2020年の艦娘戦記・改 〜艦娘誕生と日本〜 作:シベリアの騎士
夕張が増えた事により、外来の一部屋分の許容人数である六人まであと半数となった。良く考えてみると、吹雪が来てからだいたい一週間ほどで三人増えているわけだから、一月もせぬ内に外来がいっぱいになってしまう計算だ。
とりあえず木津は艦娘達を外来に帰し、これからの艦娘の生活環境の構築について案をまとめてみた。
普通に他の人間と変わらぬ軍人として鎮守府に住まわせ、生活させても現状は問題はなく思える。しかし、この先どんどん人数が増えて、外来だけではなく庁舎ひとつまるまる必要とかになってくると、そもそもの鎮守府自体の定員にも影響してくる。
(こんな仮設事務所を艦娘鎮守府なんて呼んでるけど。いっその事本当に艦娘のための鎮守府を作ってもらうのもいいかな・・・・・・)
大抵の事は鎮守府の中で出来るように、正式な基地として。艦を運用する訳ではないからドックなどは必要ない。まあ結局予算の問題は小さくないだろうが。
ともかく、今は任務にしても生活にしても、まともなルーティンが存在していない。規則についても考える必要がある。幹部は仕事が山積みだ。こんな事も誰かに任せたいくらいだ。秘書官ならぬ秘書艦的な者でもいてくれれば。
そんなこんなで木津がパソコンの文書作成ソフトとにらめっこしていると、艦娘鎮守府のドアが開いた。入ってきたのは土川司令長官である。木津は驚きつつも立ち上がり、敬礼する。
「お疲れ様です。どうかなさいましたか」
返礼しつつ、土川は首を振った。
「たまにはこっちに来てみようかと思っただけだ。まだ明かりがついていたのでね。もう艦娘諸君は帰ったようだが、君はどうかしたのか」
「はい。艦娘が増えていった場合の居住場所や、将来的な艦娘の配置を考えていました」
ふむ、と土川が顎に手を当てる。ちらっとコーヒーメーカーを見やると「使っていいかね」と訊ねてきた。木津はどうぞと返す。
「少し使ってみたかったんだ。意外と美味いと聞いてね」
「ええ、美味しいです。さすがに司令長官のコーヒーには敵いませんが」
「プライドが懸かっているからな・・・・・・」
「なるほど・・・・・・」
何の話をしていたんだっけと木津は頭をかいた。そこではっとする。夕張のことを報告するのを忘れていた。
「司令長官、実は新艦娘の建造に成功しまして」
「なんだって・・・・・・熱い!」
数分後、二人は妖精タブレットを見ながらコーヒーを飲んでいた。土川の手には冷蔵庫の中にあった保冷剤が巻かれている。
「軽巡洋艦、夕張。なるほどなかなかいい艦娘が着任したようだ」
「ええ。装備開発にも詳しく、さっそく対空砲を作ってくれました」
「艦娘としての知識にも個体差があるのか。もしかしたら、戦闘だけでなく業務面のサポートに特化した艦娘なども出てくるのかもしれんな」
「もし来てくれたら大助かりです」
心の底からそういうと土川が軽く笑った。ややあって、表情を曇らせる。
「今日は済まなかった。たった二隻でやれる事はないと言った側から、出撃させてしまった」
木津はなぜ謝られるのか分からなかった。やれると思ったから意見具申もなく引き受けたのだ。しくじりはしたが、勝機はあった。
「いえ、勝てるはずでした。私の判断ミスです」
対空戦力ならくろがね達が余るほど持っていたのだから、さっさと合流すればよかった。敵空母を叩こうという方針に囚われすぎた。
無茶な二正面を仕掛けるくらいなら合流し、対空戦闘を任せながら艦娘二人で近接すれば良いのだ。近づけば奴らは何も出来ない。邪魔だった新型駆逐棲艦など護衛艦達がたやすく葬ってくれるだろう。あとは人型の奴を艦娘にすればいい。
「次は勝ちます」
短く言い切った木津の言葉に、土川もしっかりと頷いた。
「土川司令長官。実は艦娘の建造や整備、装備の開発にはすべて資源と呼ばれるエネルギーのような物が必要なんです」
「資源? それはそうだろうな」
「しかし、これらは人間の言う資源とは全く性質が違います。まるで妖精や艦娘、彼女らにしか通用しない概念のようなものでして」
怪訝な顔をする土川に、今日見た『資源』について説明する。妖精達がこの世ではないどこかに貯蓄していること、一定量までは自然に蓄積されていくこと、手で触れられるような物理的な存在ではないこと。
併せて『資材』についても説明する。物質として存在しないのは資源と同じであること。艦娘が深海棲艦を撃破すると、それを素材に妖精が生成すること。
つまり、艦娘を深海棲艦と戦わせることが結局は戦力の増強に繋がること。
