ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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白鬼

 新種の、或いはユニークモンスター、白鬼(ホワイトオーガ)は窪んだ眼孔の奥にある濁った緑色の瞳をヴァハへと向ける。

 

「モ、モンスターが、喋った?」

 

 アミッドは目を見開き困惑する。モンスターは知性なき獣。その筈だ………なのに、このモンスターは明らかに人の言語を発していた。ヴァハへと向けられた殺意からして、間違いなく意味を理解して。

 

「アッ、アアア! シ、シシ、死ネエアアアアアア!!」

「っ!!」

 

 モンスターは己の爪を振るう。腕力任せの、技術が殆ど伴っていない動き。だが、おそらく基礎性能(スペック)だけならLv.6相当。力は、それも上回るかもしれない。

 

『チィ、邪魔ヲスルナ! ソイツハ、私ガ殺ス!』

 

 怪人(クリーチャー)は己の獲物を横取りされたのが気に食わないのか、メタルグローブを振るう。鋭い爪がモンスター肩口を抉るが浅い。

 本来なら対人用の武装、何よりあの怪人(クリーチャー)赤髪の怪人(レヴィス)より弱く、決定打にかける。

 Lv.はおそらくランクアップ間近の3か、4の成りたて。人外だけあり膂力は大したものだが向こうもまた人外。さらに───

 

「ヴ、ヌウウ……」

 

 グチュリ、と湿った音が聞こえる。怪人(クリーチャー)が付けた傷の断面、赤い肉が蠕き傷が塞がる。

 

「おおう、まるで怪人(テメェ等)だなあ?」

『黙レ』

 

 声をかけた途端、忌々しげな言葉とともにメタルグローブが振るわれる。鋼鉄の拳を剣の腹で受け流し、掌から血の杭が突き出した掌底を放つ。

 仮面を狙ったその攻撃を顔をそらすことで回避するもパキッと音を立て小さな傷が生まれる。続け様に追撃を喰らわせようとしたヴァハだが、モンスターが咆哮を上げ突っ込んできた。

 

「ルアアアアアアアアッ!!」

「ぐう!?」

 

 ガードした腕がミシミシ音を立てる。嵐に晒された虫けらの様に吹き飛び地面を何度もバウンドして壁に激突する。

 お腹の中がチャプチャプ鳴る。盛大に潰れたな、と判断したヴァハは穴を開け血を外に出す。

 

「ヴァハ!」

 

 すぐさまアミッドが駆け寄ってくる。詠唱は、唱えている暇がない。袖をまくりあげればヴァハはすぐさま噛み付く。

 

「───っ!」

 

 アミッドが牙から伝わる快楽に飲まれそうになる誘惑を振り払い、ヴァハは牙を抜く。傷は癒えた。モンスターは、怪人(クリーチャー)と戦っていた。

 

「邪魔ズルナアアアアア!」

『アレハ私ノモノダ! 私ガ殺ス、私ガ終ワラセル! 誰ニモ渡スモノカ! 誰ニモ、アノ女ニモ!』

「殺ス! ──ノスヲ、奴ヲ、殺ス! ガノジニ捧ゲルウ!」

 

 随分と熱烈に求められているみたいだが、あのモンスターは何だろうか? いや、先のミノタウロスの一件で、予想はつくのだがあそこまで殺意を覚えられるとなると、どれだ? 心当たりは、まあいっぱいある。

 

「チャンスですヴァハ、彼等が争っている間に、18階層に戻りましょう」

「いやだねえ……」

「………は?」

 

 ヴァハはケラケラと笑いながらアミッドの提案を断る。そして、剣を拾いモンスターと怪人(クリーチャー)の下に向かう。

 が、アミッドがヴァハの服を掴む。

 

「さっきまで、死にかけていたでしょう。何を考えているのですか!?」

「そりゃお前、殺し合いがしたいって考えてるに決まってんだろお?」

「…………今この場には、私もいます。貴方が死ねば、私も死ぬでしょう。それでも、行く気ですか?」

「………………」

 

