ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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合流

 さて、ベル・クラネルの現状だがヴァハの想像通り、18階層にて【ロキ・ファミリア】に保護されていた。

 アイズ達一部の人間はあの時の、ミノタウロスとの戦い…………否、決闘でランクアップしたのだろうと予想を立てる。そうでなければ、流石にリヴィラの街へは降りてこられないだろう。信じ難い事だが、信じるしかあるまい。

 彼の兄が3週間でランクアップした事を考えれば、彼はまだ普通…………いや、やっぱりおかしいが。

 まあ、そんなおかしな速度で成長する兄弟の片割れに、興味津々あとモフモフの頭を撫で回したいアイズは宴の時もベルのそばに居た。

 普段なら突っかかるレフィーヤも、Lv.1でミノタウロスを倒したと聞かされうむむ、と唸っている。本当にそんな事が可能なのだろうか? 自分は、絶対出来ない。一体何者なのだろうか、ベル・クラネル………………クラネル?

 

「って、ああー!」

 

 はっ、と叫んだレフィーヤになんだなんだと視線が集まる。レフィーヤはビシッとベルを指差す。

 

「貴方まさか、ヴァハ・クラネルさんの弟!?」

「え? あ、はい。そうですけど…………」

 

 ランクアップが公表されたのは【ロキ・ファミリア】が遠征に潜った後。故にヴァハについて知る者は少ないが、逆に言えば知ってる者は知っている。

 というかレフィーヤ、酒場での件を忘れているのだろうか?

 

「あ、あの………何か?」

「兄弟揃って2ヶ月もかけずにランクアップ!?」

「え、あ…………えっと、そうなりますね……」

 

 レフィーヤの脳裏に人を食ったような笑みばかり浮かべるヴァハ・クラネルが浮かぶ。一瞬あんな奴の弟に近づくなんて、という考えが出てきたが性格に難はありまくれど助けられたのも事実で、家族を出汁に人を侮辱するなど潔癖なエルフの性が許さずパクパクと口を開くだけ。ベルが首を傾げる。と、その時だった────

 

ビシャアアアアアアンッ!! 

 

 と、落雷が落ちたかのような爆音が聞こえた。何事かと慌てふためく団員達。音の発生源はどうやら上からのようだ。

 

「………誰かが階層主(ゴライアス)と戦ったのかな?」

「しかし、だとしても何者だ? 音からして雷系統の魔法。それで、ここまでの音を出せる者など……」

 

 表向きには、居ない。ならば表でない場所なら?

 とはいえ、だとしたらこんな目立つ行為をするとは思えない。しかし、だ。【ロキ・ファミリア】が現在疲弊状態にある事を知っているのなら、可能性はなくも無い。

 僅かに警戒する上位陣。と……

 

「…………兄さん?」

 

 不意にベルが呟きを漏らす。数秒後、見張りをしていた【ロキ・ファミリア】と共に現れたのは、ヴァハであった。

 

「とーちゃく。よおベル………無事みてえだなあ」

「兄さん!?」

「あ、ヴァハだー! え、何でここにいるのー!?」

 

 ベルが駆け寄るよりも早くティオナが両手を前に突き出しヴァハに向かって飛び出す。抱きつく気マンマンのティオナをヒョイと避けたヴァハはケラケラと笑う。

 

「元気だなあ、お前等。何か良いことでもあったかあ?」

「レフィーヤ、無事か!?」

「フィ、フィルヴィスさん!?」

 

 突然の来客に誰もが困惑していると一団の中からエルフがレフィーヤの名を叫びながら飛び出してきた。

 ベルは彼女の事を知らないが、よくよく見ると彼の後ろには数人の男女がいる。その中に………

 

「ベルくぅん!」

「神様!?」

 

 何故かダンジョンに入ってはいけない筈の神であるヘスティアまで居た。

 

「ど、どうしてここに?」

「君が心配だったに決まってるじゃないか! 無事で良かったよおお!」

 

 感動の再会をするヘスティア達をしりめにヴァハはあくびを一つ。本来なら拠点の部屋で寝ている時間だ。ヴァハは趣味が殺し合いのため、地上にいる間は飯か女か睡眠のどれかなのである。

 

「おーい、ベル。こいつ等がお前に言いたいことがあるってよお」

 

 兄の言葉に振り返る弟。そこには見知らぬ男女の三人組が…………いや、何処かで見たことがあるような?

 

「夜分遅くに申し訳ありません。病人はどこでしょうか?」

「アミッド? お前は、これなかったのでは?」

「…………偶々、無茶ばかりする友人にダンジョンに誘われましてね。貴方達を目にしてそんな依頼があったことを思い出したのです。なので、これは私用です」

「…………ふっ。なるほど………その友人とやらに感謝しなくてはな」

 

 アミッドがチラリとヴァハを見たのでリヴェリアもヴァハを見つめ、微笑を浮かべる。ヴァハはエルフィに膝枕をさせて寝息を立て始めていた。

 一瞬どうすべきかと思ったがエルフィも満更ではなさそうだ。彼は寝てしまったし、改めて彼の一団に声をかけに行こう。

 

「すまない、少しいいだろうか」

「おっと、何だい? ベル君を保護した件についてなら、もちろん出来うる限りの礼はさせてもらうぜ?」

「いや、こちらが勝手にやった事だ。むしろ、アミッドを連れてきたことに、こちら側から礼をしたい」

「うーん、彼女はヴァハ君が連れてきたからなあ………お礼なら彼に言ってくれ」

 