「演習をするくらいなら全く問題ないのですが、出撃や開発となると資源が全く足りていません。次の課題は資源の確保なんです」
「ふむ、難儀だな。結局彼女達には早期から出撃してもらわねばならないが、そうすると資源や戦力が足りないのか」
「はい。資源の自然蓄積上限までは演習などで練度を上げ、資源が最大近くまで貯まれば出撃、それで資材などを得られれば建造、開発。この流れで行こうと思います。それには海軍通常戦力の協力が必要です」
「分かった。そうしよう。資源使用については君に任せる。許可を得る必要は無い」
こうして、艦娘鎮守府の活動ルーティンの基本が定まった。ついに木津は、艦娘総司令官として本格的に運営を始めていくのである。
⚓
翌日、吹雪達が艦娘鎮守府に上番すると、既に木津は指揮官用デスクに座っていた。課業開始は八時十五分だが、たいていの軍人は七時半頃には職場に着いている。三人の艦娘は一斉に敬礼をした。
「おはようございます、司令官!」
「うん、おはよう」
木津も返礼し、ホワイトボードを指す。
「課業開始十分前に朝礼するから。そこでこれからの艦娘鎮守府の基本的な活動ルーティンを決めます」
「おお、遂に艦娘鎮守府本格始動ですね」
吹雪が目を輝かせ、響もうんうんと頷いた。
「行き当たりばったりだったもんね」
「すまんな」
そして朝八時五分。ホワイトボードに木津は月単位の予定表と日単位の予定表を貼り出した。
午前中は訓練演習。木津と艦隊の連携や、艦娘個人の戦技を磨く。午後は訓練成果の確認と、事務仕事。これらを元に毎日、土川司令長官へ艦娘鎮守府の現況を報告する。大雑把にはこれを続ける。
出撃は練度や資源備蓄量、戦況変化によって決める事になるが、よほど緊急ではない限り、最低でも前日には下達される形になる。でないと訓練ができない。
「ほんとにざっくりとしか決まってないけど、まだ頭数が揃っていないからね・・・・・・。どうなるかは分からないよ。質問とか意見ある?」
夕張がはい、と手を挙げた。よく通る声だ。旗艦にぴったりかもしれない。
「開発や建造は許可がいるんでしょうか。昨日とりあえずしちゃいましたけど・・・・・・。あと、開発資材の入手はどうします? 深海棲艦を艦娘の兵器で破壊しないと手に入らないんですよね」
木津は頷く。出撃しないと結局戦力はほとんど増えない。ジリ貧だ。通常戦力で深海棲艦を捕獲できればそれが一番いいのだが、補給線が途絶え、消耗戦となっている今の日本は能動的に戦闘を仕掛けることはしない。以前の戦闘も、短距離哨戒中に深海棲艦が攻撃してきたから排除しただけだ。
つまり、人間の工業資源を圧迫しない艦娘という存在は、不気味なまでにこの戦争に特化している。人類はもしかしたら、艦娘に命運を握られているのかもしれない。信じ難い話だが、そうなる。
戦闘には出さなければならない。しかし今の所戦闘に勝つだけの戦力がない。
とりあえず木津は夕張の質問に答えた。
「開発等に許可はいらない。開発資材の入手方法の確立はまだ出来ていない。だが、おそらくこうなるというビジョンは吹雪が来た時から土川司令長官と話している。大方予想はつくだろうが」
響が頷いた。吹雪は首を傾げ、まだこちらに来たばかりの夕張もピンとこなさそうにしている。
「海軍通常戦力との共同戦闘、しかないね。吹雪の初陣とか、私の初陣の時も基本的にはそうだった」
「あ、なるほど。これからもそれで行くって正式に決まるんだね」
吹雪が納得し、木津はその通りと頷く。
「海軍通常戦力は資源の問題から活動が非常に制限されているが、この期に及んではそんなことも言っていられない。一刻も早く艦娘戦力を得ることが、ひいては日本の資源の負担を軽減することに繋がる。つまり、あとは彼らを引っ張り出すだけの説得力を我々は得なければならない」
艦娘の戦闘力や、兵站面での有用性、それら全てで通常戦力から協力をもぎ取る。それまでの間は、訓練だ。
夕張もなるほどと手を打った。
「訓練でソフトウェアの強化、それを以て通常戦力の協力を得て、艦娘や兵器というハードウェアの強化。その後は通常戦力はお役御免、ランニングコスト削減! という流れですか」
「なんだかんだ通常戦力は必要だろうけど、まあ平時の彼らの資源の負担をこちらで肩代わりできればそれが理想だね」
何にしても、まず戦闘単位としての練度を上げなければ。国旗掲揚のラッパと国歌が流れ、課業開始のラッパが鳴り終わった。
さあ、訓練開始だ。
⚓
鎮守府のからさほど遠くない領海内。夕張、吹雪、響の三隻は艤装を構えて停止していた。無線に木津の声が入る。
