ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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ヒロインどうしよう


豊穣の女主人

 ベルの案内の下に来た酒場『豊穣の女主人』

 随分な活気だ。冒険者がチラホラと。その冒険者の中に混ぜても抜きん出て強いのが店員というのは驚きだがまあこんな街だ、冒険者が下手な気を起こさないとも限らないし美人美少女には自衛できるだけの強さが必要な時代でもあったのだろう。オラリオ暗黒期とか………。

 

「……………」

 

 足音がしないのが何人か。気配はしている。ちぐはぐな印象だ。恐らくだが潜入とかはしないタイプの暗殺者が足を洗いでもしたのだろう。

 特に只人の女と黒髪の猫人………店員の中でも特に強い。ベルの知り合いらしい駆け寄ってきた銀髪の女は………良く解らん。取り敢えず只人っぽいけど正体不明な何かだ。

 

「あ、シルさん紹介しますね。この人はヴァハ・クラネル。僕の兄さんです。兄さん、この人はシル・フローヴァさん」

「よろしくー」

「はい。よろしくお願いしますね!」

 

 満面の笑みで接客するシルを無視して店を見回すヴァハ。やはり面白いのが何人かいる。相変わらずの軽薄な笑みを浮かべる程に。

 

「兄さん?」

「いい店に連れてきてくれたな。いい女がゴロゴロいやがる」

「ここはそういう店ではありませんが」

 

 と、不意に責めるような声色を含んだ声が聞こえる。振り返るとそこにはエルフの給仕がいた。

 あ、リューとシルが呟いた事から名はリューと呼ぶのだろう。

 

「ハハ………お前が一番、いい女」

 

 無遠慮な視線に嫌悪感を顕にするリュー。エルフは高潔と聞く。ヴァハのような軽薄な態度が気に食わないのだろう。

 

「強さなら奥の婆さんがトップだが、お前が一番この中で、守りたい存在をはっきりさせてる。ハハァ、その女をお前の前で殺したら、どんな顔をすんだぁ?」

「────貴様」

「んーんっんっ。じょーだんだよ、本気にすんな。俺は殺し合いは好きだが強くもねぇ、不気味なだけの女を殺す趣味はねぇ。殺すのは一度でも敵対した奴…………信条があるのさ」

 

 ヴァハにはルールがある。敵対してない相手は殺してはいけません。何でかって? 社会のルールに反するからです。反したら、社会から弾かれるからです。家族も………。

 祖父は自分達兄弟を英雄にしたいらしい。ヴァハは興味ないがベルはなりたがっている。しょーがないから我慢しましょう。

 だからニコッと今度はやけに爽やかな笑みを浮かべる。店員達は胡散臭そうに睨んだ。

 ここで暴れても、まあボコボコにされて終わるだろう。ミノタウロスとの遊びは楽しかったなぁ。また同じような事が起きればいいが。

 

「空気悪くして悪かったなぁ。詫びに売上に貢献すんぜぇ? この金で食えるだけの飯と飲めるだけの酒」

 

 ガシャンと硬貨が入った袋が音を立てる。店主であろう女性は中身を確認し、はぁとため息を吐いた。

 

「次似たようなことをしたら叩き出す。頼んどいて喰いきれないとか言っても叩き出す」

「こえぇ。肝に銘じなきゃなりやせんねぇ」

 

 肩をすくめるヴァハにふん、と鼻を鳴らす女性。自制はできるようだ………いや、常に冷静だからこそ逆に質が悪いかと首を振る。愛娘達に悪影響を与えなければ良いが。

 

 

 

 ベルと近況を報告し合うと、弟に好きな人ができた事を知る。こいつもそんな年かと思いながら出会いを聞けば彼もまたミノタウロスに襲われたらしい。兄弟揃って不運な事だ。

 

「でも、兄さんは追い詰めたんだ。やっぱり兄さんは凄いなぁ」

「ハハァ。俺はセンスがあるからなぁ………」

 

 キラキラした瞳を向けてくる弟に酒を飲みながら言葉を返すヴァハ。あれだけ頼んだ量もどんどんなくなっている。ベルは気にしていないところを見るに、普段の量なのだろう。

 

「ご予約のお客様、いらっしゃいましたにゃー!」

 

