ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている!   作:超高校級の切望

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弱者とは権利がない奴の事

 一筋の光が見えた気がした。突然娘が連れて行かれ、家から追い出され、冒険者相手に何か出来るはずもない、そんな自分達の元に現れた娘の知り合いが何があったか尋ねてくれたのだ。

 助けを求めた。どうか娘を救ってくれと……なのにその光は、あっさり幻想であった事を思い知らされる。

 

「………な、なんで………」

「だって相手冒険者なんだろお? しかも複数。怪我したらどうすんだ、娘もいんのに」

「……?」

 

 呆然と目を見開くカレンから離れ席に戻ったヴァハはノエルを膝に乗せ頭を撫でる。今しがた娘が奪われたと嘆いた者達の前で。

 

「まあ娘が居るから気持ちもわかる。そっちのおっさんに手助けぐらいはしてやるぜ」

「ほ、ほんとうか!」

「おう………ほれ」

 

 そう言ってヴァハが差し出したのは、一般の短剣。

 ヴァハの血を染み込ませた布を炉に入れると属性は限定されるものの魔剣の質が上がる事を知った椿が他の部位はどうかと聞いてきたので再生するからとくれてやった肋骨から作られた魔剣だ。

 

「え……?」

「材料はなにか言えねえがあまり硬いもんじゃねえんだ。けど魔剣としちゃ破格な威力、冒険者もLv.3程度なら瀕死にできる。これをやるから、その冒険者達のもとに行ってこい」

「何言ってんだい!? この人に、冒険者達相手にしてこいってのかい!?」

「だってそいつが原因なんだろ? 大丈夫大丈夫、冒険者と一般人が争ったら基本的に一般人有利な判決だから」

「それはそもそも一般人が一方的にやられているからなんだけど……」

 

 ローズが呆れたように言うなかヴァハはへー、と興味なさそうにノエルに飯を食わせていく。

 

「……あの、私はギルド職員なのですがよろしければ詳しく話を聞かせていただけますか? 冒険者が一般人を賭け事に誘い恫喝となると、禁則行為ですし力になれるかもしれません」

「まあ冒険者と一般人の賭け事なんて、うるせえ金なんざ払えるかって叫べばそれまでだもんなぁ」

「あむ………かけごとって、なぁに?」

「あげたくないものを欲しいと言われた時にする勝負みてえなもん」

 

 ヴァハはノエルの質問に答えながらこれうま、と新しいメニューに舌鼓を打つ。

 

「その冒険者達のギルドはわかりますか?」

「い、いや………【ファミリア】は、バラバラで……」

「っ! それは………」

「厳重注意しかできねぇなあ。【ファミリア】規模で人身売買なら検挙できるが、団員達の暴走なら暫く活動制限が関の山。単独【ファミリア】なら主神がどれだけ言おうと取りあえずは押し通せるかもだが」

「………彼の言うとおりです」

 

 苦々しい顔をするローズに対してヴァハは興味なさげに飯を食ってる。そんなヴァハに、ヒューイが縋り付く。

 

「なあ! 頼む、俺からも頼む! あの子を助けてくれ!」

「だから魔剣くれてやったろ。つか揺らすな、ノエルが怖がる」

 

 ヴァハは面倒くさそうにヒューイを足で引き剥がす。

 

「だ、だけど俺じゃあ………魔剣もらったって。でも、あんたならできるだろ!? すげえ強いって、有名じゃねえか!!」

「……………はぁ?」

 

 呆れたように、小馬鹿にする用にヴァハはヒューイを見る。その目にビクリと肩を震わせるヒューイ。

 

「強いんだから自分達を助けてくれってかぁ? 強者は無償で弱者を救えってかぁ? 俺は何時からオメェ等の奴隷になったんだよ」

「そ、そんなつもりじゃ………俺は、ただ………」

「まあ俺は鬼でも悪魔でもねぇしなあ。そこまで言われたら助けてやらなくもねえ」

「ほ、本当か!?」

「ただし対価はもらうがなあ。ローズ、これ冒険者依頼(クエスト)として受理してくれ。そしたらギルド公認でさっさと金払えよって言えるしなぁ」

「は? いや、まあ確かにそしたらこの人達には報酬を支払う義務が生じるけど………」

 

