ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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アストレア・レコード、最高でしたね。
アルフィア綺麗だった。ザルドとエレボスは格好良かった。


特別編

 その少年は生まれてきた弟を母に唆されるまま抱き上げる。小さな体だ。母譲りの白い髪と父譲りの赤い瞳。

 自分とは似ても似つかぬ瞳と髪の色。

 

「可愛いでしょ? 今日から貴方もお兄ちゃんよ」

「ふーん」

 

 赤子と同じく白い雪のようなから髪色の美しい女は儚げに微笑む。ベッドから起き上がれる事など1年の内に数えられる程しかないくせに良くもまあ二人目を生んだものだ。

 よほど愛した男との子が欲しかったのだろう。

 

「よしヴァハ、お前はベルを持て。私はメーテリアを抱える。ちょうど夕焼けがきれいだ、行こう!」

「産後の病弱女を外に連れ出すんじゃねえよおっさん」

「私のことはお父さんと呼びなさい。ダディでも可だけどネ!」

 

 いちいち大袈裟な、道化のように振る舞う赤い瞳の男にヴァハと呼ばれた少年は面倒臭そうな顔を向け、腕の中の赤子を渡す。

 

「外で遊んでくる」

「おう。また獣やモンスター狩りか? 危なくなったら叫ぶと良い。私がスグに飛んでいこう! まあヴァハが助けを求めるような状況で私に出来ることなんて君を抱えて全力で逃げるぐらいだけど。しっかーし! 団長やザルドも呆れ返させ、超怖い義姉からも逃げ延びた私の逃げ足(あし)は子供一人抱えても健在だとも!」

 

 ハハハと笑う男を胡散臭げに見つめたあと、どうでも良くなってきたのでその部屋から去るヴァハ。母も父も冷たい息子の態度に少し落ち込んだ。

 

 

 

 

 

 少年にとって父と呼べる男は、取り敢えずウザいの一言にすぎる。村人達はいちいち仰々しいふるまいを行う彼を見て笑みを浮かべる。

 彼が息子自慢をすれば、可愛い可愛いと褒め、自分達も幸せそうな顔をする。それが少年には何一つ理解出来ない。

 別段美醜の感覚に狂いがある訳ではないと、思う。

 黄金色の稲と夕日の景色を見れば、それが綺麗だという事は知っている。

 (ベル)が笑う姿が、可愛らしいのだと解る。

 ()()()()()()()()

 

──不愉快だ。お前のような者が、あの子の腹から生まれたなどと。与えられた優しさを知りながら理解できず、返す事もできぬ欠落品め。貴様の息遣い、鼓動、足音、その全ての雑音が癪に障る。

 

 愛する妹が可愛がる息子を、愛する妹の前でも不快感を隠しきれずに貶んだ、嫌悪した伯母をふと思い出す。

 思えばあれが始まりだったのかもしれない。肌を刺すような殺気に、初めて死を知覚した。死にたくないと思った。生きていたいと思えた。灰色の世界が色付いた。

 それから少年は命の危機を求めた。あの時の感覚を求め獣を、モンスターを、時には人を殺しに行き、殺されに行く。

 楽しかった。楽しかった。失えば終わりのその行為の先にこそ、終わらぬ明日にこそ価値を見出した。

 己の髪と、父から受け継いだ鮮やかな血の赤(かみ)と受け継ぐことはなかったが母の血の気の引いた白(かみ)が少年の好む色。

 人やモンスターの悲鳴と怒号、恐怖の叫びと怨恨の咆哮は母が窓辺から耳を済ませる川のせせらぎや鳥の鳴き声なんぞより遥かに心地良い音色だった。

 鼻をつく血の匂いは父と呼べる男が母に持ってくる野花よりよほど芳しい。いや、ていうかあの男たまに臭いの持って帰ってくるからなあ。母はそれでも喜ぶが……

 まあ、そんな少年だから当然村人達は畏怖する。一応は自分達の平和を守ってくれているのだろうが、2桁にも及ばぬ子が、自分達では到底手が出せぬそれらを殺すのだ。その力が己達に向けられる事を恐れる。

