ざわざわと、今日も『SBCグロッケン』にある総督府は賑わいを見せていた。
世間的に言えば夏休みでもあるので、新規で始める学生プレイヤー増えているのだろう。
初期装備のプレイヤーをちらほらと見かけた。
「……あー、女子もやっぱいるのか」
そんな中、リョウゲツは珍しく一人でGGOにログインしている。
基本的に家族の誰かとダイブしてい事の多い彼だが、今回はALOでは女性同士でやる事があるという事で、それならとこっちで単独行動をとる事とにしたのだ。
今は新規プレイヤーが最初に通るであろう場所を何となく眺めながら、時間を潰していた。
「珍しいな。 一人か」
「あぁ、三人は今別ゲーだよ」
声をかけてきたのは一人の男性プレイヤー。
何度も殺し合った仲ではあるが、それでも世間話をする程度には友好的だ。
「リアルでの家族だったか。 随分と仲が良いんだな」
「そうか? こんなもんだろ」
「流石にこっちは同じフルダイブゲームを家族とはしないからな……」
談笑していれば、彼の周りに次々とプレイヤーが集まってくる。
リョウゲツというプレイヤーはこのゲームにおいて、そこそこの有名人である。
最初にダイブした頃は相方のウタ狙いのプレイヤーとPvPに明け暮れて、その全てに勝ってきたのだから、それで実力がはっきりと証明された。
その実力は対人だけでなく対モンスターでも発揮され、試しにパーティを組んだ相手からもその評判は広がっていく。
話せば親しみやすく、戦えば正道だが邪道にも理解を示す度量を持ち、マナー良くゲームを全力で楽しんでいる姿勢が大多数のプレイヤーに好意的に取られているのだ。
「そういやリョウゲツ、お前さんは『BoB』出るのか?」
「……すまん、今初めて聞いた。 なんだそれ?」
ガタイの良いプレイヤーに目を向ければ、彼は笑いながら話し始める。
運営が今月末に開催する予定のGGO初の大会『バレット・オブ・バレッツ』
予選と本戦に分かれて行う、GGO最強のプレイヤーを決めんとする個人戦の大会だ。
「まーた殺伐としそうなのやるぅー……」
「ははっ、この世界観にはあってんじゃねーか?
で、お前さんはどうするんだよ。 賞品も出るんだってよ」
「レア銃とかか? もしくはクレジットとかありゃいいよな」
「現実でモデルガンとかも送ってくれるらしいぜ」
「あー、それは興味ないわ……つか、住所入力するとか怖すぎる」
リョウゲツが心底嫌そうな顔をしたのをみて、プレイヤー達が疑問符を浮かべる。
それに答えるようにリョウゲツはガタイの良いプレイヤーからエントリーする場所を聞いて皆で移動。 そこの端末から『BoB』のエントリー画面を立ち上げる。
「フルダイブのゲームって、運営が考える事って意外と多いんだよ」
エントリー画面を進め、賞品の項目を進めて適当なモデルガンを選択。
次に現れたのは送付先の入力画面だ。 そこに適当な数字と文字の羅列を入れていく。
「読めるか?」
「いや、モザイクがかかってて見えねぇぞ」
「なら次だ」
リョウゲツがスコープをストレージから出してガタイのいい男に渡す。
覗いて見てみなと促されて、男が覗きこんで画面を見れば、文字がはっきりと読めた。
「おいおいこれは……」
「その様子だと、俺の懸念がドンピシャだったみたいだな」
「どういうことだよリョウゲツ」
「ざっくり言えば、アバターの肉眼とスコープ越しでは見える世界が違う」
その説明に、周りに居るプレイヤー全員が疑問符を浮かべた。
「ダンジョン内の暗闇じゃ肉眼だと何も見えないだろ?」
「あぁ」
「でも暗視用スコープを付ければ見える。
当然の事だけど、これが現実と仮想世界だと処理が違うんだよ」
「現実だと赤外線……あー、そういう事か」
プレイヤーの一人が納得の声を上げると、リョウゲツは頷いた。
「どういうことだってばよ」
「現実じゃ暗視スコープの原理は微量な光を増幅するとか赤外線で見るとかなんだよ。
でもな、仮想現実ではそういう処理じゃ無いんだよ」
「地形データやら光の条件をプレイヤーの装備と照らし合わせて『こう見える』って言う情報を俺らが受け取ってるに過ぎない。 だからこういう事があるのか」
「そー言う事」
普通に不具合の通報案件だなと、リョウゲツは呟いて端末のエントリー画面を消してそのまま不具合通報に書き込む。
「これ、リョウゲツに言わず張っていればウタちゃんとかの情報が……」
「ついでにお前の事も運営に通報します。 死に方は選ばせてやろう」
「通報すると言いながらイーグルを抜かないでリョウゲツさん!?」
