流星の軌跡   作:Fiery

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百話です。




終わりませんでしたね(白目
でも下半期の開始です。



今回も三話続けるよー(虚ろな目


最果てより来たる星。汝、希望を運ぶ者

 最初にその異変に気が付いたのはリネルとフィゼルだった。

 自分達を襲っていた赤い騎士達が消え去り、最も重要な戦いが自分達の手を離れてただ一人に委ねられた今、他のやるべき事や気になる事に意識を向けるのは当然であった。

 

「ゼル! 見つかった!?」

「居ない! 何処に……」

 

 自軍の馬車を、暗黒界軍の馬車も、何なら周辺の遺跡すら駆け回り、しかし二人は焦りを滲ませる。

 赤い騎士達の消滅を確認した後、二人はオーリが寝ている馬車に駆け込んだ。しかし、寝ているはずの彼の姿は無く、だからこそこうして血眼になって探しているのだ。戦争は終わったが、余人にとっては天災に等しい戦いは始まっている。それに巻き込まれても大丈夫だなどという楽観論は二人に存在しないから。

 

 やがて二人は最前線だった場所へと駆ける。光が降る前、響いた歌の中で二人が見たのは、数多の英雄の背中。その中に自分達が(至天)と定めた英雄も居たのだから、『もしかしたら』という思いで向かった。

 

「リネルちゃん!? フィゼルちゃん!?」

 

 二人を見つけて驚きの声を上げたリーファに構わず、二人は最前線を見渡した。様々な人が増えているが、そんなものは関係ない。ただ一点だけ、確認を取った。

 

「「……いない!」」

「誰が?」

「「シノン!!」」

「え?」

 

 そんな筈は……とリーファが見渡すが、確かに見当たらない。戦いから逃げるような性格ではないし、そもそもそんな動きをすればリーファもアスナも、何ならランとユウキが見つけないはずがない。

 この場の誰もが意識を逸らしたとすれば、ユナの歌によって流れ込んだイメージを見た時と、南の空から優しい光が降り注いだ時くらいで。

 

「……シノンさん、()()()()()()()()()()()?」

 

 自身の記憶を探る。歌の後、時間にしては二十分程度であろう間戦っていたが、その時にシノンは居ただろうか? 曖昧だ。しかし、最前線に降り立った彼女は弓で矢を放つのは良いとして弓で()()、後衛としての腕がピカ一だというのにアメリカ人プレイヤー相手に()()()()までしてのけている。記憶にはっきりと残らないはずがない。

 しかし、歌の後から見た記憶が曖昧なのはどういうことだと、リーファは考えた。

 

「リーファさん!」

「ランちゃん? ユウキちゃんも」

「お義姉ちゃん見た!?」

 

 その問いでリーファは理解した。シノンがこの戦場だった場所から姿を消している事を。そして、リネルとフィゼルがわざわざここまで来たという事は。

 

「……もしかして、オーリ君も居ない?」

「はい」

「だから、もしかしたらって」

「兄さんが居ないってどういうことですか?」

「え、二人とも何してたの? ねぇ。ねぇ」

 

 双子(ランとユウキ)のハイライトが一瞬にして消え去り、光の無い目がぎろりと双子(リネルとフィゼル)を見る。その身体からは溢れ出てはいけない負の心意らしきオーラすら見え隠れして、『これひょっとしなくてもやべー奴ですわ』と自分のキャラを見失う程度にリーファを動揺させる。

 

『あー、てすてす。聞こえるー? 藍子に木綿季に直葉ちゃんに悠那ちゃん』

「「「え?」」」

 

 そんな時、三人の頭の中に直接響く声。涼の実母であり、藍子と木綿季の義母である美沙の声だ。

 

「え、あれ? コンソールも無いのに?」

『STLを弄って通信チャンネルを確保したのよ。私がいじれるのは六本木の方だけだから、四人に聞くしかないんだけど』

「何かありましたか? 義母さん」

『涼と詩乃ちゃんは、そこに居るわよね? 何かあっち、涼と詩乃ちゃんのフラクトライトの反応をロストして、でもダイブ状態だとか寝言抜かしてるんだけど』

 

