ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
血が舞う。
剣戟の音に合わせ、まるで踊るように戦う二人を彩る。どちらも楽しそうに笑っている、この殺し合いが、本当にダンスとでも見紛う程に。
「素敵、素敵よ! 貴方のつけた傷が、私を彩るの! ねえ、私にも貴方を彩らせて!」
「ハハアハハハハハァ! 楽しいなぁ、ユノ! 好きにしろよ、俺にお前を刻み込んでみろ!」
黄金の剣と血の剣を振るうヴァハと、既に破壊された己の獲物を捨て血の双剣で相対する。
鉄のように硬くなった血の剣が金属音を奏で火花が散る。
「おぎゃあああ!」「あそ、んでぇ!」「あああ!」
「ハハハ! 悪いなガキ共、パパは今ママとまぐわってんだ子供はもう寝な!」
と、背後から襲いかかってくる血の赤子に炎を放つヴァハ。その隙を逃さず刺突を行うユノだったがヴァハは上体を反らし避けると手足を腕に絡みつけ、ユノの右腕を引きちぎる。
「──っあぁ!?」
「ん〜……美味えなあ、お前の血。この味、アミッドと違うが、同じようなの持ってんなぁ?」
腕から溢れる血を、ワイングラスでもひっくり返すようにガブガブ飲み込むヴァハ。
血が泡立ってくると放り捨てる。赤子が生まれ出したが踏み潰して燃やす。
「っ、ぐ………ぅ、ふふ……ふふは、あはは! 私が、貴方の中に溶けていくのね。なんだか、とってもいけないことをしているみたい。でも、貴方だけ狡いわ。私だって貴方を食べたいのに!」
赤子の何体かがか腕に絡みつき、欠損部位を補う。そのまま腕を振るえば赤い斬撃が飛んでくる。それを回避したヴァハだが、ユノが迫る。
速度が上がってきている。
「ええ、ええ、そうさせてもらうわ! 無理矢理がお好みなのね? 安心して、私はアマゾネスだもの! 男を組敷くやり方も、組敷かれて喘ぐ方法も知ってるわ!」
「そうか! なら好きなだけ喘げ!」
大量の血の苦無が雨のように飛ぶ。材料は哀れ二人の戦いの余波に巻き込まれたアマゾネス達。悲鳴を上げるまもなくヴァハに斬られ赤子に潰され、蠢いた血の杭に貫かれ命を落とした。二人は、そんな事にも気付かない。
「っ!?」
ユノの右手の爪、避けられず咄嗟に防げば触手の様に解けて絡み付いてくる。そのまま左首筋の肉を刳り食われる。
舌打ちしたヴァハはユノの血の右手を雷帝の剣で切り捨て腹を蹴りつけ吹き飛ばす。狙い通り、不幸なアマゾネスが地面の染みへと変わりその血が無数の針となりユノに突き刺さる。
「ぐぶ………ん、んぐ…………ふぁ………はは、うふはは、ふふふ! 貴方が私に入って来たわ! 私の中に溶けていくの! ねえ……ねえ! もっと混ざりましょう! 溶けて、溶かして、お互いの境界が曖昧になるまで切り刻んで一つになりましょう! 安心して、きちんと残さず食べるから。そして、貴方の子を生むの」
内臓にまで達する傷。血を吐きながらも、無理矢理ヴァハの肉片を飲み込むユノは血の針を折りながら起き上がる。
レベルは自分が上。だけどそれだけだ。それが勝つ理由にはまるでなってない。レベル差を覆す、神の恩恵ありきの今、神時代を否定する存在に、ユノはアマゾネスの本能でへその下を疼かせる。
これでは足りない。もっと
ところで、この人の名前何だったかしら?
