最初の『サテライト・スキャン』では都市廃墟にプレイヤーは居なかった。
故に、プレイヤーが集まる可能性を念頭に置いて速やかに移動する。
途中で何度か遠目にプレイヤーを発見して、今度は撃破せずに進んでいく。
(流石にあいつの一人勝ちの可能性を上げる気はないからな)
リョウゲツが感じたサトライザーの実力は、確実に自分より強いという物。
正面からの撃ち合いでは、時間の違いは有れど勝つのは困難であると言わざる得ない。
自分が奇襲できても、勝率は4割に届くか届かないか。
相手が奇襲してくれば、自分はほぼ確実にその場で詰むだろう。
「と、思うんだがどうだ?」
「……あの光景を見せられたら、納得せざる得ないな」
「あれは確かにデンジャーね……」
双眼鏡で四人乗りのバギーの上から遠くを見る男女二人。
ゴーグルを掛けた赤いソフトモヒカンが特徴的な男と、銀髪で露出度の高い服装の女。
男のプレイヤーネームは『闇風』 女の方は『銃士
開始から45分経ち、リョウゲツが何とか確保できた対サトライザーの為の協力者。
彼らの視線の先には、ハンドガンすら使わずナイフだけで敵を倒したサトライザー。
「ゼクシードも弱いはずがないんだが、あいつ無傷で倒したぞ」
「優勝への最強の難所ねー……それが潰しあってくれるなら私達にもメリットがあるけど、本当に良いの? リョウゲツ。機会を見てアナタ諸共吹っ飛ばして」
「正直自分だけで何とかできないから頼んでる。だったら、順位はもう諦めるさ」
潔いリョウゲツの物言いに、二人はある程度の信用を寄せた。
少なくともリョウゲツというプレイヤーがこうして言葉で騙すような事はしない事を知っている。そんな彼が、サトライザーの撃破と引き換えに諦めるというならそれは本気だろう。
「場所はどうする」
「北の砂漠。岩山地帯が望ましいが……」
「今こうやって捕捉している機会を逃すの?」
今現在、三人が居るのは森林地帯の外縁部。対してサトライザーは都市廃墟の近く。
遮蔽物が多く、そして足も多いだろうそこでは思わぬ強襲を受ける可能性もある。
しかし、今相手はまだこっちに気付いていない。
イクスの言葉にリョウゲツは思考を巡らせる。このまま戦うか、自身の構築したフィールドに誘い込むか。
「俺はどちらでも構わんぞ。組む事を承諾した以上はお前の指示に従おう」
「私は正直、あれを誘い込めるとは思えないから今かなーって」
「――…それもそうか」
確かに、とリョウゲツは納得する。
そもそも自分より強いと思っている相手を、自分の思う通りに誘導できると思うのが間違いだ。リョウゲツ自身、そういう方面はウタやインディに劣っている自覚もある。
戦術までなら多少は理解できるが、戦略はもう手も足も出ない。
「開き直るか」
「悪い方向には行くなよ」
「シンプルに行くんだよ。闇風、バギー運転できるか?」
「普通に走らせるくらいならな」
「じゃ、突撃してくるから。俺が奴と接敵したら追ってきてくれ。
イクスは車上から適当にグレネードでもばら撒いてくれればいいや」
「急にシンプルになったわね! まぁいいけど」
難しい連携なぞ出来ない三人だからそれでいいと、全員納得した。
「んじゃ行ってくる」
「骨は拾ってやる」
「不吉すぎる!」
この三人でツッコミ担当が決まった瞬間だった。
◇
フィールドを駆けながらFR-F2を構える。
バレットラインを出さないようにトリガーには手を掛けないまま、サトライザーを射線の先に収めて引鉄を引く。
しかし、相手もそれを知っていたかのように頭を引いて弾丸を躱し、リョウゲツの方を見た。
『来たか』
『大人しく当たっとけよ……!』
FR-F2をストレージに入れて、今度はグロッグ18Cを抜く。
それに呼応するように、サトライザーもハンドガンを構える。
発砲は同時。狙いは互いに相手の頭部で、しかしそれを互いの弾丸が阻む。
弾かれた弾丸には目もくれず、当たりそうな物にだけ意識を割いて躱す。
弾丸が一発だけリョウゲツの頬を掠め、サトライザーには掠りもしない。
