流星の軌跡   作:Fiery

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※2021/1/26 色々追記

原作を流し見程度しかしてないので、粗はあります。



英雄の軌跡
そのいち:流星の軌跡


 

 

「止めとけ」

 

 やけに穏やかに、心配させまいとする優しさを感じさせる声。その声を聴いた少女は、今まさに拳銃を構えようとしていた動きを止めた。

 横にはいつの間にか、少女と同い年程度に見える少年が居て、彼の手は優しく拳銃に添えられている。少年は真っ直ぐに少女の眼を見て、一度だけ首を縦に動かす。

 

 今この場で、まさに強盗事件が起きているとは思えないくらいに、その動作は落ち着いていた。強盗の怒声は確かに聞こえ、何なら狂ったようにこっちに向かってくるというのに。

 

「母親と一緒にいて、目を閉じて。 俺に任せろ」

 

 優しくも有無を言わせない声に誘導されるように、少女は銃から手を離した。すぐそこに倒れていた母親へと抱き着くように動く少女を守るように、少年は空中で銃を拾いその身体を襲い掛かる強盗の前に。

 

 

 直後に乾いた音が二度響く。

 

 

 それが発砲音だと分かったのは、両足の太腿を撃ち抜かれた強盗が倒れてから。襲い掛かろうとした男が持っていたナイフを少年は素早く取り上げて、男の衣服を用いて捕縛した。

 

「そこのショートの職員さんは警察! 隣のおじさんは救急車! 早く!!」

 

 少年が声を張り上げて指示を飛ばせば、指名された大人達が急いで通報を行う。それを尻目に少年は拳銃のマガジンを外し、ナイフを用いて銃自体を破壊する。そんな一連の行動を、少女はずっと見ていた。

 

 

 颯爽と現れたヒーローに助けられた、ヒロインの様に。

 

 

 

 

 

 

 少年と少女の再会は、それから一年ほど経った頃。

 少女の通う学校のクラスに、少年が転校してきたのだ。

 

「桜川涼です。 よろしくお願いします」

 

 記憶にある顔よりも少しだけ成長した彼を、彼女は思わず凝視した。それは自分に気付いてほしいという感情からなのか、単純な驚愕なのか。彼と目が合えば、彼は一瞬目を見開いて苦笑した。

 

 席が隣になるという幸運はなく、仕方ないので放課後に彼女は彼に声をかける。

 

「覚えてる?」

「目的語を付けてくれ……一年前のだろ?」

「あの時助けてもらった、朝田詩乃」

「あの時助けた……事になるのか? まぁいいか、桜川涼」

 

 覚えていた理由を聞けば、あの体験を忘れるとか無理だろという回答が返ってくる。詩乃はその回答が少し面白くなかったが、流石にそれはダメだと頭を振った。

 それから、家に着くまでは彼女だけの質問タイム。

 

Q:一年前は何でこっちにいたの?

A:父さんとキャンプ。 郵便局に居たのはマジモンの偶然。

 

Q:何でこっちに?

A:父さんの転勤。 母さんもついてきてるからまぁ、拒否権はないかな。

 

Q:銃バラバラにしてたけど。

A:父さんから教えてもらった。 海外では射撃練習場で撃った事もあるよ。

 

Q:あの時はすごく冷静だったけど。

A:父さんのキャンプは命の危険がいっぱいだから……

 

Q:家族は?

A:父さんと母さんと俺の三人。

 

Q:家は?

A:ここ

 

「……隣?」

「あ、そうなのか」

 

 どうも運命はあったらしい。それから、二人は家族ぐるみで付き合う事になり、目まぐるしくも輝きに満ちた日々を送り、

 

 

 一年後『ソードアート・オンライン』に涼は囚われる事となった。

 

 

 

 

 

 

 デスゲームに涼が囚われてから今日まで、詩乃がきちんと眠れた日はほとんどない。涼が居ないまま学校に行き、学業を熟して生活はする。学校が終われば彼が移送された病院へ行き、戻ってきた彼に教えられるように勉学を熟す。家に帰れば詩乃の母と涼の母、詩乃の三人で家事を済ませて眠る。

 

 涼の父は色々と守秘義務がある職業らしく、涼を助けるために動いている事だけは確からしい。息子がデスゲームに巻き込まれたというのに、必要以上に落ち込まない両親。

 詩乃が理由を尋ねれば、父親は『私は息子に出来る限りを教えた。 ならば信じるだけさ』と答え、母親は『私達の子供が私達よりも早く逝く事はちょっと想像できないのよねぇ』と苦笑を返した。

