ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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見つめ合い

「………あ、あれ?」

 

 潰しちゃったが、死んだのだろうか?

 別に殺すつもりはなかった。ただ、殺し合いが楽しいと言ってたから、喜んでほしくて殺そうとしただけで死んで欲しかったわけじゃない。

 あれ? でもここで死んでたら、もしかして彼の最期の記憶は自分だけが独占した事になるんだろうか?

 なら確実に殺しておかないと、と思った時、足元を何かが這う。

 

「あ、赤ちゃん………?」

 

 ヴァハの操っていた血の赤子だ。クリティエの視線に気づくと顔を上げ、しかし直ぐにヨチヨチと歩いていく。向かった先は、向日葵巨人の手の下。ゾルゾルと赤子が集まり、溶けていく。真っ赤な血が隙間に流れる。

 …………血?

 と、巨大な血の杭が巨人の腕を穿つ。枝分かれし、神経や筋肉の代わりとなった根に複雑に絡み合い動きを阻害する。

 

「え? え? あ……、ば、バラけろ!」

 

 慌てて死体の巨人の死体の群れに戻すが貫かれた死体は捕らえられたまま藻掻く。

 

「【血は炎】」

《オオオオオオオ!!》

 

 ごぅ! と血が全て炎に代わり死体を焼いていく。骨すら残らず灰になった炎の中で、ヴァハが起き上がる。骨が折れ内臓にたっし、血を吐き出すがその顔は笑みだ。

 

「あ〜…………ははぁ……死ぬかと思ったなぁ。お前、なかなかいいぞ」

 

 その傷を再生させながら楽しそうに笑うヴァハ。普通に考えれば恐怖を覚えるような状況だが、クリティエはそんなヴァハの態度に照れたように顔を赤くする。

 

「………お前感性がおかしいなぁ」

「ふぇ!?」

 

 殺そうとした相手が、それに喜んでいる事を嬉しそうに感じるなんて人として何処かしら狂ってんじゃないだろうか。まあユノもそんな感じだったし、そういう相手に好かれるのだろう。

 類は友を呼ぶと言うし。

 

「ご、ごめん、なさい……よ、喜んでくれて、うう、嬉しくて調子乗っちゃいま、した……」

「別に怒ってねぇよぉ………ほれほれ、続きだ。もっと俺を楽しませろ。ユノより楽しませたら頭撫でて褒めてやる」

「……………ユノ?」

 

 コテン、よりゴキンと言う擬音が聞こえなそうなほど首を傾けるクリティエ。

 

「そ…それって、女の人の………なな、名前ですよね? 何で、どうして………い、今あなたの前にいい、いるの、わた、私なのに………私が、貴方を楽しませているのに!」

「ん?」

「どうして、アポロン様も! 貴方も! 私の、わ、私の目を好きって言ってくれたのに、私がみても、見つめ返してくれないぃぃ…………!」

 

 クリティエの感情に反応してか、向日葵の口がカチカチ音を鳴らす。それはクリティエの魔法故に彼女の怒りを受け取ったのか、或いは彼女の怒りに恐怖しているのか。

 

「…………あ、そうだ───」

 

 と、唐突に平静を取り戻すクリティエ。

 

「【開花(アンシシ)】」

「─────!!」

 

 と、ヴァハの全身を激痛が襲う。血管が浮き出るように皮膚の一部が膨らみ、肌を突き破り葉が生え、首を突き破り花が咲いた。指先まで文字通り根を張った根が体の動きを阻害する。

 

「だ、駄目ですよ? へ、変なものを………拾い食いしたら」

 

 ヴァハはここに来るまで、多くの【アポロン・ファミリア】構成員の血を吸った。クリティエの魔法を仕込むための、魔力の花粉が含まれた血を。

 

「こ、こうすれば…………もう、誰もみ、見れません………よね?」

 

 眼球を動かす為に目にも神経が向かって来る。視神経が押しつぶされ、ちぎられ、視界が真っ黒に染まる。そんな知識のないクリティエがヴァハの頬に手を添えようとした瞬間───

 

「つ!?」

 