「大サービスで
「やべぇ目がマジだってヤメロォーッ! 俺をPvPエリアに連れて行くなァーッ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ彼らを見て、立ち去る人影があったとか、なかったとか。
夜に『BoB』の事を話せば
「おにーちゃんの!」
「もっと良いとこ」
「見てみたい」
と多数決により出る事が決まっていた。
◇
出ると決めて家族の期待がかかっているのなら、リョウゲツに手を抜くという選択肢はない。
大会の当日、待機エリアの中で彼は目を閉じて集中の瞑想に入っている。
周りにはPvPをやり合った顔も、噂に聞いたプレイヤーも居る。
全員の実力を知っているわけではないが、仮想世界であってもある程度の空気はわかる。
殆どが一廉の実力者であり、意外と記念参加のようなプレイヤーがいない。
その中でも、一際特異な空気を纏っているプレイヤーが一人。
目を閉じているので視線は一切向けていない。
しかし、意識を向けた瞬間にそいつが自分を見た事を、リョウゲツは察知した。
「おう、リョウゲツ。 そろそろ時間だぜ」
「ん、あぁ、そうか。 声かけてくれて助かる」
声をかけてきたのは、GGOでは家族を除けば最も付き合いの長い男だった。
最初にウタを見て声をかけてきたのも彼で、初めてPvPをしたのも彼である。
馬が合うわけではないが、自分に何度も挑む気概は素直に好ましい。
動機が動機なので絶対に負けられない相手でもあるが、それ以外は概ね良い奴だった。
「初っ端から当たっても、恨みっこ無しだぜ」
「やる度に恨んでたらこのゲームじゃキリがねぇぞ」
「ははは、言えてらぁ」
軽口を叩きあっていると、視線は感じなくなっている。
「……いや、流石に無いよな」
昔に感じた事のある空気。
そういう生業の者だけが出す空気を、ここで感じる訳が無いと首を振る。
自分がかつて殺したあの男よりも危険な空気など、早々に感じたくは無かった。
そして程なくして大会が始まる。
蓋を開けてみれば、予選については特に苦戦なく勝ち進んで行けた。
本戦は予選を勝ち抜いた30名によるバトルロイヤルだが、予選は1対1だ。
それならばリョウゲツにとっては慣れているものなので、早々遅れは取らない。
「くっそ、決勝目前でお前となんてな……」
「クジ運が悪かったな」
「だが諦めん! 俺はお前に勝ってウタちゃんにこの想いを」
「おっけー今死ね」
「ハゴスゥッ!?」
最早銃を使わずに、顔への踏み付けで男を撃破する。
これで彼は、このブロックの予選決勝にコマを進めた。
転送が始まり、そこはまた対戦フィールドだった。
地形は市街地の廃墟群。 天候は雨で時間は明け方。
(相手はもう決勝に進んでたのか)
自分もそこそこのペースだと思っていたが、相手はそれよりも早かったという事か。
彼はそこまで考えて廃墟の一つに身を潜めた。
自身のスキルを駆使して周囲を伺えば、少なくとも付近には居ない。
ただ、居る方角はわかってしまった。
(奴は悪意だった。 人を何とも思わない外道だった)
荒くなる呼吸を認識しながら、リョウゲツは思考を止めない。
向かい合わねばならない理由がそこにある。
自分が知っている者の中で最も強大な邪悪すら劣る、『虚無』がそこにあるのだから。
(なら、こいつは何だ)
浮かぶイメージは、虚無。
あるいは、全てを食らって尚満たされないブラックホール。
どちらにしろ普通じゃない。
身を隠して相手の居る方向へ移動しながら、銃を握る手が震えている事に気付く。
(……忘れやしないが、思い出したくも無かったよクソッタレ)
普段使わない罵声を見えない敵へと浴びせる。
ゲームの中で武器を持つ手が震えるのは、SAOの時以来だ。
あの男を、最悪のプレイヤー『PoH』の心臓に奴の魔剣を突き立てた時以来だ。
感じるのは、悪意とは言えない程度には純粋で、無垢とは言えない程に歪んだナニカ。
異常者。 陳腐だが、彼にはそれ以外思いつかない。
(父さんが言ってたな……そういう手合いは、鬼才である事が多い)
天才ではない。
あの男は、魔性のカリスマと扇動力で己が望む対立を生み出す鬼だった。
ならばこの相手は、どのような鬼なのか。
(知る必要はない。 でも、知らなきゃ倒せない)
その思考に到達し、彼は相手の領域と自分の領域が触れた事を察知する。
潜んでいた廃墟から脱し、全速力を持って駆ける。
『居たな』
(英語かよ外人じゃねーか!)
