ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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弓の魔物

 カウス・アウトラリスと、ヴァハが適当に名付けたモンスター。名の意味は弓。その名の通り弓を携える馬脚の巨人はヴァハを睥睨する。

 忌々しい。気に入らぬ。

 神に対する敵意に代わり、別の本能が植え付けられたモンスター。

 アンタレスに狙われこの地に神の権能を呼び寄せるヴァハ・クラネルと言う亜精霊を滅ぼすべく生み出されたカウス・アウトラリスは息を吸う。

 

「─────オオァッ!」

 

 ビリビリと大気を揺する、それ自体が破壊力を持つかのような咆哮。それは、この階層の王たる身が命じる号令。

 次の瞬間、地面を突き破り無数の漆黒の杭が階層全体に生える。

 ウダイオスと言うモンスターの戦い方を思い出すアリシアだったが、生えた杭はどれもこれも見当違いの方向で、ヴァハ達を傷つけては居ない。そもそも、これは杭ではない。

 

「…………っ。さけろ、アリシア」

「へ?」

 

 ヴァハが走り出すとカウス・アウトラリスは近くの杭を掴み、引き抜く。

 幅15C(セルチ)、長さ3(メドル)程の()()を、弓に番える。

 

「モンスターが、弓矢を!?」

「させるわけゃねぇだろうがあ」

 

 弓は、構え、引き、狙う動作が必要となる。如何なる弓の名手でも、それを無視することは不可能。圧倒的な隙にヴァハは詠唱要らずの魔法が如きスキルによる雷を放つ。

 精霊の力を取り込んだが故に二級冒険者の魔導士の長文魔法にも劣らぬ威力を持つそれは、しかしモンスターに当たることはなかった。

 

「…………あ? っと、ちぃ! 【血に狂え】!」

 

 雷は無数に枝分かれし、地面から生えた矢に引き寄せられ消える。

 避雷針のようだが、あり得ない。精霊の雷が、魔力によっておきた世界の変化が高々物理法則に支配されるわけがない。もしそうなら雷はまっすぐ飛ぶはずがないのだから。

 

「っ! 完全に俺対策か………」

 

 飛んできた矢を血の鎖を生み出し引き寄せることで回避し舌打ちするヴァハ。おそらくこの無数の杭は雷属性の魔法を問答無用で吸い取るのだろう。

 枝分かれし、無数に散ったことから考えて一本一本が吸収できる量と速度には限度がありそうだが、と、ヴァハに影が射す。

 

「速──ぐっ!?」

 

 油断していた訳ではなかった。ほんの一瞬、敵の扱う武器を解析しようと意識を向けた。その僅かな隙に、接近された。

 機動力がこれまであった敵とは比べ物にならない。回避は最早不可能。腕を交差させるも、その巨大な拳で地面に叩きつけられた。

 

「───っかふ!」

 

 肺の中の空気と共に血を吐き出す。カウス・アウトラリスは、追撃しようと蹄で地面を砕きながらかけてくる。

 振りあげられた両前足。体が、体の反応が精神に遅れをとる。脳が揺らされたのか、視界が歪む。

 

「くぅ!」

「───」

 

 ドゴォォン! と爆音を響かせ階層全体が揺れ砂煙が舞う。ゴロゴロと地面を転がりながらも腕の中のヴァハを怪我させぬように包み込んだのは、アリシアだった。

 

「エルフにこんな助けられ方するタァ、長生きしてみるもんだねえ」

「わたくしとて、目の前で死にそうになっている方を見捨てるほど腐ってはおりません。その、そういう同胞の里もあることを知っていますが………というかまだまだお若いでしょう」

 

 軽口を叩くヴァハに呆れたように呟くアリシア。ヴァハは立ち上がると体の調子を確認。片腕がおかしな方向に曲がっている。内臓は、少し潰れた。

 

「チッ……まあ()()()相手にするよりはマシかぁ」

 

 そう言うと赤い液体が入った小瓶を取り出し中身を飲み込む。傷はすぐに癒える。

 

「随分高い効果のポーションですね」

「いや、アミッドの血だ。俺はそういうスキル持ってかっなあ…………いざとなればお前の血も分けてもらうぜ?」

 

 そう言うと、何かを言おうとしたアリシアをおいて駆け出すヴァハ。

 砂煙が晴れ、己がヴァハを踏み潰していないことに気付いたカウス・アウトラリスはすぐさま周囲を見回し、ヴァハに気付くと近くの矢を引き抜き番える。

 だが、狙いをつける前にヴァハの姿が消える。少なくともアリシアにはそう見えた。

 

「オッ──!」

 

 カウス・アウトラリスが矢を放つ。着弾の瞬間、足を止めたヴァハの姿がアリシアの目にも映る。どうやらカウス・アウトラリスにはヴァハの動きが見え、さらに狙いを定めることすら可能らしい。

 再び姿を消したヴァハを目で追っているのか忙しなく眼球や首を動かすカウス・アウトラリスが再び矢を番えるのを見て、アリシアが魔法を放つ。

 

「ヴォ!?」

 

 Lv.4の純粋な『魔導師』の放つ魔法。階層主と言えど、無視できる威力ではなかった。無理やり顔をそらされる。無視はできぬが、その程度。

 アリシアとヴァハのコンビは殲滅戦には向くだろうとフィンが組ませた即席チーム。目的は殲滅戦であって、階層主戦を想定していない。だが───

 

「良くやった」

 

 組む相手が誰であろうと、ヴァハ・クラネルが弱くなる訳ではない。

 見失ったヴァハを探そうと首を動かした瞬間、カウス・アウトラリスの首がゴドンと地面に落ちた。首を失った体が、ゆっくりと倒れ轟音を響かせ───

 

「や、やった────え?」

「っ!」

 

 響かせる、事はなかった。一瞬にして首が再生したカウス・アウトラリスは倒れかけていた体勢から勢いよく立ち上がりヴァハを弾き飛ばすと再生した眼球で睨みつける。

 

「オア───」

「面倒くせえ。さっさと死ね……」

 

 拳を構えるカウス・アウトラリスだが、ヴァハが次の行動に移るほうが早い。首を失えば一瞬とはいえ思考を奪える。もう一度首を落として、再生する前に魔石を───

 

「オ、アアアアアアアアアアアアッ!!!」

「「─────っ!?」」

 

 空間全体が震え上がる程の咆哮。ヴァハの体が、ギシリと錆び付いたように動きを止める。

 『咆哮(ハウル)』。怪物が放つ恐赫(うた)は相手の動きを強制停止(リストレスト)に追い込む雄叫びに、ヴァハは抗う。時間にして一秒、抵抗(レジスト)に成功。

 だが、その一秒は余りに長い。感嘆物の早業で矢を番え放つカウス・アウトラリス。その矢は、先程ヴァハの雷を吸いこんだものの一つ。

 バチリと紫電が弾け、轟音が鳴り響く。

 

「ぐ、が───!」

 

 壁まで吹き飛ばされたヴァハの、片腕から胸にかけて消し飛んだ。即座に再生させるヴァハだが、動き出す前にカウス・アウトラリスが迫る。

 先程と似た状況、しかし今回、アリシアは動けない。怪物の放った悍しき咆哮に、動きを封じられていた。

 本日3度目の、轟音が響き渡った。




カウス・アウトラリス
周囲に雷魔法を吸い込む矢を大量に出現させ、本体も耐性がある雷使いの天敵とも言えるモンスター。
穢れた精霊より弱いが相性的な問題でヴァハを圧倒する。名の由来は射手座の星。


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ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員
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