ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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招かれざる来客

「これより精霊とエルフの友愛の義を始める!」

 

 リロの言葉と共に、精霊達が集まってきた。

 

「わぁぁ………」

 

 エルフ達の笑い声が響く。高貴なエルフ達が輪になり踊り、はしゃいでいる。ヴァハはヒューマンなので大人エルフ達は肌を触れる事を許さず子供達と踊ってる。

 

「……………」

「貴方は行かないのか?」

「子供は………苦手だ」

 

 リューの言葉にヴァハの輪を見ていたフィルヴィスに問うがフィルヴィスはそう返す。

 子供達の周りには精霊達が多く集まっていた。

 

「………何かあの人、あっという間に子供達に懐かれてますね。あんなに怖い人なのに」

「子供には、何気に優しいからな彼奴は」

 

 自我の薄い精霊達を楽しませる為には心から、子供のように楽しむ必要がある。とはいえやはりリヴェリアの連れ立ったとはいえ種族を気にしてチラチラとヒューマンを伺うようでは、純粋に楽しむ子供達の方に精霊達が集まるのも道理だ。

 

「う、うふふふ〜……」

「ぎこち無いかと」

「あははは〜」

「不自然かと」

 

 何とか楽しもうとするレフィーヤだったが、リューに思っきり駄目だしされた。

 

「うう、あの人でも出来るのに」

「どうでしょうか。あの場の精霊達………子供達に近い精霊達は楽しんでいるようですが、彼の周りの精霊はむしろ付き従っているように見えます。精霊に誘われるようですし、精霊に関係する何かがあるのでしょう。それこそ、隣人であるエルフより優先されるような」

 

 

 

 

「精霊は別にエルフを隣人とは思ってねえぞ」

 

 と、何故アナタはヒューマンなのにエルフよりも精霊と仲がいいのですかと聞いてきた子供にそう返す。

 

「そりゃなぁ、精霊は神が人類の助けに送った存在だ。だけど人類ってのはエルフもヒューマンも獣人もドワーフも一括。高位の精霊なら好みの差はあるだろうが精霊からすりゃ『何かの人類種族』程度の認識だろうよ」

「で、ですが我々エルフは古来から……」

「そりゃ魔力が多いし精霊の好む環境に住むからなぁ。だが別にエルフだけじゃねえぞ? 特に極東なんかじゃ巫女だかイタコそんな名前の奴等がいたしなぁ。こっちの大陸にだって別に居たし、何なら力を借りるどころか契約したヒューマンや血を分け与えられたヒューマンが同じ時代にいた。エルフは自分の種族の事しか伝えてかねぇから知らねぇだろうがなぁ」

 

 もう一つの理由としては単純に寿命の差だ。エルフは他の種族と比べて精霊と永く契約出来る。別れを悲しむ感情のある高位の精霊がエルフと親しいのはそれが理由で、エルフとヒューマン戦争になったらどちらを助けると問われれば住処が荒らされぬ限りどちらの味方にもなるまい。

 

「そもそもクロッゾの魔剣ですら破壊するだけで一族にも国にもなぁんにもしてねぇだろぉ? そもそも動いたのはエルフの里が焼かれたからじゃなくて精霊の住処が焼かれてからだしなぁ」

 

 エルフはクロッゾの一族を、魔剣を、幾つもの同胞達の里を焼いたと憎んでいる。幾つも、つまり幾つか焼かれるまで精霊達は放置していたということ。 

 

「精霊はエルフの隣人なんかじゃねえ。人類の隣人だ。それを思い上がって自分達の隣人にして『神に最も近い種族』と共にいる自分達を高位に位置する生物なんて言い張るために使うんだからお笑い草だなぁ。そのくせ時には神すら下に見るんだから笑いどころに困らねえ歴史だよなぁ」

 

 ケラケラケタケタと子供達が習ってきた価値観を嘲笑うヴァハに、不満そうな顔を浮かべるが口に出す者は居なかった。何せ事実だ。

 ましてや、リヴェリアの連れだからと認めるような態度をとって置きながらヴァハ達の居ないところで子供達に『奴の醜悪な顔を見たか。内面の醜さが出ている。我々とは違うのだ』などと笑みを浮かべる大人達の後に聞けば思うところもあろう。

 

「まあだからって俺が正しいと思うなよ?」

「…………え」

「大人から教わった事に疑問を持った。だからその考えを否定した人の教えが正しい、なんてのは今までとなぁんも変わんねえ。これからは自分で考えるんだなぁ」

「…………はい」

 

 その言葉にヴァハはやはり軽薄に笑うと、不意に目を細める。まるで能面を貼り付けたかのような笑みに変わると子供に向かって飛んできた矢を受け止め圧し折る。

 

「え、な!?」

「【我が名は、アールヴ】!」

「祭事中だぜ? 空気読め」

 

 ヴァハと時を同じくして異変を感じ取ったリヴェリアの詠唱の完成と、ヴァハが魔力を練ると同時に咆哮が響く。

 

「な、なんじゃあ!?」

「【ヴェール・ブレス】!」

 

 防護魔法に魔法が当たり、弾ける。ヴァハが地面に手を差し込むと同時に無数の赤い杭が生え、夜闇に隠れていた男達を貫いた。

 

「ぐあ!?」

「がはぁ!?」

「くっ! どうしてバレた!?」

 

 盗賊らしい。本当に存在したエルフの隠れ里。不意打ちを決めたつもりが防がれ反撃され、指揮が乱れている。

 

「くそ! エルフどもは殺っちまっても構わねえ! 連中が抱えてるお宝を探せぇ!」

「おおおおお!」

 

