ゲームや仮想世界にダイブしただけで二度も入院した、というのは他に例があるとしてもかなり希少ではなかろうか。そんな事をふと、涼は考える。
しかも最初の一発目から二年経たない内に二発目である。最初のソードアート・オンラインは事故であると割り切る事も出来るが、二発目のプロジェクト・アリシゼーションは半分向こうから当たりに来た……半分はバイト代の為に自分から当たりに行った面はあるが。
「……流石に三度目はないよな?」
「どうしたの?」
ぼそり、と呟いた言葉に、彼の腕の中にいる恋人が反応した。
現在、二人は自宅のリビングにて密着しながらソファに座り、テレビを見ている。基本的に涼の詩乃の自宅にいるストレアは、そのイチャつく気配を察してか気配を消して両親と藍子と木綿季が居る家に避難中だ。
テレビで流れているのは、先日行われたゲームショウで発表された《レクト》の次世代型フルダイブマシンの特集。ゲームショウの時に社長令嬢特権で明日奈は触ったらしく、そのお供で行った和人も体験した。二人して涼宛てに『凄いぞ』と一言だけメッセージを送ってくるほどにそれは凄かったらしい。
涼は激怒した。必ず、次世代機を体験した夫婦を除かねばならぬと決意した。
涼には次世代機の性能がわからぬ。数字だけを並べられても意味はないから。
数時間待ちになるであろう体験ブースに並ぶ気など無く、そもそもゲームショウに行く気すらなかった。
特集では、三時間や四時間待ちで体験時間は一分だったなどと述べている事から、その判断は正しかったと言えるだろう。
けれども、二人がメッセージを通して自分を煽っていると言う事には人一倍敏感であった。
その日の夜にALOにログインした二人に奇襲をかけ、
そんな事は置いておいて、涼の言葉は当然詩乃の耳にも届いていた。少しだけ灰色がかった黒い瞳が涼を見て、彼はその瞳を見つめ返す。
「流石に三度目はないよなぁとね」
「あー……三度目の正直か、二度あることは三度あるか」
「最初は詩乃と二年離れた。次は二十年離れた。三度目があったら二百年になったりするのかとか、そんな考えが唐突に過った」
少しだけ、涼は愛しい人を抱く腕に力を籠める。優しく、細心の注意を払いながらも、決して離したくないと訴えるように強く。
最初の二年は、自分にとって彼女が一番大切なものだと認識するのに必要だったと言えなくもない。次の二十年は記憶を封鎖されていたが、取り戻した後の寂寥は何とも耐え難いものだった。
もしも次があったら……耐えられる自信が涼には無い。今の自分とは違う誰かになってしまうという確信があって、朝田詩乃が愛してくれた桜川涼とは違うナニカになってしまう事が怖かった。
「ばーか」
そんな彼の態度を彼女は笑って諫める。自身を抱く彼の腕に身を委ねながら、詩乃は自身の両手を添えた後でぎゅっと握りしめた。
「もう離れない。離さない。そんな勝手は、認めてあげない」
「詩乃……」
「あの時に紡いだ言葉に嘘なんかない。貴方と私はもう死ぬまで……いいえ、どっちも死ぬまで、離れる事なんかない」
死んだって離してあげない。
そんなどこまでも執着するような詩乃の言葉に、涼は微笑んだ。あの時と変わらぬ輝きで自分を見てくれている彼女の愛に、有難うと告げる。
「お礼なら、言葉よりも態度で」
「もっと言うなら行動で?」
「ん」
愛しい人へと振り向いた彼女がつい、と唇を尖らせた。それが示す意図は、能力など無くとも間違えるはずもない。
掌を彼女の頬に添えてそっと、唇を重ねた。
◇
アンダーワールドより帰還後、目覚めるまで一週間。退院まで一週間。そして休んでいた間の課題等で一週間。それなりに忙しく日々を過ごしていた。そして八月に入った頃にストレアの帰還やアンダーワールドへの再ダイブなども重なり、これまた忙しく……落ち着いたのは八月も半ばの頃。そこで学校の長期休暇のタイミングを利用して、涼は詩乃と共に旅行に出た。
二人の目的は詩乃の亡くなった父親の墓参りそちらの祖父母への挨拶と、東京に出るまで住んでいた詩乃の母方の祖父母の家への挨拶である。正月に行けなかった分、この時期は向こうに行くことを決めていた為に決行する形だ。
移動や挨拶の事も考えれば数日かかる日程。この際だからと観光の日も組み込めば、一週間の旅行である。妹三人が羨ましそうに見ていたが、藍子と木綿季には秋にキャンプに行く約束をして、ストレアには土産(食べ物限定)を買ってくると言えば諸手を上げて二人を見送った。
