流星の軌跡   作:Fiery

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四連休……!


そのじゅうきゅう:友と共に

 

 

 『ガンゲイル・オンライン』というゲームの特色とは何か、と聞かれれば大半のプレイヤーが『ゲーム内通貨を現実の電子マネーに変換してくれる事』と答えるだろう。このゲームコイン現実還元システムはGGOと言うゲームを一躍有名にし、このゲームを仕事にしてしまったプロまで存在するほどにした。涼もこのシステムは何度か利用した事はあるが、それは予期せぬ大金を手に入れた際にGGOの通信料に宛てる程度だ。

 以前、詩乃のヘカートを売ってくれとやってきたプレイヤーが居たが、その時はその武器が自分達に必要だったので売らずじまいで、今や『ライトニング分隊』不動のエースであるが、そいつが提示してきた額が現実では十万を超える額で、詩乃が思い切り呆れたものだった。

 

「で、涼。ちゃんと話してほしいんだけど」

 

 テーブルを挟んで向かい側の光景から逃避するように考え事をしていた涼だが、詩乃の抑揚のない声に嫌でも戻ってこざる得ない。彼女の表情は笑顔ではあるが、それは見せかけだけで内心に怒りがある事が涼には手に取るようにわかる。特殊な感覚が無くとも、結構な年月を一緒に過ごした恋人の心情を理解できない程、彼は愚鈍ではなかった。

 こうなった原因としては、先日叔父と話をした事を危険な事を省いて説明した事だ。きっちりと穴が見えないように理論立てて説明したつもりだったが、恋人の心情が手に取るように理解できるのは詩乃だって同じだ。彼が何かを隠して説明をしているという事――…もっと言えば、その隠している事が危険な事であるという事まで勘付いている。

 

「嘘は言ってないぞ?」

「聞き方を変えるわ……私が、貴方に危険があると分かっていて黙って行かせると思う?」

 

 苦し紛れの台詞は、彼女の怒りが乗った言葉によって封殺される。涼だってそうは思わないし、自分が詩乃の立場なら危険があるなら遠ざけ、行くというなら共に行く事を選ぶ。要するに、涼がこの事を詩乃に話した時点で詰んでいるのだが、全てを隠して黙って行くというのは彼女のトラウマを大いに刺激する行為になってしまう。

 SAOから目覚めた後、入院中に一度だけ涼は詩乃に黙って病室を抜け出した事があった。彼としては少しの間……十数分程度だったが、病室に戻った彼が見たのは床にへたり込んで憔悴した彼女の姿。それから自分の姿を見て、涙を流して安堵した姿だった。

 だから涼は自身に、例え自分が不利になるような事であっても、彼女の前から黙って消える事だけはしないと誓いを立てた。自分自身の愚かさが、二度と彼女を傷つけないように。

 

「……わかった、降参だ。全部話すよ」

「よろしい」

「でも約束して欲しい。この話の件については、俺の指示に従う事。危険を感じたら絶対に手を引いて、父さんと母さんを頼る事」

 

 真剣に、まるで鉄の様に硬い声で精一杯の譲歩を伝える。普段と違う彼の雰囲気に詩乃はごくり、と息を飲んだ後で首肯した。

 

「貴方となら、何も怖くないわ」

「ちゃんと危険は判断してくれよ……」

 

 苦笑いを浮かべた後に、今度こそ涼は洗いざらい自分が知っている全てを詩乃に話した。話を聞いてから自分でも少し調べれば、その対象が《死銃(デス・ガン)》と名乗った事とそいつがまるで幽霊のような恰好をしたアバターだという事も全て。

 

「……正気、なの?」

 

 全てを聞いてから、漸くと言った体で詩乃が絞り出したのはその一言だけだった。ゲーム内で銃撃を受ければ現実でも死ぬ――…そんな馬鹿げた噂が、ひょっとしたら現実の殺人事件と連動しているかもしれない。それはまるで、かつて彼が囚われた《ソードアート・オンライン(デスゲーム)》のようで、今度は自分から飛び込もうとしている最愛の人に投げかけた根源的な疑問だった。

 

「自分が正気かどうかは、ちょっとわからないよ」

 

 再び涼は苦笑いを浮かべて、手元のカップの中に残っているコーヒーを一口啜る。

 

「SAOに囚われている間に、桜川涼と言う人間は本来成長するはずの道からは外れたんだと思う――…決定的なのは、自分の殺意を持って人を殺した事だ」

「人を、殺した……?」

 

