第二話
真新しい神社の中からこんばんは。
どうも不思議なことが世界にはあふれているようで、私の目の前でも不思議なことが起きています。
神棚の戸には頑丈そうな錠前がかけられていて、中に何が祀られているのかわかりません。
その左右に立てられた蝋燭がチラチラ揺れ境内を照らしています。
一通り眺めて、境内の脇にある鍵つきの扉に手をかけました。すんなりとドアは開いて、床は渡り廊下へと続いています。
渡り廊下に出ると渡り廊下の先に、また鍵つきのドアがあります。
私はそのドアをゆっくりと開けました。
中は6畳程度の広さで、真ん中には小さな机、椅子が4つ。
水が出るかはわからないが台所の流し。火がつくのか、わからないがコンロらしきもの。
まってまって、ガス詮があるけど使えるんですか?
ためしに詮をまわして、コンロ?についてるボタンを押す。
カチッ…チッチッ…ボッ
と音を立てて火がつきました。どういう原理ですか。
火を消して、水の蛇口をひねると。
で、デター!水出ました。
水通ってるんですか。よくわからないですけど。
一通り、部屋を見て回ると、お風呂、トイレ。
そしてもうひとつの部屋は畳の部屋で、箪笥と壁掛けの時計。押入れには布団。
箪笥の中には下着と、洋服、
そして巫女服。
ずいぶんと手の込んだ誘拐か、ドッキリか。しかも箪笥の一番上の段に入った巫女服。
実行犯はHENTAIですか?巫女萌えですか?
その日は謎のエネルギーで動いているお風呂で体を洗ってから布団を敷いて寝ました。
服は今日使わずに持って帰ってきた体操服をパジャマ代わりに。
布団からは、祖母の家の香りがしました。
あの壁掛けの時計や、箪笥。そういえば、祖母の家にあったものとそっくりです。
お母さん。私はいま誰の家かわからないところで、お風呂に入って寝ようとしています。
明日にはおうちに帰ります。
なぜかここは心地がよくて…。
そんなことを考えながら、私は眠りにつきました。
―――――――――
「―--――-ー!」
窓からの木漏れ日。そして誰かの声が聞こえたような気がして目を覚ましました。
もしかして、誰かが助けに来てくれたのでしょうか。
外から女の子の声が聞こえます。
「―――!!――!!!―――――!」
窓から覗くと女の子の声は聞こえるのに姿が見えません。
早く外に出て助けを呼ばなければ・・・。
けど、こんな寝癖ががっちりついている頭で出て行くのはさすがにいけません。
だって女の子だもん。
急いで壁にかけてあった鏡の前で髪を整え、体操服をマッハの速さで脱ぎ捨てて箪笥に手をかけます。
上から1番目の引き出しを開けようとすると
「え、あれ?・・・あかない」
洋服が入っていた引き出しだけ開かないのです。
昨日私が着ていた夏服のセーラー服は汗でべちょべちょだったので、昨日シャワーのときに軽く手で洗って干しています。
触ると湿り気がまだ残っており、着れる状態ではありません。
私ここに長居する気満々?いえいえ、そんなことは。
箪笥をあけようと精一杯力をこめて引きますが、うんともすんとも言わないこの赤茶の箪笥。
隙間を見ますが、アロンアルファでくっついてるわけでもないみたいですし・・・。
他の引き出しを引っ張ると、2段目3段目と、開きません。
一番下の4段目の引き出しを開けると、開いた。
開きやがりました。
私の目に、巫女服がうつります。
ちょっと待ってください。なんで4段目だけ開くんですか。
これ、ドッキリ系の番組で視聴者をはめるとかいうゲスな企画なのでは?
あかんのです。私にこれを着ろと?