 わざわざやるか普通、と言いたげな目を向けたローズだったがそういやこいつ普通じゃないか、と納得した顔になる。

 

「そうだな。表向きには娘の行方探しだとしても複数の【ファミリア】相手にすんだし……160万ヴァリスで手を打とうじゃねえか」

「…………は?」

「そ、そんなに!?」

「何がそんなになんだ? てめぇ等は俺に危険をおかせって言ってんのに、自分の生活が保障されると本気で思ってんのか?」

「きけん、おかす? おとーさん、あぶないことするの?」

「おー、こいつ等にしろって言われてなぁ」

「あぶないことは、だめ……だよ?」

「ん〜、じゃあ断ろうかなあ」

 

 心配そうに見てくるノエル。なかなかグッと来そうな光景だがヴァハはどうでも良さそうにいう。金の支払いなど、本当はどうでも良かったのだろう。

 

「てめぇ! さっきから下手に出りゃなめやがって! そんなに俺等が苦しんでる様がみてぇのかよ!」

 

 これだから冒険者ってのは! と毒づくヒューイにヴァハは腹を抱えて笑い出す。

 

「次はどんな文句を言うかと思えば、まるで俺やその冒険者共が悪人みてぇなこと言うんだなあ!」

「ああ!? そう言ってんだよ!」

「我が身可愛さに娘売っといて、どの口でほざいてんだ人の屑」

「っ! だけど、それは………最初は遊びだって向こうも。負けだしたら………家に押しかけてくるって」

「だからなんだよ。その娘より、家に押しかけてくることの方がお前にとって大事だったんだろ? 娘を差し出すかもしれないゲームに乗ってもいいって思う程度にしか、娘を思ってなかったんだろ?」

「そ、そんなこと!」

「殴られるか蹴られるか、んな事を考えたら娘を差し出しても良いかと思ったんだろ? その程度しか大切じゃねえなら、誰かに頼るなよ。あ、ばーさんはどうする? 魔剣貸してやろうか?」

 

 俯き顔を挙げないヒューイから魔剣を返してもらい今度はカレンに魔剣の柄を差し出す。え、と固まったカレンにあっそ、と興味を失ったように魔剣をしまう。

 

「実際んとこ、ギルドとしてはどうなんだこの手の事件」

「似たような届け出ばっかり。すぐには、動けないよ」

「………【アストレア・ファミリア】がいてくれたら」

 

 その言葉に聞き耳を立てていたエルフが反応したのをヴァハと彼女の親友だけが気付く。

 

「おい、やめろよ、もう無くなった【ファミリア】を出すのは」

「でもっ、アストレア様がいてくれたら、きっと私達にも手を差し伸べてくれたはずさ! どうして優しい【ファミリア】ばっかりいなくなっちまうんだ!」

「これ遠回しに俺の事を非道って言ってねえ?」

「実際あんた優しくはないじゃん」

「おとーさんはやさしいよ? わたし、たすけてもらった!」

「…………幼女趣味?」

「馬鹿いえ。小人族(パルゥム)とか挿入れんのめっちゃ面倒くせえんだぞ。俺やベルだったらほぐすところからはじめねえとなんねぇのに、マジモンのガキとか使えるわけねえだろ」

 

 判断基準はそこなのか、とローズはゴミでも見るような目をヴァハに向けた。というか今の言葉からしてクラネル兄弟は………

 

「つかアストレアって……あのババアか。苦手なんだよなぁ、母さんに似てるつーか………」

「…………知ってんの?」

「あった事ある。眷属自慢を聞かされたな。天真爛漫だけど本質をよく見てる団長とか、卑屈だけど頑張り屋のチビとか、たまに下品なこと言う極東美人とか。名前は内緒よ、とか言われたけど」

