ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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ハイエルフとのデート

 その女性が歩けば、そこがまるで森の中になったかのように清涼な空気に変わったように錯覚する。

 老若男女問わずに思わず目を奪われる。

 美男美女の多い神々でさえ嫉妬する美貌は、それこそ美の神とも張り合えるだろう。

 美の神達のような露出はむしろほとんど無い。体に自信がある美の神は惜しげもなくその肌を晒すが彼女は逆に肌を隠す。それはつまり、その顔だけで周りの視線を集めているという事。

 

「目立つなぁ、お前…」

「第一級冒険者だからな」

 

 いや完全にお前の美貌だろう、と返したヴァハはクレープにかぶりつく。

 イチゴで出来た赤いソースが唇を汚し、すぐに舌で舐めとる。

 リヴェリアは一口一口が小さいが、おかげで口元が汚れることはない。

 

「ついたぞ。冒険者として、そこそこ重要なのはここだな」

「リサイクルショップ?」

「ダンジョン内での紛失物は拾った者に所有権が移る。ポーションなどは使われるがそうでないものは拾い主が使うか、手に合わず売るかの二択だ。ここは良く、紛失物が売られる………ダンジョン内で無くしものをしたら取り敢えずここに来てみろ」

 

 壁に立て掛けられている武器はなるほど確かに中古品だ。だが、手入れが行き届いている。十分使用できるだろう。

 

「店主のドワーフが元冒険者でな。気を利かせて整備してくれているんだ」

 

 リヴェリアの言葉にチラリとカウンターに座る偏屈そうなドワーフの店主を見る。今も短剣を磨いていた。

 

「まあ俺は基本武器持ってかねえし、鎧は何故か壊れて使い物にならなくなるがなあ」

「毎度毎度率先して死地に飛び込めば、鎧など簡単に砕けるさ………」

 

 と、呆れたようにため息を吐くリヴェリア。まるでLv.1で『インファント・ドラゴン』に挑みボロボロになって帰ってきたのにすぐにダンジョンに向かうかつてのアイズのよう。いや、アイズのように力を求めているのではなく、殺し合いを求めている訳だから万倍質が悪い。

 

「お前はもう少し命を大事にしろ。神ミアハも【医神の忠犬(ミーヤル・ハウンド)】も、お前の弟だって悲しむぞ」

「それが? 別にあいつ等に会えなくなったところで、俺ぁ悲しくねーしなあ」

 

 この男がもし【ロキ・ファミリア】だったら、きっと鎖で繋いででも止めたろう。だが、残念ながら他派閥。自分にそこまでして止める権利はない。

 

「死ねば人間それまで。死後再び巡り合うやつも居るらしいが、俺の場合女神のストーカーが数人いるから転生もできねえだろうしなあ………お、これ美味そう」

 

 と、露天で串焼きを買うヴァハ。2本買い、一つをリヴェリアに渡す。

 

「…………数人?」

「数人」

「…………そうか」

 

 リヴェリアはそれだけ応えると肉にかぶりつく。ジュワリと広がる肉の油。とても美味しい。

 しかし歩き食いなど、初めての経験だ。見慣れた町並みではあるが、何かを味わいながら歩くというのはなかなかどうして新鮮である。

 

「女神云々はおいておくとして、会えなくなったら辛いという人間はいないのか?」

「居ねえなあ」

「なら作れ。それだけで生存率はだいぶ変わる」

「あんたは居るのかあ? 浮いた話なんて出ようもんなら即座に噂になっちまう王族様に、そんな相手」

「私なら、アイナだな………」

 

 と、何処か誇らしげにも見えるリヴェリアの微笑み。恐らくは親友なのだろう。

 

「お前は性格はともかく、見た目はエルフの私から見ても中々いないと思う。恋人も作ろうと思えば作れるのではないか?」

「以前ローズの奴にも言ったが、ゴメンだね。愛された結果楽しみを奪われんのも愛した結果楽しみを我慢すんのも俺はしたくねえ………俺はこういう人間だ、だから俺を愛すると言うなら、その上で受け止めろって話だ」

「…………酷い男だ」

 

 愛する者と居るより、死ぬかもしれない殺し合いの方が優先度が高いけど、それでも良いなら付き合ってやるなどと良くもまあ言えたものだ。

 それは、絶対愛していない。

 