「どっちも元気でよかった」
安堵したように言われた詩乃の言葉に、涼も同意を示した。
どちらの祖父母にも事前に連絡していて、二人を快く迎え入れてくれた。あまり会う機会の無かった父方の祖父母は詩乃の父親の事と共に、詩乃が生まれる前の彼女の両親の様子を話してくれた。父親の墓前では、婚約の報告を詩乃がしている時に涼は何とも言えない表情をしており、詩乃が聞けば『詩乃のお父さんにすっげー睨まれてる気がして』と苦笑いした。
母方の祖父母は顔を出すなり涼に対しては祖父が畑仕事を手伝わせ、詩乃には祖母が教える機会が無かったことを色々と教えてくれる。普段から鍛えている涼だが慣れない畑仕事で疲労困憊で戻り、それを出迎えて労う詩乃の姿に祖父母の視線は優しかった。
そんなこんなで案の定と言うべきなのか、二人の旅程は延びた。一週間である七日の予定が八日になり、資金的には色々とあまり嬉しくない理由で潤っているので大丈夫とはいえ、あまり不在の期間が長いとよろしくはない。
フルダイブ機能を解放したオーグマーを二人とも持って行き、就寝前の一時間ほどダイブしてALO等に顔を出しているとはいえ、双子の妹のご機嫌がナナメになってきている。もう一人についてはとりあえず地元の名物を買い、宅配便で送っているためご機嫌だったが。
キリト達についてはストレアと会うアリス達の付き添いついでに顔を出して、送ったお土産の中から各自持っていくスタイルで、と伝えた。ただ、基本的にストレアのリクエストで食べ物ばかりなので、涼の両親の家でパーティをしたらしいが。
「次に会うのは何時になるかな」
「年末年始は……どうかしらね」
心配そうな詩乃の表情に涼は苦笑する。彼女の心配が自分に起因している事が分かっているから、何を言っても言い訳になってしまう気がしたからだ。
去年の十二月にも事件に首を突っ込んでいる事を考えれば、彼女の心配は大変ご尤もである。もしかしたら、詩乃の父親の墓前で感じたあの睨み付けるような気配は、彼女の父親がその事で怒っていたのかもしれないと涼は肝を冷やした。
「年末か年始か、どっちかは必ず顔を出そう。出さなきゃ詩乃のお父さんに枕元に立たれる」(確信
「えぇ……」
そんな馬鹿な、と詩乃は苦笑するが、彼女が生まれた時に父親が狂喜乱舞したと祖父母から聞いていた事もあり、徐々に自信を無くして真顔になる。彼の能力の事も聞き及んでいる現在となっては、その発言が笑えないものである事が詩乃にも理解できた。
「……年末で予定組みましょうか。流石に年始は学校始まるのも早いし、余裕ないし」
「そうしよう。用事で外に出る時は……」
「一人で行動しないように。誰かと行く用事以外は私が付いていくわ」
二人が頷きあうが、これは他人視点から見ればただ単に日常でもデートする口実にしか見えない。二人は真剣でありその事には気が付いていないものの、キリトとアスナにその事を話してアスナが取り入れる事になってようやく気が付いた。
ついでに言えばよく迷子になる子供に対する注意にも見えなくはないが、迷子になるだけならば普段持ち歩くスマホや、屋外で使用する情報端末のオーグマーのGPS座標をモニタリングすればいいだけだ。しかし、それでは足りない為にこうして一緒に行動するという案が出ている。
「そう言えば涼、生体センサーをインプラントしてたわよね?」
「ん? あぁ、俺も結構な頻度で病院の検査は受けるから一々電極張らないようにって……あー……
聞けば頷きが返ってきた。
キリトも今現在、超小型生体センサーがインプラントされており、それで脈拍と体温が把握できる。彼はそれに対してアプリを作って、無線を通してキリトの端末にデータを送り、ネットワークを介してアスナの端末に情報をほぼリアルタイムで送っている。
言葉にすればかなり狂気的であるが、それを利用すればより正確に本人の位置と生存情報が確認できるのだ。
「どっちに頼むかねぇ」
詩乃の安寧の為なら自分のプライバシーは二の次である伴侶ガチ勢は、すぐさまその予定を組み込んだ。キリトかストレアに頼めば、すぐに件のアプリは手に入るだろう。キリトならば温い目で、ストレアならばドン引きした目で見てくるだろうがそれは必要経費である。
「ストレアならもっと色々できるのかしら? そもそもとして、そのセンサー自体にGPSとか」