聞こえてきた言葉で相手の一端を悟った。
国外勢だと理解すれば、この手のゲームに強いのは理解できた。
あっちの国は実際に銃が横にあるのだ。 それはフルダイブにおける順応に大きなアドバンテージとなる。
イコール全員強いというわけではないが、それでも視線の先のプレイヤーは別格。
『さて、君の魂はどうなのかな?』
『うるせぇ、気持ちわりぃぞ変態かてめぇ』
相手である金髪碧眼で戦闘服を着た男――…プレイヤー名サトライザー。
彼はリョウゲツが思ったよりも流暢に、かつスラング交じりの罵声を返してきた事に驚いた。
『中々英語が上手いな。 現地の人間と比べても全く遜色ない』
『そりゃどーも。 ついでに日本国内の大会なんで国外の人は出てってくれませんかねぇ』
『エントリーに不備がない以上、それは難しいと思わないか?』
『今回の事絶対に運営に訴えてやる……』
互いにハンドガンを撃ち合う。
牽制を交えながらも、しっかりと相手の命を狙う銃撃を二人は躱していく。
サトライザーにとってはそれで決着がつく筈だった応酬。
しかし、目の前のプレイヤーは無傷で生き残った。
『面白い』
目の前のプレイヤーに興味がわいてきた。
強く錬磨された彼の魂は、一体どんなものなのだろうか。
自身の虚無を満たすのか否か――…とても興味がある。
『ただ、これは予選だ。 君と語り合うにはとても足りない』
既にブロックの決勝。
本戦出場が決まっているのに、本戦前に消耗するのは合理的ではない。
『本戦で存分にやり合おう。 銃を握った日本の侍よ』
『うるせぇ、そのまま失格になれ』
リョウゲツが放った、脳天に寸分違わず向かう銃撃を、サトライザーは迎え入れるように受け入れた。
消えていくアバターを見て、溜息を一つ吐く。
「もう棄権していいかな……多分駄目だろうなぁ……」
拠点で見ているであろう家族へ、届かない声で呟いた。
壮絶に嫌な予感を抱えたまま、彼は本戦のフィールドへと転送されていった。
◇
『BoB』の本戦は、直径10kmほどの島で行われる。
様々な地形が存在する複合フィールドの中で、30人が争うバトルロイヤル。
「さて、と……」
呟いたリョウゲツの手には、普段使用しない狙撃銃が握られていた。
本戦出場に伴って、彼は家族から渡された装備を使う事にした。
ウタからは、彼女が最初に手にした狙撃銃のFR-F2。
インディは、彼女が使うサブアームのグロッグ18C。
コットンは、彼女の愛用の光剣カゲミツG4。
『私達が付いてるから』と言う言葉と共に渡されて、発奮しなければ男ではない。
サトライザーとの遭遇で一気に減ったやる気を彼はそれで回復させることにした。
彼が降り立ったのは森林フィールド。
配られたマップからすれば、現在地は島の南東部。
(中央部の都市廃墟か、山岳地帯が良かったんだが……仕方ないか)
FR-F2を片手に、もう一方にグロッグ18Cを持って移動を開始する。
幸いにして森林地帯では木々が障害物となり、AGI型はトップスピードを出しづらいので一気に強襲される心配は少ない。
狙撃も似たような理由で行い辛いので、索敵が上手い者にとっては比較的安全地帯だ。
ここで島全域をサーチしてプレイヤーを表示する『サテライト・スキャン』まで待っても良い。
しかしそれを待つにも場所という物は重要で、辺りの把握をしない理由はない。
木の陰に隠れながら、森林地帯の外周に到着。
スコープを使って辺りを観察すれば、幸運にも一人のプレイヤーが見えた。
指をトリガーに掛けないまま、相手の頭に狙いを定めて引鉄を絞った。
見事に決まったヘッドショットによって倒れた相手の『DEAD』の表示を確認する。
「そろそろ15分か」
そのままスコープで辺りを確認した後で、配布された端末を見る。
数秒後、端末には自分を含めた光点が20表示される。
(まてまて、15分で1/3が居なくなるってのか!?)
衛星からのスキャンと言う設定なため、隠れていればやり過ごせる可能性はある。
ただこの大会は今回が初めてで、参加者全員が手探りな部分がある。
初っ端からそれを確かめるような検証勢が居れば別だが、それはそれで解せない。
もっと他に確かめることがあるはずだからだ。
端末の光点をタップして、プレイヤー名を表示させていく。
(XeXeeD、MusketeerΧ、Yamikaze…居やがった)
『Subtilizer』の光点を見つけて舌打ちする。
奴の周りは、不自然なまでに光点が無い。 この短時間で倒した可能性がある。
位置は自分とちょうど反対側。 問題は奴が直進してくるか、左右どちらに回ってくるか。
(一番近いのは……ダメだ。 知らない奴だな)
顔見知りのプレイヤー相手なら交渉の余地くらいはあった。
少なくとも目端の利く相手ならば、対サトライザーで自分の援護をする交渉も出来る。
(援護を要請するならグレネードも使うイクス。 闇風は一緒に突っ込むから除外。
ゼクシードは多分乗ってこない。 まぁ諸共爆殺してくれるんなら誰でもいいけど)
自身の順位には拘らないが、サトライザーの一人勝ちは許さない。
彼が知る実力上位の参加者を思い浮かべては消していく。
「……とりあえず足が要る、か」
誰かと合流するには遠く、なので速度が必要でもある。
ならば車両が一番ありそうな中央部の都市廃墟へと、リョウゲツは進路を向けた。
目をつけられたら怖い奴が多すぎるBoBはーじまーるよー(何
※怖い奴はオリ主も含む。