッドを見て、目を見開く。

 

「あー、この流れは………」

 

 

 

 

 

「ぐあああああ!!」

「すぐ痛みは収まります! 動かないでください!」

 

 痛みに暴れる冒険者を抑えながら叫ぶアミッド。魔法を唱え、傷を癒やす。

 

「……ふぁ」

 

 痛みが引いた冒険者は叫び疲れたのかそのまま気を失った。

 

「すいませんクラネル氏。お休みのところを引っ張り出して………」

 

 何でもダンジョンで異常事態(イレギュラー)で重症者が出て、ギルドと契約している治癒師(ヒーラー)では足りなくなったらしい。

 エイナは申し訳なさそうにしてるが、多分アミッドはまだ休日のままのつもりなのだろうな。

 

「腕が! 腕がぁぁぁ!」

 

 と、腕を失った冒険者が叫ぶ。まあ、【ディアンケヒト・ファミリア】には銀の腕(アガートラム)があるし大丈夫だろう。

 ヴァハは壁際に椅子を持ってくると座りくぁ、と欠伸をする。と、その時………

 

「ほ、本当なんだ! モンスターが喋ったんだよ! 『コロス、冒険者ヲ殺ス』って!」

 

 不意に聞こえたその声に、ヴァハは反応する。周りの連中は混乱しただけと思っているが、ヴァハだけは違う。直接見たわけではない。肯定されたわけでもない。あくまで予測で、しかし確信している存在を思い出し………そしてどうでも良いかと欠伸をする。

 

「…………ん?」

 

 不意に、アミッドの方で何やら患者が騒いでいるのが見える。騒いでいる奴等は幾らでもいるが、あれは、治療を拒否している?

 

「や、やめ………っ! 触んじゃねえ…………!?」

 

 何処かで見た顔だ。と、考え思い出す。あれは以前アミッドの店で商品を故意に床に落とした迷惑なクレーマーだ。

 アミッドがそれを忘れている筈ないのに、直ぐに治療を施した。

 

「うぐ……」

「もう大丈夫です。血も止まりましたので」

「な、なんで、テメェ…………っ! そ、そうか。無理やり治療して法外な料金を………!」

「お代は戴いておりません」

「はぁ!? テメェ、何が目的だ………!?」

 

 自分が素直に治療されないような事をした自覚はあったらしい。あるいは最後まで値引きをしなかったアミッドを金にがめつい事にしてあの時の自分を正当化したいのか………そんな男に対してアミッドは己の本心を応える。

 

「今日は休日を頂いておりますので。これはただの私的な行為………好きでやっている事です」

「なっ!?」

「おっお〜♪」

 

 男が驚愕し、ヴァハはおかしいとでも言うように笑う。

 

「ですが……もし、これを機に私どもの薬や技術に興味を持って頂けてもらえたのなら…………また、お店にいらしてください。助けを求める方々に、我が派閥(ファミリア)の門戸は常に開かれておりますので」

「あ………」

「ぐああああああ!!」

 

 と、新しい怪我人が運ばれてきてアミッドは直ぐにそちらに向かった。

 

「おいそこのお前! お前も何か手伝え!」

「あ〜? おーい、アミッドぉ。俺なんか手伝うことあるう?」

「ありません。邪魔にならないように角で小さくなっててください」

 

 

 

 

「…………申し訳ありません。せっかく買っていただいた服を」

「別に、俺の金じゃねーしなあ」

「しかし、選んでいただいたのに………」

 

 服を着たまま買い、そのままあの現場に向かったためアミッドの服は怪我人達の血で染まっていた。白だから、余計に目立つ。

 

「男が女に贈る服なんて、結局似合う以前に自分の理想の形にしてぇからだ」

「……………?」

「だけどなあ、俺は理想通りに動く女より、己を貫く女の方が好きだぜ………おかげでいいもん見れた」

「…………貴方も、自分に素直ですものね」

「そりゃなあ………」

 

 ケラケラと楽しそうに笑うヴァハを見て、アミッドも微笑む。そうだ、彼は基本的にしたいことしかしない。ならば今日、つき合わせてしまったと思ったが、彼なりにあの場にいてもいいと思ったのだろう。

 

「…………」

 

 だが、待て。それってつまり、彼は己を貫き通したアミッドを見ているのが、嫌ではなかった? と言うか、それを良いものとして認識していた?

 そんな思考になり、アミッドの顔が赤く染まる。夕日のせいだけでは断じてない。

 

「………も、もう夕方ですね。遅くなってしまいました」

「ああ、だなあ。腹減った」

「……………では、食事に行きましょうか。おすすめのお店があります」

「へえ、いいな。じゃあ今夜はそれにするか」

「とても体にいい薬膳料理を出してくれるお店なんです」

「……………味じゃねえのかあ」

 

 

 

 

 

 ダンジョンの中層あたりで、2匹のモンスターが対峙する。

 片方は白い毛並みを持った3M(メドル)程の、今まで一度も確認されたことのないモンスター。特に頭部の毛は長く、まるで長い髪を持つ女のようだ。

 しかしその体型は身長に対しては細身な方だががっしりと筋肉質なのが毛並みの外からでも分かる。二本の角を持った、異形の白いモンスターは両手に一本ずつ異常に長く発達した爪を剣のように振るう。その様子はまるで剣術の心得のある冒険者のそれだ。

 

「っ! ヌゥン!」

 

 ダンジョンの壁や天井を切り裂きながら迫る斬撃を回避しながら頬を殴りつけるのは漆黒の猛牛。

 白の怪物の頭部は硬質化した皮膚に覆われており、打撃は効きにくいようだが桁外れの力に白い怪物の体が大きく仰け反る。

 

「……………コ、殺ス! ミノタウロス風情ガ、ゴロズアアアアアア!!」

「自分は、まだ殺される気はない!」

 

 どちらの怪物からも、人の介する言葉が発せられた。

 彼等はダンジョンに於ける最大の異常(イレギュラー)。通常の、冒険者達にとってのそれは冒険者達を苦しめるためのものだが、彼等は違う。ある種、人間にとって益になるかもしれない存在だ。

 憧憬を持つ、人に近い怪物達。

 太陽に憧れる者。人の温もりを欲する者。野山を駆け回りたい者。歌いたい者。様々な願い持つ。

 黒い猛牛はとある存在と()()に渡る決闘を望み、故にこの場で死ぬ気はない。

 白い怪物は忌々しい赤毛の冒険者を殺す為に力を欲し、上質な魔石を持つ黒い猛牛を狙う。

 

「ふん!」

 

 と、黒い猛牛が白い怪物の腕を掴み、投げ飛ばす。そのまま壁を殴るとひび割れていき通路が崩れる。

 両者の戦いは互角。黒い猛牛には、戦闘狂とも言える性質がある。しかし彼が求める闘争は、たった一人の人間とだけ。故に、白い怪物が這い出てくる前にその場をあとにした。




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ヴァハ君のヒロイン

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