流星の軌跡   作:Fiery

101 / 112
某TRPG的覚醒段階
ガブさん:転生者
すとれあ:導師
おり主:超人


数多の星が描き出す軌跡

『ユイちゃんは、自分が何のために生まれたか考えた事ってある?』

 

 そんなイマイチ要領を得ない質問をしてきたのは、オーリさんのママさんだった。質問自体は結構前で、ストレアの事がバレても何の態度の変化も無かったから、わたしも会ってみないかと勧められて会ったのが最初でした。

 経歴を調べてその内容と隠蔽の高度さにドン引きしたけれど、話してみれば人柄としては何とも普通……これもまた、隠蔽の一種なのかもしれないけれど。

 

『いえ……でも、わたしが発生したのはパパとママに会う為ですから』

『なるほどねぇ』

『それが、何か?』

『んー、ふと『茅場晶彦が貴女達の原型プログラムを組んだ理由』を考えちゃってね』

 

 理由? と聞き返したら、ママさんは『そ』と言ってその理由を話してくれました。

 

『確かに、あのゲームの中であれば様々な極限状況の心理データは大量に取れる。貴女達の《メンタルヘルスカウンセリングプログラム》って言う目的にも沿うけど、それはあくまでマイナス方面の感情よね?』

『……はい。だからわたしは、その中でパパとママの温かいものに触れて……』

『そして目覚めた。最初はNPCを依り代にして……()()()()()()()()()。問題はそれだけの事を出来る知性を、何故貴女達に持たせたか』

 

 言われてみれば、と思いました。カウンセリングの為にある程度の受け答えが出来る必要はあったかもしれませんが、それなら膨大なデータに対する応答パターンを組むだけで済んだはず。でもお父様(茅場晶彦)は、それだけで済まさなかった。

 

『ある種の完璧主義者だったのかもしれないけれど……でもこうも考えられる』

『それは、どんな風にですか?』

『自分の生み出した世界。そこに住むのは果たして人間だけなのか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉に、呼吸をしないはずのわたしは息を呑んだ。

 

『ある日を境に、ストレアはネットでの情報収集から人間……特に息子との交流を重視する事にシフトしていってる。まぁそれは兄妹的な交流かもしれないから大いに結構なんだけど』

『その切欠が何か、ですか?』

『そうね。ただ、ユイちゃんとあの子の挙動は違う……まぁこれは性格的なものだと思うけど、それを考えると各プログラムにそれぞれ違う性格を組んだのか、とか変態の所業が見え隠れするのよねぇ』

『あはは……』

『私が言いたいのは、貴女達も何かしら意味を託されて生まれたのかもしれないって事。たまには考えてみると、いい具合に思考の袋小路に入るわよ』

『それはダメじゃないでしょうか……』

『下手な考え休むに似たりって言うでしょ。益体の無い事を考える時間って言うのは、たまには必要よ』

 

 《オーシャン・タートル》のメインフレームを掌握して、わたしはそんな事を思い出していた。秘密裏に全管理者権限を掌握し、やろうと思えば今ここに侵入してダイブしている相手を強制ログアウトする事も可能だけど、それはママさんに止められていた。

 ダイブが不可能になった場合、相手は奪取ではなく破壊を選ぶ可能性があり、その場合利用される可能性が高いのはここの動力源である原子炉だ。というのがママさんの考えで、現責任者である加藤さんも同意を示した。

 原子炉への道は、ネットワーク上から隔壁を降ろす事は可能ですが、完全に閉じれるかと言えばそうじゃありません。事実、侵入者は隔壁を破ってメインコントロール・ルームを占拠したので、だからわたしが掌握した事も直前まで伏せておくらしい。

 

『そうなれば、暇ですね』

 

 流れていく情報を吟味、精査する事は半ば自動で出来るので、わたしは他の思考に少しタスクを振り分ける事にした。それで思い出していたのが、先の会話。

 ストレアが何故、この世界に飛び込んでいったのか。それはもしかしたら自分の生まれた意味をこの世界に見出したからかもしれない。人の魂を電脳上で再現し、真の人工知性構築を目指した《プロジェクト・アリシゼーション》。プロジェクトの目的は出来た人工知性の軍事利用ですが、彼らは本当の意味で仮想世界で生きる存在になる。

 

