流星の軌跡   作:Fiery

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ファントムバレット編を終わらせるまではちょっと駆け足


そのにじゅうに:本戦までのインタールード

 

 

 翌日の早朝。GGOへとダイブしていたベッドで涼は目を覚ました。人が二人余裕をもって横になれるそこでは、いつものように隣で詩乃が眠っている。涼が体を起こすとその動きを察知して彼女も目を覚まし、おはようと声を掛け合った後に涼は自分がいつ寝たのか覚えてない事に気が付いた。

 

「昨日の途中から記憶が無いんだけど何かあったか?」

「そのまま忘れてて、お願いだから」

 

 恥ずかし気に頬を染める彼女に疑問符を浮かべるものの、詩乃がそう言うならと涼はこの話題に触れる事を止めた。惜しい気もするが、こういう時は彼女に従っておいた方が良いと経験則的に知っている。

 時計を見ればいつもの起床時間よりも少し早い時間で、涼は詩乃に起こしてしまった事を謝ったが、早めに寝たし問題ないわとの返答と共に彼女は笑った。

 

「本戦は何時だっけ?」

「午後八時。それまでは特に予定はない……七時にはダイブして調整するくらいか」

「桐ケ谷君はどうなのかしら?」

「あいつ結局、光剣一本だけで勝ち進みやがったからなぁ。ネットでは……話題になってる」

 

 携帯で巡回サイトを巡り、その一つである《MMOトゥモロー》のニュースに【ガンゲイル・オンラインの最強者決定バトルロイヤル、第三回《バレット・オブ・バレッツ》本大会出場プレイヤー三十名決定】という記事を見つけた。その記事をスクロールして【Bブロック一位:リョウゲツ(二)】と出てくるが、それはスルーして【Fブロック一位:Kirito(初)】の部分を見れば『光剣使いの新星』と書かれている。

 

「へぇ。あ、『全ての予選で弾斬りを披露した』って書いてるわね……アンチマテリアルライフル相手にって、本当?」

「マジなんだよなぁ……相手もSTR-VIT型で《マクミランTAC-50》を立って撃ってくるとか頭悪い事してたけど、それを見切って真っ向から斬るとか笑うしかねぇわ」

 

 乾いた笑いを零す涼と、苦笑する詩乃。実は今は亡きゼクシードが推していた……まぁこれも欺瞞情報の可能性があるが……STR-VIT型が純では無いもののAGI型でもあるキリトに普通に爆散させられたため、AGI型の面々……特に時間が空いて丁度見ていた闇風が『見晒せコラァッ!』と普段のキャラをブッチして吼えていたという事があったのだが、それに涼は気付いていない。

 

「目下の最大の敵ってわけじゃないからあいつの事は良いとしてだ」

「《死銃(デス・ガン)》か……誰かわかったの?」

「消去法でな」

 

 画面をスクロールさせて該当するプレイヤー名を見つけ出して画面を指さす。そこには【Dブロック一位:Sterben(初)】と書かれていた。

 

「読みは『ステルベン』。意味はドイツ語で『死』だ」

「自称ともマッチしてるのね」

「こいつなりのセンスって所だな」

 

 ステルベンの予選での試合概要を見てみれば、対戦相手が唐突な回線切断やログアウトしたという物は見受けられない。つまり()()()()()()()()のだ。騒ぎになって本戦が開催されない事を恐れたのか、それとも予選では殺せる相手に当たらなかったのか。考えこもうとしたがそれは無駄だと打ち切り、携帯を脇机に置く。まだ時間は起きてから三十分も経っていないため、まだまだ自分達が普段起き出す時間でもない。

 

「詩乃」

「ん? え、ちょ」

 

 隣にいる詩乃を抱きしめて、そのまま二人でベッドに倒れ込む。涼の突然の行動に詩乃は目を白黒させていたが、彼が自分の身体を縋るように抱きしめている事に気付いて彼の身体を抱きしめ返した。

 

「どうしたの?」

「……本戦まで、詩乃を充電しておこうと思って」

 

 こんな風に甘えてくる事の無かった彼を見て、詩乃は容易く絆される。自分でもチョロいなと苦笑いを浮かべるが、それだけ自分に彼が甘えるなんて事は無かった。甘えてきた彼の頭に手を置いて撫でながら、自分もついでに彼を充電しようと決めた。

 

「まったく……私の旦那様は本当に、しょうがない人」

 

