ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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雷の精霊

 ヴァハ・クラネルは、ある偉業を成した。

 しかし偉大なる功績かと問われれば首を傾げる者も居るだろう。何せヴァハ・クラネルが行った偉業というのは、人類の味方であるはずの精霊を殺すと言うものなのだから。

 それはそれは激しい戦いだった。その精霊すら超える怪物を殺すことが目的であるヴァハからすれば、通過点にしか過ぎぬ戦い。しかしその戦いで()()()()()()()()

 それでも勝った。友とも言える精霊だった。良く話をしたし、酒も飲んだ。

 殺したことに後悔は無い。憎悪も禍根もなく、互いに殺し合った。ヴァハは恩恵を超える古の力を欲して、精霊は人間が未だなし得ぬ未知を、その身を以て体験するために。全力で殺し合い、勝者であるヴァハは敗者であるミノスを食った。見た目、筋肉質な老人と言う祖父と良く似た相手だったが躊躇いなく心臓を抉り、血を啜った。

 躊躇いはなかったが、問題はあった。

 大精霊という巨大な力に人間如き(ヴァハ•クラネル)の器が耐えられなかった。

 故にヴァハはその力の殆どをある一本の剣に移し、その剣を『雷霆の剣』と名付けた。

 

 

 

「さて、いきがったものはいいが……」

『アハハハ! 待ッテ、『ミノス』! ネェ!』

 

 迫りくる白毛の束の触手を回避しながらアミッドから離れていくヴァハ。とはいえ、あまり距離を取れない。ヴァハが居なくなれば唯一近くの生命であるアミッドが狙われるだろうし、アミッドもあまり時間が残されていない。

 

「勝率ほぼ0。負ければ死ぬ…………どうせ死ぬなら俺は、勝って死にてえなあ………」

 

 故に、ヴァハは『雷霆の剣』を()()()()()()()()()()

 

 

 

『…………エ?』

 

 突然の自害に困惑したのは、もちろん『精霊の分身(デミ・スピリット)』。意味が分からない。もう少しこの追いかけっ子を続けるのかと思っていたのに。と、困惑していた『精霊の分身(デミ・スピリット)』だったがその淀みがかった金色の瞳を見開く。

 死する者は例外なくその気配を小さくしていく。なのに、目の前の『ミノス』の気配が、増大していく。

 『アリア』も『ミノス』も『自分』が知る力には遠く及ばないほど、衰えていたのに、『ミノス』の力が、ほぼ全知全能である雷の大神から、武人の性質を与えられた特別な精霊の力が、戻っていく。

 

「ゲホ…………あ〜、ハハハハァ。体が砕けそうだ……」

 

 内から溢れてくる力に、肉体が細胞レベルで軋む。

 人の身には過ぎたる力を、人を加護する精霊を殺し奪った力を使う人を、その力が滅ぼそうと暴れる。

 

『────!』

 

 『精霊の分身(デミ・スピリット)』はここに来て初めて笑みを消した。始終笑みを崩さぬヴァハに感じた感情を理解するまもなく、その体は目の前の『脅威』を排除するために動く。

 

『アア───!!』

 

 無数の白毛の束が槍となりヴァハに迫る。心臓から剣を引き抜いたヴァハは、その全てを切り裂いた。

 

『ッ───!』

「…………」

 

 ゴボリと口から血が溢れ出す。視界が赤く染まり、目の下から頬にかけて生温い液体が流れる感触がする。

 

「……クク。ハハ………ハハハハハ!」

 

 文字通り体が砕けそうな激痛の中、湧き出る力を振るう。放たれる雷が迷宮の床を、壁を、天井を破壊し、雷光に目が眩んだ『精霊の分身(デミ・スピリット)』に接近する。

 

『イヤア!』

 

 接近に対して『精霊の分身(デミ・スピリット)』は白毛を更に束ね、『雷霆の剣』を弾く。舌打ちしたヴァハが追撃を放とうとすれば先程よりも大量の白毛の槍が迫り仕方なく離れる。

 

『【吹キ荒レロ雪原ノ刃代行者タル我ガ名ハ氷精霊(ニクス)氷ノ化身氷ノ女王(オウ)──』

「【突き進め雷鳴の槍代行者たる我が名は雷公(ミノス)(いかずち)の化身(いかずち)将軍(しょう)──」

 