 え? と疑問符を浮かべるリーファと、その意味を悟り表情が絶望に染まったランとユウキを、リネルとフィゼルが不思議そうな顔で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 虚無と極光がぶつかり合う。立ち昇る暗黒の剣と、八色の光を宿した剣がせめぎ合い、火花を散らしていく。鍔迫り合いながら、ガブリエルから致死……いや、付近一帯を滅ぼして余りある虚無の雷が迸り、ストレアが展開した光の檻がそれを封殺する。

 心意による攻撃を繰り返しながらも、二人は剣を振るう。ストレアが身の丈ほどの大剣を小枝の如く操り、ガブリエルは文字通り自分の腕である虚無の剣を振るう。

 

d@’jr.u(邪魔をするな)!』

「だから何言ってるかわかんねぇよ!!」

 

 武器を持たない左手を握り込み、不定形の横っ面を殴り飛ばす。轟音と共に吹き飛んだ天使(悪魔)は右腕から虚無弾をばら撒くが、既にストレアの左手にはこの世界に似つかわしくない武装が握られている。

 

「バーゲンセールだ!」

 

 握られている武装は、GGOにおいて『集団戦無敵』と呼ばれる男が持っているものだ。《M134(ミニガン)》のトリガーを引けば、放たれるのは様々な素因を変じた弾丸。毎分二千から四千発吐き出されるそれに、ガブリエルの右銃は対抗できない。銃のスペックを良く知っていればこそ、()()()()()()()()()()()()

 

『LLLLLLLLL……!!』

 

 しかし銃で対抗できないからと言って、ガブリエルに対抗策が無くなったわけでない。銃より強力なものはあると誇示するように、再び虚無の雷が放たれる。それに合わせるかのように、ストレアの虹色の瞳の輝きが強くなった。

 弾丸と雷がぶつかり、弾け飛ぶ。ストレアは更にミニガンを追加で五つほど形成し、中空に浮かせて弾丸を解き放つ。最大発射数毎分二万四千という、個人に向けるものとしてはオーバーキルどころではなく必滅を誓うに相応しい暴力。ガブリエルも自分の周りに虚無の塊をいくつも浮かべ、そこから雷を放つ事で対抗する。

 

 何故だ、とガブリエル・ミラーは疑問を覚える。まさしく神だと確信するほどに全能感を齎す力を振い、しかし目の前の存在は互角の勝負を演じている。何人も抗う事など不可能な力に何故、抗う。

 

 何故邪魔をする。私はあの日取りこぼしたモノを見つけた。だからそれを取り戻す。

 それを邪魔する権利が、貴様にあるというのか。

 

「そう言えば……あんたの事なんか一切理解できないけど、一個分かった事があったよ」

 

 そんなガブリエルの思いを知る気もないストレアが、その目に怒りを強く滲ませた。

 

「てめぇ、アリスを通して()()()()()()()()()()()()?」

 

 怒りの心意が力を伴い、ガブリエルに叩き付けられる。食らい切れぬそれに苦悶の声が零れるが、ストレアが相手を思いやる理由は一切存在しない。

 この化物は、ストレアの慈悲や慈愛の対象では決してない。それを向ける理由は一つもなく、逆の理由ならばごまんと用意できる。その中でも特に癇に障ったのは、ガブリエルから感じたその興味の向かう先だ。

 

 

「アタシの事を親友と言ったアイツに! 誰かを重ねて見てんじゃねぇぞォッッ!!!」

 

 

 アリスが《高適応性人工知能》だから狙うのはわかる。進化したAIとしてしか見ていないのは業腹ではあるが、それでも存在そのものを見ているから。

 アリス自身を欲して求めているのなら、それはそれで別に怒りを覚える内容ではない。しかしその際に払った犠牲を決して許容はせず、それを贖わせるが。

 ただこいつは、この男は、ダークテリトリー軍も現実のプレイヤー達も巻き込んでアリスを求めたくせに、()()()()()()()()()()。彼女を通して違う誰かの幻影をずっと追っている。

 

 許せるか。赦せるものか。今存在する命全てを蔑ろにして、過去への妄執を振りまくこいつに、絶対そのツケを払わせる。その命、その魂を持って、お前が犯した全ての罪を償え。

 