 

「……私は、無理です」

 

 それが詩乃の率直な感想だった。

 自分と彼が過ごした時間は、彼の両親と比べればあまりに短い。出会いを経て、この一年間を過ごし、大切になった彼を信じたいとは思う。

 

 でも、揺らぎそうになるのだ。

 

 信じられないわけじゃない。信じた結果、彼が居なくなってしまうのが怖いのだ。

 

「お母さんも、そうだったのかな」

 

 大切な人を亡くして、その心を壊した……

 涼の母親曰く、その人を知る前の心に戻した母親は、今は前を向いている。忘れたわけではなく、支えてくれるものを再認識した彼女は、今までの事を詩乃に詫びた。それでも、大切な人が居ないというのはそこまでになってしまうモノなのだと、詩乃は知っている。

 

「お義父様、お義母様」

「? ?? ??? 私達の事かい? 詩乃ちゃん」

 

 ある日の夕食時、詩乃は涼の両親に頭を下げた。

 唐突な出来事と唐突な呼び方に彼らは珍しくぽかんとした表情になっている。息子と仲良くしていた女の子が突然自分達を『義父・義母』と呼べばそうなる。そうなったらいいなぁとは思っていたが、まだ中学生に背負わせるものでもないとも思っていた。

 

 遊びで無い事は彼らも分かっている。

 詩乃は年の割には遥かに大人びた所のある少女だ。望んだわけではないだろうが、ただ生きて大人になった人間よりは聡明なのは疑いようはない。そんな彼女が真剣な顔をして自分達を見ているというのは、それだけの決意の表れだろう。

 

「お願いが、あります」

「とりあえず、言ってみなさい」

 

 涼の両親は体を完全に詩乃へと向け、続きを促す。

 

「涼に教えていた事を、私にも教えてもらえませんか?」

 

 何処までも真剣に詩乃は頭を下げた。その話に至った理由を問えば、涼を信じるためだと彼女は答える。

 

「私は、涼の事を知っているつもりです。この一年で親しくなったつもりです。お二人みたいに、デスゲームから彼が帰ってくる事も信じている…つもりです」

「でも、不安が消えないのね」

 

 母親の言葉に詩乃は頷く。だから、彼が何を学んだのかを知りたい。

 学校で教えられる事だけが彼を形作っているわけではないからだ。ならば、子供の時に最も影響を受ける存在であろう両親に教えを乞うのだと。それを知り、彼に何ができるのかを知れば、不安も和らぐのだと思った。

 

「そういう事なら教えるのも吝かではないが……」

「私達が涼を信用しているという事とはまた別、なのよ」

「どういう事ですか?」

「私達の息子はね……色々と計り知れない、という事さ」

 

 

 

●そのころのSAO●

 

 

「ソードスキルなんぞ動きの邪魔になるから俺は一切使ってねぇぞキリトォッ!」

「プレイヤースキル極まりすぎて参考にならないんだよオーリィッ!」

 

 黒い服の剣士と蒼銀の服の剣士が街中で罵り合いながら模擬戦をしていた。それをベンチで座ってみていた赤い服の少女が一人ため息を吐く。

 

「殴り合うと仲良くなる男の子って本当に居るのねー……」

 

 桜川涼――…プレイヤー名『オーリ』

 デスゲーム開始一週間で『キリト』『アスナ』と出会い、模擬戦にて意気投合。勢いそのままに更に一週間後、第一層のボスを撃破する。

 

「し、死ぬかと思ったんだけど……」

「オーリィィィ……お前無茶苦茶な機動しやがって」

「このゲームの仕様からすると後三段階ぐらい上がある気がするな」

「それもう変態機動じゃないか?」

「ゲームだけど遊びじゃないから真剣にやるわ。必要なら変態機動も極めんとな!」

「威張って言う事じゃないわよ……オーリ君……」

 

 

 

 

 

 

 デスゲーム開始より二年。

 その日も詩乃は病室で眠るように横たわる涼の身体を拭いていた。涼の両親から教わる様々な事は、彼女がここに来る頻度を減らしていた。

 しかし、ある意味その原点である彼のもとを訪れないという選択肢は、詩乃にとっては存在しない。普段は涼の母や詩乃の母がやっているが、休日には必ず詩乃がやっていた。

 