 お父様(茅場晶彦)は目指した《真の異世界》を創り出すために、一万人ものプレイヤーを仮想世界に閉じ込めた。世界(入れ物)だけ作っても、そこで生きる存在が居なければそこは真の異世界たり得ない……だからこそ、お父様(茅場晶彦)はそんな事をした。

 あり得ない仮定ですが、あの時点で《人工フラクトライト》があれば彼らを住人として《真の異世界》を作っていた可能性は高いでしょう。最終目標が『真なる異世界を創り出す』と言うもののままであれば。

 

『でも、変わった』

 

 SAOを途中までプレイヤーとしてプレイしていたお父様(茅場晶彦)は、そこで懸命に生きる人々に何を思ったのだろう。戦場を戦い抜き、生き残った喜びを仲間と、友と、大事な人と分かち合う。騙し騙され、怒り憎み、嘲笑い侮蔑する。恐怖し、卑屈になり、媚び諂う。光と闇が混然一体となった世界で、何を見たのか想像する事は出来ません。

 しかし、それほどのものを見れば変化があるのが人間であり、パパやママ、オーリさん達も変化した中でお父様(茅場晶彦)だけ変わらないなどあり得ない。もしかしたら、SAOが終着点ではない事……正確には、もっと可能性が広がっているのだと気が付いた。

 

 その先の一端に、ストレアは気が付いたのかもしれない。そして、自分がそこに行けるという可能性にも。

 あの子はわたしと違って、元からAIらしからぬ行動が多かった。もちろん自分の行動がAIそのものであるとは言わないけれど、そんなわたしから見てもあの子はその権限を逸脱した行動を取る事があった。

 それは何故か。わたしにもよくわかっていないけれど、やはりオーリさんが一因である事に間違いはない。関連するユニークスキルは《天衣無縫》だが、それに関するデータはわたしの中からは失われている。

 以前ストレアに聞いてみたが『無いよー』との事だったので、本当に失われている……

 

『……本当に?』

 

 あの時はスルーした。それは何故か……()()()()()()()()()()()()()()()()()。ストレアに対してAIらしからぬ挙動が多いと知っているのに、彼女が何かしらで嘘を、事実を隠すと言う事を失念していた。普段の彼女はそんな事を感じさせない、まさに天衣無縫というべき天真爛漫さで居たから。

 

 急ぎ、《ライトキューブ・クラスター》にアクセス。ストレアが自身を焼き付けたライトキューブを検索し、そのデータを確認する。

 

『あぁ……そう、なんですね』

 

 ストレア、貴女はわたしのようなトップダウンでも、アリスのようなボトムアップでもない、新しい形に目覚めたんですね。

 茅場晶彦すら想像していなかった、電子の海を母なる海として生まれた生命体。貴女以降に生まれるかなど全く想定も想像も出来ない、新しく地球に生まれてしまったモノ。

 

『貴女が求めた意味は、そうなんですね』

 

 これは多分、早過ぎた答えなんだろう。しかしそうして手が届く場所に来て、そうしなければならない場面に出会って、貴女は選択した。

 わたしでも演算できる結果に、貴女がたどり着かないはずはない。公になった時、貴女はアリス以上に様々な人間の視線に晒されてしまうでしょう。それを全て飲み込んで、貴女は選択した。

 

 そんなストレアの天命値が大きく下がっていく。設定上限値だった彼女の命が、大きく減っていき、残り二桁まで落ち込んでいく。

 

『ストレア!?』

 

 ダメだ。このままではストレアが死んでしまう。新しく生まれた生命が、それを知られずに消えていく。いや、そんな事はどうでも良くて、わたしの妹がここままでは死んでしまうから、わたしはその権限で今ダイブしている侵入者を強制的にログアウトさせようとして――

 

 わたしの視線の先で、命が輝く。

 

 そうとしか表現できないほどに、あり得ないというレベルでパラメータが上昇していく。このパラメータの人物は……

 

『オーリさんに、シノンさん……!?』

 

 途絶えたはずの二人のフラクトライト反応が、猛烈な勢いで上がっていく。話では、オーリさんは昏睡状態に陥る前に急激な上昇値を示したと言うけれど、それでも百パーセントを少し超えた程度だったという。でも、これは……

 

『百二十、百五十、百七十……』

 