 それの何が悪い。求める物を求めて、何が悪い。

 アリスはあの日殺したアリシアの生まれ変わりだ。私の物になる筈だった彼女の生まれ変わりだ。死という別れから再び私の前に現れたと言う事は、彼女が私の物になるのは運命だ。

 

 許せるか。赦せるものか。運命がそれすら認めぬというのなら、私はその見えざる力すら超克しよう。私の道を遮るものを全て消し去り、必ずそこへと辿り着こう。

 

「だから――」

85i(故に)――』

 

 ガブリエルが頭上に巨大な……ガブリエル自身と比較すれば、彼が砂粒程度に思えるほどに巨大な虚無の塊を生み出す。

 対するストレアが生み出したのは、到底人間大の存在が持てるものではない、超巨大な砲だ。例えるならどこぞの宇宙戦艦の主砲サイズであるそれを構え、照準をガブリエルへと定めた。

 

「『ここで消えろ(bbw@g5¥)!!』」

 

 全てを滅する虚星がガブリエルから落とされ、全てを束ねた八色の光がストレアの持つ砲から撃ち出される。

 

 

 

 瞬間、世界は黒と白に埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 次々と想像を超えた数値を吐き出すモニターに、菊岡と比嘉は驚愕の連続だった。

 

 アンダーワールドにダイブしているはずなのに、その《フラクトライト》の消息を一切追えなくなった涼と詩乃。

 異常な活性出力を示した和人と、それを超えるほどに異常値を示す侵入者の《フラクトライト》。

 それに呼応……あるいは抵抗を示すように、侵入者の出力に伍するものを叩き出した《人工フラクトライト》。

 

「桐ケ谷君のが、百五十。侵入者と人工フラクトライトが、百七十……そんな、そんなの、ありえない」

 

 こんな異常活性は見た事が無いと、比嘉が首を横に振る。人の魂は機械仕掛けのエンジンなどではないのだ。百パーセントを超えて活性化するという事はあり得ないのだと、その表情が雄弁に物語っている。

 それを言えば涼の低活性自体も通常ならばあり得ない。あり得ない事が立て続けに起こっているのだから、比嘉の恐慌も理解できない事はないが、現状でそうなられても困るのだ。

 

「神代博士」

「私に振らないでくれる? いやまぁ、人の魂なんてものがどういう働きをして、何をしたら活性化して、なんてわからないから『あり得ない事があり得ない』のはわかるけど……」

 

 片手で額を押さえながらも、凛子は分析を続けている。異常に高い数値に対しては、とりあえず後回しにしても良いだろう。揺り戻しの可能性はあるが、それでも今生きているという証拠である。問題は観測できなくなった二人の《フラクトライト》だ。

 

「二人のバイタルは?」

『特に変化はありません。どちらもダイブしてからの平均的な数字をキープしています』

「なのにフラクトライトを観測できなくなったのはどういう事なんだ……」

 

 肉体的には生きているのに、魂を観測できない。魂が肉体から去ったのであれば、肉体もその機能を停止するはずだと菊岡は語る。尤もそれは、証明されていない為に仮説の域を出ないものてあるが、今までに判明した《フラクトライト》の性質から考えれば可能性は高かった。

 しかし肉体的に観測できる範囲では、二人の肉体は生命活動を行っている。それがどういうことか、菊岡にはさっぱりわからない。

 

「STLの観測範囲から《フラクトライト》が出た……?」

「そんな馬鹿な……」

 

 凛子の呟きに菊岡は失笑するが、加藤はそれを見咎めた。

 

「馬鹿な事が起こってるのですから、今は馬鹿な事でも可能性が欲しいのです。STLの観測範囲は?」

「範囲なんて言っても、アンダーワールドに居れば見失うなんて事はあり得ないッスよ……」

「アンダーワールド外に行ったとすれば?」

「それは……」

 

 比嘉が言い淀む。アンダーワールド外にフラクトライトが出る事自体、まず無い。そもそも生物オブジェクトがアンダーワールド外に出られないようにしている為、人間であるフラクトライトも出られないと言った方が正しい。

 それにアンダーワールドの大きさは人界だけでも、直径が千五百キロメートルを超える。ダークテリトリーを含めればその数倍……少なくとも、最後に観測できていた涼や詩乃の位置から一瞬で超えられるものではない。

 