 赤い剣閃。咄嗟に回避し、()()を見つける。

 

「誰ですか、あなた………」

 

 一瞬血の赤子かと思った。しかし違う。巨大化しようと全体的に丸い赤子とは異なる、色気を帯びた丸みを持った、女の腕。血で出来た女の腕が血の剣を持っていた。腕の付け根、ヴァハの背後から一瞬だけ覗く女の顔は、クリティエを見ていない。腕が、愛おしそうにヴァハの胸を撫でる。

 

「だ、誰だお前! 離れろ!」

 

 操ろうにも液体の体。根が血の中で動くだけで、操れない。苛立つクリティエは叩き潰そうと再び集めた死体の巨人に殴らせる。

 何度も何度も。形が残らないほどに殴らせる。

 

「…はぁ、はぁ…………あ? あぁ………つ、潰し、ちゃった? ど、どうしよ………ち、ちが、そんなつもりじゃ…………っ!?」

 

 慌てて巨人の手を退けようとした瞬間、雷が天へと伸びる。

 

「どんなつもりかしらねぇが安心しろ。別に死んでねぇよ………」

「あ……よか、った………まだ、形残ってる」

 

 人の形を保っているヴァハを見てニヘラと笑うクリティエ。良かった、まだ使える。

 体内の根も、種となる花粉も全て焼き払われたらしい。

 今度は、もっと深くに。焼き払おうとしたら生命が維持できぬ程深くにまで根を張れば、同じ手段を取れないはず。

 死体の巨人の右手から大量の根が生え、槍のような形を形成する。

 深く深く、相手の命を縛り付ける構えに対し、ヴァハは再生に回していた吸血した血のストックを魔力変換に回し、身に宿る雷精霊としての力に還元する。

 

 

 

 

「っ!?」

 

 轟音と閃光が響く。雷が近くに落ちたかのように、耳がキーンと痛む。決着が、ついたのだろうか? 誰かが何かを言っていても、生憎と聞き取れない。

 漸く音が戻って来ると、足音が聞こえた。

 

「兄さん!」

「よお………」

 

 少女を肩に抱えた兄が全身血だらけでやってくる。回復するだけの力も残っていないのか、その場で倒れる。

 

「ちゃぁンと、俺は誰も殺さなかったぜぇ」

「……………」

「んでぇ? 優しいベルは、その女もまだ生かせって言うのかぁ?」

 

 100人を超える命を一瞬で奪った女。それは、下界の、人の尺度で測れば途轍もない悪だろう。

 

「僕のためじゃないでしょ、兄さんだもん」

「そうだなぁ。俺の為だ………苦悩するお前が見たかったんだがなぁ」

「……………何も、言えないかな。その人に、僕が大切な人を殺された訳じゃないから。知ったような言葉で、死ねなんて言えないよ」

「あっそ………」

 

 じゃあいいや、と少女を投げ捨てその場で横になるヴァハ。そんな兄に、弟は苦笑する。

 別段兄の在り方に理解が示せる訳でもないし、兄も誰かの共感など望んでいない。それが昔からの関係、故に、これで終わり。

 誰かに死んで欲しくないと言う願望もあるが、半分以上は兄が人を殺して、オラリオから孤立してほしくなかったと願う弟の願いは、まあ果たされた。

 おそらく殆どの情報が伏せられた状態でこの死者多数の『戦争遊戯(ウォーゲーム)』は記録されるだろう。

 

 

 

 

 

「あ〜、その…………アポロン?」

「………何だ、ヘスティア」

「その、ね………『戦争遊戯(ウォーゲーム)』は、その…………ルール上、僕の勝ちで………あ、いや。君は可愛そうだとは思うんだよ?」

 

 と、気まずげに呟くヘスティアにアポロンはギリ、と歯軋りする。

 

「これ以上、私から何を奪う気だ! 眷属もたった3人残して殺された私から、何を!」

「それはそれ、これはこれだ………」

 

 ピシャリと、冷たい声でヘスティアは言う。

 