 返答を聞くのが、怖い。

 もし、ここで行くと言われたら、それはつまりヴァハは己の欲求に比べればアミッドの命など軽いと言われるのと同義だ。

 

「ああ、行くねえ………一人で帰ってくれ」

「────」

 

 ヘラヘラと、笑いながら、己の欲望を優先したヴァハに、アミッドは息を呑む。

 

「…………そう、ですか」

 

 知人の命よりも、自分が死ぬかもしれない、そんな場所に飛び込むことを優先する。それがヴァハ・クラネルという人間だ。

 己の命も、他人の命も、まるで大事にしていない。いや、基本的に守ろうとする。けれど、優先度が異なるのだ。

 

「……………行かないでください」

「無理だな」

 

 アミッドの手を振り払い、歩みを再開するヴァハ。

 彼が、他者の命を省みない存在であるなど、出会って一ヶ月と少しのアミッドには─────()()()()()()()()()()

 

「………貴方は死なない」

「………あ?」

 

 アミッドの凛とした声に、ヴァハが思わず足を止め振り返る。

 

「言ったはずです。貴方を生かします。貴方がどれだけその命を差し出しても構わないと思う闘争をしようと、私は貴方を死なせない」

「…………あ〜」

 

 そういえば、そんな事も言われた。確か初めて食人花と戦った時。

 つまりアミッド、この場においてヴァハを援護すると言ったのだ。26階層、Lv.2の治癒師(ヒーラー)など一人では帰ることもできない、この場所で他人のために戦うと言ったのだ。

 

「好きにしな」

「? 何を言っているんですか?」

「あ?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………言われずとも、好きにやります」

「ハハァ。その通りだなあ………」

 

 

 

 

 怪人(クリーチャー)とモンスターの戦い。それは、モンスターの方が僅かに押していた。何故異形の爪を持つかと思えば、それは極めて合理的な理由だった。再生するからだ。

 かけた程度、罅割れた程度。その程度では先程与えた傷と同じく瞬時に治癒する。天然武器(ネイチャーウェポン)ではこうはいかなかっただろう。

 

退()ゲエエエ! 私ハ、殺ス! アノオドゴヲ、殺スウアアア!」

『黙レ! 彼奴ハ、私ガ殺ス! 目玉ヲ焼キ、四肢ヲ千切リ、コノ世ニ生マレ落チタ事ヲ、ノウノウト日ノ光ノ中ヲ生キ続ケタ事ヲ、後悔サセル!』

 

 怪人(クリーチャー)はヴァハ・クラネルを認めない。認められない。

 他者の血を啜り傷を癒やし、命を奪い合う殺し合いをこそ己の生きる世界とでも言わんばかりに死地にて笑うあの男が、まるで普通の人間の様に日の光を浴び生きている事が、誰かと平然と歩く事が許せない。

 それは嫉妬だ。それは憎悪だ。

 間違っているのだろう。理不尽で、本来ヴァハに向けても何の意味もない感情。()()()()()()()()()()()。この想い(憎悪)は、間違っていない!

 だから、誰にも渡さない。渡してなるものか!

 

「ルッ、アアアアアアア」

『─────ッ!!』

 

 モンスターの猛攻に、段々と押されていく、再生能力は互角。膂力、速度は向こうが上。技術のみ、こちらが上だがここに来て押し返され始めた。と───

 

「ぎゃはははは! 待たせたなあ、化物、マイハニー!」

「───!?」

『ぐっ!?』

 

 落雷が落ちる。ヴァハだ。傷が癒えている、また血を飲んだのだろう。モンスターは目の前の敵など完全に忘れ、ヴァハのみに意識を向ける。剣のような爪を振るい、ヴァハの雷霆の剣とぶつかり合う。