 詩乃が正直な感想を言えば、涼は『たはは』と力なく笑った。今日の本戦に不安を感じているのだろう。《死銃(デス・ガン)》の凶行を止められるかどうかは彼とキリトの手にかかっていると言っても良い。警察も動いているし、あのいけ好かない叔父も彼を囮にしているのだから結果は出すだろうと、義両親から聞いている。それでもGGOで止められれば、そもそもの被害が起きない可能性が最も高いのだから。

 

「朝御飯は何食べたい?」

「んー……詩乃の作った味噌汁が良い」

「それだけ?」

「昨日のお好み焼き余ってるし……」

「お昼は?」

「たまには……エギルさんの所の売り上げに貢献するかな」

「なら、藍子と木綿季も連れて行きましょうか。何となく、明日奈達も居そうだけど」

 

 互いの温もりを感じながら、二人はいつものように予定を立てていく。この何でもない日常が今の二人の居場所だという事を、噛みしめるようにして。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。今日は四人揃ってか」

「売り上げに貢献しに来ましたよ」

 

 早朝に詩乃と話していた通り、涼達四人は『ダイシー・カフェ』に顔を出した。元より行動に制限がかかっているわけでもなく、一人で出歩くわけでもないので叔父に連絡すれば許可はすぐに出たので、気分転換がてらにここまで足を伸ばしたのだ。

 

「ははっ、言うじゃねぇか。あぁそうだ。明日奈達も来てるんだが相席で良いか?」

 

 エギルの言葉に涼と詩乃が顔を見合わせて苦笑した。本当に会うとは思っていなかった故の苦笑であり、GGOの事もあるのであまり会いたくなかったという苦笑でもある。ただ、和人がGGOにコンバートして大会に出てる事を明日奈は既に知っている。故に同じ大会に涼が出ている事も把握している可能性が高い為、ここで会わなければ何か勘繰られる可能性が高かった。

 

「三人とも、どうする?」

「まぁ、いいんじゃない?」

「わたしも大丈夫です」

「ボクもー」

「んじゃ相席で」

「奥の個室だ。四名入るぞー」

 

 店としては勝手知ったる物なので、案内が無くても迷う事は無い。涼が先頭で個室のドアを開ければ、驚いた顔で開いたドアを見ている明日奈と里香、珪子が居た。

 

「うぃーっす」

「あれ? 何で涼君?」

「エギルさんに相席で良いかって言われたんだよ。後は多数決」

「やっほー」

「お邪魔します」

「藍子に木綿季じゃない」

「私もね」

「詩乃さんまで! すっごい偶然ですね!」

 

 仲間で集まる度に案内されていた個室は十人までなら余裕を持って座れる為、四人も早速座ってメニューを見る。

 

「今日は珍しいね。涼君達が来るとは思ってなかったよ」

「たまには売り上げに貢献しようと思ってな」

「明日奈達は結構来てるの?」

「あたし達の場合は住んでる所の関係でここが集まるのに便利なのよ」

「へぇ……お姉ちゃん何にするの?」

「んー……じゃあ、わたしはボロネーゼとフレンチトーストかな」

「藍子ちゃん結構食べますね……」

 

 注文を終えてから料理が来るまでの間は雑談に興じていれば、話題がゲームの話になるのはこの面子では仕方のない事だ。

 

「そういえば涼君。和人君から何か聞いてない?」

「その何かで察せっていうの、ほんと似た者夫婦だよな……GGOの事か?」

「アンタも察してんじゃない」

「うるせ。あいつがコンバートしてから色々案内した時に聞いてるのは聞いてるよ」

 

 大き目に切られたカツサンドを食べながら、涼は明日奈達に視線を向ける。

 

「わたしは《ザ・シード連結体(ネクサス)》の現状をリサーチするとしか聞いてないんだけど、涼君もそう聞いてるの?」

「俺もそんな感じで聞いてるな。ただ聞いた感じ、あいつに依頼した人は違う思惑もある感じだけど」

「思惑って……事件ですか?」

「事件と言えば事件だな。VRプレイヤーによる傷害事件関係だよ」

 

 事ここに至って、涼は真っ正面から嘘を吐く……と言うわけではなく、和人が請け負った依頼の本質を話す事にした。依頼人の上……国の偉い人達がフルダイブ技術に関して神経質になっている事で、様々な動きを見せている。最悪、規制推進派が現実に起こっている様々な事件をネタにフルダイブ技術が後退するようなものを作るかもしれない。故に様々な事件――…それこそ都市伝説レベルの物まで調べないといけないと。

 

