流星の軌跡   作:Fiery

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拙作の詩乃は、嫉妬してからの甘える→愛が重くなるっていうヤンデレ一歩手前のムーブでお送りしています。
独占6 依存3 崇拝1 くらいの割合かな……?


そのはち:雨が降ったので地を押し固める

 

ALOの中立域の草原。

そこでオーリはユウキと相対している。

お互い手に持っているのは槍であり、ユウキの顔は特に真剣だった。

 

「行くよ、おにーちゃん!」

「おう、基本を忘れるなよ」

 

踏み込みと共に、ユウキが槍を突く。

それをオーリが避ければ、次々と突きが繰り出される。

初めて槍を使うにしては鋭いそれに、オーリは感心する。

 

「初めてでこれなら、やっぱ才能あるな」

「涼しい顔して! 避けながら! 言われても! 嬉しく! ないよ!」

「穴だらけになって言ってたら、威厳が無いからな」

 

むきー! と怒りを露わにするユウキが槍で横に薙げば、それを薙いで迎撃する。

より鋭く、より速く振るわれたオーリの槍はあっさりとユウキのそれを手から弾き飛ばした。

 

「剣のつもりで振ると勝手が違うだろ」

「説明できないけど、そんな感じする……」

「こんな風に誰かに修行つけるとかでもない限り、それでいいんだよ」

 

俺も最初はそうだった、と涼はしみじみと言った。

 

「おにーちゃん、教えてた事あるの?」

「SAOでな。低層に居る奴相手に指導はしてた」

 

ユウキが槍を拾って、訓練を再開する。

先程よりも纏まった要領の突きに、オーリは笑みを深くした。

 

「武器系スキルが軒並み高レベルだから?」

「それで自衛出来る奴が増えれば、死ぬ奴が少なくなる。

 死ななかった奴の中で上に来る奴が居れば、楽になる。

 回りまわれば自分の為になる事は、面倒くさがらずにしてたって感じか」

「なるほど、ねっ!」

 

兄の話を聞いて訓練を熟しながら、ユウキはその凄さを感じていた。

剣の腕に関して言えば、自分は兄に迫れるだろう。

スキルレベルだけで見ればそんなに差は無いし、技術だって自信はある。

兄にすらできない、11連撃のオリジナルソードスキルも開発した。

 

(でも、何でも有りだと勝てる気しないや)

 

それでも、兄の方が強いと感じている。

一緒に冒険すればその動きの巧みさ、背を任せる安心感を感じる。

こうして矛を交えれば、単純な打ち合いも複雑な技巧を織り交ぜた戦術も見せる。

自分も学べば、彼の様になれるだろうかと考える。

 

ある日現れて、自分の兄になった男性の事を、ユウキは好きだ。

それは正しく家族への愛情であり、二つ違いの存在への憧れでもある。

色んな事を教えてくれるし、自信の有った仮想現実での強さも自分より強い。

 

そんな兄も完璧じゃない事は知ってるし、見てきた。

自分の誕生日は忘れるのに、木綿季と藍子の誕生日はしっかり知っていた。

婚約者にかなり甘いけど、自分に無頓着だから、悪い事は背負おうとする。

 

だから彼の事を知らないといけないと思った。

馬鹿な兄の力になる一歩目は、そこからなのだ。

 

「そんなわけでチェストー!」

「どんなわけだよ!?」

 

 

 

 

 

 

その頃のオーリとシノンの拠点は、空気が最悪だった。

最初は、シノンとランが拠点の整理をしており、訪問者があった。

 

「――…貴女は」

「どうも。あの時も名乗りましたけど、ユナです」

 

シノンが応対した瞬間、ランは変化しないはずの気温が下がった気がした。

ついでに言えば、戦闘では不敵な笑みを浮かべ、普段は優しく微笑んでいるシノンの顔から何もかもが抜け落ちる瞬間を初めて見た。

対して、ユナと名乗った白いマントと青を基調とした吟遊詩人のような服を着たブーカの女性は目が笑っていないまま、それ以外が笑みを形作っている。

 

「……何か用?」

「えぇ、旦那さんに、ですけど」

「今居ないから帰れば?」

「あら、どれくらいでお戻りです?」

「……正味、後30分程度ね」

「では、待たせてもらってよろしいですか?

