流星の軌跡   作:Fiery

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主人公の変態度というか、イカレ度を補強する回


そのに:軌跡を道とする

 

 

 

キリトからの要請を受けたオーリは、詩乃――プレイヤー名はシノンとした――と共に『アルヴヘイム・オンライン』の世界へと降り立った。

選択種族は俊敏性に優れるとされるケット・シー。 シノンは視力の良さにスナイパー適性を見出して同様だ。

 

「これがフルダイブの感覚、か」

 

初期地点に降り立ったシノンは自分の感覚を試すように体を動かす。

これくらいなら問題ない、と移動すれば前には見知った顔が居た。

 

「……涼?」

「ん? おぉ詩乃……ゲームじゃシノン、か。

 とりあえず、無事合流は出来たな。 後、こっちじゃオーリでいい。

 ゲームでの呼び方はだいたい統一してるんでな」

「現実との区別は付けてるのね。 で、友達とはすぐに合流するの?」

「だな、そこまで行くのが移動と戦闘のチュートリアルのような感じだし」

 

ほれ、とオーリはシノンへと手を差し出す。

極自然に差し出されたその手に疑問符を浮かべるが、すぐに理解して顔を赤くした。

もう誰に憚る事の無い恋人なのだと思い出して、その手を取る。

 

「じゃあ、エスコートはお願いね。 私の王子様」

「了解しました。俺の姫君」

 

仲睦まじく、しかし走ってキリトが指定した中立地帯へと向かう姿は、他のケット・シーにばっちり見られていた。

 

閑話休題(そんなこんなで)

 

キリトと央都『アルン』にて再会したオーリは、顔合わせもそこそこに事情の説明を求めた。

それに対してキリトは簡潔に『グランドクエストの戦力として頼りたい』との事。

 

「おめー、最後の最後で戦力になりに来いとか薄情過ぎない?」

「仕方ないだろ。 戦力的にオーリしか思いつかなかったし。

 最初は出来るなら一人で済ませるつもりだったし……」

「まぁ各種族が協力しないと出来ないんなら仕方ないか」

 

肩を組みながら、オーリはキリトへと顔を寄せた。

 

「見立ては?」

「中に直通のラインがあるらしい。 そこからアスナの所に行けるはずだ。

 でも近づけば騎士型のモンスターの大群が殺到する」

「そういうのは近づいてきた奴優先が大半だな。

 ――…了解した。 引っ掻き回すのはやってやる。 お前はちゃんと連れ戻してこい」

 

互いに拳を合わせて、笑いあって離れる。

 

「仲良いのね」

「二年も顔合わせりゃ仲良くなるよ。

 それに、あいつ俺の一個上だけど普通に話しやすいし」

「……逆に話しづらくない?」

「礼を持って接して相手の限界ラインを見極めれば問題ないよ。

 その中で波長とかが合えば仲間って呼んでも問題ないし」

「ならいいけど……役割は?」

「シノンはスナイパー。 まぁどの道現状だとそれ以外できないだろ。

 で、俺はSAOからのコンバートのおかげもあって最前線勤務です」

「大丈夫なの?」

「その辺は、実際見てくれた方が早いな」

 

そんな会話をした後、キリト、オーリ、シノンに加え、リーファとレコンが加わって突入を開始する。

リーファとレコンはオーリとシノンを見て訝しんでいたが、戦闘が始まってからのオーリの動きとシノンの狙撃に何も言えなくなっていた。

 

「あ、あの動きって人間に出来るの……?」

「聞こえてんぞレコンクゥゥゥン!!」

 

飛び回る騎士型のモンスターを()()に、空中を疾走しながら手に持った武器で敵の数を減らす。

キリトよりも前に出ているのは自身にヘイトを集めるためであり、数を寄せて"道"を広げるためだ。

 

「ヒェッ」

「仕様の限界を攻めてるだけだからまだ常識内よ。

 それよりも、10時の方向に気を付けなさい」

 