「間違うな、アポロン。何が切っ掛けになったにせよ、誰のどんな意志が絡んだにせよ、()()()()()………」

「な、な……っ!?」

「『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を望んだのは君だ。そこに悪意が絡みつく要素があった」

「っ! そもそも、君とミアハが初めから大人しくクラネル兄弟を差し出していれば!」

「それと、彼女の狂気を掬い上げたのは…………まあ、おいておいて。植え付けたのが誰にせよ、育てたのは君だ」

「私が? ふざけるな、あいつは私の愛する眷属を………!」

「何時まで一方的に愛させるつもりだったんだ君は!?」

 

 ヘスティアの叫びに、アポロンはビクッと震える。

 

人類(子供達)は神じゃない。不変じゃない、常に移りゆくんだ。愛し合って、なのに片方は別の愛に走って、残らせた者が尚も変わらぬ愛を捧げ続けるわけ無いだろう? そんなの神でも無理だ。それでも、彼女は君を愛そうとし続けたんだ。それを君が拒絶した」

「……………」

「…………アポロン。僕の要求は一つだ。オラリオから立ちされ。私財も、何もかも全て捨てて、残された眷属達を解放しろ………下界を、人を、今度こそちゃんと見つめるんだ」

 

 それはやり直しの機会を与えるということ。彼女なりの、慈悲。それを活かせるかは、アポロン次第だ。

 

「と、僕ばかりごめん。ミアハはどうだい? 金を搾り取るっていうんなら、分けるけど……」

「いや、元々私はヴァハの要求を伝えるだけで良いと思っていたのでね」

「ヴァハ君が? まさか、このタイミングで天界に帰れって言えと言われた、なんて」

「ヴァハならやりそうだが今回は違う………眷属を一人寄越せ、との事だ。私も思うところがないわけではないが、此方も大切な眷属を奪われそうになった身。容赦はしない………まあ、ヘスティアの発言からして、要求とは言えぬが」

 

 

 

 

 後日談。【アポロン・ファミリア】は3名を除き()()()()()。という事になった。どんな理由があろうとも、『戦争遊戯(ウォーゲーム)』は策謀、裏切り、殺し、拷問、何であれ罪に問えないと定めた以上、あれだけの狂気を見せたクリティエを捕らえることは出来ないからだ。そんな危険な人間が野放しになると知ればギルドにも非難が及ぶ可能性があるので真実は隠蔽された。

 一部、己の主神に年齢制限解除させていた連中は大半が無数の赤子の時点で気絶し、気絶しなかった猛者達は吹聴するような者ではない。

 とはいえ、ギルドとしては、ロイマンとしては何時かバレるのではと胃痛に悩まされる日が続く事になる。結果やせるが伸び切った肌は戻らずダルダルのシワシワになるのはまだ先の話。

 そんな、ギルドの豚を胃痛で悩ませる原因のクリティエはと言うと。

 

「あ、あの………ふふ、副団長様これ受け取ってください」

 

 【ミアハ・ファミリア】で商品棚を整理していたが、ダンジョンに向かおうとするヴァハに何かを手渡す。布に包まれているが、感触は瓶だ。何らかのマジックアイテムなのだろう、魔力を感じる。

 

「そ、その瓶なら割れる事がないって………」

「そうか」

 

 つまり重要なのは中身。

 

「ゲームの時は、ご、ごめんなさいでした………か、勝手な事を。あ、貴方は私を見てくれたけど、目を、好きとい、いい言ってくれたけど…………見てくれとも、見ているとも言ってないのに……だ、だから、それ……その気になったら、見てください。そしたら、私も貴方を見つめられますから………え、えへ……ずっと、一緒。な、なんちゃって………」

 

 卑屈に笑う彼女の頭を撫でてやり、ダンジョンへと向かうヴァハはふと袋からそれを取り出す。周りをたまたま歩いていた通行人がビクリと震える。

 

「………んん〜………やっぱ綺麗だなぁ」




【アポロン・ファミリア】編、終了!
なお、クリティエは髪を切り揃えて目を晒すようにはなったけど片目だけだよ。何でだろうね?(すっとぼけ


感想お待ちしてます

ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員
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