 愕然とした表情の彼女に、彼は曖昧に笑う。今まで言わなかったのは、ただ自分が彼女から離れたくなかったからだ。たったそれだけの自分のエゴから、彼はそれを告げられなかった。そんな事実を今告げたのはヤケクソでも何でもなく、彼女の問いに答える為に必要だったから。結局は自分の都合だな、と涼は自身を軽蔑する。

 

「……だから多分、俺はもう正気とは言えない。真っ当で居られるとは思うけど、人としてはおそらくあの時に何処か壊れてしまった」

 

 最近も見た血塗られた自分の姿を、彼は既に受け入れている。詩乃を守る為に必要ならば自分の手を汚す事に躊躇いも無いだろう。そんな自分が正気であるかどうかなど、論ずるに値しない。ここで彼女が離れて行っても、彼はその結果を受け入れて姿を消す覚悟があった。

 

「……何か納得したわ。起きてから一週間くらい怖い顔してた理由はそれね」

 

 責めると思っていた詩乃の声は、驚くほどに穏やかだった。涼がその表情を伺えば、納得したように頷いて、口元には笑みさえ浮かんでいる。

 

「詩乃?」

「え? あぁ、確かに驚いたけど……でも、その事を告白してくれた事の方が嬉しいの」

 

 そう言って彼女は何の躊躇いも無く、彼の手を両手で握りしめる。その手の暖かさはいつも感じている彼女のもので、涼は安心すると共に何故、という視線を向けた。

 

「目を覚ましてから、貴方が話したくない事があるのは気付いていたわ。でもそれは私には言い辛い事で、言うには覚悟が必要なんだって思った。そりゃ、内容はショッキングなものだったけど……こうして私に言ってくれた。それって、私に全部受け止めさせてくれるって事でしょう?」

 

 詩乃の言葉が何処までも本気である事など、涼は頭でも心でも理解している。彼女は自分の全てを受け止める覚悟……愛を見せている。それを悟って、涼は自分がまだ彼女を知り尽していないのだと理解した。自分が守ると思っていたのに、彼女がこんなにも強い事を知らなかった。

 

「だから今回はそれに免じて、待っててあげる。黙って消えるのは、絶対に許さないけど」

「……ありがとう、詩乃」

 

 握られた手を握り返して、涼は目を伏せる。自分を真っ当で居させてくれる彼女の愛に、精一杯の感謝を込めながら。

 

 

 

 数日後、涼に対して叔父から一つの依頼が届けられる。『危ない事はするな』と自分で言った口で……と、涼と詩乃の前で苦渋を滲ませて叔父は頭を下げた。

 

「涼坊。ガンゲイル・オンラインの近日行われる大会に出てくれねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 十二月十三日土曜日。

 来年の四月以降に住む事になる家でダイブの為の準備を終えた涼が、誰もいない部屋で一つ息を吐いていた。叔父から両親や藍子、木綿季に説明があり、両親は『息子が決めた事なら』と協力を約束してくれたが、姉妹はそうは行かなかった。『一緒に出ます』と、特に藍子が譲らなかったがこっちは詩乃が説得に当たってくれて、最終的にはGGOにダイブはするものの観戦に留めるという事になった。今、家の周りには叔父の部下が最低限の人数で見張っている。叔父自身は『ヤバそうな所を当たる』と言って離れていった。

 目を閉じて頭を空っぽにして瞑想をしていた所に、唐突にスマホが着信を知らせた。画面を確認すれば、まるで示し合わせたかのように『キリト』の文字。

 

「わざわざ通話でどうした?」

『ちょっと内密の話だ……涼、GGOやってたよな?』

「やってるけど、()()()()()()()()()()はオススメしねーぞ」

 

 軽く牽制すれば、電話の向こうで和人が息を飲んだ事がわかる。それだけの反応で、涼は彼の要件が自分も追ってるソイツに関連するものだと当たりを付けた。

 

『……今回も一応、例の胡散臭い官僚殿のご依頼さ。噂の《死銃》と接触してくれないかってね』

「あぁ、話だけは聞いてる眼鏡の人か」

 

 和人が言う官僚については、涼は彼の話でしか知らない。件の人物はSAOから生還した時から和人と付き合いがあり、VRMMO関連の調査依頼を何度かされている事。そして、官僚と言うように国側のエージェント……本人の弁を信じるなら総務省の人間であるという事程度までしか聞いていない。

 