後方では後方で、弓とは思えないほどの速度で矢を連射し、かつ正確に狙撃しているシノンの姿。

その視力と自前の視野で相手の粗方の挙動を把握し、的確に当てる事で動作のキャンセルを促す。

それぞれがケット・シーの特性の極限を引き出して事に当たっている。

 

「ケット・シーってこんなに強かったの!?」

「オーリの方は知ってたけど、あいつが連れてきた方もとんでもないな!」

「あの戦闘機動と比べられるのは甚だ遺憾なのよね。

 流石にあれと現状の装備で戦える気はしないんだけど」

「それ装備さえ揃ったら倒せるというのでは?」

「おめーら会話余裕だなぁ!?俺だけ超過勤務の請求すんぞこらぁっ!?」

 

大量に買い込んだ店売りの武器を湯水のごとく消費して、今このフィールドに居る敵の2/3を相手取る彼は紛れもない怪物ではある。

しかし、この戦線をずっと維持できるかと言われればそんなことは決してない。

キリトが目指す場所から次から次へと敵が湧いてくるのは、オーリをして『これ作った奴はくそ野郎だよ絶対』と言わしめる程だ。

しかし、そのおかげで"道"は十二分に広い。

 

「オーリ! 1分!」

「30秒で行けや! それ以上は流石に援軍来ないと不可能だよ!!」

「わかった! リーファ!」

「う、うん!」

「ぼ、僕も行きます!」

「ま、さっさと行って帰ってきなさい。 援護らしきものはしてあげるから」

 

シノンの声を受けて、三人は飛翔を開始する。

その動きに合わせながら、三人に向かおうとする相手はシノンの狙撃によって撃墜。

オーリもヘイトを集めている集団を引き連れて三人から離れるように動き出す。

 

「さっさと行け! で、帰ってきたらおめー後で決闘して絶対ぶっ飛ばすからなぁぁぁぁ!!!」

 

そんな叫びと共に、シルフとケット・シーの増援が到着し、キリト達は無事にゲートを抜けたのだった。

その後を語るとすれば、後日ちゃんと決闘は開催され、録画されたそれは伝説の決闘として語り継がれたという。

 

 

 

 

 

 

四月。

SAO生還者の大半が入学した高等専修学校のキャンパスで、SAOの英雄と呼ばれた三人が一堂に会していた。

 

『黒の剣士』キリト

『閃光』アスナ

そして、『蒼の流星』オーリ

 

第百階層にてラスボスとして立ちはだかった茅場晶彦へと挑んだ三人。

携帯などで連絡を取る事はあっても、リアルで三人一緒に顔を合わせるのは初めてだった。

 

「じゃあ私から。 アスナこと結城明日奈。

 助けてくれてありがとう。 二人とも」

「キリトこと、桐ケ谷和人。

 こういう場で改めて言うのは何か恥ずかしいな」

「オーリこと桜川涼。

 礼は受け取るけど仲間の事だからそれ以上は言いっこなしで」

「あ、オーリ君はリアルでもそんな感じなんだ」

「リアルだからせめて人目のある所でプレイヤー名は止めてくれ……」

 

真顔で返事をした涼に明日奈はごめんごめんと笑い、視線を動かす。

 

「で、涼君。そろそろ紹介してほしいんだけど」

 

視線の先には、少し離れた所で三人の様子を伺っている詩乃。

彼女は視線に気づくと、三人へと向かってきた。

 

「やっぱ触れますよねぇ……」

「そりゃ、『蒼の流星』が最後の戦いで叫んだ相手だもの♪」

「お前が攻撃を食いしばったのも彼女の為だって予想が付くしな」

「その話、詳しく」

「その過去を掘り返すと俺、恥ずか死ぬんですが」

 

今すぐ恥ずかしさに悶えて転げまわりたい衝動を抑えながら、せめても懇願してみる。

しかしそんなものに効果はない。 それどころか、四人に気が付いた知り合いも集まってくる始末。

 

