ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
ヴァハの言葉に顔を青くして後退るデメテル。
その目に映るのは恐怖。だが、ヴァハに向けられたものではない。まあ予想の範囲だ。
「…………なんの事かしら?」
「………ほほう」
が、すぐに表情を改める。本当に、何を聞いているのか分からない、そんなふうな声色に、表情。普段のほんわりした雰囲気。疑う者は、まず居ないだろう。
「ま、知らないつーなら仕方ねえか。明日、あんたの部下の首を一つ手土産に持ってくからそん時改めて教えてくれ」
「え…………あ…………えっ!?」
明日菓子折りを持ってくるとでも言うようにあまりに自然に、その言葉を紡ぎ立ち去ろうとするヴァハに一瞬呆けるデメテルだったが、その言葉を理解して目を見開く。
「ま、待って! どうして、そんな……私は、何も」
「だから、話はまた後日聞くって。明日で駄目ならその次の日に………安心しろ。最後の一人まで、きちんと持っていってやる」
「な、なんで………どうして、私が……あの子達が………お願い、お願いだから…………やめて、やめてください………」
神威の解放もせずに涙を浮かべ、人間に縋りつく女神にヴァハは笑う。
「じゃあ話せ」
「それは………だけど、そしたら…………」
「何、簡単なことだ。俺だってあんたが黒幕とは思っていない。事情は察してやれる。その上で、
「っ………う、あ…………」
顔を青くして、カチカチ歯を鳴らすデメテル。と、その時、ヴァハがその場から跳び退く。
次の瞬間、地面が破砕した。たった一人の人間の、拳によって。
「てめぇ、デメテル様に何してやがる! 死ぬか、ああ!?」
粗野な叫び声は、しかし女のそれ。ヴァハは目を細める。
「お前…………ああ………お前も一度、やりあってみたかったんだよな」
「何を言って………っ、てめぇ………ヴァハ・クラネル? なんのつもりでデメテル様に………」
「さてな。お前、そういうのを手っ取り早く聞く手段持ってねえの?」
「…………持ってるよ。とりあえず、殴り飛ばしてから聞くだけだ!」
そう言って、地を蹴り迫るのは『豊穣の女主人』が店員の一人ルノア・ファウスト。先程の一撃を見るに物理特化。
攻撃力だけならLv.5にも通用するだろう。
「はは、カモォン」
挑発するヴァハに向かって振るわれる拳。まともに受けるのは危険そうだ。故に、逸らす。あるいは威力が乗る前に拳を当て防ぐ。
「っ! クロエから話には聞いてたけど、あんた本当にLv.3かよ!」
「何なら更新する時間待ってやろーか?」
『豊穣の女主人』の中でも正面からの
ケラケラと笑うヴァハは拳の連撃に交ぜ放たれた蹴りを踏みつける事で抑え、かつバランスを崩させる。
そのまま喉を狙って放たれる抜き手に、ルノアは吠える。
「なめんじゃねえ!」
「───!?」
頭を振り下ろし額の骨でヴァハの指を砕く。そのまま体を起こす勢いを拳に伝え腹を殴りつける。
「ぐ、ごぼ!!」
内臓が破裂しゴボリと喉の奥から血が溢れ出す。背骨が軋み、ヴァハの身体が吹き飛び屋台の一つを破壊し瓦礫にうまる。が………
「【血は炎】」
「───くあ!?」
「ルノア!?」
近距離で返り血を浴びたルノアの身体が火に包まれる。
「俺の魔法はクロエ経由で伝わってねえのかよ」
瓦礫を押しのけたヴァハはケラケラと笑う。確かに全治一ヶ月は軽くないダメージを負わせたはずのヴァハは無傷だ。火を払ったルノアは再び舌打ちする。話には聞いていたが、理不尽すぎる回復速度。いや……
「てめぇ、わざと私の攻撃食らったな」
「へぇ、解るかぁ」
隙をついたつもりだっだが、あの時ヴァハの目は確かにルノアの拳を見ていた。彼の反応速度なら避けられたろう。なのにあえて受けた。ルノアを燃やす為だけに。それが決定打になるからではない。火に包まれた自分と、それを見て慌てるデメテルを見たかったからだろう。聞いてたとおり、性格が悪い。
「……………と、【ガネーシャ・ファミリア】も動き出したか」
不意に聞こえてきた足音。ヴァハは軽やかな動きで建物の屋根に登る。
「デメテル様、このまま保護されましょう」
デメテルは善神の代表格の一人。【ガネーシャ・ファミリア】も事情聴取だけで済ませてくれるだろう。そんな確信を持ってルノアはこの場にとどまることを提案するも、気付く。デメテルの顔が青い。