 

『───ッ! 伏セロ、化物!』

 

 その化物がどちらを指しているのか、簡単に察せた。故にヴァハは剣を斜めにして爪を受け流すとしゃがみ込み、頭上を漆黒の雷霆が通過しモンスターを吹き飛ばす。壁にぶち当たり、土煙が舞う。かなりの威力だ。『魔導』のアビリティを持っているのだろう。

 

「【我を呪え清浄なる血脈。我こそ異端の使徒。神の定めし英雄譚を血で汚す者】」

「グル、アアアアアアア!!」

 

 ヴァハが詠唱を唱えると同時に、砂煙が咆哮によって吹き飛ばされる。()が砕かれたモンスターは、細胞が焼けたのか爪を含め炭化した部分の治癒は始まっていなかった。

 

『頑丈ナ奴メ………』

 

 怪人(クリーチャー)が忌々しげに吐き捨てる中、モンスターが突っ込んでくる。武器を失うも己の肉体こそが武器だとでも言うように、太い指を鉤爪に見立てて襲ってくる。

 少しでも触れれば肉を抉る攻撃をヴァハのみに向け豪雨のように攻撃を放つ。

 

「────?」

 

 ふと、既視感が襲う。以前にも、似たような事があったような?

 

「【神の分身に手にかけし血に染まりし怪物よ、峡谷を閉ざせ。哀れな兵を閉じ込めよ。兜を壊し、悍しき(アギト)を晒せ】」

 

 詠唱を唱えながら回避していたヴァハが顔面に向かって蹴りを放つ。と、再び放たれた暗黒の雷がヴァハの足を消し飛ばす。モンスターの鼻先を少し焼く。

 

「グルアアアアア!?」

「っ! ────【その身を血で汚せ。支配者(おう)より賜りし鎧を赤く染めよ。代行者たる我が名は雷公(ミノス)。雷の化身、雷の将軍(しょう)。我が敵こそ我が後継者。雷纏し雷公(らいこう)の英雄】」

 

 おそらく、狙いはヴァハの足とモンスターの頭。モンスターはさっさと殺して、ヴァハは楽には殺さず甚振りたいのだろう。

 

「【ディア・フラーテル】!」

 

 焼け焦げた細胞の治りは遅い。が、そこに聖女の魔法(祝福)が加わる。焼け焦げた箇所が治療され、スキルも合わさり即座に新しい足が生えてきたヴァハは危うげなく着地し、己の魔法を完成させる。

 

「【アルゴノゥト】」

 

 ヴァハの髪が白に染まり、紫水晶(アメジスト)の瞳が紅玉色(ルベライト)に変わる。

 魔法が完成した事により溢れ出した魔力が雷となり周囲に放たれモンスターと怪人(クリーチャー)を吹き飛ばした。

 

「アアアアアアアアアアアアッ!!」

『───! ヤッテクレルナ!』

 

 が、どちらも無事。ヴァハは、先にモンスターを殺す事にした。ヴァハの姿が消える。少なくともアミッドにはそう見えた。が────

 

「ヌアアア!!」

「ぐっ!?」

 

 なんとモンスターは反応してみせた。それどころか、反撃した。振るわれた拳に打ち上げられたヴァハを、モンスターの回し蹴りが襲う。

 

「モ、モウ見タ! モウ、効カヌ! ココ、ココデ死ネ、()()()()()()()()!!!」

「………ああ、なるほど…………くく、くははははは!」

 

 モンスターの叫びに、ヴァハは楽しそうに笑った。

 

「何でお前がそこに居る!? いいや、理由なんてどうでも良い! また俺を殺しに来たか! また俺に殺されに来たか! 嬉しいねえ!!」

 

 本当に、嬉しそうに笑みを浮かべ、歓迎するように両手を広げた。

 

「なあ、()()()()()()()()!!」




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ヴァハ君のヒロイン

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