「あたしは篠崎里香。 プレイヤー名はリズベット。

 明日奈とは親友で、この二人とは武器を作ってからの付き合い」

「綾野珪子です。 SAOではシリカって名前でした」

「朝田詩乃です。 SAOプレイヤーじゃないですけど、涼の婚約者です」

「詩乃サァーン!?」

 

詩乃の火の玉ストレートの自己紹介に思わず涼が声を上げた。

 

「「「「婚約者っ!!!?」」」」

「今年の1月に告白を受けたばかりですけど」

 

はにかむような笑顔でそう語る幸せそうな詩乃。

ALOでのアスナの救出作戦後、彼らは正式に互いの親に恋人になる事を話した。

互いの親は特に反対もせずにその話を了承したが、涼の母親が『もう一歩先に行きなさい』と婚約にまで話を持って行ったのだ。

その時にこのSAO生還者の為の学校に詩乃も入れるように手続きをしたと、父親から説明があった。

 

そんな話の驚愕から復帰した和人ら四人が二人に背を向けて何やら話し出す。

 

(オーリってSAOで人気あったよな?)

(攻略の急先鋒で情報とかも公開を惜しまなかったし、

 救出ミッションもやってたから、色んな人に感謝されてたわよね)

(最終決戦前にも何人か女の人が会いに来たの見ましたけど)

(待って、何ならあたし告白されてた所見たわよ。

 断ってたのは断ってたんだけどさぁ)

((((…………))))

 

四人はこっそりと視線を向ける。

そこには幸せそうに寄り添う詩乃と、照れながらも拒否しない涼の姿。

二人の手は当たり前のように全ての指を絡めた所謂恋人繋ぎで握られている。

 

「キリト君、わたし達もあれやろう」

「アスナまで暴走するの止めような?」

 

バカップルがバカップルに火をつけたため、このままでは収拾が付かないと気付いたリズベットによって、一行はとりあえず移動を開始する。

向かう先は、彼らの仲間だった男の店だ。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。 って久しぶりだなオーリ」

「お久しぶりですってエギルさんの店かここ」

「俺もいるぞー」

「クラインさんまで」

 

店内を見渡した後、涼は店主の男・エギルやカウンターに座っていたクラインと軽くハイタッチを交わす。

 

「そっちの子は?」

「オーリ君の婚約者だってさー」

「アスナさん、真実を剛速球で広めていくスタイル止めてくれません?」

「ほう。 って事は例の件の子か。

 俺はエギル。 一応名前も言っとくとアンドリュー・ギルバート・ミルズだ」

「キリの字と良い、何で俺に彼女はいないんだ…って、俺はクライン。

 本名は壷井遼太郎だけど、ここじゃプレイヤー名で呼んでくれや」

「朝田詩乃です。 例の件って何です?

 触りだけは聞いたんですけど、詳しくはここに来てからって」

「あぁ、そういう事か……」

 

エギルがちらり、と涼を見た。

その視線に一瞬だけ疑問符を浮かべるが、まさかと顔が引きつった。

エギルはその表情に我が意を得たりとばかりに口の端を吊り上げる。

 

「その時の動画があるから見た方が早いな!」

「うおぉぉぉぉぉぉ止めろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

止めに動き出そうとした瞬間、両脇をキリトとクラインに止められる涼。

エギルはカウンターの脇からノートパソコンを持ってきて起動し始める。

 

「涼、うるさい」

「詩乃さん! 後生! 後生だから見ないでお願いします!」

「どんだけ嫌なんだよオーリってか力強っ!?」

 

 

 

◆■◆

 

 

 

映像の先、蒼に銀色のラインが入った服を着た少年が倒れていた。

 

『オーリッ!?』

『オーリ君!?』

 

黒で統一された服を着た少年と、白に赤のラインが入った服を着た少女が叫ぶ。

しかし眼前に迫る真紅の鎧を着た男の猛攻によって防戦へと追い込まれ、駆け寄る事が出来ない。

 