「だ、駄目………お願いルノア、私を連れて逃げて! 駄目なの、この事が、彼奴にバレたら、疑われた事を知られたら………!」
「デメテル様?」
「おーい……」
ルノアがデメテルの反応に困惑していると、ヴァハが屋根の上から声をかける。
「そいつに免じて少しはお前の頼みを聞いてやるよ。まずは逃げるぞ? こっちが人気がない」
「…………失礼します」
ルノアはデメテルを抱えると壁の僅かな突起を足場に屋根まで駆け上り、走り出したヴァハに付いていく。
「んで、結局どういう事よ。あんま、信じられないけどデメテル様がギルドや【ガネーシャ・ファミリア】に知られたくない事をやってるってのは、解ったけどさ」
流石に治安維持の【ガネーシャ・ファミリア】を恐れた時点で、ヴァハに非があるわけではないと判断する程度には知能があったらしい。クロエの評価はゴリラだったが多分チンパンジー程度にはモノを考えられるだろうと見つめるとムッと顔をしかめた。
「………なんか失礼なこと考えてない?」
「あん? ああ、チンパンジー程度の知能はあんだなと」
「ぶっ殺すぞてめぇ!!」
ケラケラ笑うヴァハの胸ぐらを掴むルノア。が、未だ青ざめているデメテルを思い出し手を離すとデメテルに近付く。
「デメテル様、どうしたんですか? その、彼奴の言うとおり、私はあんまり頭よくないけど、悩みを聞くぐらいなら………」
「…………駄目よ、ルノア………駄目なの。お願い、詮索しないで」
「俺はなんとなーく予想つくけどなあ………」
「それは…………」
「駄目!」
何だ、と聞こうとしたルノアをデメテルが止める。
「お願い、お願いだから。忘れて………何時ものように、何も無かったように過ごして。私も、そうするから……………」
「デメテル様…………」
「俺は、そうだなあ………条件飲んでくれんならいいぜえ」
「…………条件?」
「お前の血、定期的に飲ませてくれ」
「ざけんな!」
そう叫んだのはルノアだ。ヴァハが血を飲むと言う話は聞いていたがそれを大好きなデメテルにまで及ぼすと言うなら捨てては置けない。
「じゃあてめぇが代わりに血を寄越せ。あと、今日みたいに遊べ…………それがデメテルから血を貰わねえ対価にしてやるよ」
「…………っ! ま、待って! ルノアにも、酷いことをしないで」
血という物騒な言葉にデメテルが反応する。なるほどルノアが命をかけるわけだ。甘すぎる性格。だからこそ、なのだろう。
大方予想通り。彼女の後にいる何者かが黒幕だろう。彼女の従わせ方は人質。反応からして既に何人か殺している。
故に過敏になっている。いっそ目の前でルノアの血を啜れば、いい声で鳴くのだろう。
「別に痛くしねえよ、むしろ気持ちいいらしいぜ」
「クロエは、そのへん教えてくれなかったな」
「彼奴の血も何時か吸いてえな」
「……………デメテル様。私は大丈夫…………今夜は何もなかった、それで行こうよ」
「別段都市がヤバそうになったらバラす、なんてこたぁしねえよ。俺はそもそも、今回の黒幕をここぞという時にぶっ殺せりゃそれでいい。その間に死者が出ようと街が滅ぼうと関係ねえ」
「─────っ!!」
死者が出る、街が滅ぶ。その言葉にデメテルは固まる。己が片棒を担がされているそれを、改めて自覚する。
「何、お前は何一つ悪くないさ。守りたいものを守ろうとする、それの何処が悪だってんだあ? 仕方ないさ、お前は弱いんだから」
そんなデメテルを慰めるふりをしてボロクソ言うヴァハ。ルノアが肘を打ち付ける。
「それじゃあ、私はこれで。今度、
「どうせならお前もステイタス更新しとけよ」
ヴァハとルノアは立ち去る。残されたデメテルは、1人月を見上げる。
「…………ペルセフォネ。みんな、どうか、どうか無事でいて………」
無力な自分を恥じ、呪い、爪が食い込むほど拳を強く握る。
そして、深く息を吐いて目を閉じ、開く。
そこにはいつもの柔和な笑みを浮かべる女神が一人。月だけが、そんな哀れな女神を見つめていた。
ルノア、『豊穣の女主人』初の吸血対象。
デメテル、吸血対象ならず
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ヴァハ君のヒロイン
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