『氷張艦隊、まず君達には移動を演練してもらう。私の指示したポイントに寸分違わず、迅速に移動する事はこれから非常に重要になる。移動しながらでも陣形が構築できるようになれば最高だけど、まだ三隻しかいないから、とりあえず陣形は掴み程度でいいよ』
「了解です!」
ひばりと名付けられた艦隊の旗艦、夕張が威勢よく返事をした。彼女達の名前からイメージした漢字に、読みをあてただけだ。二人なら考えるのも楽なのだが、少し頭を捻るのも悪くない。
(ちょっと暴走族っぽいけど、まあいいか。呼びやすいし)
木津はコンソールを操作し、ポイントを指定した。操作は簡単だ。画面をタッチ。それだけ。妖精さまさまだ。人間の予算など無視して機材を改修してくれる。元となっていたコンソールにはタッチ機能などない。トラックボールと大量のスイッチだけがインターフェイスだった。
旗艦から一時の方向、三十メートル。およそ四秒で到達。
『うん、やっぱり速いな。足が遅いとか言ってたわりにはいい動きじゃないか、夕張』
「まあ、昔のことだから・・・・・・」
夕張いわく、兵装をとにかく載せることだけを考えて造られた軽巡夕張は、最終型になるとかなり足が遅かったらしい。今は艦娘となって、足の遅さとやらから解放されたようだ。
その後、射撃しながらの移動や、分散、合流、各種陣形構築などを演練し、十一時を目処に帰投させる。
『よし、最大戦速で帰投しろ。速度性能のテストだ!』
「吹雪、行っきまーす!」
「不死鳥は伊達じゃないっ。ypaaaaaaaaa!」
駆逐艦二隻が優れた加速と最高速性能を発揮し、波飛沫をあげながらかっ飛んでいく。
「お、置いてかないでー」
ぐんぐんと進むコンソール上のシンボル二つと、少し遅れながら付いてくるシンボル一つ。木津は唸る。
「うーん。夕張、やっぱ遅い?」
駆逐と軽巡なら誰でもそうなると思われるのだが、まだ経験の浅い木津には知る由もなかった。夕張への熱い風評被害である。
十分後、艦娘鎮守府に戦乙女達が帰ってくる。来たる戦いに備えて艦の魂を集めてくる存在。と言えば格好よさそうだが、実際の振る舞いは神話には程遠い。
「ただいま戻りました!」
「今回は引き分けだよ、吹雪。次はぶっちぎってやる」
おかえり、と木津は出迎え、一人足りない事に気付いた。響の肩を叩く。
「メロンは?」
「あれ。居ないね」
(通じるんだ・・・・・・)
吹雪が苦笑していると、廊下の角からだばだばと夕張が現れた。少し涙目である。
「置いてかないでって、言った、のにぃ」
「あきらメロン!」
力強く響が胸を反らす。吹雪がごめんねと謝りながら夕張の背中をさすった。ぜえぜえと呼吸する夕張に響がビシッと指を突きつけた。
「速度の為、わたしが払った犠牲は少なくないのだっ。見よ、この極限まで無駄を削ぎ落としたボディを。それに比べなんだね、君のその無駄な胸部タンクはぁ? だらしねえ」
「うっさいこのホワイト板チョコ。ひがむな!」
夕張もそれほど大したものではないが響は気に食わないらしい。依然ふんぞり返る響の胸に、夕張がアイアンクローを食らわせる。予想外の攻撃に、響が悲鳴をあげて木津の後ろへ走り込んだ。
「じょ、上官どの。わたしは軽巡夕張をセクハラで軍法会議にかけるであります!」
「目には目を、胸には胸をだろ。吹雪のでも揉んでこい」
「えぇそんなあ!?」
面倒くさくなってきたので、昼食までにシャワーでも浴びてくるよう木津は命じた。
「嫌であります。こんな変態の前で服など脱げないであります」
「・・・・・・服だけ解体されたくなかったらはよ行け」
響を黙らせ、三人を送り出す。
「言っとくけど、風呂は公共場所だからー。乳繰り合うなよ」
「しませんッ」
夕張の厳重抗議を流し、木津は部屋に戻ってソファに体を預けた。独りぼそっと呟く。
「なんかめっちゃ疲れた・・・・・・」
⚓
平日の課業時間中に風呂に入る者はあまり居ない。だだっぴろい浴槽に浸かりながら、三人の艦娘達は羽を伸ばしていた。
「ああー、空いてるお風呂っていいわねえ」
伸びをする夕張を響がちらりと見る。
「くっ、同じ艦娘だというのに、なぜ!」
「あら、なあに? さっきからちらちら見てたでしょ」
明らかに煽る夕張に、吹雪が大人気ないなあと苦笑いしている。
「ああ、見たとも。夕張と言う名前に負けていると思ってな」
「私メロンと関係ないからね!」
「それよりも許せんのは貴様だよ吹雪・・・・・・。なぜ同じ駆逐艦なのにわたしだけこんな変態御用達ボディなんだッ」
「それ以上いけない。あと水面叩かないで」
謎の飛び火と水しぶきに顔をしかめ、吹雪は話題を変える。
「次の実戦はいつだろうね。夕張さんが作ってくれた対空砲も使ってみたいし、仲間も増やしたいし」