『この階層にたどり着き、私と相対するために集った皆が須らく素晴らしいプレイヤーだ。

 強い者、速い者、援護に長けた者も防御に長けた者もいる。

 その中でもキリト君、アスナ君、そして今倒れたオーリ君は私をここまで追い詰めた』

 

傷だらけの男から漏れ出る言葉には歓喜の感情が見え隠れしていた。

よくぞここまで真剣に、己が創造した世界を生きてくれたと。

 

『ユニークスキルである二刀流を持ち、システム外スキルすら考案したキリト君。

 それに追随し、『閃光』に相応しい手数と速さを持つアスナ君。

 二人とも素晴らしいプレイヤーだが――…最も厄介なプレイヤーがオーリ君だ』

『厄介って……何がだ、よっ!!』

 

黒服の少年・キリトの攻撃を手に持った盾で捌いた後、白服の少女・アスナの刺突をバックステップで男は躱す。

男――…プレイヤー名ヒースクリフ。 いや、プレイヤーとして紛れ込んだラスボスの茅場晶彦は言葉を紡ぐ。

 

『彼のソードスキルの使用回数だが、全体から見ても極端に少ない。

 ソードスキルを縛るという事はこのSAOにおいては重大なハンデと言えるが、彼はそれを是とした』

『どういう事……?』

『ソードスキルの発動に必要なファーストモーションは時として相手にその技の軌道すら見せてしまう。

 そして放った後は硬直時間が存在する――…そんな基本的な事を彼は嫌った』

『だからどうしたってんだよ』

『だからこそ、だよキリト君。

 そんな縛りを持つ彼が三人がかりと言えども私の攻撃をいなし、時には攻撃タイミングすら潰す。

 それはソードスキルを基本の選択肢から捨てた事によって、多様な選択肢を獲得した事に他ならない』

 

茅場の言葉から更なる歓喜の感情があふれる。

よくぞここまで極めてくれた。 ある意味自分の想像すら超えた相手に惜しみない賛辞を送っている。

 

『技量が極まったオールラウンダー。

 彼が倒れた途端に防戦一方になった君らを見れば、その貢献度は語るまでも無い。

 だが彼はもう――…なん……だと……!?』

 

茅場の顔が驚愕に染まる。

彼の視線の先をキリトとアスナが追えば、そこには傷口からダメージエフェクトを出しながらも立つオーリ。

そんな彼のHPゲージが、1ドットだけ残っている光景だった。

 

『全損させてしかるべきの攻撃を食いしばった……だと……!?』

 

食いしばりに関しては確かに設定していた。

しかしそれは、いくらステータスやスキルを極めても1%にも満たない確率しかない。

それをこの土壇場で成功させた? いや、自分が作ったモノの中で彼に一番あり得るモノ。

最も高い可能性に行きついた茅場晶彦の顔が、抑えられないと言わんばかりに絶頂の歓喜に歪んだ。

 

『素晴らしい! この土壇場で! 《覚醒》したのか君は!!』

『……大事な、あいつが、泣いてんだ。

 これ以上、泣かすわけにゃ、いかねーんだ……』

 

そう呟いたオーリは、その顔を歪めて、何かを堪えるように食いしばった。

ゆっくりと一歩一歩進む動作を数歩経て、疾走へと変える。

それを見たキリトとアスナは、彼に声をかける事を止めた。

茅場が動揺し、オーリが動けるこのタイミングが最後のチャンスだと理解したから。

 

『極まった技量の果て! あらゆる武器を使いこなし! 何物にも縛られない!

 己が意思で! 心で死すらも踏み越える者! ユニークスキル"天衣無縫"に!』

『お前を倒して、生きて、あいつがいる場所に、俺は帰る!』

 

彼の身体からは、誰も見た事の無い蒼いエフェクトが溢れ出す。

 

『その前にきっちり一発殴らせろ茅場ァッ!!』

 

 

 

◆■◆

 

 

 

「わたしは、かいになりたい」

 

動画が終わる頃、すっかり消沈した涼は椅子の上で体育座りをしていた。

恥ずかしさがオーバーフローして鬱になっているらしい。

 

「改めて見ても台詞が完全に主人公してるわね」

「エギル、こんなんどうやって手に入ったんだ?