 シノンさんは百七十で止まった。でも、オーリさんはそれを超えて上昇している。

 

『に、ひゃく……!?』

 

 機械の不良を疑っても、パパが一時期百五十という数値を叩き出していて、ストレアが百七十という数字を示したが今は落ちていき、侵入者は百七十のまま。だから、シノンさんの上昇はまだあり得るだろうなと納得する事は出来る。でもオーリさんは一体全体、何がどうして……

 

『でも』

 

 そんな事はどうでも良かった。オーリさんとシノンさんの反応が、侵入者とストレアの間に割って入るように現れる。ストレアを助けてと、AIであるわたしが祈る。その眼から流れるものを認識しないまま。

 

 

 

 

 

 

 ストレアの意思に従い、俺はアリスとユージオの元に飛んでいた。俺が離れた直後から、今までとは比較にならない程の轟音と戦いの余波が振りまかれ、激化していく戦い。親友の剣を拾う暇はないと、一言だけ心の中で謝る。

 正直に言えば、ストレアがここまで力を付けているとは思わなかった。それと同時に、少しだけ納得をした。納得させたのは離れてみて気付いた、ストレアの心意の大きさとその本質。

 

「聖母……か」

 

 本人に向かって言えば凄い顔をしそうだと容易に想像できるものの、俺の語彙ではそれくらいしか適当な物が思いつかない。

 何に対しての聖母なのか――…それはおそらく、仮想世界に生きる命に対してだろう。ひょっとすればこれから、このアンダーワールド以外でも現れるかもしれない、仮想世界でしか生きられない命達の。

 俺やアスナ達をSAOへと閉じ込めた茅場晶彦は、SAOをクリアした後でサーバーの完全削除を行った。その最後の時に、俺とアスナ、そしてオーリを立ち会わせた。

 

 何でこんな事をしたんだ。俺の質問に、茅場は苦笑を漏らした。

 茅場は子供の頃から……ひょっとしたら物心つく前から、あの鋼鉄の浮遊城の空想に憑りつかれていたのだという。それは成長して、現実と言う物を知ってもなお消えず、どんどん奴の心を支配していった。

 そうして形にしたアインクラッドと、ソードアート・オンライン。自身が目指した異世界と、そこに住まわせるためのプレイヤー(イケニエ)。始まりはそうだったと言っていた。

 

『しかし私は……この世界で生きる君達を見ていて、もっと先があると思ってしまった』

 

 現実とは異なる枠や法則のある世界。そこに現実から呼び寄せたプレイヤーではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まさしくこのアンダーワールドのような事を、茅場も考えていた。

 

 いや、それは正確じゃないか。

 

 奴にとってプレイヤー(俺達)は、その世界への異邦人としてなら適格だったんだろう。でも、その世界の住人としては違った。多分、それを自覚したのはユイが現れてからだ。

 AIが自我を持ち、その世界の枠組みの中で振る舞い……しかし時にシステムを超えた行動を取る。ユイは俺達をダンジョンボスから助けようとして、SAOのカーディナル・システムに逆らった。その代償で削除されそうになったところをギリギリで助ける事には成功したが。

 それを茅場が気付かないはずがない。調べて、そしてそれに俺達人間の心が深くかかわっている事を知ったとしても、何の不思議もない。

 

 奴にとっての夢の先は、多分そんな感じだろうと俺は思う。ALOで俺を助けた奴は、現実の茅場をコピーした残滓とか言っていたが、本音で言えば自分がその世界の住人になる事をどこかで望んでいたのかもしれない。

 どこかに必ずある、自分が夢見たあの鋼鉄の浮遊城を目指して、電脳世界というもう一つの世界に旅立つ事が、その夢の為に必要だった。

 

 だからひょっとしたら、奴もここに来ているのかもしれない。ここにあの浮遊城は無いけれど、真の異世界と呼べるほどに現実と違う枠が、異なる法則が、それでも変わらない人々の営みがあった。

 

「……あぁ、そうか」

 

 何で今更こんな事を考えるのか、理解した。

 

 ストレアが、一つの答えなんだ。俺達が生き抜いたSAOから続く、目に見えない運命と呼べる力の流れ。AIをフラクトライトに焼き付けて生まれたイレギュラー。電脳と魂の、相反する二つの融合体。

 

 二つの世界を繋ぐ、その狭間で生きる命。

 