「そうねえ。私も早く実戦したいのよね。深海棲艦見てみたいし、今の戦場がどんな感じか掴んどかないと兵装の選択が出来ないし」
ちょっぴり残念そうな夕張に、響がいい考えがあると人差し指を立てた。
「比我戦力を覆しうる唯一の方策だ。しかも敵航空戦力も無力化できる。条件さえ整えば今のままでも十分出撃可能だ」
「そんなのあるの!?」
吹雪が驚き、夕張が体を乗り出す。
「それって、どんな作戦?」
天井から落ちた雫が水面に落ち、波紋を広げる。響がにやりと笑い、口を開いた。
「夜戦だ」
夕張と吹雪が目を見開いた。そうだった。駆逐艦と軽巡洋艦で構成される水雷戦隊の最後の奥義、夜間雷撃戦。艦娘になってから夜戦という言葉を全く意識していなかった。
「思いついたのはこないだ司令官とやった軍艦ゲームなんだ。あの時わたしは空母を大量投入し、逃げ回られて夜戦で負けた。これをやればいい。そして今の私達には、昔とは違うアドバンテージがある」
「アドバンテージ・・・・・・」
夕張が眉根を寄せて考える。吹雪はピンと来た。
「司令官だね」
「その通り。この作戦はあらゆる意味で司令官が必要だ」
夜戦は高度な心理戦、情報戦だ。かつての夜戦は探照灯や照明弾を駆使し、発見と被発見のリスクマネジメントによって行われていた。
しかし、今の人類にはデータリンクがある。衛星と水上レーダーによって敵の位置情報をリアルタイムで共有し、深海棲艦に対して一方的な奇襲をかける。敵の航空機は飛べないから、まずこちらが先に発見されることは無い。
そして視認されれば容易に避けられるはずの魚雷を、闇の中から至近距離で叩き込む。戦艦ですら沈みうる弩級のボディーブロー。
「なるほど、確かに夜戦なら十八番だし、やれるかも」
夕張が頷き、吹雪が目を輝かせた。
「司令官に上申してみようよ。これなら行けるよ」
「そのつもり。懸念事項はあるけど、そこは司令官と相談だ」
懸念事項。この作戦を実施できるかどうかは、これをどう司令官が処理できるか。それにかかっている。だからこそ『あらゆる意味で司令官が必要』なのである。
⚓
「夜戦?」
「そう」
食堂で昼食を取りながら、響達は木津に夜戦について風呂場で話していた事を伝えた。シーフードラーメンをつつきながら、木津が唸る。
「なるほどね、合理的かも。やってみる価値はあるな」
「懸念事項とか、ある?」
「あるね。とりあえず三つほど」
響の質問に木津は即座に答えた。夕張と吹雪は固唾とラーメンを飲みこんで見守る。
「一つ目は、敵の航空機が夜に飛べる可能性。公海上の空路も制圧されている現状、敵が夜や悪天候では飛べないと思わない方がいい。夜が安全なら人類はとっくにフライトを夜間に設定してるはず。まあ対空戦闘と対艦戦闘じゃ勝手は違うだろうけど・・・・・・」
艦娘達は残りの二つを待った。木津は続ける。
「二つ目は、潜水艦タイプの深海棲艦。そういえば一つ聞きたいんだけど、あの時吹雪はソナーで位置を探ったんだよね? あいつら潜望鏡とか使わないし。当てられるものなの?」
吹雪が頷き、少し長くなりますがと前置きしてから答えた。
「艦娘の対潜水艦戦闘は特殊でして、一度発見すると妖精さんが深海棲艦を捕捉し続けるんです。そこに爆雷を投射すると、ある程度妖精さんが誘導を掛けてくれるんです」
「さっすが妖精。じゃあ夜戦でも倒せるわけだ」
そこで吹雪が申し訳なさそうな顔で押し黙る。
「すみません、夜戦になると当てられないそうです。誘導方式が『爆雷視点からの目視による誘導』だそうで、見えないのだとか」
今なんか凄いこと言わなかったか? と木津は眉を上げた。爆雷視点ってなんだ。その上、昼ならホーミング爆雷を撃てるという時点でかなり桁外れの偉業だ。羅針盤と不思議ソナーの組み合わせで索敵も優秀だし、艦娘の真価は対潜性能ではないだろうか。
「まあ、夜に潜水艦倒せたら現代でも最強だよ。仕方ない。三つ目の懸念は多分敵もこっちに気付くんじゃないかって事。これは本当に懸念というか、憶測でしかないんだけど。まあ不意打ち出来るとは思わない方が良いってだけだから、重要なのは二つかな」
そこまで言うと、木津は水を飲んだ。ラーメンは喉が渇く。夕張が箸を置いた。汁は飲まないようだ。木津も飲まない。
「夜に潜水艦は倒せないけど、発見は出来るのなら・・・・・・。潜水艦が居たら速攻で逃げる感じでいいのかしら。戦闘を仕掛けてくるなら深度を上げてくるだろうから気付けそうよね」
夕張の意見に木津は確かにと頷く。魚雷を撃てる深度はかなり浅い。特に喫水下の部位がない艦娘には・・・・・・魚雷当たらないのでは?