 第百階層でこんなの録画できるアイテム持ち込んだ奴いないはずだろ?」

「まぁちょっとしたツテだが……大元はプレイヤーじゃなくて茅場だな」

「という事は……あの、エギルさん」

「どうした、シリカ」

「ひょっとして、ですよ?

 これ、各階層のプレイヤーがいる街とかで映されてたりしました?」

「正解だ。 これ、茅場が自分の戦いの光景を各階層の街で映し出した奴」

「まって、じゃあ俺のそれ全帰還者が知ってるの?

 食いしばってイキって告白紛いの事したプレイヤーのこと知ってるの?」

 

絶望にゴールしてしまいそうな表情の涼に、詩乃以外の全員が手を合わせ『南無』と言う。

床へと崩れ落ちた涼がどうやって奴らの記憶を消すかの算段を立てていると、詩乃がその横に屈み込んだ。

 

「涼」

「何……」

「大事なあいつって、私?」

「……ソウデス」

 

婚約者からダメ押しの確認をされてとりあえずお空へと旅立ちたくなった。これ以上は恥ずかしくて本当に気絶してしまいそうになっている。

詩乃は詩乃で「へー」とか「そうなんだ……」と呟いて顔が真っ赤だ。

 

「エギルゥ! 昼間だけど酒が欲しい!」

「クライン、気持ちはわかるが今は喫茶店なんだ。 濃いコーヒーでも淹れてやるよ」

「ラブラブ過ぎない?」

「羨ましいですねぇ~」

「キリト君」

「アスナ、流石に俺は衆人環視の中での告白は出来ないぞ?」

 

やいのやいのと、再会の喧騒は賑やかに過ぎていく。

 

「そういえば、詩乃のんはゲームやるの?」

「詩乃のん? はい、まぁ……というより、前のALOで私も居ましたよ。涼と一緒にログインしてましたから」

「あー、オーリと合流した時に一緒にいた彼女か。 あの時は『友達』って紹介されたんだよな」

「あの時は詩乃が同じ学校に来るとは思ってなかったんだよ……」

「つまり誤魔化せると思ったわけだ。 そうかー……あのスナイパーかー……」

「キリト、お前何考えた」

「変態機動の次はヤバイスナイパー…類は友を呼ぶ?」

「私のはまだ常識的じゃないかしら?」

「ケット・シー領でも、あれだけのスナイパーいなかったんだよなぁ……」

 

男衆がゲーム談議で盛り上がる中で、アスナの手招きに詩乃が気が付く。

席を移動すれば、そこには女性陣だけが集まっている。

アスナ、リズベット、シリカの三人は詩乃を見てニコニコ、というよりニヤニヤと笑っている。

 

「嫌な予感しかしないけど……」

「いやいや、大丈夫大丈夫。

 詩乃のんも聞きたいだろうSAO内のオーリ君の様子を代価に馴れ初めなんかを聞きたいと思ってるから」

「乗りました」

 

考える素振りすら見せずに答えた詩乃に、リズベットが苦笑した。

 

「削れるのはオーリの尊厳だけなのがぼろいわね……」

「日常のオーリさん的にはキャラとしてそんな感じでしたからね……

 率先して三枚目を買って出ていたというか」

 

三人が話すのは、SAO内の攻略の面ではなく日常の一場面。

オーリというプレイヤーはギルドには一切所属せず、いわゆる傭兵的な立ち位置にいた。

その為に交友関係は広く、ダンジョン攻略の助っ人から危険な遭難者救出まで請け負っていたという。

日常的な絡みとしてはやはりというか、同じくギルドに所属する事が少なかったキリトが最も多い。

昼寝のスポットを探したり、たまに決闘で互いの技術を磨いたりしていたらしい。

後はこの場にはいない情報屋のプレイヤーには、自身が得た攻略に関する物を出来るだけ広めるようにと公開していた。

 