「恋人……か」

 

 ふと、学校での出来事を思い出す。

 学校での詩乃の人気は高い方であり、告白を受けた事も何度もある。その全てを断ってはいるが、そんな時に友人に言われた。

 

『朝田さんと桜川君って、付き合ってるの?』

 

 この問いに、詩乃は否と返答はした。

 これは事実だ。 告白していないのだから。好きなのはこの二年間で自覚した。 しかし彼はどうなのだろうか、と思う。彼から親愛の情は感じた事はあっても、自分が思っているみたいに好いてくれているだろうか。そんな気持ちを、涼の手を握って込める。

 

「帰ってきて。いっぱい、いっぱい言いたい事、伝えたい事があるの」

 

 ただ呟くように、切々と自分の思いを語る。

 

 初めて会ったあの時から好きだった事。

 

 再会に運命を感じ、家が隣で嬉しかった事。

 

 詩乃の母を立ち直らせる機会をくれた事への感謝に、自覚した自分の思い。

 

 全てを語り終えた後、小さく、その手が握り返された。

 

「!? 涼……?」

 

 その顔を覗きこめば、ピクリと瞼が動いた。

 口からは呼吸音ではない呻き声のような、確かな声。詩乃は涼の手を握ったまま、彼の顔を覗きこむ。永遠に思えるほど長い十数秒後、うっすらと目を開けた彼は詩乃の顔を見た。

 

「何だ……目の前にいたんじゃねぇか……」

「涼……生きて、るの……?」

「あぁ……クリアしてきたよ、詩乃。ただいま。心配かけて、ごめんな」

 

 そう言って、彼はぎこちなく笑う。

 ずっと見たかった顔を見た時、詩乃はその思いを止める事なく、彼に抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 この『SAO事件』の死者は、約六千人に上った。

 生還した涼の話によれば、クリア前……全百階層の内、九十五層まで到達した時点で、死者は約四千人。

 しかし到達直後に、プレイヤーの一人に紛れていた茅場晶彦がその正体を明かし、街などが指定されていた『その領域内ではダメージを与える事が出来ない』という通称《圏内》と呼ばれた設定が解除され、街にモンスターが雪崩れ込んだ。《ディフェンスイベント》と茅場が言ったその事件の際に、街に居た戦えないプレイヤーや、ボス攻略直後だったにも関わらず救援へと走った攻略組のプレイヤーにも被害が及び、約千五百人が死亡した。

 生き残ったプレイヤー達は文字通り、命を削りながら崩れた戦力を整え、犠牲を払いながら残りの五階層を踏破。魔王の如くラスボスとして立ちはだかった茅場が《英雄》と認めた三人のプレイヤーのみを、自身が居る最後の決戦場《紅玉宮》へと招き、最終決戦が始まり――…彼らは現実へと帰還を果たした。

 

 SAO攻略完了からの二カ月は、生還した者達にとって怒涛の日々だった。リハビリと並行しての勉強に、ある程度体力が戻れば事情聴取もある。そんな日々を涼は一分一秒も無駄にしまいと貪欲に熟す。詩乃も彼に出来る限り付き添い、献身的に支え続けた。

 

「受験はどうしたよ」

「これでも学年一位よ。 貴方に合わせるくらい問題ないわ」

「まじかー」

 

 時期としては年を超えた一月の初旬。

 決死のリハビリの成果か、涼は大晦日前には退院して自宅で家族と共に年越しが出来た。そして三学期だけではあるが、詩乃と共に通学できるまで回復していた。となれば、現実の問題として彼らは中学三年生である為、受験が差し迫っていたのだ。

 

「でも俺が行くのは、SAO生還者用の学校だぞ?」

「なら、同じ地区の高校受けるから」

 

 自宅のリビングにて、炬燵の中で対面に座り勉強しながらの会話。詩乃の返答にそれでいいのか、と涼は視線を送るが、詩乃は一切気にした様子はない。程なくして詩乃はペンを置き、ノートを閉じる。

 

「どうした?」

 

 炬燵から立ち上がった詩乃は涼の問いかけには答えず、彼の隣で改めて炬燵に入った。

 

「し、詩乃さん?」

「好きよ、涼」

「いきなりすぎん?」

 