「にしても、接触してくれ、ねぇ……」

『何でも、その人の上の方が気にしてるらしいぞ。VR関連で事件が起きて規制云々って言われるのも、俺としては歓迎できる話じゃないし』

「まぁその辺りはその官僚殿に苦労してもらうとしてだ。《死銃(デス・ガン)》を名乗るプレイヤーは確かにいる。ソイツを写したスクリーンショットも見つけた」

『お前も追ってるのか? 《死銃(デス・ガン)》を』

「成り行きでな」

 

 涼が追う理由としては、安全の確保と言うのもある。何だかんだで涼はGGOというゲーム自体は気に入っている。キリト達と違ってGGOに重きを置いているのがその証左であるし、それに付き合ってGGOをプレイしてくれている家族に危害が及ぶ可能性があるなら、それを排除する事に躊躇いなど覚えない。

 叔父が先日伝えてきた確度の高い情報としては、おそらく二人目だと思われる犠牲者の体内から筋弛緩剤の成分がごく微量ながら検出されたため、殺人事件と断定。近隣の監視カメラ等から犯人の足取りを洗っている。ただこの情報は警察内部……しかも叔父の近辺でしか出回っていない為、官僚殿の手が長くても知る事は出来ないだろう。

 そんな中で叔父が涼に『近日行われる大会に出てくれないか』と頼んできた。内容としては『BoB』のエントリーの際に、賞品に住所指定のものを選択しダミーの住所と名前を入力、そして大会を勝ち抜いてくれという物。第二回には出場していないものの、第一回では本戦に出場してその大会を蹂躙した怪物プレイヤーと辛うじて引き分けた涼ならば可能であると見込まれた上でのお願いである。流石に即答は避けたが、叔父は警護も付けるし、詩乃にも危害が及ばないようにすると確約してくれたので彼女との相談を経て、引き受けた。

 

「手っ取り早いのは『BoB』への参加だが……コンバートするのか?」

『一から育成してると間に合わないからな。明日奈にはもう伝えた』

「なら参加までは面倒見てやる。半年以上やってりゃ色々知ってはいるからな」

『協力してくれるのか?』

「俺としては、《死銃(デス・ガン)》って奴の言い分が気に入らない」

 

 本当の力、本当の強さ、裁き……《死銃(デス・ガン)》を追っている時に聞いた言葉は、酔っぱらっているとしか思えないほどの戯言だと涼は思っている。力にも強さにも本当や嘘なんてものは存在せず、あるのはただ『どう使うか』と言う方向性だけ。自分の為なのか誰かの為なのか、害する為に使うのか救う為に使うのか、彼にとってはそんな程度の違いしかない。そういう意味ではゼクシードと《死銃(デス・ガン)》は同類だ。片や自身の勝利の為に権謀術数を使い他者を陥れ、片や自身の殺意を振るって殺した。結果としては、人が実際に死んだか死んでいないかだけの事。

 

「後は個人の都合で協力するだけだ。流石にクリスマスは気兼ねなく過ごしたいし」

『だよなぁ……参考までに聞きたいんだけど、どうするんだ?』

「昼飯だけ予約してその後ブラっとして、家帰ってケーキ食べるくらいしか考えてねーぞ」

『えー……もっとこう、何か無いか? 夜景の見えるレストランとか』

「お前の場合なら、明日奈の家に出向いて夕食一緒に食べるとかどうよ」

『いきなり俺を高難易度クエストに叩き込むの止めろ』

 

 ははは、と互いに少しだけ笑いあう。

 

「エントリー期限は今日の15時までだ。俺はもう済ませてる」

『なら向こうで会おうか。頼らせてもらうぜ、ライバル殿』

 

 

 

 

 

 

 人によっては憂鬱になりそうな黄昏色の空を眺めながら、リョウゲツは『SBCグロッケン』の大通りを歩いていく。向かう先は新規プレイヤーが一番最初に現れる地点。そこにはコンバートしたキリトが居たのだが。

 

「流石にそのアバターは予想できんわ。お前《ザ・シード》に受け認定でもされてんの?」

「うるせぇ! 俺だってここでこんな引きするとは思わねーよ!?」

 

 リョウゲツが見たのは、白く滑らかな肌に艶やかな長い黒髪を持つ、華奢な少女……だが男だ、と何処からか声が聞こえてきそうだったがそれは置いといて、そんな姿をしたキリトだった。何も知らずにすれ違えば、リョウゲツでも彼だと気付かない自信がある程度に完全に少女にしか見えなかった。