 

 眷属自慢とやらを思い出したのか疲れたような顔をするヴァハ。向けられた視線に気づきつつも無視した。

 

「だがああ、なるほど。お前等はつまりあれだな………『助けてくれる人は居るんだから他の奴等もその人を見習って自分たち可哀想な人を助けるべきだ。弱者は守られるのは当然の権利!』って言いたい訳だ。んで散々頼るくせにいざ助けられねえとなんで何もしねえんだ役立たずとか言いながら石投げる、そういうあれだ」

「な!?」

「弱者のフリしてえなら権利振りかざすな。力にしろ権力にしろ、何かを振りかざして人を支配しようとした時点でてめぇ等から弱者を名乗る権利は失われる。弱者ってのは、なんの権利も持てなかった何も出来ねえ奴の事なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 その夜、リューは一人路地裏を歩く。ガラの悪い連中が増えてきて、エルフのリューを物珍しげに見つめる者もいた。

 見ず知らずの人間を助ける、そんなもの今の自分にする権利のない偽善だとは解っている。それでも、手を差し伸べずには居られなかった。たとえそれが、助けられて当然と考える者を生むことになったとしても、助けてもらえず嘆く者を生むよりは、マシなはず。

 事前に聞いておいた酒場に入る為の地下へと続く階段を歩み………

 

「…………?」

 

 決して厚くない扉の前なのに、酒場の喧噪が聞こえないことに気づき疑問に思いながらも扉を開ける。

 鉄の匂いがした。否、それは濃密な血の匂い。

 

「────っ!?」

 

 凄惨な光景が広がっていた。暗黒期でもそうは見なかった光景。天井から複数のフックが組み合わさった器具で吊るされた女達は、乳房や臀部、腿など男をひきつけてやまなかったであろう部分をずたずたにされており、床には無数の小さな穴、致命傷にならないほど小さく、しかし確実に人体を貫通しているであろう穴を開けられた者達が数人転がっている。中には水風船のように足が破裂した者、鞭で叩かれた痕の周囲を鋲か何かで抉られたであろう者、足裏の皮を剥がされ度数の強い酒を掛けられたものなど様々な拷問後の見本市のような場所になっていた。

 そして、誰一人として死んでいない。ポーションの空瓶が幾つも転がっていた。

 

「………………」

 

 そして一人、筋骨隆々の男だけが傷一つなくすみでガタガタ震えていた。

 

「もし……何があったのですか?」

「ひ、ひぃ!?」

 

 なるべく落ち着かせようと静かに声をかけるも男はビクリと震える。

 

「やめろ! やめてくれぇ! 交易所だ、娘は交易所だって何度も言ったじゃねえか!!」

「交易所?」

 

 それは、その娘とはアンナ・クレーズの事なのだろうか。そう聞きたくても聞ける様子ではない。

 

「こんな、こんな事になるなら………しなきゃ良かった。もうしないから………人身売買も、賭け事も、もうしないから許してくれよぉ!」

 

 涙でグチャグチャになった血に汚れた顔で叫ぶ男。リューに駆け寄ろうとし、血で足を滑らせる。その背に、血で文字が書かれていた。

 

『また一人悪事から足を洗わせてしまった。自分の正義感が恐ろしいぜ』

 

 完全におちょくってるとかしか、それも自分に向けて煽ってきているとしか思えないその文字に、リューはしかし下手人が去った場で怒りを抱えるしか出来なかった。




その後悪人達は無事日常生活が送れるレベルで回復したけど二度と悪事は行わなくなったよ。良かったね

ヴァハ君のヒロイン

  • フィルヴィス・シャリア
  • アスフィ・アル・アンドロメダ
  • アミッド・テアサナーレ
  • エルフィ・コレット
  • メイナちゃんやティオナを混ぜて全員
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