 2つの短文詠唱が紡がれる。濃密な魔力が、互いの体から吹き出た。

 

『【アイシクル・エッジ】』

「【サンダー・レイ】」

 

 放たれるは雷の槍と蒼氷の刃。高純度の魔力で編まれた魔法がぶつかり合い、弾ける。

 飛び散る魔力を白毛で回収する『精霊の分身(デミ・スピリット)』。ヴァハの体からピシリと音が聞こえた。

 

「ガアアア!!」

 

 獣のような咆哮を上げ、ヴァハが高速で駆け抜ける。精霊種の中で最速の種類。その大精霊。精霊の記憶が知る本来の強さに比べ見劣りするも、不完全な『精霊の分身(デミ・スピリット)』とて当然の事ながら本体に遠く及ばない。

 故に拮抗しているが、ヴァハの力は少しずつ増していく。否、本来の『ミノス』に近付いていく。

 

『ウ、アアアアアアアア!』

 

 己の身を護る最低限の白毛を残し、残り全てを再びダンジョンの床に突き刺す。多大な魔力を強制的に吸収し、白毛が鼓動を奏でるように明滅し、ダンジョンが悲鳴を上げるように震える。

 

『【光ヨ有レ煌ケ輝ケ導ケ民ガ縋ル光英雄ヲ導ク星闇ノ中ニ姿ヲ現シ人々ノ心ニ安寧ヲモタラセ】』

 

 させるものかと突っ込もうとすればダンジョンから魔力を奪う役目を終えた白毛の束の群が床を破壊し襲いかかってくる。

 

『【輝ヤケル栄光ヲ手ニ駆ケ抜ケルハ英雄闇ヲ斬リ払イ魔ヲ滅シ悪ハ打倒サレル民ヨソノ姿ヲ記憶セヨ新タナル担イ手(エイユウ)ニナルタメニソノ(アト)進メ嘗テ己ガ救ワレタヨウニ力ナキ者ヲマモリ導ク光トナレ】』

 

 それら全てを回避し、魔法が完成した事により慢心か、安心からか一秒にも満たない隙を見逃さず、ヴァハは駆け出す。だが……

 

「────」

 

 パキン、と『雷霆の剣』が砕ける。精霊を討って十年来精霊の力を浴び続けていた剣は限界が来ていた。精霊の力により剣の形を保てていたが、それを失い、完全に崩壊した。

 それは詰まり『精霊の力』が全てヴァハに還元されたにほかならない。

 バキッ! と音を立てヴァハの全身に亀裂が走る。

 

『【ライト・オブ・グローリー】』

 

 迫りくる極光。標的は、既に限界を超えた力により崩壊寸前のヴァハ───

 

「ヒヒ! ハハハハハハ! だからぁ、どうしたあ!?」

 

 限界が来た? それで諦める理由になるなら、そもそも精霊殺しなどなし得なかった。

 ましてや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ならば()()()()()()()()もやってみせろ。限界を超えたその先に───

 

『アハッ!』

 

 極光がヴァハを飲み込む。触れたあらゆるものを消し飛ばす破壊の奔流。光に飲まれ消えていく影に『精霊の分身(デミ・スピリット)』は勝利を確信する。

 限界を越えた先にも、いずれ限界が訪れる。

 『精霊の分身(デミ・スピリット)』は、一つの壁を越えた程度で倒せる敵ではなかった。

 ならば──

 

「───────ッ!!」

『────!?』

 

 限界を超えたその先の限界を、乗り越えた壁のそのまた先の壁を、超えろ!

 

「【(すさ)べ天の怒りよ】」

 

 ()()()()で『精霊の分身(デミ・スピリット)』を見据え、獰猛に笑うヴァハ。

 簡単なことだ。人の身で耐えられぬ力なら、人など捨ててしまえばいい。

 

「【カエルム・ヴェール】」

 

 魔力放出の雷とは比べ物にならないほどの濃密で膨大な雷を纏い突き進むヴァハ。白毛の槍を放つが雷に焼かれる。

 魔法吸収(マジックドレイン)の毛の、吸収が間に合わない。吸収する前に焼かれる。

 

【放電】(ディステル)

 

 ヴァハの蹴りが『精霊の分身(デミ・スピリット)』とオリヴァスの死体の繋ぎ目にめり込む。雷が爆発し、『精霊の分身(デミ・スピリット)』の体が、女の上半身が雷に焼かれながら吹き飛んだ。