 しかしすぐに指揮が戻るのを見るに、なかなか統率の取れた集団だ。素人ではないし、偶然見つけた訳でもないのだろう。

 

「まさか、貴様か!?」

 

 とエルフの誰かが叫ぶの無視して盗賊達の下まで一足で接近するヴァハ。

 

「っ!? ヒューマン!?」

「構わねぇ! ぶっ殺───!」

 

 バチン! と紫電が輝き指揮官らしき男が一瞬で黒焦げになる。

 

「…………は?」

「ついてねぇなぁ。お前等………本当についてねえ」

 

 血の杭を無数の剣に変え、一回転。ズルリと盗賊達の身体がずれる。

 

「ひ、ひぃ!?」

「あ、相手は一人だ! エルフ共を人質………」

 

 グサリと杭に貫かれ、枝分かれした杭に内臓をずたずたにされる。ヴァハを避けエルフ達に向かう者達は、人質でも取りたかったのだろう。だが……

 

「【一掃せよ、破邪の聖杖(いかずち)】! 【ディオ・テュルソス】!」

「ぐはあ!」

「ふっ!」

「なにぃ!?」

 

 そこには残念なことにオラリオの冒険者達が居る。何名か指揮権限を持つ奴が居るようだが、全員殺してしまえば烏合の衆に成り果てる。

 

「………ん?」

 

 と、上空から軋んだ金属のような不快な咆哮が聞こえてくる。見上げれば、ワイヴァーンの群が郷目掛けて飛んでくる。

 

「ワイヴァーンの群……? どうしてこんな時に!?」

「万が一の手だったが……用意しておくもんだなぁ!」

「彼奴等!」

 

 郷へと降り立ったワイヴァーン達はエルフ達に襲いかかる。獣の本能か、戦う力のない弱い子供達を睨み大口を開けるワイヴァーン。

 

「とかげ………」「はね」「ちょーだい」

 

 が、真っ赤な赤子達に一瞬でバラバラにされた。

 

「数が多いなぁ。おい足手まといども、せめてガキ連れて逃げろ!」

「な、何だと貴様! 何故我らがお前の命令など! リヴェリア様の連れだからと、ヒューマン風情が図にのべ!?」

 

 パン、と裏拳がエルフの鼻っ面を文字通りへし折る。

 

「現状を見ろよ役立たずども。戦いもしねぇなら戦いの邪魔にならねえようにしろ」

 

 後ろから迫ってきたワイヴァーンを見向きもせず燃やすヴァハを見て顔を青くするエルフ達。

 

「ガアアアアア!」

「あっ………!? ワイヴァーンが大聖樹に向かって!」

 

 ピシャアアン! と音が響き大聖樹に向かったワイヴァーンが落雷に焼かれる。

 

「よ、よかった……」

「安心している暇はありません」

「レフィーヤ、詠唱に集中しろ。前衛は委ねる」

「お任せを。妨げになる物は、全て私が切り払います」

 

 リューが地上のワイヴァーン達を切り捨て、上空のワイヴァーンはヴァハが撃ち落とす。

 

「今のうちにお宝をうびゃ!!」

 

 その隙に抜こうとした者達は落雷に焼かれた。しかし数が多い。森への被害を考慮していると少し漏れる。

 

「ヴァハ、寄越せ!」

「ほらよ」

 

 ヴァハがフィルヴィスに手を向ければフィルヴィスの杖へ雷が纏わり付き、放たれる魔法の威力を底上げする。

 

「あやつらは………どうしてここまでして、精霊郷の…大聖樹のために………」

 

 盗賊達は一先ず追い払う。後はワイヴァーン。

 ヴァハは無数の血のワイヤーをワイヴァーンに向かって放つ。

 

「「「グギャアアアア!?」」」

 

 ワイヤーを通して流れた電流に焼かれるワイヴァーン達。即死しなかったワイヴァーンは地面でもがきながら、体に刺さったワイヤーの先端の鏃から血を吸われていく。

 

「弱体化してるたぁ言え竜種か。まぁまぁな味だなぁ」

 

 ワイヤーの一本を咥えながら笑うヴァハ。その光景に、遠巻きに見ていた盗賊達が青ざめている。

 

「あ、あいつら………ワイヴァーンまでやりやがった!」

「ちくしょう、やっぱりそうだ! オラリオの冒険者ども! 俺達が敵う相手じゃない!」

「チッ………こうなったら……『アレ』を出せ!!」

「で、でも、アレは……」

「うるせえっ! もう引き下がれるか!」

 

 

 

 

「………貴方に、だいぶ助けられました」

「意外だなぁ。お前が俺に礼を言うとは」

「…………恩には報います。それに、これは確かな殺し合いですから」

 

 と、口では言いつつも不満が隠しきれていないリューにヴァハはやはりケラケラ笑う。

 

「でも、これで終わりましたね!」

 

 そうレフィーヤが嬉しそうに笑った時だ。これまでにない程の咆哮が響き、ズゥンと地面が揺れる。

 

「グオオオオオオオ!!」

「ド、ドラゴン!? しかもあの威圧感……図抜けてる! どうしてあんなモンスターが!」

「はははははは! そいつはあの『竜の谷』からやって来たはぐれ竜だ。捕獲する時、派閥(ファミリア)の連中を何十人もヤッた化物だ! 捕まえた後、アイテムでずっと眠らしていたが………もう知らねえ! もう知らねえよぉ!! ひゃはははははは!?」

 

 自棄になった男の狂笑が響き渡る。

 ドラゴンは口から火の粉を零し、広範囲に炎を吐き出した。




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ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員

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