 

「またボッチしてる」

 

 家の壁によりかかり未だ赤子のベルに腰の引けた剣技を披露する滑稽な道化師(ちちおや)を眺めていると上の方から声がする。顔を上げれば純白の輝きが見える。

 陽光に照らされ僅かに光を反射した母だ。

 

「たまにはお父さん達と遊んできたら?」

「何をして?」

「うーん。お兄ちゃんは強いんだぞぉって、お父さんをボコボコにしちゃうとか?」

「あいつと戦ったところで面白いことも何もねえよ」

 

 向こうは殺す気もにもならないだろうし、仮になったとしても、楽しむ暇もなく終わる。

 

「生意気な子に育っちゃったなあ。は、まさか反抗期!? 反抗期なのね? お母さんどうすれば……」

 

 夫に影響されたのかヨヨヨ、と泣き真似をする母に少年は胡散臭げな瞳を向ける。コホン、とわざとらしく咳をした母はしかしむせたのかゲホゲホ咳き込む。寝てれば良いものを何をしているのかこの馬鹿は。

 

「むぅ、お母さんなのに馬鹿にされている気がします」

「安心しろ。気のせいじゃねぇ。俺はお前らを馬鹿にしてるぜぇ」

「お母さんはともかくお父さんを馬鹿にするのはやめなさい。あの人は、本当はすっごく強いんだから」

「はぁん?」

 

 あの逃げ足だけが取り柄の男が強い?

 恋は盲目というがこの女の場合頭が残念なのもあるのかもしれない。

 

「だってあの人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「────」

「本当に皆が危ない時は、絶対に逃げない。逃げられる筈の足は、置いてかれた人と一緒に逃げる為に、危険に向かって走る。一緒に逃げて、危険を増やしただけと怒られて、救えて良かったと笑う………貴方のお父さんのように、強いから挑めるんじゃくて、弱くても挑める人なの」

「それが何故尊く思えるのか、俺にはてんで理解できないねぇ」

 

 目を細め夫を見つめる母にヴァハはそう切り捨てた。母もその返答は予想していたのか何も言わない。

 どこか悲しそうに微笑むだけだった。

 

 

 

 

 父と呼べる男が死んだ。弱いくせに、逃げ足だけは誰よりもあったくせに、守るために残り、戦い死んだ。なんとも愚かで無様な最期か。

 父親の死も理解できぬ弟は村の雰囲気を肌で感じ時折泣き出す。泣かぬ自分を村人達は敵のように睨む。

 父の死と同時期に、母も日に日に弱っていく。

 

「ごめんなさい………二人を残していくことになって」

「残されるのは一人だ。俺は、別段悲しくもない。残されたと感じるなんて、あんたの勝手な思い込みだ」

 

 薄情を通り越して無情とも言える息子の言葉に、しかし母は笑い、おいで、と手招きする。もはや上体すら持ち上げられず、震える手を上げるだけで息が乱れる死にかけの女を、人は哀れと思うのだろうかと他人事ように考えていると、ベルの柔らかな髪を撫でていた手がヴァハの頬に添えられる。

 

「大好きよ、二人とも。愛していたわ」

「俺はあんたを、いいや、あんた等を愛していない」

「いいえ、貴方は、私達を愛していたわ」

「………?」

「だって貴方は、自身の喜びを見つけながらも、()()()()()()()()()()。貴方を愛する私達の為に、残ってくれた」

 

 確かに、殺し合いを好む彼が本来向かうべき場所があるとするならそれはオラリオを措いて他にないだろう。モンスターと人のみならず、人と人とが殺し合いを行う暗黒期とやら。なるほど誂向きの場所だろう。

 胡散臭い、少年が生まれる原因となった旅の神を名乗る不審者から念を押されているが無視して向かう事だってできた。理由があるとすればそれは、家族がここに居るから、母はそう考えたのだろう。そう考えたかっただけだろうと、息子は切り捨てる。

 

「向かう方法がないだけだ。ここからあそこに向かう馬車なんてないし、あのクソ神はついてこないよう細心の注意を払う」

「本当に……?」

「本当だよ」

 