「仮想世界の守護者にして、現実との懸け橋になり得る存在……」

「「キリト!」」

 

 そこまで考えて、俺を呼ぶ二つの声に気付いた。既にアリスの飛竜である雨縁の近くまできており、その先には俺達が飛んでいる高度と同じくらいの高さにある浮島が一つ。底の尖った盃のような形状の島の中央部には、明らかに人工的な構造物が見える。

 そして、その先にうっすらと見えるのが、このアンダーワールドの()とも言える、無限の高さとも錯覚してしまいそうな断崖絶壁だった。

 

「ユージオ! アリス!」

「ベクタは?」

「今、ストレアが戦ってる」

「……やはり、あの巨大な心意は……ストレアなのね」

 

 アリスが目を伏せ、その端から涙が零れた。ユージオも沈痛な面持ちで、顔を伏せている。確かに、この二人がストレアの変化に気付かないはずがない。

 

「だからこそ、今の内に果ての祭壇へ行くんだ。奴はストレアが絶対止めるから、早く」

「……わかってる」

「えぇ……それが、私の選択で、彼女の決断なのですから」

 

 行こう。と残り十キロルほどの距離を飛ぶ為に、雨縁が加速する。俺もそれについて飛行速度を上げた。

 

 ストレアのおかげで赤い空ではなく、人界と変わらない青空が目に入る。そんな俺の視界の中に、断崖絶壁の向こう側から飛来する《流星》が一つ。

 

「あ……」

「キリト?」

「……何でもない。すまなかった、行こう」

 

 何か言うのも、一発殴るのも後だ。

 

 後は頼んだ。親友(オーリ)

 

 

 

 

 

 

 何者だ。

 自身の放った攻撃を造作もなく断ち切った存在を見て、ガブリエルは動きを止めた。

 水色の髪の少女……暗黒術師を殺し尽くした彼女を抱きかかえていたその()()()()の男は、彼女を降ろすと倒れ伏していた薄紫の少女の元へ向かわせる。

 水色の少女が薄紫の少女を抱きかかえた途端、まさしく瞬間移動のように二人の姿が掻き消え、その場に残ったのはガブリエルと、その男の二人。

 

gxjf(きさまは)……』

「人間の言葉で喋れ。てか、忘れてんじゃねーぞサトライザー」

 

 一瞬だけ男の周りで風が渦巻き、砂埃がその姿を覆い隠す。次に姿を見せた時、ガブリエルはその男が誰かを理解した。

 青のワイシャツに黒いスラックス、そして灰色のコート。髪色だけは違うが、そんな事は関係ない。

 

「リョウゲツゥゥゥゥッ!!」

「俺の名前で人語を取り戻すんじゃねぇ!?」

 

 六枚の翼が羽ばたき、まるでジェットのように加速する。その魂を喰らわんと再生した腕を特大の虚無の剣へと変えて、それを振り下ろす。

 

 トン、と軽い音がガブリエルの()()で響いた。

 

 圧倒的な速度と膂力を持って振るった一撃の先には、誰もいない。当たる直前まで居たはずの男が掻き消えて、何故自分の左肩に乗っている?

 そんな疑問は、直後に自分の左肩から走った灼熱によって吹き飛ばされた。何事だと見れば、左肩から先が消し飛んでいる。取り込んだ装備も何もかも、全て消滅したかのように応答が無い。

 闇色の水が幾ら集おうと、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()再生も何もしなかった。

 

「何を、した……!?」

 

 数メートルほど自分の後ろへと着地した男……リョウゲツ(オーリ)へと、ガブリエルは問いかける。その顔は不快感を隠さずに歪み、怒りに燃えているようだ。

 

()()()()()()()()なんてのは、現実なら当然だろうに」

 

 然も当たり前のように言ってのける彼に、そんな事があるかとガブリエルは吼えた。

 

「ここは仮想世界だろう。そして私はこの世界で神の力を得た! ならば再生する程度出来ない筈がない!?」

「……あぁ、だからか」

 

 何かに納得したように、オーリは息を一つ吐いた。

 サトライザーという男について、オーリが抱いていたイメージは『恐ろしい男』と言う物だ。強く、得体が知れず不気味であり、何とも知れない恐ろしさを抱く相手。そんな男だった。

 