「……いやでも、ダイブできる範囲に居るなら」

「では、通常STLでダイブできない範囲とは?」

「それは……廃棄データが集まるトラッシュエリアだったりはあるッスけど」

「こちらで観測できず、しかしバイタルに問題は無くてダイブ状態であると判断できるなら、可能性としてはそう言う場所に何故か行ってしまった、というのが高いと思いますが」

 

 加藤の言葉の理屈は比嘉も菊岡も分かる。しかし、その前提条件が不可能なのだ。少なくとも彼らの中でそれを覆すような手段は無い。

 

「だから二佐に開発主任。あり得ない事が起こっているのだから、前提条件や過程などを考えても現状は無意味です。それは起こった事に対処してから考える事であり、今の限られた時間で考える事ではない」

「比嘉君、そこに観測範囲を広げるには?」

「……いえ、そもそも想定できてないので、そこまで広げる事は出来ないんです」

 

 それはそうだろう。こんな事は一切想定していない。そもそもがフラクトライト低活性状態の人間が居る事も想定できていない。菊岡達だってこのプロジェクト人員や、褒められた手段ではないが生まれたての赤ん坊のフラクトライトまで確認している。データ数が少ない事は否めないが、大っぴらに被験者を募る事も出来ない極秘プロジェクトだ。それは仕方ない。

 ダイブ範囲も、普段はメインコントロールルームで制御や観測をしている為にイレギュラーなど無い。今回のこれは、想定外と想像外が立て続けに発生した結果のイレギュラー。

 

『だから厄介なんだ、彼は。あり得ないモノを、あり得ない確率を、土壇場で当然のように引き当てる。技術屋泣かせのデバッカー……いや、新しい視点でモノを見てくれる得難い人材かな』

「いやいやそんな……え?

 

 あまりにも自然に聞こえてきた声に思わず返事をした凛子だが、その声はここで聞こえていいものではない。何故ならそれは、既にこの世にいない人間の声だったからだ。

 弾かれたように顔を上げて辺りを見渡すが、見えるのは菊岡と加藤、比嘉と、ドアに凭れ掛かっている伊織だけだ。安岐は隣の第二STL室に居る為に、第二制御室にはいない。

 

(もしかして、来ているの……? 晶彦さん)

 

 あり得ない事が起こり続けている現状、そうあったとしてもおかしくないと考えている自分に、凛子は驚かなかった。SAOを終わらせた英雄が集まり、そこで生まれたAIも居て、更には生還者達も集まり、その世界は彼が目指した理想に現状最も近い世界だ。化けて出るには条件が整い過ぎる程に整っている。

 

「博士?」

「えっ、あ、何でもないわ……えぇ」

「そうですか」

 

 加藤の素っ気ない態度に今は有難みを感じ、凛子は息を吐く。しかしこのままでは状況が好転する事はない。考えろ、と思考を回し始めた時に、制御室のコンソールから可愛らしい『ピロン♪』という音が響く。

 

『初めまして、オーリさんのママさんから送り込まれました人員です』

 

 モニターに、黒く長い髪をした可愛らしい少女の姿が映る。その姿を見た菊岡は、顎が外れんばかりに驚愕した。

 

「ユ、ユイ君、かい……?」

『はい、菊岡さん。その節は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 可愛らしい声に皮肉を乗せて、もう一つの超AIと呼べる存在が《オーシャン・タートル》へと舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 詩乃が飛び込んだ先は、形が意味を成さない場所だった。彼女の身体すらもその場所に溶けて、形を成していない。魂だけがあるとわかり、思考だけが自分の存在を証明してくれるような場所。

 そんな場所だからこそ、彼女の目的を見つける事は簡単だった。何せ思い浮かべればすぐに見つかるから。

 

(ねぇ、涼)

 

 問いかける。

 

(……あれ? 何で詩乃がここに?)

 

 バタバタと慌てたような雰囲気が伝わってきて、思わず詩乃は笑った。

 

(元気じゃない。半年も私をほっといて寝てたって言うのに)

(は、半年? え、あれ? 俺そんなに寝て……はいィ?)

 

 混乱しているのがよくわかる。ここに居れば互いに隠し事なんかは出来ないだろうなと、特に意味の無い事を考えた。

 

(……そう言えば、活を入れれば目覚めるって言ってたけど、ずっと起きてたの?)