「もしくは、完全に身に着けるタイプのウェアラブル・マルチデバイスがあれば解決か……?」
ふと考えてはみたものの、専門家ではない二人が解決に至れるはずもない。翌日ストレアにメールを送ってそのアプリを作ってもらう事にした。
ちなみにここまでの会話は、観光を終えた後のホテルでの会話である。
この後、滅茶苦茶ヤる事ヤった。(チェックアウトギリギリまで
◇
帰って来ても、涼の気は休まらない。
数日後には詩乃の誕生日である八月二十一日を控え、妹達や仲間はちゃっかり準備している所を一人苦しんでいた。
内容は当然、詩乃に何を贈るのかについてだ。
「指輪は来年。化粧品はクリスマスに贈ったし……何にすればいいと思う?」
「男同士で相談する内容じゃないだろ」
「僕とアリスは、花でも贈ろうかって話はしたね。博士とも相談して、お金も大丈夫らしいし」
「明日奈達は当日料理作って持っていくってさ。俺も料理を手伝うから、それがプレゼントになるんだろうけど」
「なるほどねぇ……」
「というかリョウ。来年は決めてるのに今年は決まってないんだね」
「こいつ、来年プロポーズ……求婚するんだよ。こっちじゃお互い十八にならないと結婚は認められてないから」
「……まだしてなかった事に驚きだけど、それじゃ仕方ないね」
最近のお気に入りという珈琲を飲みながら、ユージオは驚きの視線を涼へと投げかける。法で認められていないのならば仕方ないが、二人の関係性はもう既に夫婦そのものであると彼の目には映っていた。
ただ、こうして相手に贈るものに悩む姿は、アンダーワールドで見た貴族としての彼とは似ても似つかない。自分のように何の変哲もなかった人間と変わらないなと、安堵している部分もある。
「去年は何贈ったんだっけ?」
「ブレスレット。ちょこちょこ着けてくれてるぞ」
「記念日ごとに贈ってる……わけじゃないよね?」
「流石にそれをするとネタが尽きる。特別な機会でもない限りはデート……二人きりで出かけるし」
「既に前の旅行がプレゼントになってないか? 旅費とかお前持ちだろ?」
「それはそれ。これはこれ」
面倒くさい、と言う顔になる和人と、再び苦笑するユージオ。詩乃本人に聞けばおそらく『旅行がプレゼントだと思ってた』と言いそうだが、涼にとっては違うのだろう。自分に置き換えればその気持ちが分かってしまう為、二人も席は立たなかった。
「そういえば、お前って詩乃を着飾らせるの好きなのか?」
「どういう事だ?」
「いや、結構装飾品とか贈ってる印象だしさ。何なら当日、デートついでに服でも買えばいいんじゃないかって」
何でもないような和人の提案だが、『確かにアリだ』と涼には思えた。誕生日パーティは家でやるが、来る仲間の事もあるので遅くまではやらない。それならばデートをしてもいいかもしれない。
「良い案かもしれないな。それで行くか」
「お、なら俺のGGO行きも」
「それはやるゾ。てめぇ許さねぇからなあれは」
がっくりと肩を落とす和人を見て、ユージオは笑った。
「僕もその時に行ってみようかな……リョウはその世界に主に行ってるんだよね?」
「まぁな。最近じゃALOの方に面子が増えたからそっちも増えたが、基本的にはGGOだよ」
「どんな世界なんだい?」
「剣じゃなく、弓みたいな遠距離武器の銃ってのが主な武器でな……」
この三人は意外と、話せば長い。現状は主にユージオが知らない事を教えたりしているのだが、同性同年代と言う事でこの二人が教える機会が多いのだ。現実世界を学ぶという名目で、ユージオやアリスがこうして外に出る時に大体二人が指名される。
その関係で明日奈や詩乃が呼ばれる事もあり、今は男性陣がこうしている間に女性陣は外で色々うろついている。
「……随分食べるね、ストレア」
「
ダイシー・カフェから近い、喫茶店のボックス席。六人が座れる席には明日奈・詩乃・アリス・ストレア・凛子の姿がある。
理由としては何てことは無い。ユージオが和人や涼と集まるなら、アリスも明日奈達と集まっているというだけの話だ。それに引率(という名の息抜き)で凛子が付き、ストレアはアリスの強い要望で参加させられている。家に居ても涼と詩乃の土産(食べ物)を制覇する予定しか組んでいなかった彼女だが、最初はアリスの要望を無視する気満々だった。
そんな彼女が来た理由は『飲食代が機構の経費で落ちる』と凛子に言われたから。