「ふふ、あははは! ねえ、貴方はだあれ愛しい人! 思い出せないの、貴方の事を! でもね、とっても食べたいの。貴方を食べたいの………」
蕩けるような、男ならその顔を見ただけで理性を失い女でも思わず新たな扉を開き押し倒しそうなほど淫靡な笑みを浮かべる
「あそぼ」「パパ」「あそんで」「だっこ」「おんぶ」「うええ」「だぁっこぉ……」「おぎゃ」「ぱぱ」「おん、おんぶ」「むぎゅる」「あぶぅ」「あそぶ」
「あば」「ぼえも」「あぞ」「ぶうぅ」
血の赤子の数が爆発的に増えていく。個体個体と力が増えていく。
自分の名も、己の主神も、仲間の顔も故郷の風景も住んでいた部屋も他愛ない誰かとの会話も、全て全て忘れて消えて。後に残ったたった一つだけの感情に、むしろ名も忘れた女は喜びを覚える。
助けられたから惚れるなんて、恩着せがましい愛とは違う。
絆があるからなんて、ならその絆を育んだ相手が別だったらその相手と育むであろう愛とも違う。
顔の好みも思い出せないから、見た目を愛している訳でもないし、どんな人間が思い出せないから、同族意識でもない。
ならばこれは純粋な愛。きっと、この世界で誰にも持ち得ない、己だけに許された混じりけの無い完全なる純粋な愛。
この思いを伝えよう。この想いを伝えよう。
だから、そう……一つになろう。
迫りくる赤子の群れに対して、ヴァハは精霊としての力を全開に相手する。
天候が塗り替えられ暗転から振り注ぐ雷の雨。無数の赤子を焼き殺し、たった一人を残す。
剣戟の音が再び響く。己の名を忘れ、居場所を忘れ、戦う意味も意義も失い、それでも愛した男に愛を囁やき愛して愛する為に向かってくる女。
狂った女。誰もが忌避し、恐れ、排斥するであろうその女を、ヴァハは己を殺しに来ている、ただそれだけで気に入る。
嫌悪はない。寧ろ好感を抱く。でも殺す。
「────!!」
ヴァハの左手から放たれた雷が血で形成された右手を一瞬で蒸発させる。ヴァハの右腕が閃けば左腕が切り飛ばされる。
腕の代わりになる赤子は、居ない。ヴァハの牙が喉に突き刺さる。
「…………ん、っあ……」
ジュルジュルと血を啜る音が耳に響く。酩酊感に思考がとろけ、快感に力が抜けていく。
自分という存在が全て彼の中に混じり、溶け、広がっていくのが解る。
ああ、でも、駄目だ。伝えたい事がある。伝えなくちゃ。なんて? おかしいな、思い出せない。こういう時は、なんと言うんだったか?
「…………あ」
ああ、そうだ。思い出した。それだけは思い出せた。それだけ伝えられれば良い。
女は愛した男の背に手を回す。声はかすれていくも、丁度口元に耳がある。
「貴方を………愛しています」
それだけが伝えたかった。それだけを伝えたかった。
ああ、これで安心だ。溶けていく、彼の中へと、己の命が、意志が。でも、大丈夫。想いは伝えた。
この想いも、命も、己の存在全てを捧げる。愛さなくても良い。だから、どうかこの愛を受け入れて。
返答はない。ただ、吸血は止まらない。ユノと呼ばれていた少女は、文字通り己の全てを、血を介して捧げた。
バシャリと血の赤子が溶け崩れる。ヴァハとユノの戦闘が終わったのだろうか? リヴェリアが困惑していると大量の血が渦巻き一つの場所に向かっていく。
質量が急速に減っていく。何かに飲み込まれるかのように。その何かが、姿を現す。ヴァハだ。口元の血を拭う。その腕には幸せそうな顔で事切れるユノの死体。その死体も、まるでガラス細工のように砕け無数の光となり消える。
「………ヴァ、ヴァハ・クラネル?」
「おお、リヴェリアか。わりいが俺寝るな。流石に今日は疲れた」
先程までの戦いが嘘のように、日常的な在り方を見せるヴァハ。ふぁ、と欠伸をすると宿に向かっていく。
「殺したのか?」
「なんか文句あるのか?」
「いや、そういうわけでは………あの女は、随分幸せそうな顔をしていたな、とは思うが」
「幸せだったんだろうよ、俺に血を、命を吸われるのが」
ケラケラケタケタ、掴み所のない笑みを浮かべヴァハはその場から立ち去った。
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ヴァハ君のヒロイン
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フィルヴィス・シャリア
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アスフィ・アル・アンドロメダ
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