 わたし、シノンさんともお話してみたいと思っていたので」

 

ユナの提案に、シノンはその目に宿る敵意を強めた。

ランが居なければ舌打ちしていたかもしれないが、それでも彼女を招き入れた。

 

「あの、義姉さん……」

「ラン、旦那に『来客あり』ってメッセージ送って。

 応対は私がするから、貴女は席を外しても大丈夫よ」

 

ランが声を掛ければ普段通りにシノンは笑っていたが、完全に敵意は隠せない。

彼女がそれほどの敵意を見せる理由にランは心当たりはないが、自分の兄が関わっているのだろうとは何となくわかった。

 

(何で兄さんがいない時に、こんな修羅場に巻き込まれてるんだろう……)

 

兄にメッセージを送りながら、ランは奥の部屋に入って聞き耳を立てている。

巻き込まれたと思っていようと、何を話すかは興味があるからだ。

シノンはそれを見送って一つ息を吐いた後、さっさと飲み物を用意してテーブルに着いた。

 

「あら、お茶も出していただけるなんて」

「余計な話は良いわ――…何?」

「別に変な話はしませんよ。奥様相手に」

「……へぇ」

 

シノンの視線に冷たい物が混ざる。

わかっているのなら何故来たのか、そんな心情がありありとユナに伝わる視線。

随分と警戒されている、とユナは苦笑した。

 

「シノンさんは、SAOには居ませんでしたよね?」

「えぇ、そうね……それで?」

「その二年間は何をしていたのかな、と」

「何って、学校に行って帰れば旦那の世話よ。

 お義父様、お義母様に私の母の手も借りたけど」

 

あの二年が始まった時は、詩乃にとっては辛い思い出しかない。

食事も喉を通らず、眠れもせず、学校には行っていたが一週間で倒れた。

その時に自分の母親には怒られ、彼の母親には謝られた。

 

「毎晩毎晩、愛する人が自分に背を向けて、闇の向こうへと歩いていく夢だけを見る。

 行かないで、こっちを見てと叫んでも、彼は何も反応しないまま闇に消えて、目が覚める」

 

最初はその繰り返しだった。 そんな彼女を見かねた涼の父親が、精神の安定の為に彼の状態がリアルタイムで分かるように手配した。

それでも目を閉じれば、また悪夢を見て、叫び、飛び起きるの繰り返し。

 

「ゲームの中の事は何もわからない。 この次の瞬間に、彼の脳が焼かれるかもしれない。

 闇の中に彼が消える度に飛び起きて、彼が生きている事を確認して安堵する」

 

はは、と渇いた笑いを浮かべ、急速にシノンの目から光が消えていくのをユナは見た。

 

「何が怖いのか、何で怖いのか、必死に考えた。

 答えはすぐに出た。愛した人を失う事が怖かった。

 帰ってくると信じて、それが裏切られてしまう事が怖かった。

 この想いへの答えをくれる唯一の人が、永遠に自分の前からいなくなる事が怖かった」

 

光の消えた目が、ぎろりとユナを見る。

シノンは今、自分の中にある彼女への敵意の源泉を知った。

 

「私が答えを貰う前に、貴女は答えを貰っているのよね?」

 

それは独白のようでもあった。

ただ、ユナにはそれがシノンの嫉妬であり、憤怒でもあるように思う。

ユナはSAO内で彼に告白して、望んだものではなくとも答えは貰っている。それでも諦めきれない――…この想いが本物だと確認したから。

 

だけど目の前の彼女はその想いを自覚して、想い人が明日も知れない状態になり、自分に出来る事が一切ない状況に二年も晒され続けた。

そんな彼女に言わせれば『何を贅沢言っているんだ』と敵意を剥き出しにするのも仕方ない。

 

「それ以上、何を求めるというの?」

 

