ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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弓の魔物 決着

 人間の体は水風船みたいなものだ。7割が水分で出来ている。切り取ってみれば全身穴だらけで穴の中を赤い液体が通っている。

 何かの衝撃で潰れればあっさり破裂し周囲を赤く染める。

 

「ヴォ、ヴオ、ヴオオオオオオオオ」

 

 辛うじて人の形を保ち血に沈むヴァハを見てカウス・アウトラリスは勝利の咆哮を上げる。後は、母の中に入り込んだ別の命を殺すだけ。

 

「────っ!!」

 

 ギロリと巨大な瞳がアリシアを睨めつける。体は、まだ動かない。先程の『咆哮(ハウル)』の影響は既に解けている。しかし恐怖に縛られる。

 忘れていたわけではない。ダンジョンとはこういう場所だ。どんな英雄だって、駆け出しだって例外なく突然死ぬ。

 しかし【ロキ・ファミリア】の遠征で、何度も全員無事で帰還する事を数年繰り返すうちに、心の何処かに甘さが出来た。ダンジョンは、そんな甘さを見逃さない。ダンジョンの中で、慢心は命取りだ。

 そしてそれは、死を確認せずに殺したと思い上がったモンスターにも言えることだ──

 

「───!?」

「っ!」

 

 火山のように湧き上がる炎の柱。蛇のように蠢き、カウス・アウトラリスに絡みつく。

 

「グオオオオオオ!?」

「カッ、ハハハハハハハ! なぁに油断してやがる!? 殺し合いしてんだぜ、息の根を止めるまで慢心するんじゃねえよお!」

 

 流した血を魔法により炎に変えたヴァハは金色の瞳を輝かせ、炎の中で笑う。カウス・アウトラリスは雷精霊の気配を感じ取ったダンジョンが生み出した耐雷特化。炎への耐性は少ない。ましてやヴァハは文字通り致死量の血を流したのだ、その炎の量も温度も、これまでとは比べ物にならない。

 

「なああ、アルテミスの気配が消えたなあ。だから俺が死んだと勘違いしたのかあ? 駄目だぜ、きちんと脳を潰して喉を裂いて、心臓を抉れえ。俺みたいに不死身に近いやつはなかなか死なねえからなあ」

 

 ゲホゴホ血を吐きながら笑うヴァハ。流石に重症過ぎる。アミッドの血による治癒力のストックも尽きた。

 とはいえ、一つだけいいニュース。ヴァハをここに落とす原因となった、ヴァハを狙ったアルテミスの矢、精霊を狙ったアンタレスの弓が、消えた。故に勘違いしたのだ、ヴァハが死んだと。

 

「……………あ」

 

 ヴァハはへたり込むアリシアの前に移動すると動けない彼女を見下ろす。

 

「………立てるかあ?」

「っ………」

「はっ。まあ良い、役に立てねえならせめて役立て」

 

 そう言うと、肩を掴み立たせる。そのまま細い首へと噛み付いた。

 

「っ!? あ、くう………!」

 

 ジュルジュルと音を立て、血液が己の中に満ちた何かと共に吸われるような感覚。感じたことのない多幸感が全身に広がる。自分が認めた者以外との肌の接触すら嫌うエルフに対し、粘膜が押し付けられた。だというのに抵抗出来ない。抵抗したくない。

 牙が首から抜ける。名残惜しさを感じヴァハを見上げればヴァハはその金の瞳を細めカウス・アウトラリスを見ていた。

 用事は済んだとばかりにアリシアから興味が失せている。

 

「ヴオオオオオオオ!!」

 

 と、炎に包まれたカウス・アウトラリスが突っ込んでくる。ヴァハはアリシアを抱えるとその場から飛びのく。

 

「戦わねえ嬢ちゃんはそこでじっとしてるんだな」

 

 一瞬にして壁際に移動したヴァハはそれだけ言い残すとカウス・アウトラリスに向かって飛び、頬を殴りつける。炭化した細胞は再生せず、修復の邪魔をしていたが今の一撃で砕ける。

 とはいえ少しずつではあるが内から再生した肉が炭化した部分を治していく。時間の問題だろう。

 

「オオオ、アアアアアアア!!」

 

 ギョロリと水分が沸騰し激痛を与えていた瞳を復活させ、ヴァハを睨みつけるカウス・アウトラリス。

 彼が母より与えられた使命はこの地に神の力が向けられる要因の排除。神の力を扱うアンタレスが討たれ、アルテミスが逝った今彼に残るのは人類を殺すモンスターとしての本能のみ。

 自分は人間を殺す存在だ。人間を超える存在を殺すために生まれた自分が、敗北するなどあるわけが無い!