「あの、君たちに聞きたいんだけど、艦娘って魚雷当たるのか?」
「いい質問だね司令官。深海棲艦の魚雷しか当たらないよ」
響が答え、しば漬けを口に放り込んだ。
「え、当たるのか。なんで?」
「深海棲艦の魚雷は艦娘の近くに来ると近接信管のように炸裂する。あと、実は魚雷にも誘導性能が付与されているよ」
「まあ、現代でも誘導魚雷はあるらしいし、それは驚かないかな。しかし近接信管って、まるで対人兵器だな。魚雷なら通常信管じゃないと船沈められないでしょ」
「たぶん任意だよ。いつでも爆発できると思う」
「そんな気はしてた」
むしろこいつらの戦争に制約はあるのか? なんでもアリな気すらしてきた。とりあえず全員食べ終わったようなので、手を合わせてから四人は食器を返却し、食堂を出た。
縦隊で歩く艦娘達の左側に指揮者の木津は付く。隊列を組んでいるとはいえ、ラフなものだ。歩調を最低限合わせている程度である。
「とりあえず、今日の夕方にでも司令長官に話してみるよ。夜戦の事」
木津の言葉に艦娘達が浮き足立つ。戦いが怖くないのかとふと木津は思ったが、心の中で首を振った。
(恐怖より大切な物があるから、か)
⚓
食堂から帰ってくると、時計は十二時を少し回った所だった。十三時までは休憩を取り、またそれから訓練でもしようかと思ったが、海に出させるとまたシャワーを浴びさせないといけない。
「よし、昼からは陸上で体力練成でもしようか」
木津の提案に艦娘達は賛同を示す。
「了解しました!」
「陸で運動か。何気に初めてだよ」
「今度こそ置いてかないでね? 約束よ?」
「あきらメロン!」
また夕張と響がいちゃつき出したので、木津は二人を廊下に追い出した。
「寒い! 入れてよ司令官」
「置いてかれるより辛いの! 助けて!」
木津が慈悲を見せてドアを開ける。響と夕張が部屋に駆け込んだ。
「司令官、鬼かな?」
「ちょっと鬱陶しかったから」
「ひえっ」
とりあえず四人はコーヒーでも飲むことにした。温かく香ばしい湯気を漂わせるカップを手に、テーブルを囲んでソファに腰掛ける。
「そういえばさ、艦娘って冬の海とか寒いよね?」
「いや、別に」
「さっき寒いとか言ってただろ!」
「あー、あれね! 嘘だよ」
響がしれっと答える。木津が響の頬をぐにぐにつまんでいると、吹雪が補足した。
「艤装を起動していると、受けるダメージなどは艤装に反映されますので、寒さとかも体に影響しなくなります。その代わり、接続状態にある艤装が破壊される事は艦娘自体の機能停止に繋がり、この世から消えます。轟沈、ですね」
「私も艤装欲しくなってきたところに、ヘビーなオチを・・・・・・」
「あひらへろん!」
「気に入ったのかそれ。ほらもっと言ってごらん」
頬を歪められながらも減らず口を叩いた響をさらに弄り回す。
「あえー、ごへんなはい」
「まったく」
響の頬を解放し、コーヒーを啜る。気楽な雰囲気で飲む紙コップのコーヒーは悪くない。艤装をつけてコーヒーを飲めば火傷もしないのだろうか。
「艤装って、人間はつけられないよなあ」
木津の言葉に吹雪が「さすがに」と頷く。やはり艦娘と人間は違う。当たり前のことだが、少し口惜しかった。
「ところで、艤装をつけてない艦娘は出血したりするの?」
「しますよ。陸地の方が艦娘にとっては危険かもしれません」
吹雪が肯定し、響が頬をさすりながら頷く。
「普通に死んじゃうしね。艤装つけてる時に撃たれても死なないけど、水上じゃないと機能しないから陸で艤装つけて無双とかは出来ない」
「そうか。まあ、もし事故死でもしたら葬式はあげてあげるよ」
「痛み入るね。成仏できそうだよ」
響の軽口に夕張が「まあ私たち既に幽霊みたいなものよね」と笑う。なかなかブラックジョークだと木津は思うが、艦娘達のメンタリティは人間とは違うようだ。艦娘達はけらけら笑っている。
「葬式の前に結婚式でも挙げてみたいものだね」
「まさか響の口から結婚なんて言葉を聞くとは。犯罪的だ」
大げさに木津が驚いてみせる。
「失礼な。司令官こそどうするおつもりなのさ」
「やかましい」
洒落にならない反撃をもらい頭を抱えていると、木津のデスクにある妖精タブレットが鳴動した。木津はソファから立ち上がり、タブレットを取りに行く。画面を見ると一件通知が入っていた。その内容に木津は固まった。艦娘達も画面を覗きに来て、夕張と吹雪も固まる。
「なになに。どうしたの司令官」
背の低い響がぴょこぴょことタブレットを覗こうとするが、届かない。木津達が固まったままなので響はタブレットを木津から取り上げた。
「こ、これは・・・・・・!?」
タブレットにはこうあった。短く、しかし衝撃的な文言だった。