「まあ変な女にゃひっつかれるが」

「変な女?」

「自分を穢れてるとか言う根暗とか、他人の命を己の命より重く見る女とか、ショタコンの癖に誰かに甘えたがってる猫とか、死を司る女神とか、国より己の願望を優先する王女とか………」

「………最後のは私のことか?」

「いんや。アスフィ………てか、あんたも王族だったな………エルフの王族が森の外に出るなんてなあ」

 

 口ではエルフ至上主義の考えをおかしいと言いつつも、実際他種族を目にして嫌悪感を感じるエルフは多い。王族ともなれば更に。それが森の外に出ているのだ、セルディアのように世界を救うという使命もなく。それはかなりの異端だ。

 

「そうだな、初めの頃は大変だった。私を女として見る視線など、エルフからも少なくはあったが存在したというのにそれが他種族になったというだけで、途轍もなく悍しく思えてしまった」

 

 まあそれでも、王族(ハイエルフ)であるリヴェリアは、エルフの里では女として見られるよりはそれこそ芸術品でも見るかのような視線にさらされた回数のほうが多いが。

 

「実際、フィンやガレスとも出会った当初は最悪だった」

「そんな潔癖症の王族様がなんでまた旅に出た? お前の立場に憧れる里で蔑まれるハーフなんかも多いだろうに」

「いじめてくれるな…………先程、それは私か? と聞いたろ? 己の願望を優先した。ああ、その通りだ。私はずっと旅がしたかった。外の世界に憧れた………本の中に描かれる世界ではなく、己の目で見た世界を感じたかった………」

 

 そう言って虚空を見つめ笑うリヴェリアは、誰もが息を忘れるほど美しかった。周りの者たちはまるで空気そのものが輝いているように見えたと後に言う。

 

「ふーん、結構お転婆姫だったんだなあんた」

「お、おてんば………?」

 

 そんな事など言われた事がないリヴェリアは、思わず聞き返す。親友のアイナにだって言われたことがない。

 家族にだって汚らわしい他種族のいる世界に向かうなどと窘められたがお転婆などと彼女を呼ぶ者はいなかった。

 

「そうだろ? 外を見たいって理由だけで、王族の責務も捨てちまうんだ。これでお転婆じゃねえならなんだつーんだよ」

 

 ケタケタ笑うヴァハに、リヴェリアは頬を赤くして睨む。

 

「そういうお前はどうなんだ………そんな性格では、お前だって周りに迷惑をかけたんじゃないのか?」

「俺ぇ? 俺はガキん頃は楽しい事が何もねえと世界に退屈してたガキだったぜえ? (さが)を自覚したのは独り立ちできるようになった頃だしなあ」

「? 神ヘルメスからはお前が旅を始めたのは12年前からだと聞いているが?」

「…………………」

 

 4歳の頃ではないのか? と尋ねてくるリヴェリアに、ヴァハは無言で虚空を見つめる。あの槍、やっぱり自分で引っこ抜いてヘルメスに使っておけば良かったかもしれない。

 

「まあ細けえことは良いだろ。お前が森を飛び出したお転婆娘ってのは変わらん」

「お転婆とは、活発以外にも男勝りという意味もあるが? まあ、確かに説教ばかりで、一時期幼いアイズには怯えられたりもするような女だが………」

「まあ、別に今も十分可愛いと思うけどなあ」

「…………は?」

「いちいちムキになったりすんのは、子猫みたいで可愛かったぜぇ」

「────っ!」

 

 綺麗、美しい、凛々しい、可憐などと言われることには慣れているリヴェリアだが、可愛らしいなどと言われるのは初めてだ。思わず言葉に詰まる。

 

「た、旅の話を聞かせてくれないか?」

「あ?」

 

 リヴェリアは、これ以上はなんだかむず痒く感じるので、話をそらすことにした。

 

「私は、外の世界に憧れていると言ったろ? 本当ならオラリオは寄るだけのつもりだった。今でも、旅は続けたい。いずれ、後を任せられるものが出来たら再び旅に出るつもりだ………良ければ、お前が見てきた景色を参考にさせてはくれないか?」

「綺麗な景色とハラハラする景色どっちが聞きてえ?」

「綺麗な景色で頼む、冒険は、オラリオだけで十分だ………」

 