 シルも何やらやってきてベルと話し始めたから食事に集中していると店員の声が聞こえた。ベルがバッと顔を上げる。

 視線を追うと、金髪の女剣士。恐らくあれがかの有名な『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。ベルの意中の相手。つまりあの集団は【ロキ・ファミリア】。よく見ればロキやフィンも居る。

 

「なるほどー。兄弟ってのは好みも似るのね」

「え?ちょ、そんな………兄さん?」

「ハハァ………」

 

 ヴァハの言葉に慌てるベル。シルは「ヴァハさん、応援します!」とか言ってる。ベルの味方はいないようだ。

 

「そうだ、アイズ! お前あの時の話し聞かせてやれよ!」

 

 と、酔った獣人が声を上げる。しかし一々アイズの名前で体を硬直させる弟はどれだけ初心なのか。祖父から渡された艶本も、表紙だけ、下手すりゃタイトルだけでこんな反応してた記憶が。

 

「あれだって、帰る途中で最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

 最後の一匹は隠れて残っていたが、少なくとも彼等が相手した最後の一匹はアイズが倒したのか。そして、その際ベルを助けた。

 

「ミノタウロスって17階層で襲い掛ってきて返り討ちにしたらすぐ集団で逃げていった?」

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上っていきやがってよっ、俺たちが泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」

 

 自分の事だと顔を青くしていくベル。ヴァハはテーブルの上の食器をどけて新たに来た食事を喰らう。

 【ロキ・ファミリア】の話は盛り上がっていき、ベルが血だらけで逃げ出した事を聞き、失笑が漏れる。アイズだけがその笑いの輪に入れていない。一人、ぽっかり取り残された迷子みたいだ。そんな迷子を見つめる母親のような目をしたエルフが獣人を咎めるも獣人は止まらない。

 

「おーおー、流石はエルフ様。誇り高いこって。でもよ、そんな救えねぇヤツを擁護して、何になるってんだ? それはてめえで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミと言って何が悪いんだ」

 

 流石にロキも咎め始めた。しかし獣人はやはり止まらず、何を思ったのか番にするならどちらが良いかを問い出した。なるほどそう言う。モテる女だ。壊れかけの女はやはり雄を引き寄せるのだろうか?腐りかけの果実が美味いのと同じ?

 アイズはお前だけはゴメンだと断るも、ならトマト野郎に告白されたらどうするかと問われ返答に困る。ベルが更に震える。

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

 ベルは、そこで耐えられなくなった。走り出す。シルが叫ぶ。ヴァハは「………金が」と呟く。

 アイズはベルの顔を見て、慌てて外に駆け出す。顔を覚えていたのだろう。

 

「…………貴方は、彼を追わないのか」

「何で?」

 

 食い逃げを行ったかもしれない少年と同席していたヴァハに必然的に視線が集まる。【ロキ・ファミリア】の方からあっ、と声が消えた。

 

「貴方は、彼の仲間でしょう」

「【ファミリア】は別だ。兄弟だがな…」

「ならばこそ、彼を慰めようとは思わないのですか?」

「あん? 何で? そこの犬っころ、何か間違ったこと言ったか?」

 

 首を傾げるヴァハは何故か吊るされ始めた獣人をジョッキで指す。犬扱いされ獣人があぁん!?と叫ぶが無視。

 

「俺たち兄弟は英雄が好きでねぇ。特に俺はアルゴノゥトが好きだ。あの道化が大好きだ。まさに、今のあいつだからなあ。俺、弟大好きなんだよね………ま、アルゴノゥトと比べりゃまだまだ劣るけど」

「え? 何々、アルゴノゥト好きなの? アタシもー!」

「そりゃどうも………てか、お前アルゴノゥト知ってる?」

「………一応は」

「そりゃ良かった。これでお前が知らなきゃそれこそ俺も道化だ………で、あー………何だったか。そうそうベルがアルゴノゥトの劣化版ってとこだ………だって彼奴、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ヘラヘラと楽しそうに笑う。過去の記憶に思いを馳せられ。

 