 

「良いねえ。良い目だ………すぐにえぐり出してぐちゃぐちゃにして捨ててやるよお」

 

 雷霆の剣を構え笑うヴァハ。その姿が霞む。

 

「オオッ!」

 

 関係ないとばかりにカウス・アウトラリスは両前足で地面を踏み砕く。周囲数10メドルで地面がひび割れ破片が中に浮かび上がる。さながら即席の城壁。破片と共に打ち上げられたヴァハは瓦礫を蹴りながら空中を三次元的に移動する。

 学ばぬ奴めと、カウス・アウトラリスはそんなヴァハを嘲笑う。

 

「オオォォアアァァアアアアアアアアア!!」

 

 相手の動きを強制的に止める咆哮が響き渡る。

 先程と同じだ。動きを止めたヴァハを全力で殴りに行く。魔馬の下半身による高速移動、放たれる拳。必殺を確信したカウス・アウトラリスの時間感覚が伸びる。これからひしゃげていくであろうヴァハを、しっかりと見るためとでも言うように。

 そして、引き伸ばされた感覚の中で確かにその光景を見た。

 自身の拳に対して右足を突き出し触れる瞬間に曲げ衝撃を殺しながら、手の甲まで駆け上がるヴァハの姿を。

 

「────!」

 

 時間感覚が戻り手の甲の骨が踏み砕かれる。ヴァハの姿が消え、右腕が肩から切り落とされた。

 

「オオオオ!?」

「ギャーハハハハハ!」

 

 混乱するカウス・アウトラリス。背中から笑い声が聞こえた。

 

「知ってかぁ? 人間の体は電気で動いてんだ。たとえ体の動きを封じられてもお、電気を流して動かしゃ問題ねえんだとよお」

 

 体外に発した電気は矢に飲み込まれる。だが体内の電気は別だ。故に己の中で微弱な電気を流し、動かなくなった身体を無理矢理動かしたヴァハはカウス・アウトラリスの脊椎を切り裂く。

 

「グゥ! ゴアアアアアア!!」

 

 神経を切り裂かれ、しかしすぐに治癒しロデオのように跳ね回るカウス・アウトラリスの背中から飛び降りたヴァハは周囲に乱立する柱のような矢の一本に降りる。

 

「ガアアアアア!」

「ハハァ!」

 

 右腕を再生させたカウス・アウトラリスは拳を振るい、ヴァハはかわしながら剣を振るう。一進一退の攻防。基本性能(スペック)や相性で勝るカウス・アウトラリスに、技術と経験で勝るヴァハ。

 そう、本来なら勝っているのはカウス・アウトラリスだ。なのに、ヴァハは技術と経験と言う積めば誰でも手に入るそれで、圧倒する。

 一撃一撃が甚大なダメージを与えるであろう拳の暴風雨の中に、恐れることなく突っ込む。

 ああ、その姿は見るものが見れば英雄に見えるかもしれない。顔は狂気に染まっているが。

 

(決定打にかける……)

 

 自身の血を塗りたくり炎の剣と化した雷帝の剣を構えるヴァハは、冷静に戦況を見据える。

 ヴァハの火炎魔法は超短文詠唱。『魔導』を持たないヴァハからすれば大した威力のない魔法。血を炎に変える特性上から、血を流すデメリットを無視すればその分高いメリットも返ってくるがアリシアの血だけではそれを行う程の回復は出来ない。かと言って、雷も殆ど矢に飲まれ、仮に届いたとしても雷に耐性を持つカウス・アウトラリスにはほとんど無効化されるだろう。

 アンタレスが滅んだ今、ダンジョンが無理して魔物を生むことはないだろう。あれだけ無理したあとなら今夜一晩ぐらいはもうモンスターを生まないだろうし、自壊覚悟で精霊の力を全開放すれば通じるか?