 

 

 

 と言う訳でヴァハが見てきた景色で、一般的に綺麗だと言われる場所を教えてやる。

 雨が降らぬ地でありながら遠くから続く川があり、その終点は滝となっており、一年中虹が見れる湖。

 まるで雪原のように白い景色が広がる砂の大地。

 色とりどりの花が咲き乱れる花畑。

 それら一つ一つの景色をできるだけ細かく話してやるとリヴェリアは興味深そうに耳を傾けた。

 

「………ああ、それときれいな景色がみてぇならこの前ヘルメスが丁度いいもん持ってきたなあ」

 

 そう言うとヴァハは一度ホームに戻り、酒瓶を持ってくる。

 

「……それは?」

「精霊の祠付近で取れた実から作った果実酒………煙草と一緒だ……」

 

 ちなみに煙草の苗はヴァハが周りの植物が影響を受けたのを見て植えてたりする。精霊の魔力、神聖視されるそれを娯楽品のために使うのは、精霊を隣人とするエルフが聞けば卒倒物だろう。

 

「オラリオにも精霊はいるからなあ…………」

 

 水精霊の護符(ウンディーネ・クロス)火精霊の護符(サラマンダー・ウール)など、精霊の加護が与えられる品も多いオラリオには、当然精霊もそれなりにいる。

 

「下位ではあるがなあ。そういう奴等が肉体を失って集まると少々厄介だったりするが…………と、この辺でいいか」

 

 人気のない、街頭も当然存在しない林の中。ヴァハは盃を3つ用意し酒を注いでいく。

 

「そら、来たぞ」

「………これは…………」

 

 星と月以外に光源のなかった林の中に、小さな光が1つ、2つと現れる。間違いなく、精霊だ。意思も持たぬ下位精霊ではあるが集まればかなりの魔力が大気にまじる。

 

「…………綺麗だな」

「普段これだけの密集すんのは、それこそ精霊の森ぐらいなもんだ。酒の匂いを感じ取ったオラリオ中の精霊が集まって漸くこの光景が見れるわけだな」

 

 まるで星空の中に訪れたかのように、周囲に光が集まってきた。盃に頻りに近づいてはフラフラと飛び、別の光と入れ替わる。

 

「んじゃ、お前も飲めよ」

「あ、ああ…………」

 

 盃を渡され、酒を注がれる。光の反射などは関係なく、それ自体が微かに輝く酒。こんな酒、初めてだ。

 精霊の住まう祠の近くが精霊の魔力を帯びるのは知っていたが、そこは聖域。そこに生った実を採ろうと考える者などまず居ない。

 

「っ────んぅ!?」

 

 口の中に流し込み、口元を押さえて涙目になるリヴェリア。口の中で雷でも発生したかのような痺れ。酸味に似た、しかし異なる刺激。吐き出さなかったのはエルフの矜持か女の意地か………思わずヴァハを睨むが、口の中で味が変化していく。

 

「……………甘い」

 

 甘すぎない、上品な甘さが口の中に広がる。最初の刺激も合わさり、引き立てられる。

 

「………最初の刺激はなんだ?」

「雷の、それも大精霊の魔力を浴びてたわけだからなあ………口の中がバチバチ来たろ? 慣れればくせになるぜ」

「…………この酒、並の精神力回復薬(マジックポーション)より魔力を蓄えられる、というか私の上限超えているんだが…………」

「精霊の魔力浴びてるからなあ」

「精霊、すごいな………」

 

 感心しながら酒をチビチビ飲むリヴェリア。流石に一気には飲めない。舌がピリピリするが、その分甘さも引き立つ。先程ほどではないが………。

 

「しかし、夜に酒を飲むことは珍しくもないが、たまにはこうして自然の中で飲むのもいいものだ。そこに精霊といるとなればさらに………」

「なら、たまには飲ませてやろうかぁ? ヘルメスのバカにゃまた運ばせるから、そん時に呼んでやんよ」

「…………ああ、頼む」

 

 そう言ってヴァハに視線を向ければ、ヴァハは月を見上げていた。精霊の光に照らされるその横顔は、何処か神秘的で…………

 

「……………?」

 

 何故か直視し続けられなかったリヴェリアは慌てて目を逸らすのだった。




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ヴァハ君のヒロイン

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