 もし向かう方法があったのなら、きっと向かったろう。血生臭いこの世の地獄に足を踏み入れた事だろう。

 

「そう……でも、残っていてくれて、嬉しかったわ。ありがとう。ベルを、守ってあげてね」

 

 頬に添えられていた手が頭を撫でる。力の入らぬその手は、やがて糸が切れたように滑り落ち寝台の縁から垂れ下がる。

 

「………ふぇ…………うわああああああああ」

「とと、泣くなベル。近所迷惑になる」

 

 母の死を感じ取ったのか泣き出したベルをあやしながら、近所への報告と、数日後に引き取りに来るらしい父方の祖父とやらの家に向かう為に引っ越しの準備など、やる事が多い。その間弟の面倒まで………。気が滅入る。

 

「……………………」

 

 腕の中で泣く弟。未だ道理を理解出来ぬ赤子ですら、喪失感に涙を流す。ヴァハの頬を濡らすものは、何一つ無い。

 母の躯を見晴らしのいい、山の開けた場所に埋めてやる。村が見渡せる、母の体調が良い日に父と呼べる男が良く連れてきていた場所だ。ベルが生まれてからは来たことがなかった。

 半分以下しか埋まっていない父の墓と同じ場所だ。

 誰からも愛される人だった母の死に、父の時以上の嗚咽が村を包む。やはり泣けぬ少年に向けれる忌々しげな瞳。中には弟を取り上げようとする者達もいたが一言断るだけで怯えたように逃げていく。

 数日後、祖父を名乗る老人が現れた。なかなかの好々爺であるその老人は村娘の尻を撫でようとしてひっぱたかられたらしい赤く染まった頬を吊り上げニヤリと笑う。

 

「儂がお主等のおじいちゃんじゃ! よろしくの!」

 

 取り敢えず、父と呼べる男によく似た性格だというのは理解できた。懐かしいと思えた。思えたが、欠落している少年はそれに何も感じない。

 ベルは懐いたようだが、これならもう出ていってしまおうか?

 

──貴方を愛する私達の為に、残ってくれた

 

 不意に死の間際の母の言葉が蘇る。

 己には愛があるらしい。故に家族のもとに居続けたのだと。それが真実ならば、それを感じ取れることが出来たのなら、殺し合いを行わずとも、満たされるだろうか?

 

 

 

 

 目を覚ます。朝の光が部屋を純白に染める。

 潮風の臭いが鼻につく。

 

「………朝か、懐かしい夢だ」

「夢を、見ていたのですか? どのような?」

 

 甘い匂いを漂わせる女がヴァハの呟きに反応する。

 一糸まとわぬ裸体を隠すようにシーツを体の前半分にかける女に目を向けたヴァハは、しかしすぐに視線をそらした。気恥ずかしさではなく、見つめていても面白くもないから。

 

「母の夢だ」

「そう、どのような母親だったんですか?」

「さてな。俺の顔を見て当ててみろ」

「…………わかりません」

 

 女は薄く目を開き、残念そうにそう言った。(母を愛していた)なら、幸せそうな雰囲気でも出していたろう。(母を嫌っていた)なら不快そうな気配でも出していたろう。生憎と、そのどちらも感じさせなかった。

 

 

 

 

 自分達の両親はどんな存在かと尋ねられたのは、弟が生まれた4年後。なんと答えたか、もう覚えていない。

 結局、その4年一番己を満たしたのは祖父の村の近くの精霊との殺し合い。答えは得られない。ならば、とどまる理由はとうに失せた。というか、2年目ぐらいで失せていたので旅に出ていたりした。

 旅の神とともにだったり、彼がオラリオに帰る間に一人で帰ったり。様々な出会いがあったし殺し合いもした。

 知人が増えることより己の手により故人が増えることの方が印象深い。旅の神より伯母が死んだと聞かされた。殺してみたかった。母によく似た、灰色の女なら或いは殺せば何かを得られたもしれないが過ぎたことだ。もとより、己の母に関する心情に、正も負(答え)などないのかもしれぬが。

ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員
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