 魔石が移った女の体を失ったオリヴァス・アクトの死体が白い毛を数割残して灰へと還る。

 『精霊の分身(デミ・スピリット)』の体は地面を転がり、足で受け取られ止まった。

 

「ハハァ。俺の勝ちだなあ………」

『…………『ミノス』ハ、ヤッパリ強イワネ………『アリア』モ、弱クナッテタケド強カッタ』

「あ〜、『アリア』なぁ。まあ仕方ねえさ………つか、記憶共有してるのかお前等。それとも死んで本体に情報を送んのか? まあ、丁度いい」

『………………?』

「テメェがダンジョンの何処で喰われたかは知らねえが、散々やられて分霊一匹殺すだけなんざ割に合わねえ………必ずお前を殺しに行く。首洗って待ってろ」

 

 そう言うと『精霊の分身(デミ・スピリット)』の体を蹴り転がし、胸に手を突っ込むヴァハ。

 

『……私二、会イニ来テクレルノ? 嬉シイ………待ッテルワ、『ミノス』………約束ヨ? 必ズ、私ヲ殺シニ(私ニ会イニ)来テ……』

 

 魔石が抜き取られる。『精霊の分身(デミ・スピリット)』は不完全な成熟体ゆえの幼い容姿で何処か寂しそうな、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべながら灰と成って崩れる。

 ヴァハは一瞥もせずに立ち去りその魔石を噛み砕き、飲み込んだ。向かう先には、アミッド。

 

「………っ、さて………」

 

 と、ヴァハの身体がふらつく。限界を超え、さらには己の肉体を作り変え、それでも本来のチカラが使えるはずないのに無理に引き出した反動だ。あとどれだけ意識を保っていられるか……。

 

「初の試みだ。うまく行かなくても、バケて出るなよ?」

 

 

 

 

 

「……………う………ん」

 

 アミッドは重いまぶたを持ち上げ目を覚ます。まず目に映ったのは、岩の天井に、壁。ダンジョンの中だ。だが、なぜ?

 ぼんやりとした頭が、だんだんとはっきりしていく。気絶する前の事を思い出し、慌てて飛び起きる。

 

「! ………………? これは、傷が………」

 

 あの女性型は居ない。それに安堵すると同時に、自分が瀕死どころか致死の重症だったことを思い出し、しかしこうして動ける程度には回復している事実に首を傾げるアミッド。

 

「ッ! そうだ、ヴァハは!?」

 

 医療に携わる者として興味深いが後回しだ。あの女性型に異常なほど執着されていたヴァハの安否確認の方を優先する。

 ヴァハはすぐに見つかった。すぐ近くに倒れていた。微かに感じる首の痛み。触れれば、血が手に付着する。恐らくヴァハの吸血だろう。ヴァハも目立った外傷に、深いものはない。勝った、のだろうか? 彼の事だ、勝ったのだろう。

 

「……………」

 

 胸をなでおろす暇はない。今は戦闘の余波で破壊されたダンジョンがモンスターを生むのをやめているがそれはこの階層だけ。それに、何時まで持つか。

 

「ヴァハ、起きて…………いえ、やはり良いです」

 

 仮面の人物、エインの襲撃の際一度ヴァハから離れた時に置いておいた毒妖蛆の体液(ドロップアイテム)を取りに行く。どうやら無事らしい。

 アイテムの詰まったバックパックを背負い、ヴァハの腕を己の肩に絡め歩き出すアミッド。

 このまま何事も起きなければいいのだがと祈るも、それが叶うならダンジョンで死者など現れない。

 ピシリと壁に亀裂が走り、モンスターが生まれる。

 リザードマン。生まれたて故に武装してないが、それでもアミッドにとっては十分脅威な相手。それがアミッドを見据える。

アミッドを見据える。

 

「────え?」

 

 だが、そのモンスターは一瞬にして叩き潰された。圧倒的な膂力を持つそれに、アミッドは呆然と目を向ける。

 

「…………その御仁は、あの戦いを見て、戦いたそうにしていた」

「………………え?」

「だが、見守ってくれた。手を出さないでくれた。自分は、その恩を返したい……送ろう。少し上に、人の住まう街があったな?」




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ヴァハ君のヒロイン

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