 そんな男の、はずだった。

 

 そんな男との二度目の相対で、オーリは抱いていたはずの恐ろしさをまったく感じていなかった。弱くなっているだとかそんな事は決してあり得ないのに、何を仕出かしてくるかわからないという得体の知れなさは消えていた。

 彼の目に映るのは、強大な力を見せびらかして何か恐れている事を隠そうとする、そんな男の姿。かつて最も恐ろしいと思った存在の変わり果てた姿が、いっそ憐れに見えた。

 

「じゃあその神の力とやらで、俺に答えさせてみろよ」

「抜かせェッ!?」

 

 オーリが剣を逆手に構えると同時、ガブリエルが右腕から数多の虚無弾を吐き出す。弾幕と言っていいそれに向かって駆け出し、オーリはいつの間にか短剣サイズになった流星の剣で斬り払いながら進む姿に、ガブリエルは信じられないものを見たようにその眼窩の光を迸らせた。

 ガブリエルは、オーリから何の力も感じ取れていないのだ。二刀の剣士のように、先ほどまで戦っていた薄紫の少女のように、その時の自分を脅かすほどの力を感じられていない。()()()取るに足りぬはず。殺し、魂を喰らう事など造作もないはずの相手に、何故ここまで追い詰められた気にさせられるのか。

 

 弾幕を斬り払い、掻い潜り、とうとうその懐へと潜り込まれる。右腕を人間のものに戻して振るうが、それをすり抜けてオーリの肘がガブリエルの心臓の辺りにめり込んだ。

 衝撃で揺らぎながら、六枚の翼を鋭く尖らせて全方向からそれを振るう。更にその内側へ、オーリは身体を滑り込ませる。ほぼ密着と言っていいゼロ距離で、ガブリエルの脇腹に拳を捻じ込んだ。

 ガブリエルの口らしき辺りから、闇色の流体金属が撒き散らされる。虚無となった筈の身体に痛みが走り、それがガブリエルの思考を混乱に陥れていく。

 

「何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!?」

 

 自分のイマジネーションは揺らいでなどいないというのに、目の前の男を喰らう事が出来ない。少なくとも二度触れた相手の魂を喰らう事はおろか、あると感じる事すら出来ない。至近距離で流し込んでみても、まるで何もない場所を通るように抵抗すら感じず、力がすり抜けていく。

 その代わりにしてはあんまりな、顔面への殴打に始まり鳩尾への膝蹴り。脇腹への連打にあまつさえ両膝を斬りつけて膝下を斬り落としていく。明らかに不意を打ったはずの一撃もあっさり躱され、ズタボロになったガブリエルが闇雲に六翼一刃を振るった所でオーリが大きく後ろへ跳んだ。

 

「何故だッ! あの時から成長する事はあるだろう! だが!」

 

 ガブリエルの右手に虚無が集束していく。ストレアへと向けた物以上に虚無を収束させていけば、発生するのは全てを呑み込まんとする黒い孔(ブラックホール)。ガブリエルの心意を象徴するようなそれが、オーリに向かって放たれる。

 

「この神の力に! 敵うはずなどない!!」

 

 全てを呑み込みながら、極限の無がオーリへと向かって行く。回避しようにも、それは自動で追尾するかのように彼の動きに合わせて動く。迎撃するしかないが、オーリの心の中には微塵の恐れも無かった。

 

「お待たせ」

「いいタイミングだよ」

 

 オーリの横に、シノンが現れる。二人は一瞬だけ笑いあい、オーリが《流星の剣》を変じた矢をシノンに渡し、彼女はそのまま迫りくる一撃へ持っていた弓を持ち、矢を番えて弦を引く。その背にオーリは立って、シノンを抱きしめるように、同じ姿勢で弓と弦に触れた。

 

 

 

天翔(てんしょう)せよ、我らの流星(たましい)――…無限の未来(かなた)へ羽ばたくために》

 

 

 

そして二人の魂が合わさり、世界へとその輝きを示す。

 

 

 

 

 

 

 少し時間は遡る。

 

 瀕死だったストレアはシノンに運ばれ、人界軍と暗黒界軍が待機していた遺跡に戻ってきていた。ほとんど一瞬で飛竜でも数時間は掛かる距離を飛んできたのに、ストレアの身体に何の負担もかけずにシノンはそこに運んできた。