(いや、さっき起きたんだけど? そんで詩乃が居たからマジで驚いたんだが)

 

 それから言い訳のように色々と彼が話し始める。詩乃が来た半年前より以前の事を。アンダーワールドで自分が何をしてこうしたと言う事を、何故か正座をして言い訳しているイメージが浮かんだので、詩乃はまた笑ってしまった。

 全部正直に話している事はわかり、素直に信じられる。そしてどうやら記憶を封じられていたと言ってもその記憶のロックは昏睡状態に入る前の戦闘で自力で破ったとの事。

 

(せっかく色々考えてたのに……)

(詩乃さん。ここだと俺ら互いに考えてる事が駄々漏れになるからね? いや、だからって濃密に想像するの止めてあーッ! いけません詩乃さん! あーッ!?)

(帰ったら一カ月はくっつくからね)

(それはバッチこいなんだけど……え、俺マジでそんなに寝てたの?)

(外では一週間程度だけど……そう言えば誕生日結局すっぽかしたわね)

(帰れる予定やったんや! こんな事になるとか予想できませんやんか!?)

 

 四つん這いになってがっくりと来ている涼の姿を幻視して、詩乃はとりあえず留飲を下げた。まだまだ言いたい事もあれば、何ならやりたい事だってあるのだが、ここでやる事じゃないと彼女だって分別はつく。

 

(それで、詩乃)

(うん、皆待ってるわ。藍子も木綿季も、ストレアも桐ケ谷君も明日奈も、貴方の仲間達も、皆)

(大迷惑かけてんじゃん……)

(そうね、迷惑かけたから後でちゃんと謝らないと。私も一緒に謝るし)

(付いてきてくれるだけでありがたいですホント……)

 

 ははは、と力なく笑うその姿が唐突に現れる。それと同時に詩乃も姿を形作り、景色すら定かでなかった場所はその色彩を急激に変化させていく。

 

「これ、は……」

 

 そこは、無限に広がる空間。上を見上げれば星が瞬き、しかし青空広がる無限の蒼穹。下を見下ろせば大小様々な島が点在する、無限に広がる大海原。星の輝きや島で行われる営みが様々な色彩を齎し、それを空と海に反映する。無限に変化し続ける、魂の景色。

 

「詩乃」

 

 呼びかけられて振り向けば、そこには笑顔と共に手を差し出す涼の姿。その装いは、現実世界で見た日常的なものだ。その手を取り、詩乃は改めて微笑みかける。

 

「行きましょう、涼」

「あぁ、でもさ……」

 

 皆まで言うなと、詩乃は躊躇いなく涼へと抱きついて口付けた。彼を通して、詩乃にも彼が何を察しているのかわかっている。涼の魂を分けた妹(ストレア)はまだ戦っている。今ある己の全てを賭して、命ある世界を守ろうと足掻いている。

 

 その因縁を生み出したのは誰だ。

 

 唇を離した後、桜川涼は真剣に朝田詩乃を覗き込む。

 

「俺が、始末を付けなきゃならない」

「うん」

「だから詩乃」

 

 

 

 一緒に、戦ってくれるか?

 

 

 

 もちろん。嫌とは言わせないわ。

 

 

 

 じゃあ行こう。近所のスーパーに出かけるような軽い調子で言った後、二人の身体が浮上を始める。

 

 涼が詩乃の身体を抱えればその速度が途端に速くなり、あっと言う間に無限の蒼穹を超え、何もない空間を突き進んでいく。

 

 その中を突き進む時に、数多の光が二人の横を通り過ぎて行く。その中から二つの光が、涼達への横に並んだ。

 光は形を作り、一つは青い着流し姿の短髪の偉丈夫となり、もう一つは黒い口髭を蓄えた黒い鎧の騎士となる。

 

『やっと起きたか、オーリ』

「ベルクーリさん」

『お前が、ストレアが言っていた兄か』

「貴方は……」

 

 鎧の騎士はシャスターと名乗り、何かを察したオーリは彼に一つ礼をする。

 

「妹が世話になったようで」

『いや、俺達は押し付けたにすぎん。こちらが謝罪せねばな』

「じゃあ、言っておきます」

『あぁ……済まなかったな、オーリ』

「今更だぁ」

 