『ケッコンカッコカリの機能を承認。指輪を一つ追加』
⚓
十三時からの訓練は中止になり、緊急会議が開かれた。内容は他でもない結婚(仮)についてである。木津は組んだ手の上に顎を載せ、視線を艦娘達に巡らせた。
「えー、まずこの機能がなぜ追加されたのか、証人を呼んで頂きたい」
「議長、無理です。どの妖精さんか分かりません」
響が首を振り、夕張と吹雪も無理だったと言うようにそれに倣った。
「じゃあせめてこの指輪の使い道だけでも分からない?」
木津の手には銀色の美しい指輪があった。一組分だ。
「売れそう」
「こら!」
響の虚ろなセリフに吹雪が突っ込む。夕張がタブレットを操作したり、妖精に何か聞いたりしていたが、やがてゆっくりと手を挙げた。
「なにか分かったの」
「女同士でも問題ありません」
「ちがうそこじゃない」
木津は頭を掻き毟る。だが夕張が早口で食い下がった。
「いえ、大事なことです! それにですね提督、このタイミングで妖精がこんなものを出してくるというのは、暗にどの艦娘と添い遂げるか選べと言っているのではないでしょうか今すぐに!」
「何でやねん、そこまで飢えとらんわ!」
もはや会話が成立していない。
「うわー・・・・・・、絵に描いたようなぐるぐる目だよ」
響がひそひそと吹雪に話しかける。吹雪があははと笑ったかと思うと急に何かを閃いたような顔をした。
「司令官、それ見てもいいですか」
そう言って指輪を受け取ると、いきなり自分の手にはめた。
「特に何も起こりませんね」
「起こったらどうするつもりだったんだ」
響が久方ぶりにまともな突っ込みを入れる。自分の指をしげしげと見ていた吹雪が響を振り向き、やおら響の小さな手を取った。
「響ちゃんの指だとサイズ合わないよね」
「えっ」
幼い外見を気にしている響が少し動揺する。その指に、吹雪は指輪をはめた。
「うわぁぁぁぁッ」
絶叫する響。夕張が目を輝かせてガタッと立ち上がる。木津はもうどうでも良さそうに傍観していた。
「離して、離してっ。嫌だぁぁ」
「あっ、なんか光った」
「ぎゃあああああ」
必死に嫌がって吹雪の手を振りほどこうとする響。その指輪が突然輝きを放って・・・・・・サイズが変わった。響の細い指にぴったりフィットしている。
「えっ、それだけ?」
木津が拍子抜けする。夕張はやっと座ったがまだ薄笑いを続けている。呆然としていた響が我を取り戻し、乱暴に手を振りほどいて指輪を抜き取った。涙目で木津に抗議する。
「それだけ、じゃないよ! 訳も分からずご結納なんてごめんだ」
「いやだって、遊びみたいなもんじゃん。それに誰とする気なんだ」
「もういいっ」
歯ぎしりしながら今度は吹雪をにらみつける。吹雪が不思議そうな顔をしていたが、あっと声を上げる。
「ごめん、響ちゃん。てっきり艦娘同士は無理だって知ってるものだと思ってた」
「だからってはめる必要無いでしょ」
「いや、サイズ合わないとどうなるのかなって気になっただけなの」
呆気に取られたような表情をしたあと、響がさめざめと泣き出した。ごめんね、と吹雪が慌てて頭を撫でる。天然って怖いと木津は苦い顔をした。そしてこの結婚(仮)とやらは思った以上に重いらしい。あと、指輪を同時にはめると本来なら結婚(仮)扱いになるようだ。
(こりゃ迂闊にイジれないぞ・・・・・・。せいぜい験担ぎみたいなもんだと思ってたわ)
終始夕張はにやにやと駆逐艦たちを眺めている。近所のお姉さんみたいな気分なのだろうか。どちらかというと変質者に見える。
「で、結局このケッコンカッコカリとやらに具体的な効果は無いんだね?」
木津が話を元に戻す。夕張がタブレットを差し出してきた。
「ここに説明書がありました。どうも成長上限と燃費と運が上がるようです」
「え、結構便利じゃん。運ってのがよく分からないけど」
一転して前向きなセリフを言う木津に三人の艦娘が視線を向ける。
「ではいったい誰を」
「いや、今は使わないよ。もっと使うべき時に使う」
「と、言いますと」
艦娘達は固唾を飲んだ。真剣な顔で木津は答える。
「後々、もっと火力と装甲のある敵を沈めようと思ったら戦艦や空母が必要になる。そういう奴らは敵をどんどん沈めるから成長も早い代わりに消費も馬鹿にならない。つまりもっと重い艦級の艦娘に使うのがもっとも・・・・・・」
そこまで言った所で木津は言葉を止めた。なぜか並々ならぬ圧力をほうぼうから感じたのだ。
「ちょ、なに君たち。眼が怖いんだけど」
夕張がわなわなと震えていたが、許せないと言った顔で叫んだ。
「この効率厨!」
「えぇ・・・・・・。だいたい結婚とかいう言葉に振り回されすぎだろう。少なくとも私にこれを使えと言われたら機能面で判断するしかないじゃん」