「憧れるくせに、成り方を知ってるくせにオラリオに来るまで何もしてこなかった。彼奴の服の下、ヒョロヒョロでモヤシみてぇだ………ハハァ。アルゴノゥトは絶望に向かうだけの世界で笑顔を振りまいてたのになぁ。いや? 今は滑稽さで笑顔を振りまいたか」

「っ………それで、彼の心が傷つき、折れても良いと?」

「彼奴は零細ファミリア………拠点はオラリオの端の端」

 

 急に話題を変えたヴァハに困惑するリュー。ヴァハはそんな態度を気にせず扉の外を見る。

 

「走ってった方向とはまるで逆さ。馬鹿にされ、笑われ、彼奴は真っ先に()()()()()()()()()()………ハハァ。傷つく? 何もしてこなかったくせに傷つきたくねぇなんて虫がいい。折れる? 折れるかよ、あの程度の罵倒で」

「ダンジョンに………? なら、なら尚更何故追わない! 彼が、貴方の弟が死んでしまったらどうする気だ! 彼を追い立てた獣人を憎むか? いいや、彼が何処に向かった知っていながら見殺しにした貴様の────」

「憎む? ハ………ハハ。ハッハッハッハッハッ! 憎まねぇよ、俺は。死ぬ? 嗚呼、死ぬかもなあ。でも、()()()()だろ?」

「────!!」

 

 リューが目を見開き、次の瞬間平手を喰らわせようと腕を振るう。直上的。速いが、読みやすい。体をそらし避けたヴァハは倒れる椅子に身を任せ、片手をつき立ち上がる。その際椅子に足をかけリューに向かって蹴り上げた。

 

「───っ!!」

「ハハァ!」

 

 リューがその椅子を払えばヴァハは倒れる時に何時の間にか取っていたであろうフォークを目に向けて突き出す。

 盆で防いだリューはヴァハの腹に蹴りを放つ。

 

「───っ! か、はは! ハハハハハ!」

「っ! きゃ!?」

 

 バチィ! と、雷光が迸る。とはいえレベル1のスキル。リューには大したダメージはない。それでも一瞬痺れさせるには十分。左足を軸に回転し、曲げていた関節を伸ばしながら蹴りを放つ。技術、身体能力を遺憾なく発揮した蹴り。リューが吹き飛び机に当たる。

 

「んー………」

 

 ()()()()()。これが高レベルの冒険者。ミノタウロスより硬い。触れれば間違いなく女の柔肌を感じられるはずなのに、殴れば岩のように硬い。見た目以上に()()()()()

 

「────!」

「…………ハハァ。やっぱり、お前が一番いい女だ」

 

 睨みつけてくるリューに笑みを深めるヴァハ。と。と──

 

「そこまでにするにゃお客さん」

「リューも、先に手を出すのは良くないよ」

 

 ヴァハの首下にステーキナイフが添えられリューの肩を只人の店員が叩く。ヴァハが振り返れば黒髪の猫人が立っていた。

 

「あっちにゃ劣るがお前もなかなか良い女」

「にゃはは。あと2年若ければみゃーの好みだったんたけどにゃ。まあ、若くてプリプリの尻してても、リューに手出した奴嫌いだけど」

「勘違いするな。出されたんだ」

「……………」

 

 ピリピリと空気が張り詰める。その空気を吹き飛ばすように、長いため息が聞こえた。

 

「その辺にしな、アンタら」

「にゃ!? で、でもミア母ちゃん!」

「リューから手を出したのは本当だからねえ。だから、これで手打ちだ。あんたもそれで良いね?」

「ハハァ。俺は自殺志願者じゃねえしなあ。ここでやめろとあんたに言われちゃ従うまでさ。ご馳走様。美味しかったからまた来るな」

 

 二度とくんにゃー!と叫ぶ猫人達。仲のいいことで。

 店から出たヴァハはどうするか、と頭をかく。ポーションの類は持ってきていない。スキルの恩恵で、傷の治りは並の人間より早いとはいえ血を飲まなければ緩やかだ。

 今帰ってもミアハに見つかったら心配をかけるし………。ベルの帰りでも待つかとバベルに向かって歩きだした。




ちなみに、マジでベルを殺した相手は憎みません。仮にベルが強くなってたらそいつも強いってことで結果的に敵討ちに乗り出すかもしれませんけど

感想お待ちしております

ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員
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