 ヘスティアがそう言ってヴァハを見るとティオナが「あたしも膝枕するー!」とエルフィからヴァハを奪おうとして、ヴァハが五月蠅そうに目を開けていた。

 起きたのなら丁度いいだろう。ティオナも止めなくてはならないしとリヴェリアが近付いていくとエルフィが慌ててヴァハの体を起こそうとする。が、ヴァハは断固として起き上がろうとしない。

 

「そのままで構わんよ。ヴァハ・クラネル………久し振りだな。アミッドを連れてきてくれて、助かった。礼を言わせてくれ」

「…………礼、ねえ」

「ああ、我々にできることなら………」

 

 その言葉にヴァハはふむ、少し離れたフィルヴィスと膝枕をしているエルフィを見る。そして最後にリヴェリアを見る。正確には、彼女の首元。

 

「都市最高の魔道士?」

「ああ、そう呼ばれているな」

「じゃあ、ち───」

「何を要求しているんだ貴様は!」

 

 と、離れていたフィルヴィスがやってきてヴァハの口を抑えた。

 

「ヴァハ! 自重しよう!? 流石にリヴェリア様にその要求はまずいって! わ、私なら後で幾らでも!」

「コレット!?」

「お〜、ならまあ、味が分かんねえ奴よりはお前がいいか」

 

 我慢してやるよ、と言うヴァハに自重しろ! と叫ぶフィルヴィス。エルフィにも己を大事にしろと叫んでいるあたり、悪いやつではないのだろう。ヴァハが何を要求する気だったのか少し気になるが………。

 

「っ! も、申し訳……ありませんリヴェリア、様………」

 

 と、フィルヴィスはリヴェリアから距離を取る。

 

「お会いできて、光栄です。お目汚しを………失礼します」

 

 そう言うとフィルヴィスはその場から逃げるように立ち去る。

 

「………追わぬのか?」

「それは俺の役目じゃねえからなあ…………慰めんのは彼処のエルフ、俺は彼奴を肯定してやれるだけさあ」

 

 リヴェリアがその背中を見てヴァハに問いかけるとヴァハはフィルヴィスを追う別のエルフの背中を見て笑う。

 

「そうか………」

「そういや、ベルの姿はお前らの鼓舞に使えたかあ?」

「…………何故そう思う?」

「限界超えなきゃお前等はここに居ないだろ? 目の前で超えたやつ見りゃ、負けず嫌いなガキ共は簡単にやる気になるからなあ」

「……ふっ。確かに、お前の弟の姿は、ベートやアイズ達を奮い立たせたよ」

 

 リヴェリアの言葉にヴァハはそいつは良かったと笑う。

 

「…………59階層で見たもの。私達は、あれについて聞きたい。お前が先程何を要求しようとしたのか知らないが、話してくれるというのなら私個人で用意してやっても良い」

「……………へえ」

 

 では、私はこれで、と立ち去るリヴェリア。幹部を交えてヘルメスと何やら話すようだ。

 

「ヴァハ? 変なこと考えちゃ駄目だよ? 絶対だからね?」

「……………喉が渇いた」

「……………っ」

 

 

 

 

 リーネがその場を目撃したのは、偶然だ。

 森の中に入っていく赤い髪の少年を見て、そういえばレフィーヤがベートさんと組んだ時の話に居たなあ、と思い、レフィーヤ曰くベートと相性がいいらしいからベートと仲良くなる方法を教えてもらえないかなあ、と後をつけた。

 

「…………エルフィ?」

 

 暗かったかわかりづらいが、よくよく見れば彼の少し前にエルフィが歩いている。二人きり、夜の森の奥。そこまで考え、リーネがゴクリと唾を飲む。興味本位でつい、木の陰に隠れて様子をうかがう。

 と、ヴァハがエルフィを木に寄りかからせ、その身体を抱きしめる。そのまま首元に顔を埋める。

 

「あ、あわわ………!」

 

 首元のキスは、執着。つまり、彼はエルフィに執着しているということ!? と目を手で隠しながらもしっかり指を開くリーネは顔を赤くしながらその光景をまじまじ見つめる。頭の中で、ベートと自分に置き換えながら。

 

「ん、ふぁ………っ、くぅ………」

 

 と、エルフィから甘い声が漏れる。何だか見てはいけないものを見ているような気がして、しかしもっと見ていたいような気がして少し身を乗り出すと、エルフィが上気した顔でこちらに気付く。

 

「……………!?」

 

 エルフィとしては大丈夫だよ、と言う意味で浮かべた笑みだが、ヴァハの吸血により与えられる甘い快楽に蕩けた顔で浮かべた笑みは同性のリーネすら赤くなるような色っぽい笑み。リーネはその場から走るように立ち去った。

 

 

 

 

「……リーネに気付いてたでしょ」

「目を見りゃ人となりもわかる。彼奴はてめぇの不利になるようなことは言わねえだろお?」

 

 服を整えながら責めるように睨んでくるエルフィに、ヴァハはケラケラと笑うのだった。

 

 

 

 白い毛並みを持つモンスターは、ガリガリと魔石を噛み砕いていた顎を止め、顔を上に持ち上げる。

 

「イ、居ダア! ──ス! ─ノ! 殺スウウウ!」

 

 憎くて憎くて仕方のない、己の死にゆく姿を嘲笑った赤髪の男の気配を感じ取り、吠える。

 殺意と憎悪を持つ白い怪物が、一人の人間を殺すために蓄えた力を解き放とうとしていた。

ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員

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