 互いの吐息を互いの顔で感じられる至近距離で、詩乃はありったけの熱を瞳に込めた。涼は口調こそ冗談めかしてはいるが、その熱を正面から見据えていた。今この時、想い人の視界を独占しているという事実に彼女の熱は更に高まる。

 

「いきなり、かしら?」

「俺にとっては」

「そうね……私にとっては、自覚は貴方がデスゲームに囚われた後から。でもそうだったのは、もっと前」

 

 わかる? と詩乃は問うた。

 

 わからない。と素直に彼は首を横に振る。

 

 だよね。と詩乃は笑った。彼は自分の心に従っただけなのだから。

 

 最初に助けてもらった時には気づいていなかった。

 

 再会して、言葉を交わす内に想いは大きくなった。

 

 そんな相手を失う危機で、想いを伝えなかった事を後悔した。

 

 目覚めた時の喜びは何物にも代えがたい。

 

 そしてたった今、覚悟が決まった。

 

 彼女の激情を、目の前の少年は理解している。だからこそ真剣に、誠実に、正面から彼女を見ている。

 

「俺が自覚したのは、クリア直前だったよ」

 

 自然な動きで涼は詩乃を両腕で抱きしめた。互いの心臓の鼓動が重なって、やけに大きく響いた気がした。

 

「第百階層で、仲間と一緒にラスボスとして立ちはだかった茅場と戦った時に、死にかけた」

 

 情けなさそうに笑う顔を見て、詩乃の身体が強張った。それを解すように優しく背を叩いて、涼は続ける。

 

「何かその時、お前の顔が浮かんできた。泣きそうな顔して、俺を見てた。そんな顔をさせたのは俺だと思った」

 

 自分が情けないと思った。

 そんな顔をさせた自分が許せないと思った。

 そして、そんな顔をするほどに自分を想ってくれる事が嬉しいと思ってしまった。

 

「それで、よくわからないけど命を繋いだ。その時に思ったんだ。『あぁ、俺の奥底には詩乃が居るんだな』って」

「そう、だったんだ」

「あぁ、だから詩乃、俺からも言うよ」

 

 抱きしめていた身体を離し、彼らは改めてその視線を交わす。

 

「朝田詩乃さん。俺、桜川涼は貴女の事を愛しています。どうか俺の、恋人になってもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

 二人が恋人になり、卒業するまでにも事件は起きた。

 SAO内で仲間になったプレイヤーの中で、特に信用した相手に自身の連絡先を教えていた涼。その中で共にラスボスと戦ったプレイヤー『キリト』から連絡があった。

 

『もしもし、オーリの携帯か?』

「SAO生還者のオーリの携帯であってますよっと。どうした? キリト」

『俺と『アルヴヘイム・オンライン』ってゲームにダイブしてほしい。アスナの意識が、そこに囚われている可能性がある』

「――…起きて無いプレイヤーの中にあいつが居たのか。わかった。助けるアテはあるんだな?」

『その辺はダイブしてから説明するさ。今から二時間後に中立地帯で会いたいんだが、行けるか?』

「了解した」

 

 通話を切り、一つ息を吐いてから隣に視線を向ける。視線の先には頬を膨らませて、表情でいかにも不機嫌ですと主張している詩乃。

 そんな彼女も可愛いな、と思考がダメになりかけたが、流石に仲間の命には代えられない。

 

「なぁ、詩乃」

「私も行くから」

「あ、はい……いいのか?」

「貴方の仲間を助けに行くんでしょう? SAOでの涼の事も聞いてみたいし、私もお義父様とお義母様には鍛えられたの」

「ちなみに評価は?」

「お義母様は『出来れば息子の嫁になってほしい』 お義父様は『射撃については息子よりセンスも才能もある』だって」

「マジかよ」

 

 母親の評価はさておき、父親の評価に涼は素直に驚いた。自身がSAOを攻略している間、詩乃は両親の教育を受けていたのは聞いている。父親は世界中にツテもコネもある、戦闘力過多の自称サラリーマン。母親は何でも専門家並みにソツなくこなす資格マニアの自称専業主婦。二人の息子である涼は、両親の凄さと言うか凄まじさ、非常識さを本能で知っている。

 そんな両親が贔屓目は有れど高く評価している辺り、本気で教え込んだのかと思った。

 

「なら、一緒に行ってくれるか? 詩乃」

「貴方となら何処にでも、よ。 涼」

 

 




この場を借りて、見ていただいた方に最大限の感謝を。
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