「後はよく中堅層のプレイヤーに色々教えてたりもしてたかな。

 彼の授業的なのはとっつきやすいから、そこから見込みありなのも出てきたし」

「有名所のプレイヤーにはお約束的に二つ名がつけられるけど、彼の『蒼の流星』は誰が言いだしたんだっけ?」

「誰だったかはわかりませんけど、時期としてはゲーム開始から半年くらいですよね。凄い動きの蒼い服の剣士がいるっていうのは前から聞いてましたし」

「凄い動き?」

 

男性陣の会話でも出ていた変態機動の事だろうと思うが、詩乃がALOで見た彼のゲーム内の動きはまだ常識的だった。

緩急と動きのフェイント、飛行による空中戦で敵を足場にすると多彩な動きだが、まだ仕様内の動きのはずだ。

 

「んー、わたしが見た中で一番インパクトがあったのは……

 やっぱ初めて見たのもあるけど、第一層のボス戦かな」

「どんな動きを?」

「ボスが横薙ぎに振った剣の上に乗って切りかかるって言う漫画みたいな動き」

「「「えぇ……」」」

 

アスナは簡単に説明したが、その非常識さは伝わったのだろう。

リズベットとシリカは当然として、詩乃ですら顔が引きつっていた。

難易度は言わずもがなだが、ただのゲームならやってみようという輩もいるだろう。

しかしデスゲームで、初見のボス相手にやってのけるのは変態ではなく馬鹿である。

 

「あたしが見たのも大概だったけど最初からそこまでぶっ飛んでるとは思わなかったわ」

「リズベットさんが見たって言うのはどういう動きを?」

「武器を作る材料採集でオーリに同行を頼んだんだけど、その時に相手をしたドラゴン。あいつ、ドラゴンのブレスの上を盾で滑ってた」

「すみません、ちょっと何言ってるか理解できないんですけど」

「あたしも未だに理解も納得も出来てない。

 あいつは『ブレスとかを微妙に反射する盾の使い方の提案』とか言ってたわ」

「家に帰った後、叱っておきます」

 

そこまでしていると思ってなかった詩乃が頭痛を堪えるように頭に手を当てて答える。

もし乗れなかったらどうなっていたのか、即死していたのではないかと問い詰めなければならない。

 

「ん? 家に帰った後?」

 

アスナの呟きに、詩乃は一瞬だけ表情を崩す。

違う話題――クラインがなぜモテないか――で盛り上がる男性陣に聞こえないように、四人はテーブルの上で顔を突き合わせた。

 

(一緒に住んでるの?)

(ぅ……はい、まぁ……でも、お互いの親の許可も貰ってますし。

 二人で暮らしてみて合う所合わない所を探すいい機会だって)

(でも、一つ屋根の下で一緒って普通まずいんじゃ)

(……涼のお義母様が『ゲームの中であの子が女の子を惚れさせていた場合、アドバンテージを得る必要がある』って)

(オーリは母親にどういう信頼のされ方をしてるのよ……)

 

ちなみに父親は反対しようとして母親に睨まれていた。

後で聞いた話では、父親は多くのトラブルを解決し、その時渦中にいた女性を多数惚れさせていた事があるそうで、

母親はそんな父親を玉砕覚悟の突撃で仕留めたのだとか。

故にその『ヒーロー体質』的なモノを受け継いでいる息子についてのある種の信頼は厚い。

詩乃へと向けた言葉も、彼女が本気で息子に惚れているからこそ、後悔したくないのならそうした方が良いという善意でもある。

 

(……実際どうなんですか? 涼にそういう事ってありました?)