深淵の底から溢れたようなドロドロとした敵意が、まったく凪いだ声と共に告げられる。

 

「……求める訳じゃありません」

 

ユナは仮想現実であっても背筋に冷たい汗が伝う事を認識して、真っ直ぐ彼女を見た。

 

「ただの、押し売りですよ」

 

ユナの言葉にシノンの表情が怪訝な物に変わった時、部屋のドアが開いた。

 

「たっだいまー」

「ただいまーっと」

 

中に入ってきたユウキとオーリの声と共に、先ほどまでの雰囲気が霧散する。

 

「来客って誰かと思ったらユナさんか……」

「お邪魔してます」

 

オーリは視線でユウキに奥に行くように指示してから、シノンの横に座った。

 

「ご用件は?」

「この度ですね、リアルの方で歌手として活動する事になりまして」

「……それ、俺に報告する理由あります?」

「えぇ、ライブのチケットとか送らせていただきたいので。お金は頂きませんよ?」

「えー……」

 

覚悟して聞けば、宗教勧誘のような内容。

ユナは確かにSAO内で数少ない《吟唱》スキルの使い手であり、歌の実力に関してもSAO内では固定のファンも居た事から、それなりにはあるのだろうと推測はできる。

そして、意識して彼女の情報を集めているわけではないが、縁があってよく見るサイト『MMOトゥデイ』によれば、ALOでは既にアイドル的な存在になりつつあるらしい。

歌手活動の話も嘘ではないだろう。 ただ、彼女にリアルの情報を渡す気は一切ない。

キリトとアスナにすら、SAO内では携帯の連絡先しか教えていない。

学校で再会して初めて、住んでる所などを色々と話したくらいなのだから。

 

「リアルの情報を渡す気はないんですが」

「えぇ、ですのでフレンド登録してメッセージをやり取りして。

 それから実際にお会いして、と言う形になりますね」

「……フレンド登録してメッセージまでは構いませんが、実際に会う気はありませんよ」

「うーん、そうですかー……」

 

それじゃ渡せませんね、とユナは苦笑する。

彼女も住所を教えてもらえるとは思っていないが、会う事まで拒否は少し落ち込む。

最低限の目標しか達成できないが、この辺が無難かとユナは思った。

オーリの横で高まり続ける敵意に、いい加減背中の汗が止まらない。

 

「ではフレンド登録を。ALOでも歌う予定があれば送りますね♪」

「行くかどうかは、確約しませんが」

「今はそれでも構いませんよ」

 

お邪魔しました、と綺麗な微笑みを見せてユナが拠点を出る。

オーリはそれを見届けて息を吐いた後、シノンの手を握った。

 

「オーリ」

「大丈夫だよシノン。こうなるとは、思ってなかったけど」

 

彼女に対して自分達に干渉するな、と言うのは簡単だ。

ただ、それを行う事でどう事態が転ぶか不透明過ぎる。

彼女がファンを扇動して――…とは考えづらいが、考えておくべきだろう。

 

「お話終わった?」

「ん? あぁ終わったよユウキ。ランもすまなかったな」

「あ、いえ、最初は何事かと思いましたけど……」

「……私、ログアウトするわ」

「あぁ……ラン、ユウキ、後で事情を話すよ」

「わかりました」「わかった」

 

拠点に鍵をかけて、四人は何とも言えない雰囲気のままログアウトしていった。

 

 

 

 

 

 

この後でリビングに集まった四人。

涼が事情を説明すれば藍子と木綿季は特に心配ないのでは? という結論を出した。

聞けば現状特に実害は無いし、最悪ALOから去っても問題ない。

VRMMOの中ではALOが今一番盛り上がっているとはいえ、他にないわけではない。

GGO然り、『アスカ・エンパイア』と言った古参タイトルもある。

 