いや、はやく何か着て外に出ないと。
くそぉおっと雄たけびを上げながら私は白い布を引っ張りました。
―――――――――
袴なんて、剣道の授業以来です。
姿見の前で左右を向いて確認した後、私は小走りで渡り廊下から神社の境内の中に入りました。
外からは女の子の声がまだ聞こえます。
私はドタバタと足音をたてて神社の入り口の戸を横に力強く開けました。
ちょうど賽銭箱の前には黒髪の女の子。
白いシャツに、黒のスカート頭にはまるで天狗がつけるような赤い帽子が乗っていて、背中に・・・背中に羽が生えてます。
「ほぁ!?」
その女の子はびっくりして後ずさりしてしまいました。
「あ、ご、ごめんなさい!その、びっくりさせて・・・!」
「え、いやいやいや!すみません私もまさか人がいるとは思わなくて、ってぇええもしかしてあなた!」
女の子は私の両肩をガシリと掴むと、目を輝かせます。
「ここの巫女さんですか!」
「え!?」
「いやぁ、ですよね!後ろに民家つながってるし、人はいるだろうと思っていたんですが!まさか会えるとは!こっそり進入する手間がっ・・・げふん!」
「進入・・・?」
「いえいえなんでも!『幻想郷、謎の神社が現る!』これはいい記事になりますよぉお!!」
女の子はメモ帳に筆を走らせると、元気よく私に振り向きました。
「それでっ、あなたのお名前は!」
「わ、私ですか?私は・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
なぜか自分の名前が思い出せないのです。
思い出そうとすると、頭の中が白いもやのようなものに塗りつぶされてわからなくなります。
「どうしたんですか・・・?」
女の子は首をかしげる。私もかしげる。
「えっと、私の名前って何ですかね・・・?」
「はい?」
「あ、あー・・・いやいやえっと、その・・・」
思い出せない。
昨日のことを思い出そう。私は何でここにいるのか。
母親の名前は、学校の名前は、親友の名前は、私の名前は
「わからない・・・です」
「え?」
「わ、わからない・・・・・・です」
「わからない、とは?」
「昨日、私ここに来たはずなんですけど・・・あれ?・・・ここに来たのは昨日だっけ・・・・・?私、何してたんだっけ・・・?」
あれれ、思い出せないんです。
おかしいな・・・。
「お、お?」
「思い出せない・・・なん・・・なんで?」
「へ?……お、落ち着いてください?」
「思い出せないんです・・・私、私なんでか此処にいて・・・?」
「………は?」
「好きな食べ物とかは思い出せるのに、お母さんの名前も、友達の名前も思い出せなく、なってる…?」
私は首を傾げました。
「お、お?!…」
「ごめんなさい、けど、いきなり・・・思い出せなくて・・・」
「い、いえいえ。びっくりしましたけど。・・・落ち着いてきました?」
「・・・は、はい…」
「えーと、じゃぁ、うんと…いつからここにいるんですかね…?」
「…思い出せません」
「あなたの名前は?」
「……思い出せません」
「どこから来たんですかね?」
「た、たぶん、違うところ…?」
「あー、いつからここにいるのかわからないってことは、そこに違和感を持ったって事ですよね。ということは、もともとは別の場所に住んでたんですかね。おそらく」
「な、なるほど…?」
女の子は自分の頭をかくと唸りました。
「これは、どういうことなんでしょうねぇ…自分の名前も思い出せないなんて…」
「ご、ごめんなさい…」
女の子は怪しいものを見るような視線を送ってきます。
疑われているのでしょう。
「うんと、名前が思い出せないってことは”あった”て事ですし。まだ、”無くした”ということを思い出せるんですもんね…?」
さらに疑いの視線。
「ふむ…まぁ、いいですや!わかりました。ありがとうございます!あ、最後にひとつ質問いいですか?」
「は、はい」
「なぜこの神社に?」
「…わからないです」
「そうですか。…ありがとうございます」
そう言うと彼女は颯爽と自身についた翼を羽ばたかせて空へと飛び立っちました。
わたしはそんな彼女を引き止めることも出来ないまま、ただ呆然とその後姿を見送ります。
自分のおかれている状況を理解できないまま。
あとがき
こんにちは、2話目の投稿になります。
ありがたいことに、一話目を投稿した際、タグ付けがうまく行ってなかったようで感想にて報告をいただきました。
気づいてすらいなかった私は、タグを直した後もしばらく落ち着きがなかったです。
一件のお気に入り登録もいただいて、あぁ、誰かが私の書いたものを見てくれているんだなと、とても嬉しい気持ちになりました。
ありがとうございます。
そして誤字脱字がないように気をつけなければ…。もし何かありましたら、ご連絡いただけると嬉しいです。