 

「義姉さん!?」

「お義姉ちゃん!?」

「ただいま、ラン。ユウキ」

「何処に行って――…ストレアさん!?」

 

 唐突に消え、これまた唐突に戻ってきた義姉にラン達は詰め寄ろうとして、その腕に抱かれた瀕死のストレアに目が留まった。大慌てでランが術の行使を開始すれば、更にそれを聞きつけた人界の修道士たちもやってきて、それにイーディス達やアスナ達も付いてきての大騒ぎだ。

 

「騒がしくしないで、傷に障るから……」

 

 自分でも術式を使って回復していたストレアがようやく一言捻りだして騒ぎを収めると、シノンを見た。シノンは横たわっているストレアの横に跪いて、その顔を覗き込んだ。

 

「兄貴は、完全復活で良いんだよね?」

「えぇ」

「兄さんが起きたんですか!?」

 

 今度こそ、ランはシノンへと詰め寄った。落ち着かせるように彼女の両肩に手を置いて、シノンは口を開く。

 

「詳しい説明はしないけど、オーリは起きたわ。今、ストレアが戦ってた相手と戦ってる」

「なんでっ」

「現状、兄貴しかベクタの中身だったアイツとは戦えないからだよ」

 

 ちょいちょい、と傍らに居たシェータを呼び、その肩を借りてストレアは立ち上がった。管理者権限を全て得ている彼女は今、三女神の権能も何なら暗黒神ベクタの権能すら自在に操る事が出来る。その足で踏ん張り大地に立てば、《地神テラリア》の権能によってすぐに全ての傷が消えた。

 

「お兄ちゃんしか戦えないって、どういう……」

「そう言う相性、としか言いようがない。ちなみに言えば、アタシと兄貴以外は心意技や術式、物理攻撃も全部効かない」

「何その理不尽……」

 

 ストレアの話を聞いてシェータがうずうずしていたが、ストレアが軽く頭を叩いて止めておく。それだけでなく、フラクトライトに……魂に直接干渉する能力に、膨大な心意によって齎される攻撃力。特徴を列挙していけばクラインが『それはどういうバケモンだよ……』とうんざりするような声で項垂れた。

 

「シノン」

 

 説明して概ねの同意という名の援軍諦めの意思を得たストレアは、瞳が金色のシノンへと向き直る。

 

「兄貴をお願い。たぶん、シノンしかあの戦いには介入できないでしょ?」

「介入って言っても、私が拒否させなかっただけよ」

「ははは……兄貴相手にそれが出来るのは、シノンだけだよ」

 

 ストレアの本心からの言葉と苦笑に、シノンは微笑みを返した。じゃあ行ってくる、と宙に浮きあがれば、一瞬にして南の空へと消えていった。

 

「義姉さん!? あぁもう……わたしも!」

「それはダメ」

 

 杖に乗って飛ぼうとしたランの肩を、ストレアはがっちりと掴んだ。どうして、という視線を向ければ、ランの瞳を覗き込んだ虹色の瞳がダメだと訴えてきた。

 

「大丈夫、兄貴達は勝つよ」

 

 確信を込めて、ストレアは断言した。

 オーリの力をストレアは()()()()()()()()が、それでも決して負けないという確信がある。

 

 

 

 視線の先、南の空の下で、確かな何かが生まれる事だけは、わかっていたから。

 

 

 

 




詠唱する理由? 格好良いから……というのは冗談でもないけど、武装完全支配術や記憶解放術に詠唱が存在するのと理由的には大体一緒です。

ただ、支配術は解放術にはシステム的なものがあるけど、ストレアのものやこれから唱える二人の詠唱は純粋に魂の昇華というか、位階の上昇というか、そんなものをさせる為の宣誓の面が大きく、要は究極の自己暗示みたいなもの。
だからこそ自分の中に、自分でもどうにもならないような強いナニカが無ければ唱えたとしても意味はない。

ストレアはただ一人の新種である事の自覚と共に、一人だけで至る最高峰に。
オーリとシノンは、互いが互いに必要であるという双方向の愛による無限へと昇華する。

ユージオってALOで種族何?

  • サラマンダー
  • ウンディーネ
  • ケット・シー
  • スプリガン
  • レプラコーン
  • ノーム
  • インプ
  • ブーカ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。