(あー……)

 

リズベットとシリカが視線を泳がせる。

ただ、アスナだけが平然と答えを返した。

 

(人気は確かにあるし、色々と事件に首突っ込んでた時期もあるからあり得る、かも?でも、逆に言えばそれだけなのよね。 オーリ君はギルドに所属はしてなかったし、基本的にソロで動く方が楽だって言ってたから、誰々とそれだけ親密って言うのはなかったと思う)

(逆に人間関係を築けてたのか気になるんですけど)

(人脈的にはオーリ君凄かったよ。 零細ギルドでも何らかの繋がりが必ずあったのはびっくりした。どこも囲い込みたかったんだろうけど、そうやって結局干渉できない存在みたいになってたから)

(なるほど……)

 

それは詩乃も知らない一面だった。

まぁ今まで住んでいた場所は田舎と言ってもいいくらいの場所で、閉鎖的とまでは言わないが後から入ってきた人間を警戒する傾向はある。

それでも一年だけで馴染んだのは能力的な物もあったのだろうと想像はつく。

 

「……相方のコミュ力が高すぎて私、友達ができるか不安になってきました」

「あれ? わたし達もう友達じゃないの?」

 

心底不思議そうにアスナが答えた。

彼女にとって詩乃は気になっていた相手だ。

SAO生還者の誰もが認める英雄の一人であるオーリが最終決戦で告白紛いの事をした相手。

これだけでも気にする理由ではあるが、それ以上にシンパシーみたいなものを感じていたのだ。

詩乃から語られるオーリは何処か自分の恋人と共通点が多かった気がする。

 

「わたしは詩乃のんの事、『自分と似てるなぁ』と思ってるの」

「私達が似てる……ですか?」

「お互い難儀な相手に惚れたなぁっていうのもあるし、色々と」

 

アスナの顔に浮かぶのは純粋な親愛の笑み。

それを見た詩乃は、毒気が抜かれたような気がして溜息を一つ吐いた。

 

「詩乃のんってあだ名は良いですけど、学校では止めてくださいね」

「えー、可愛いじゃない。 オーリ君はどう思うー?」

「え、いきなりなんです?」

 

何やら真剣な顔で話していた男衆の中から、涼が視線を向けた。

 

「詩乃のんってあだ名、可愛いよねって話」

「えー、ふつー……」

「そんなに捻っても通じない場合があるじゃない」

「それには同意するけども。

 え、詩乃にあだ名付けるくらい仲良くなったん?」

「私に実感はあんまりないかなー…」

「友達よりも深いけど親友ではない感じかなー」

「それ会って数時間でなるレベルじゃないよね?」

 

どういう事なの、とリズベットとシリカに視線を向けても彼女らもよくはわかってないらしい。

まぁ友達になったんだからいいじゃん! みたいな空気である。

確かに友達になったのは喜ばしいが、何だか釈然としない。

 

「しかし、そろそろ良い時間だな」

 

キリトが店の時計を見れば確かに、という時間だった。

色々と盛り上がってしまったせいで予定よりも長居してしまった。

飲み食いした物についてはエギルが今日は奢りという事で学生組は甘える事にした。

まぁ今後は何かにつけて利用するだろうから、というのもある。

ぞろぞろと店から出てきた学生組の中で、涼はキリトへと声を掛けた。

 

「こっからどーするよ。 解散するか?」

「明日が休みって事を考えるともったいない気もするな」

「それはゲームにダイブしろって話か?」

「違うよ。 まぁゲームや学校でも会えるとは言え、こういう機会ってのは貴重だろ?」

「あー……なるほどな。門限申告!」

「言い出しっぺは電話すればOKだ」

「わたしも報告すればちょっと遅くなっても大丈夫」

「右に同じーく」

「あたしはちょっと、無理ですね」

「言わずもがな」

 

シリカがアウトなのは流石にまだ義務教育中だからだろう。

高校生組でも実家組は報告さえすれば遅くなっても大丈夫であると。

なので、シリカを最寄り駅まで送りながらどうするかを相談する。

 

「オーリ君と詩乃のんの家でいいんじゃない?」

「なんでや!」

 

アスナの提案に涼は即座にツッコミを入れたが、結局決まってしまった。




『相手を足場にしてスーパーボールみたいに跳ね回るケット・シー』
って書くと途端にヤバい気がしてくるのは自分だけだろうか……
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