完全に困惑する木津は、どうにかしてくれと言うように吹雪を見る。しかしなぜか暗い顔で目を逸らされた。響に至ってはもう顔を手で覆って表情すら見せようとしない。
「ふ、吹雪。お前もか」
「いえ、大丈夫ですよ。わたしは司令官のお考えは正しいと思います・・・・・・」
そう言って何も言わない響をそっと抱きしめ、顔を響の肩と銀髪にうずめる。ふだん明るい吹雪の様子に木津は血の気が引いた。
「待ってなんかマジで怖い! なんなの、じゃあ私はどうすればいいんだ。妖精は私に何も言ってはくれない・・・・・・」
かなり怪しまれる言葉と共に、木津も顔を覆った。そんな時にドアがノックされたので木津は力無く「どうぞ」と言った。入って来たのは土川司令長官だった。
木津は立ち上がったが挨拶する間もなく土川が「これはいったいどうした事かな・・・・・・」と言って面食らった様に艦娘を見回す。
響は顔を覆ってふさぎ込んでいるし、吹雪は響を抱きしめたまま顔を見せないし、夕張は目に見えてむすっとしている。
「どうかいたしましたか」
木津が空いた椅子を勧めつつ用件を尋ねる。
「いや、なんとなく来ただけだ。ところで、なぜこんな異様な雰囲気なのかね」
「それはですね・・・・・・。話すと長くて」
微妙に話しにくそうにする木津を見て、土川は察してくれたようだ。
「そうか。なら話すついでに司令長官室に来てくれないか? 頼みたい事がある」
「・・・・・・了解しました」
頼みたい事というのが方便であるというのは木津にも伝わった。
とりあえず艦娘達に留守を頼むとだけ伝え、木津は部屋を出る。
⚓
司令長官室で木津と土川は向かい合って座っていた。テーブルの上には普段とは違って紅茶が置いてあった。とりあえず木津は指輪の件と、なぜか艦娘達が不機嫌になってしまったことを話す。土川がなるほどと言いながら紅茶を飲む。
「君は本当に艦娘達に慕われているんだな」
「え?」
「いや、艦娘たちも同じように思っているだろう。ケッコンカッコカリとやらなんてただの遊びみたいなもんだと」
「はあ」
しっとりしたクッキーを口に放り込み、土川はまた紅茶を飲む。木津もとりあえずそれを真似した。
「遊びだからこそ、自分の好きな様に選んでくれると思っていたのさ。そしたら君はなんと、娘の政略結婚を目論む社長みたいな台詞を言い出した。だから艦娘達は落胆したんだ」
「そんな・・・・・・。それ以外に、私に公平に選ぶ方法がないじゃありませんか。今はたったの三人ですが、これから艦娘は増える。その時、百人の中の一人となる誰かを私情だけで選ぶなんて、出来ません」
「君は真面目だなあ」
土川は笑った。木津にとっては笑い事ではない。こんなおふざけみたいな事で艦娘達に背かれたら仕事にならない。
「土川長官が選んでいただけませんか」
「そんな事出来るわけないだろう」
「なぜです」
あえなく一蹴され、木津は食い下がる。土川の顔は真剣だった。
「艦娘が最初で最後に命を預けることになるのは君だ。木津少佐。君がいたから彼女達は戦うことを選んだと言っても過言ではない。君が艦娘に居場所と、意味を与えた。それを忘れてはいけない」
その言葉に木津は言葉を失い、俯いた。
「もし吹雪が最初の艦娘として生まれた時、君が居なかったら。艦娘は戦うことなんて選ばなかったかもしれない。それはそれでいい未来があったかもしれないが、少なくとも今艦娘達は、納得する現在を手に入れているんじゃないか? 君の手によって」
「そう、なんでしょうか」
「じゃなかったらこんな事でへそを曲げたりしないさ。だから選んであげなさい。君の気持ちによって選ばれないと、艦娘は決して納得しない。君の選択も、指輪も、受け入れはしないだろう。『遊び』だからこそな」
遊びだからこそ、そんな事があるのだろうか。木津には理解しがたかった。だが、確かに彼女達は任務とか、使命とかには忠実な気はする。であれば、個人的理由が趣旨と彼女達が判断すれば、この指輪もそうあるべきなのかもしれない。
(だとすると余計に選びにくい・・・・・・)
木津は頭が痛くなってきた。誰かが特別好みとか、男だったら楽だったかもしれない。正統派が好みなら吹雪だろうし、お姉さんタイプが好きなら夕張だろうし、紳士なアレなら響だろう。それに、もっと艦娘は増える。
思い詰めた顔をする木津に、土川は宥めるように言った。
「まあ、保留なら保留と言えばいいさ。君なりの正直が必ずしも納得される訳では無いのは、悩みの種だろうがね」
「はい・・・・・・」
呻くように返事をして、木津は土川の部屋を出た。