 

「こんな時でもなけりゃ、お前のその姿拡散しまくんのに」

「止めろよ? 絶対止めろよ? そんな事したらお前を殺して俺も死ぬからな!?」

「そんな言い方すんな完全に痴話喧嘩に聞こえるわ」

「ある程度狙ってる」

「俺を社会的に殺しにかかるのは止めろ!?」

 

 お互いにため息を吐いて、リョウゲツは付いて来いと踵を返して歩き出す。

 

「どこに行くんだ?」

「お前にうってつけの軍資金稼ぎ場所だよ」

 

 二人並んで歩きながら、キリトに対してこの世界のシステムを簡潔に説明していく。一から十まで教える時間はないが、戦闘システムで重要な『弾道予測線』と『着弾予測円』について説明するだけの時間はある。ついでにこっちの基本的なコンソールの使い方も教えておいた。

 

「ふむ、なるほどな……STR-AGI型か」

「予想通りだな。で、お前にうってつけな奴はこれ」

 

 リョウゲツが案内したのは大通り沿いの大手のデパートを思わせる建物で、その中の壁際の一画を丸ごと占領する巨大な装置の前だった。

 

「《Untouchable!》……?」

「手前のゲートから入って、奥に居るガンマンの格好したNPCが放つ銃撃を躱しながらどこまで近づけるか試すゲーム。1プレイ五百クレジット。十メートル突破で千、十五で二千。ガンマンに触れりゃ、看板の下に書かれたキャリーオーバー分全額貰える」

「へー……今はいちじゅーひゃくせんまん……五十万!?」

「コットン……ユウキがクリアできたからお前も行けるだろ? さっさと貰って軍資金にすんぞー」

 

 奢ってやる、とリョウゲツがプレイの為のクレジットを投入してキリトをスタートラインに誘導する。幅が三メートルほど、奥行きが二十メートルほどで床には金属タイルが敷き詰められ、視線の先にはガンマンのNPC。キリトはそれだけを確認して合図を待った。賑やかなファンファーレが鳴り響き、それを聞いて店内にいたプレイヤーが集まってギャラリーを形成していく。彼らが織りなす喧騒は、今のキリトの耳には届かない。彼は真っ直ぐNPCのガンマンだけを見ていた。

 

 効果音と共にカウントがゼロを刻んで金属のゲートが開くと同時に、キリトが疾走を開始する。縮地かと思うほどにあっと言う間に彼は五メートルを潰して、ようやくガンマンが最初の三連射の銃撃を行う。予測線が出る直前に右前方に跳んで避ければ、ギャラリーから驚愕の声が響いた。それを気にする事無く距離を詰めるキリトを相手にもう一度三連射が行われるが、これもまた彼は予測線が出る前に既に予測線の先には居らずに避けて見せた。

 

(あいつ縮地とかいつの間に覚えた? どんどんヤバい事になってない?)

 

 リボルバー六発の銃撃の間に半分の距離を潰したキリトは減速する事なく、逆に加速する。タイミングをずらした射撃に即座に対応し、胸元を狙った六連射の水平射撃は更に前傾姿勢を取る事で避け、次の瞬間には床に手を付いて勢いそのままに空中へと跳びあがる。一瞬前までキリトが居た場所は六本のレーザーで撃ち抜かれ、ガンマンがキリトの方を見た瞬間に、その顔に拳が突き刺さった。

 

「レーザーとか殺意マシマシすぎるだろ」

「初見であっさり避けといて何言ってんだこいつ……」

 

 貯め込まれたクレジットが金貨の雨となって降り注ぎ、地面に落ちて慣らす小気味良い音をBGMにリョウゲツはキリトにツッコミを入れた。コットンも初見でレーザーは避けていたが、あんな風にスタイリッシュではなく結構必死だった事を思い出す。

 リョウゲツのツッコミはギャラリーの代弁でもあったようで、ギャラリー全員があんぐりと口を開けていた。

 

「ま、これで軍資金は出来たし後は装備だな」

「おーう。まずお前が使ってたあのライトセーバー見に行こう」

 

 そんなギャラリー達をスルーして、二人はさっさと売り場へと向かう。

 

「射撃経験は?」

「無い。現実でも一回か二回くらいモデルガン弄った程度だな」

「んじゃ命中精度重視か。で取り回しが良いとなると拳銃しかねぇな」

 