 通じるだろうが、その場合免疫機構が動くだろう。カウス・アウトラリスを殺せる程の雷撃は、ダンジョンにとっても無視できぬ威力になる。

 

「ぐおおおおおあおお!」

「だからあ、効かねえよお! 学べやバァカ!」

 

 再び『咆哮(ハウル)』を放ったカウス・アウトラリス。しかしヴァハは体内に電気を流し身体を操る。カウス・アウトラリスは動きを止めたヴァハに当てる気だったのか、地面から抜いていた雷を吸い込んだ矢の一本を………()()()()()

 

「────!?」

 

 握りつぶされた矢から雷が迸る。周囲の矢に吸い込まれながらも、その一部がヴァハに当たる。ダメージは、ない。だが、体内の電気信号が乱れ体が硬直する。

 

(こいつ、まさか───)

 

 偶然、ではないだろう。狙ってやった。

 単純に矢を砕き雷を利用する()()があったのか、或いは………人間の体が電気で動くと言った()()()()()()()()()()()()()か。

 体内電気を乱され、動きを止めたヴァハにカウス・アウトラリスが腕を伸ばす。拳ではない。開いた指。捉え、握りつぶす気なのだろう。回避、間に合わない。

 

「グオオオオ!?」

 

 だが、カウス・アウトラリスに大量の水弾が襲いかかりカウス・アウトラリスもまた動きを止めざるを得なくなる。ヴァハが瞳だけを動かすと氷の矢を弓に番えたアリシアの姿があった。

 

「取り消しなさい! 私は、戦わない少女などではありません。私は、冒険者です!」

 

 魔力が高まる。残った魔力のほとんど全てを使ったのであろう矢は、放たれる前から周囲に霜を張っていく。

 

「【グレイス・サギタリウス】!!」

 

 放たれた氷の矢は着弾と同時にカウス・アウトラリスの体を濡らしていた水分を凍りつかせる。それでもなお、氷を砕こうとするカウス・アウトラリス。

 だが、ヴァハが迫る。先程の逆、動けなくなったカウス・アウトラリスに、ヴァハが攻撃を加える。

 

「じゃあな、ダンジョンの輪廻に戻ったら伝えとけ。今回も楽しかったってなあ!」

 

 炎を纏った雷帝の剣が、氷ごとカウス・アウトラリスの体を焼き切っていく。バキリと一際硬い何かを砕く感触と共に、カウス・アウトラリスは蹄と弓矢を残して灰に還った。

 

 

 

 

 

「………すいません、手間をかけさせて」

「構わねえよお。俺は回復できたからなあ」

 

 ヴァハは精神枯渇(マインド・ダウン)で動けなくなったアリシアを背負いながら笑う。あの後再び彼女から血を貰った。いや、貰ってない。奪った。

 嫌がる彼女を押さえつけ首に噛み付いたのだ。その時点で大人しくなったが。

 

「………………」

 

 その事を思い出したのか、首を回した腕に力を込めるアリシアだったが回復しきっていない体ではヴァハにダメージを与えられるはずもなかった。

 

「こういう事は二度としないでください………」

「良いぜ。お前の血よりアミッドやフィルヴィス達のが美味えし」

「………………」

 

 そうこう話している間に、地上に出た。地上では、空から光の粒子が降っていた。

 

「………これは?」

「ああ、神の力(アルカナム)だなあ」

神の力(アルカナム)?」

 

 本来なら地上で顕現するのは帰還時かルール違反を犯した場合のみ。しかしアンタレスにより地上で顕現した術式に込められたその力は、使用者を失ったことにより解けて散っていく。高純度のエネルギーだ、枯れた森も命を吹き返すことだろう。

 

「ま、ようは一件落着って事だ………このままアミッドのところに行くかぁ」

「あ、あの、その前におろしてください………もう歩けるので」

「ガキがいっちょ前に無理すんな」

「私の方が年上ですわ!」

「ああ、そういや俺16って事になってたなあ………ババアが無理すんな」

「バ───っ!?」

 

 ギャイギャイ叫ぶアリシアだが、そのせいで目立つ事に気付いていない。オラリオの中のエルフの中でも、温厚ではあるがやはりエルフらしく他者との接触を嫌い、【純潔の園(エルリーフ)】と名付けられた彼女が男に背負われてそれ自体は嫌がっていないという事実が余計視線を集めている事に、気付かない。




感想お待ちしております

ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員
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