喫茶店の食事にも興味があったストレアだが、流石に自分の稼ぎ(GGOでの電子マネー)では心もとなく、兄や詩乃にたかるのは気が引けていた所にこれである。流石にメニューの端から端まで、などはしないが、それでも大食漢と言われれば否定できない量は注文していた。
「すっかり食べる事が好きになっちゃって……」
「アンダーワールドってそこまで食べ物美味しくないってわけじゃ、ないわよね?」
「アンダーワールドは何というか……想定通りの味?」
明日奈の言葉に凛子が疑問符を浮かべる。
「アンダーワールドを構成するデータって、いわゆる『誰かの記憶』って言うのが大半だよね?」
その会話に、ストレアが割って入った。言っては悪いがこの中で……いや、世界中を見渡しても、アンダーワールドとそのテクノロジー回りの事に最も詳しいのは彼女である。アンダーワールド内で得た見識と現実で得たテクノロジー回りのデータを合わせれば、大体の事は結論を出せてしまうのだから。
「まぁ、そう言う話よね。《ニーモック・ビジュアル・データ》だったかしら?」
「そそ。基礎的な設定データはあるにしても、その組み合わせは無限……でも、まぁ料理の話が出たから料理の話するけど、突飛な味って言うのはないんだよね」
「どういう事?」
凛子の問いに、んーと唸りながら、ストレアは食べていたドリアを一掬いする。
「アンダーワールドの料理は、良くも悪くも厳格なんだ。例えば肉を焼くという行為で、強火で焼いても何秒までは《生焼け》。それからごく短い時間で《焼肉》と言う料理になって、それ以上は料理だけど《黒こげ》みたいに変わる」
「遊びが少ない、という事?」
「それに全部の状態が均一に変化するから、現実世界でお米を炊いた時みたいな部分部分が《お焦げ》状態になるって事もない。生煮えの米か、白米が炊き上がるか、全部が焦げるかしかなくて、そう言うバリエーションが殆どないと言っていい」
まぁ黒焦げまでの間はいくらか余裕はあるけど、と続けてストレアは掬ったドリアを口に含んだ。
「美味しい事は美味しいけど、こっちみたいに多様性は少ないと言えるかな。生食なんてものも、そのままで食べられる果物とか限定だしね」
「でもそれは、ストレアが食べるのが好きなのとは関係ないでしょ」
「食べれば食べる程エネルギーが溜まるからこれで良いのです……太らないし」
「全世界の人口の半分を敵に回す発言は止めなさい」
ズビシッ、と詩乃のチョップを脳天に決められ、ストレアも『はーい』と返事をする。
「むぅ」
それを見ていたアリスが、面白くなさそうにグラスのストローに口を付けた。ブクブクと音を立てていかにも『私、不機嫌です!』と主張しているが、ストレアは一切気にしない。
「どうしたの? アリス」
「何でもありません」
「その表情で何もないは、無理があるわよ?」
凛子が聞いても取り付く島もない。しかし頬を膨らませてストレアを見ている事からして、原因が彼女である事は簡単に推察できる。
「……ストレアさん」
「はい?」
「アリスと貴女は、その……どういう関係なの?」
「アタシは別に、カセドラルで戦った嫌いな相手としか思ってないですよ?」
あっさりとした回答に、凛子はアリスへと視線を向ける。
「親友です」
「と、アリスは言ってるけど」
「ははは、面白い冗談だね」
口元は笑いながら、完全に据わった目でストレアがアリスを見た。その視線を真っ直ぐ受け止めるアリスの口元には、微かに笑みが浮かんでいる。
「心底嫌いな相手を、身を挺してまで守りますか?」
「あれはアンタが間抜けだった話で、アタシが尻拭いする事になっただけでしょうが」
「それでも、私は貴女に感謝していますし、親友だと思っています」
「その証明が会う度に抱きついてくる事だったら、アンタの距離感相当おかしいんですけど……」
引き攣った笑いを浮かべたストレアに、アリス以外の三人が苦笑した。会う度に何かしらの流れがあるのがこの二人だ。大体は嬉しそうにアリスが抱きついてストレアがそれを避けるか、顔を掴んで止めている。たまに背後から飛びかかる事もあり、その時はストレアも抱きつかれているがすぐさま引っぺがすようにしていた。
そして、詩乃はストレアの言葉に『確かに』と内心同意する。自分と明日奈は親友と言えるとは思うが、別に会う度に抱きつくなどしていない。『距離感がバグっている』とはいつだったかストレアが言っていたが、まさにその通りだと思えるほどにアリスはストレアに密着するのが好きなようだった。