明確に横たわる自分と相手の力量差に、リョウゲツは舌打ちを一つ。
しかし、その疾走は止めないままに銃の距離を踏破していく。
コートを脱ぎ捨てて一瞬の壁とし、荒野に似合わない出で立ちで駆ける。
やがてお互いの表情が詳細にわかる距離まで接近。
胸のホルスターにグロッグを収納して、リョウゲツはカゲミツとオサフネを抜いた。
『ほう……ジェダイのようだな。面白い!』
それを見たサトライザーもカゲミツを取り出した。
二人は疾走を持って距離を縮め、光剣同士をぶつけあう。
バチバチと放電する電気のような音と、火花を散らしながら切り結ぶ。
手数は二刀のリョウゲツが勝るが、サトライザーが巧みに押し切らせず、互角の剣戟を展開している。
『余裕かクソが!』
『こんな機会は滅多にない。楽しませてもらうさ!』
サトライザーがリョウゲツを弾き飛ばし、ハンドガンを抜いてすぐさま撃つ。
リョウゲツがその弾丸を空中で切り払う光景に、サトライザーは笑みを深めた。
『ますます、ジェダイのようだな』
『こういう事も出来てのゲームだろうが』
『違いない』
再びサトライザーがハンドガンを撃ち、リョウゲツが今度はそれに向かいながら光剣を振るう。一発、二発、三発と放たれる弾丸を二刀を用いて切り払い、サトライザーに肉薄。
振るわれた二刀をサトライザーが一刀で受け止めて、火花を散らす。
『――…ふむ』
自身よりも一歩劣るが、目の前のプレイヤーの技量にサトライザーは舌を巻く。
間違いなく強い。現実では軍人……傭兵である自分にゲームと言えど互角なのだ。
そんな相手に出会えたのは望外の幸運であり、柄にもなく彼はそれに感謝する。
『しかし勝つのは私だよ。若きジェダイ』
『マスターにでもなったつもりかテメェ』
リョウゲツを押し返し、ハンドガンを放つ。
数発は彼への牽制として、そしてその他は飛んでくるグレネードの迎撃として。
空に爆炎が咲き、衝撃波が二人に容赦なく降り注ぐ。
『嘘でしょ!?』
車上からグレネードを放ったイクスが、フランス語で叫んだ。
空中にあるグレネードをピンポイントで全て撃ち抜いて見せたサトライザーの事を、今更ながらとんでもない化物だと、イクスも運転している闇風も認識を改める。
ハンドガンの射程から離れている為、未だに二人は撃たれてはいない。
ただ、あれだけの腕ならば狙う事は可能なはずだ。
「落ち着け。リョウゲツが崩れん限りは俺達の優先順位は低い」
「そうだけど、どっちも化物ね。というかリョウゲツ、とんでもない事してなかった?」
「光剣にあんな使い方があったとはな……正直格好良すぎるぞ」
闇風の呟きは、この大会を観戦していた大多数のプレイヤーの代弁。
漫画やゲームなどではよく描かれるシチュエーションである、弾斬り。
銃がメインのGGOに置いても、そのアクションに憧れるプレイヤーは多かった。
偶発的に出来た事はあっても、試すような者は今まで居なかった。
それをこの大会の場で、多くのプレイヤーが見ている前でやって見せた。
「勝っても負けても、明日から凄そうね」
「言ったら教えてくれるだろうか……?」
「教えてもらいたいなら依頼は果たさないとダメかもよ」
「元々真面目にするつもりだったが、モチベーションが上がった」
そんな会話をしながら、闇風はバギーを走らせる。
『君の仲間かな?』
『お前に優勝させないための協力者だよ』
『なるほど、本気というわけだ』
リョウゲツは自身の生存を端から計算に入れていない。
その覚悟はこの状況において、サトライザーにとっても脅威と言わざる得ない。
何せ彼にとっては相打ちですら勝利であり、自身は二つに意識を割かねばならない。
その比率を間違えてしまえば、自分は爆死するか両断されるかいずれかの結末を辿る。
『だが、それでこそ面白い……!』
極限の状況でなければ見えないモノがある。自分が欲するモノがそこにはある。
これはゲームだから命の危険はない。しかし、今ここに自分を倒しうる状況がある。
一人のプレイヤーによって、自分は勝つか負けるかわからないギリギリのクロスゲームの中に居る。