 はははと笑えば、ベルクーリの顔に苦笑が浮かんだ。そしてもう一つ、涼達に並んだ光がその姿を現す。

 真っ白い素肌に長い銀髪を流した少女――…最高司祭アドミニストレータが、白銀の瞳とどこか吹っ切れたような微笑みを涼へと向ける。

 

『私が持っていた神威なる力は、お前には宿らなかった。ただの人としてお前は虚無へと挑む事になる――…いいのね?』

「神だから勝てるとか、人だから勝てないとかじゃない。それに勝てるから戦うとかそんな話でも無い」

 

 言葉を一旦切って、涼は詩乃へと微笑んだ。詩乃はそれに微笑みで返す。

 

ストレア(家族)が今まで命を張って戦ってたんだ。助けてやらなきゃ、家族なんて言えない」

『……そう』

 

 その答えに満足したようにアドミニストレータは微笑んだ。そのまま、三人との距離が遠ざかっていく。それは目指す場所がもうすぐである事を示していた。

 

 

 

 黒と白の光がアンダーワールドを覆い、それが消えた後に出来た途轍もなく巨大なクレーター。その中心では、全身を血で染め、法衣以外の装備が全て砕けた状態で倒れているストレアの姿があった。

 その上空では、まるで勝ち誇り彼女を見下すように化け物(ガブリエル)が佇んでいる。その半身は消し飛んでいるが、全てが不定形の闇であり虚無となっている奴にとってはいずれ治る程度の物でしかない。

 

(あー……やっちゃったなぁ……)

 

 あの時放ったストレアの一撃と、ガブリエルの一撃は互角だった。それ故に、そのままぶつかり合えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事が、ストレアにはわかってしまった。

 後は咄嗟の行動だった。自分の攻撃出力をわざわざ落とし、ガブリエルの攻撃を可能な限り減衰させてアンダーワールドへ及ぶ余波と自身へのダメージを両天秤にかけ、こうなっている。

 

(勝たなきゃ、行けなかったのに……)

 

 勝たなければ守れないから、こうして全てを賭けた。しかし結果はこうだ。守りたい物を破壊するわけにはいかないから、ストレアはこうして自分が勝てる可能性を自分で手放した。

 

 空にはもう一度収束していく虚無の力が見える。しかし今のストレアに、それに抗う力はなかった。

 

(ごめん、アリス。ごめん、ユージオ……アタシ、二人の故郷守れなかったよ)

 

 地面を見て、涙が零れてくる。もう、この化け物相手に戦える存在は居ない。望みが断たれて、彼女の眼の前に諦めという名の闇が大きく口を開けていた。

 

「ごめん、キリト、アスナ、リーファ、ユナ……ごめん、藍子。ごめん、木綿季。ごめん、詩乃」

 

 

 虚無が降る。万が一も無いように、確実に逃げられないようにしただろう恐ろしいほどの巨大さで。

 

 

 ――…ごめんなさい、兄貴。アタシ、家族を助けられなかった。

 

「んじゃ交代だ。後は任せろよ」

 

 

 聞こえないはずの声が聞こえて、伏せた顔を上げる。

 

 

 知ってる背中がそこにあった。

 

 

 右手が天高く掲げられ、風を切る音と共に一本の剣がその手に収まる。それはキリトが友から託された蒼い剣。名付けた銘は《流星の剣》で、左腕と足を斬られた時に落とし、回収されなかったもの。

 

 その剣がとても緩やかに振われた。

 

 何も斬れないだろうと言われるほどに緩やかな一閃が、眼前に迫った虚無を両断。何の余波も発生させないまま消滅させた。

 

 

 

「……やっと起きたか……おせぇよクソ兄貴」

「しばらく見ない間に口が悪くなりやがって」

 

 

 

 その左腕に愛する人を抱いたまま、彼は口の端を歪めて笑った。

 

 

 

「遅くなって悪かった。ただいま、ストレア」

 

 

 

 




おり主「ふっかーつ」
きりと「とりあえず祝いで全員から一発ずつグーな」

キリト君の後ろに並ぶ千人越えの列

おり主「死んだら蘇生させられてまた死ぬまで殴られる無限トラップじゃねーかクソがァッ!?」
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