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一方、木津が出ていったあとの艦娘鎮守府では、吹雪達が暗い空気を熟成させていた。夕張がタブレットをだらだらと弄っている。
「いやー、別に本気でケッコンカッコカリとやらをしようとは思ってないけど、あれは無いわよねえ」
頬を膨らませたり戻したりする夕張に、吹雪が首を振る。
「司令官は真面目な方ですから、指輪に対してもいちばん意味があるようにしてくださるつもりなんですよ。きっと・・・・・・」
「でも吹雪の顔が一番暗いわよ?」
「・・・・・・」
吹雪は黙りこくって、いっそう強く響を抱きしめた。さっきまで顔を覆っていた響はというと、すっかり落ち着きを取り戻しているが、苦しそうだ。
「吹雪、もう怒ってないから。離してほしいな」
「あ、ごめん」
解放された響が服を整える。吹雪がふと尋ねた。
「響ちゃんは司令官の考え方、どう思う?」
「どうって・・・・・・、司令官の勝手かなって」
とても自然に言う響に、夕張があれ、と声を上げた。
「なんかさっき顔隠してたじゃん」
「鼻水出たから」
ウブさの欠片もない返事に夕張は「ああそう」と流し、急ににやりとする。
「え、じゃあ木津少佐とケッコンカッコカリ出来なくなると思ったから泣いた訳じゃないのね?」
「いや、わたしは生涯独身で居たい。自由だし」
「このフリーダムめ・・・・・・。泣くほどの事か」
「不本意な結婚より不幸なものは無いッ!」
「はいはい・・・・・・。てかこれ(仮)だからね? ごっこだから」
「それでも! と。わたしはそう言い続けるよ」
結局、落ち込んでいるのは吹雪だけだった。夕張が吹雪に話を振りなおす。
「吹雪は、提督としたかった?」
「それならそれで嬉しいですけど・・・・・・。この嫌な気持ちはまたそれとは別な気がします」
「それは何となく解るわ。道具として見られたみたいで、嫌なのよね」
吹雪はびくっとこわばり、そうかもしれないと頷く。夕張はそうだった。指輪を渡すのは、近代化改修や修繕とは訳が違う。性能を上げる行為ではないのだ。いわば『約束』なのである。その艦娘と勝利を掴みたいという宣言のようなものだ。
だから、今は渡すのにふさわしい相手がいないと思うならそれでいいし、絶対に誰にも渡さないというのならそれでいい。ただ、渡すと決意する理由が「その方が効率いいから」というのはあんまりだと思うだけだ。
そんなのは、いざ渡されるその艦娘も嬉しくないに違いない。
「結婚って言葉に振り回されてるのは提督かもね。難しく考えすぎてるのかしら」
夕張は天井を仰ぎ、ため息をついた。誰も話さない時間が続き、永遠を三人が感じ始めた頃、廊下から足音が聞こえた。ドアが開いて木津が入ってくる。
「ただいま。その、指輪のことなんだけど」
艦娘達は木津を見つめた。木津は居心地が悪そうに言葉を続ける。
「悪かった。少なくとも指輪を兵器みたいな考えで扱うべきではなかった。君達の事もただの兵器として考えることになってしまう」
夕張は少し驚いた。言いたい事を言うまでもなかった。木津の言葉を艦娘達は待つ。
「だけど、誰に渡したいかを考えても、今はまだ分からない。渡す事はいい事なのかもしれないけど、自分がまだ分からないんだ。だから待って欲しい。納得して渡したいし受け取ってほしいから」
そこで木津は言葉を止めた。夕張が椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます、提督。きっとその艦娘は指輪を喜ぶと思うわ。それと、感情的になった事をお詫びします」
「こちらこそすまない。艦娘の事を私は全然分かっていないみたいだ」
木津が吹雪の方を見る。目が合って、吹雪が微笑んだ。木津はほっとする。そしてティッシュで鼻をかむ響を見て「響は納得できたかな」と尋ねる。
「ん? わたしは司令官の考え方に異論は全くなかったよ」
「え、さっき顔を隠してたでしょう?」
「ああ、あれね! 鼻水出たから」
「・・・・・・いつも通りだという事は分かった」
艦娘達の新しい顔も、ブレない所も、結局木津は振り回されるのである。この先も新顔が増えるのだ。木津は、今は楽しみだった。
「さて、じゃあランニングにでも行きますかね」
了解! と艦娘達は元気に敬礼をした。ロッカーを並べて死角を作ってあるスペースがここの更衣室である。体育服装という名のジャージに着替え、四人は部屋を出た。指輪のケースは木津のロッカーの中で、しばしの眠りについた。
「ところで響、泣くほどケッコンカッコカリを嫌がったのはなんで?」
走りながら、木津はふと響に聞いた。彼女は静かにこう答えた。
「不本意な結婚より不幸なものは無いんだよ」と。