『感謝しよう。君はとても得難いものを私に与えてくれたよ!』
『だったら、対価はてめぇの命で支払ってもらうぞこの野郎!』
剣戟が激しさを増し、グレネードが撃ち落されて空に爆炎の華が咲く。
時には荒野に着弾して切り結ぶ二人を吹き飛ばすが、それでも二人は止まらない。
全身からダメージエフェクトを出しながらも、三本の光剣は火花を散らし続ける。
「っだぁっ!?」
均衡が崩れたのは、一瞬。
リョウゲツの右腕が斬り飛ばされて、持っていたオサフネごと荒野に転がった。
しかし、それでも彼は止まらずに残った左手のカゲミツでサトライザーのカゲミツを持つ腕を肘から切り飛ばす。
それに驚愕する事なくあくまで冷徹に、サトライザーが残った手に持つハンドガンでリョウゲツの頭部に狙いを定めてすぐさま放つ。対して、銃口と自分の頭部の間に左腕を差し込み、クリティカルを回避。弾切れの瞬間に銃を防いでいた左腕が力なく垂れ下がり、刃を維持したままのカゲミツを咥えたリョウゲツの顔が現れる。
その眼は、確実に自分を仕留めるという強い意志が現れたもの。
その顔に、サトライザーはある男の面影を見た気がした。
「――…Wind」
自分をして『勝てない』と思った伝説の傭兵。
虐げられる弱き者には救いを、虐げる強き者には死を運ぶ"風"
『こんな場所でも、風が吹くのか』
咥えられたカゲミツが振るわれて、ハンドガンごと残ったもう一方の腕を斬り飛ばす。
凄絶に笑うサトライザーの視界には、飛来するグレネードがはっきりと見えた。
『いずれまた会おう。偽りの世界に吹く、本物の風よ』
閃光と、衝撃波が二人のプレイヤーを飲み込んだ。
◇
リョウゲツの『BoB』での最終順位は本戦同率6位に終わった。
最多キル数はサトライザーの15。次点が2キルなので、どれだけサトライザーが猛威を振るったかわかるだろう。後にリョウゲツが運営にメールを送った所、やはりサトライザーは海外から日本にアクセスしていたらしく、今後は海外からの接続は出来ないようにするとの事だった。
彼にとっては思いがけず夏休みを締めくくる大会になったが、家族にとっては概ね満足いく活躍だったらしい。
「頑張ってくれたおにーちゃんに、ボクらからご褒美です!」
「ご褒美?」
木綿季に座ってと促されて、リビングのソファに座れば両隣に藍子と木綿季が座る。
『ちゅっ♡』
そして、同時に二人の唇が涼の頬に触れた。
「え……ふ、二人とも?」
「えへへ」
「兄さん、格好良かったですよ」
頬を赤く染めながら、二人は照れたように笑う。
そんな二人を見比べて呆然としていれば、詩乃が涼の膝の上に座った。
「し、詩乃?」
「二人に許すのは、ほっぺまでよ」
詩乃は涼へと体を向け、妖しく彼の首に両腕を回す。
そして彼が何か反応する前に、唇を重ねた。
「うーわー……詩乃おねーちゃんだいたーん」
「あわ、あわわ、そ、そこまで……」
藍子と木綿季は突然の詩乃の行動に顔を真っ赤にして食い入るように見つめ、涼は突然のキスに思考が停止した。
藍子と木綿季にとっては長く、詩乃にとっては短い時間だけ唇を重ねて、離す。
「これ、私だけのご褒美ね♡」
「お、おぉう……えぇ……あ、ありがとう」
思考がまとまらないまま、何とか礼を口にする。
完全にパニックになっているが、このキスがどうやらご褒美らしいのはわかった。
「な、なんで?」
「私達がしてるの見て、したみたくなったんだって」
「キスってすっごく恥ずかしいですね……」
「ほっぺだけど、すっごい照れるねー……」
「いや、だからって俺にぃ……?」
真っ赤になる三人に、唯一平然としている詩乃が微笑みかける。
「ここから先は、二人が好きな人を見つけたらかしら?」
「んー、出来ますかね……?」
「おにーちゃんと絶対比べちゃうなぁ……」
女性陣の会話を聞きながら、この日涼は終日羞恥で悶えていた。
とりあえずイチャツキが足りないと思ったのでキスさせてみました。
後悔してないけどやっぱ一緒に住んでるって強いな……(あるサブを思い出しながら