「過剰反応だったか?」

「うーん、それはボクじゃちょっとわかんないよ。

 おにーちゃんがSAOで経験した事も話でしかわかんないし」

「義姉さんの事も、わたし達には想像しかできませんから。

 ただ、義姉さんがあんな顔をするのは初めて見ました」

「私、どんな顔してたの?」

「……一瞬で表情筋が死んで、能面みたいに」

「……詩乃おねーちゃんのその顔、想像したら本当に怖いんだけど」

「あー……自分で想像しても、それは義妹の前でしていい顔じゃなかったわね」

「何かすまん……」

 

四人が揃ってため息を吐く。

 

「でもさー、そのユナって人、歌上手いの?」

「どうかな……俺も聞いた事は数えるほどしかないし、戦闘中のエンチャントだけだしなぁ」

「たまに色んな所で人だかりができて、歌が聞こえてましたけど、それだったんですかね」

「向こうでは基本的に冒険がメインの私達は、そういうのに疎いから」

 

ログアウトした時の雰囲気はもう無く、軽い雑談をして全員が寝る準備を始める。

藍子と木綿季が自分達の寝室に入ったのを見てから、二人も寝室へと入った。

 

「ねぇ、涼」

 

ベッドに横になって、布団を被ってから詩乃が呟く。

彼女は彼の身体に寄り添って、離れようとはしない。

 

「私、凄く独占欲が強いの」

「知ってる」

「今日、あのユナってプレイヤーに凄く嫉妬したわ」

「……どうして?」

「貴方と同じ世界を共有して、貴方に惚れて、貴方に告白して、すぐに答えを貰えたから」

「断ったのに、か?」

「私は、その答えすら貰えなくなる所だったの……!」

 

詩乃の小さい慟哭は、涼に彼女の二年という積み重ねの重さを理解させた。

彼への想いを投げ出してしまえば楽になれたのに、それをしなかった。

もし自分が彼女と同じように、想いを自覚してSAOに囚われたとしたら……

想像しただけで、絶望にも似た思いに囚われてしまいそうになる。

そんな気持ちに耐えられなくて、涼は詩乃を抱きしめる。

 

「無理だ」

「…涼?」

「今、詩乃と二年も想いを交わせなくなったら、俺は壊れる」

 

涼の声は震えている。

泣く事を堪えるように、詩乃にこんな思いを二年もさせた事を懺悔するように。

そんな彼の声を聴いた詩乃は、自分の胸の内に喜びが広がる事を自覚した。

 

「……私、浅ましい女だよ? 貴方にそんな事言わせて、喜ぶような女だよ?」

「そんな詩乃を、俺は離したくない」

「凄く嫉妬深いよ? 凄く面倒くさいし、それに……」

「詩乃」

 

言葉を続けようとする彼女を、涼は制する。

 

「俺は、お前が良い」

「涼……」

「お前じゃなきゃ、嫌だ」

「っ……」

 

胸の中にあった淀みが、目から溢れてくる。

涼にとって詩乃がどんな人間であろうと、もう関係ない。

浅ましくても、嫉妬深くても、面倒くさくても、朝田詩乃を愛すると誓った。

それだけは絶対に違えないと、彼は何より愛する人に誓っている。

そんな彼の本心が伝わる言葉だから、詩乃はこんなにも安心している。

 

「私も、涼じゃなきゃ、やだよ……っ」

「あぁ、有難う」

 

それからしばらく、詩乃は泣き続け、いつの間にか眠ってしまう。

 

「それをいうなら、俺も同類だよ。詩乃」

 

眠る彼女を見て涼が苦笑し、彼もその意識を闇の中へと委ねた。

 

 

翌日の彼女は、昨日の事が無かったかのように上機嫌で、頬が緩みっぱなしだったという。

 

「義姉さん、何か良い事でもありました?」

「そう見える?」

「おにーちゃんに抱きしめられながら寝たとかかな? ねー? おにーちゃん」

「……黙秘権を行使します」

 

「人を心配させといて、いちゃついて解決とかたまげたなぁ……」

「今度何かあったら、わたしも兄さんに抱きしめてもらいますね」

「だっ、だめよっ! 涼は私専用なんだから!」

 

 

 




家族とか仲間への接触や交友関係に口出ししていないからまだヤンデレじゃないセーフ(何
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