 さっさと選んでいくリョウゲツにキリトはされるがままになっているが、その事について特に不満を感じてはいない。そもそも銃は門外漢であるため専門家か詳しい人間に頼るしかないのだ。その条件を満たしていて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という条件を満たすのは、キリトにはリョウゲツしかいなかった。仲間達や彼の家族からは恨み言を言われるかもしれないので、案内だけを頼もうと思ってはいたが彼もこの件を追っているならば、組まないという選択肢はない。

 

「ぼーっとすんな」

「はうぁっ!?」

 

 ゴチン、とキリトの額に勢いよくリョウゲツの額が当たってキリトが仰け反る。痛くはないが何となく額を押さえながらリョウゲツを見れば、差し出されるのは一挺の拳銃。

 

「ちょっと握りだけ確認しとけ。命中補正の高い銃はこの棚な」

「あれ? お前が選んでくれるんじゃないのか?」

「練習無しの素人が使うんなら、どれも大して変わらんわ。お前の場合は牽制程度に考えといた方が良いだろうし、ワンチャン当てられる事も考えて命中補正が高い奴が良いってだけ」

「お前がしたみたいに二刀流でも良いんだぞ?」

「お前ならやれそうなのが怖い。でも止めとけ。無駄にヘイト稼ぐ事になる」

 

 リョウゲツが言うには、彼のせいでもあるが第一回BoBで光剣二刀流と弾斬りを披露した後で光剣ユーザーが爆発的に増えた時期があった。皆が皆、弾斬りを会得しようとしたが物にしたのは極一部で、その極一部も戦闘レベルでは使用できなかった。故にBoBという大会の場で実際に弾斬りをして見せたリョウゲツの名前はGGOの中で爆発的に広まってしまい、一時は結構なヘイトを集めたものだ。そんな中で新規プレイヤーが突然大会に出て、二刀流で弾斬りも出来るなんてのはやっかみの的になる。

 そんな彼の言い分に納得して、キリトは銃を握っては構えてを繰り返していく。剣とは勝手の違う武器の中でようやくしっくりくる物を見つけ、それを構えた。

 

「《FNファイブセブン》か」

「そんな名前なのか……でもいいね、しっくりきた」

「軍資金は五十万だからそいつと光剣、防具一式は余裕だな」

「そんじゃ予備に剣がもう一本欲しいんだけど」

「剣キチじみてきてない? まぁいいや。足りない分は出してやるよ」

 

 ちなみに、キリトが選んだ防具はやはりと言うか黒ずくめの一式でリョウゲツは大爆笑。やいのやいのと言い合いをしながらエントリー場所の総督府へと辿り着く。

 

「あ、兄さん!」

 

 総督府の前では、無茶をしている兄を心配したインディが立っていた。彼女は兄の姿を見つけて手を振った体勢のまま、隣のキリトを見つけてフリーズする。

 

「インディ? お前は拠点で待ってろって――」

「兄さん? その女誰ですか?」

「今どっから声出したの? ゲームの中なのに首が寒いんだけど」

 

 彼女は数メートルほど離れていた距離を一瞬で縮めてリョウゲツの懐に入り、真っ赤な三日月のように口を開けて笑いながら、ハイライトの消えた目で彼を見上げる。そんな彼女を見てキリトは『ヒェッ……』と小さく悲鳴を上げて一歩後退った。

 

「誰ってこいつキリトだよ。システムに受け認定されて男性アバターの中でも超レアな女の子にしか見えないタイプの奴引いたんだと」

「だから受け認定とか言うんじゃねぇよ!?」

「……え? その声はホントにキリトさん……? え?」

 

 目がハイライトを取り戻し、ぐるん! とインディの首がキリトの方を向く。その光景にキリトは思わず腰が引けたと同時に、目の前の少女が誰だったか思い至った。

 

「こいつを兄さんと呼ぶって事は、ラン……なのか?」

「こっちではインディで通してます。ってその名前を知ってるって事はホントにキリトさんじゃないですか……何でそんなに女の子より女の子になってるんですかぁ……!?

「リョウゲツ。俺、こんな時にどうすればいいのかわかんないんだけど、どうしたらいいと思う?」

「お前は今泣いて良いと思うけど、まずエントリーしてからな。もうエントリー期限まで残り十分くらいしかねぇから」

 

 

 

 




ザ・シード「女顔と聞いていたのでそうせざる得ないと思った。反省も後悔もしていない」

などと供述しており(以下略
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