「アリスさんはどうして、そこまでストレアに? 言っては何だけど、ユージオ君とは結婚……してるのよね?」
「? 確かに私とユージオは、ステイシア神に婚姻を宣誓しましたが……何故そこでユージオが出てくるのです?」
疑問符を浮かべながら、アリスの目元が少し険しくなった。
「ユージオが居るんだから慎みを持とうねって話だよドアホ。少なくともアタシに抱きつくんじゃねぇ」
「夫を持つ女性が、親友に抱きつくなと禁止されているわけでもないのに?」
「万一、ユージオに『ストレアって、アリスと仲良いよね……どういう関係なんだい?』とか問い詰められてみろ。アタシの心が死ぬぞ? いいのか? その時は遠慮なくお前を殴るけど良いのか?」
割と死活問題な為、ストレアの声のトーンはマジである。ユージオに
その初恋の人に、初恋の人の想い人との百合を疑われたら、確かに死にたくなるだろう。初恋の辺りは全く知らなくても、ストレアの言い分には明日奈も詩乃も凛子だって同意できるところがある。
明日奈と詩乃は、相方にそれを疑われたらとりあえず三日三晩は搾り取って、身体で説得する。決して親友の事は嫌いではないが、そう言う関係ではないからだ。
「伴侶と親友は別ですが、どちらも大切ですよね? ユージオにも説明して納得してもらっていますが」
「違う、そうじゃない。アタシは、主にアタシが誤解を受けそうな行動を慎めと言ってるの!? 距離感おかしいでしょ!? 欧米式の挨拶のハグってレベルじゃない頻度で抱きつくし、何かいつの間にか間合い詰めてるし、おめーアタシがさっき詩乃と話してただけで超不機嫌な視線向けてたし!?」
「不機嫌ではありません。何でもないと言いました」
ぶっすー、と頬を膨らませて抗議するアリスの表情は、誰から見ても不機嫌だ。仲間内の誰が見てもそう言うであろうその表情を見て、ストレアの目がまた据わる。
「言動と表情は一致させろや」
「貴女が私に構わないのが悪い」
「何でアタシがおめーを構わんとならんのだ」
「親友でしょ」
「一方的な、な。明日奈や詩乃、藍子や木綿季なら構ってくれるじゃん」
ドリアの器を空にして、次にパスタを食べながらストレアはそう述べた。
VR内での実力的に言えば明日奈も藍子も木綿季も、当然詩乃もアリスと伍するか一部は上回るだろう実力者だ。それにアリスと同年代であるから、アリスがストレアに固執する理由は一切ない。
アンダーワールドという世界観を共有できるのがストレアだけか、と言われればそうでもない。和人も涼も、何ならユージオだって居るのだ。両方満たしているのはストレアだけではないか、と言われれば、ストレアだって会ったタイミングはアスナ達とそう変わりない。
そして何よりも、ストレアはアリスの事が嫌いである。好きになった相手の想い人であり、しかもその相手と婚姻関係なのだから、嫌うには十分な理由であると彼女は思っている。兄や詩乃が会うのを止める事はないし、仲間意識と言う物も無いわけでは無い。
だがアリスの事は嫌いである。
「むぅー」
アリスが不貞腐れたように頬を膨らませ、隣に座っていた凛子に抱きついた。普段の気丈な姿からは考えられない子供っぽい姿に、凛子の頬が思わず緩んだ。何だかんだで、自身が発展させた技術も使われて生み出された人工フラクトライト達に対して、凛子は愛着のようなものを感じている。
少々大袈裟に言ってしまえば、自分と茅場晶彦の子供のようなものなのだ。機構に入った理由もその辺りの感情が関係してないとは言わないし、だからこそこうして生き生きとしているアリスを見ているのは嬉しい。
「博士、私もストレアと同じ家に住みます」
「んー……相談させてもらえるかしら?」
こういう我儘を叶えようとする程度には、神代凛子はアリスやユージオ達を気に入っていた。
「し~の~」
「うーん……お義父様とお義母様次第としか言えないわね……」
抱き着いてくるストレアの口の周りを拭いてやりながら、詩乃が苦笑した。
「……わたしも藍子ちゃんや木綿季ちゃんに抱きつかれたい……」
「明日奈ちょっとまって。貴女は流石にこの状況の収拾に動いてお願いだから」
すとれあ「住むなよ? 絶対住むなよ?」
ありす「これは……あのテレビと言う物で見た振りという奴ですか?」
すとれあ「おい誰だこいつにバラエティー番組見せた奴」