「……GGOにもあるの? そういう都市伝説って」

「あるにはあるな。強い奴しか狙わないゴーストとか、荒野に居るピンクの悪魔とか。まぁALOでも似たようなの有るだろ? その中で強い奴にしか接触しない関係の噂なら、手っ取り早いのがあるからな」

「だからBoBに……涼さんもそれに付き合ってって感じですか?」

「そういう奴が居るなら多少興味もある。それにあいつが銃の世界でどう戦うかって言う興味もあったしな」

 

 蓋を開ければ剣一本で戦ってたわけだが、と涼は肩を竦めた。

 

「銃弾斬ってた?」

「俺より完璧に銃弾斬ってた。俺が斬ったから自分に出来ない道理はないって言い切ったしなあいつ」

「あー……確かに和人君は言うよね。特に剣に関する事だと」

 

 涼の言葉に納得したのか、明日奈も里香も珪子もうんうんと頷いていた。そんな彼女達を見て、涼は一切表情に出さず内心で安堵の息を吐く。これで本戦が始まるまで彼女達が動く事は無いだろう。

 

「俺が知ってるのはこれくらいだな」

「でも勝ち抜けるかな……バトルロイヤルなんだよね」

「そこまでは責任持てんぞ……まぁ状況によっては組むのも選択肢として有りだけど」

「涼は第一回の時、例の外人プレイヤーと戦う時に即席チームを組んだのよね」

「あぁ、アンタ諸共グレネードで吹っ飛ばされた奴。それくらい強かったんだ」

「少なくともあの時の俺じゃあ、相打ちに持ち込める確率が三割切ってんじゃねぇかな」

 

 順当に話が逸れている所で、食後の珈琲に口を付ける。他に質問は? と視線を向ければ明日奈が口を開いた。

 

「涼君、詩乃のん」

「ん?」

「私も?」

 

 詩乃の疑問の声に明日奈は頷いて、真剣な表情で二人を見ている。何か重要な話か、と二人は姿勢を正して明日奈を見た。

 

「同棲に必要な心得とか、教えてくれないかな……!」

「今の流れで聞く事じゃねぇだろそれェッ!?」

「さっきまでの真剣な空気は何だったの……」

 

 この後藍子と木綿季を里香と珪子に任せて、三人は滅茶苦茶話し合った。

 

 

 

 

 

 

「同棲おめでとうございます!」

「俺が明日奈からその話聞いたのついさっきなのに、何でお前が知ってるんだ……」

「明日奈を焚き付けたの俺と詩乃だし」

「キサムァッ!」

 

 明日奈達と別れ、予定より早めにGGOにダイブしたリョウゲツはこっちも早めに来ていたキリトを見つけ、早速仕入れた情報で煽っていた。彼女からの情報としては、彼女の両親の説得が上手く行ったので今度はキリトの両親に会いに行くという事と、その結果如何によって同棲に踏み切るという事。後はクリスマスに彼女の自宅にキリトが招待されるという事だった。

 

「クリスマスについては昨日言った事が実現してて笑うわ」

「何着てけばいい? スーツとか無いぞ俺……」

「そういう所も含めて明日奈に聞けよ。お前が選ぶと黒ずくめになるんだから」

「普段から黒ずくめしてるわけじゃないって……」

「初っ端から選んだ防具で黒ずくめしてる奴が抜かしよる」

 

 二十メートル四方で壁に囲まれたデュエル用のフィールドで、距離を十メートルほど保って二人の会話は続く。銃撃の音と放たれた銃弾を光剣が切り裂く音をBGMにして、二人は踊る。今現在ここにギャラリーは居ない為、多少プライベートな会話をしても特に問題は無かった。リョウゲツが床を蹴り、壁を斜めに駆け上がりながら《M4カービン(アサルトライフル)》をキリトに向かってフルオートで撃ち出す。時間差も偏差射撃も駆使してキリトを追い詰めるが、彼は致命に至る銃弾のみを選んで切り払い、彼我の距離を詰めてくる。

 

「調整って言ってた割にはマジでやってるじゃないか!」

「温い調整で負けたなんて言い訳、されたくないからなぁ!」

 

 残った銃弾でキリトの移動を制限しつつ、リョウゲツは壁を蹴ってキリトを飛び越えて着地する。そのままお得意の『ストレージ抜き打ち』で《H&K UMP(短機関銃)》に持ち替えて銃弾をばらまいた。

 

「マシンガンはやめろォッ!?」

「これ突破できねーとどうしようもねーぞ?」

 

 光剣による切り払いで相手に接近する方法を取るキリトだが、当然処理できる銃弾の数には限度がある。リョウゲツならほぼ同時に五発までなら瞬時に取捨選択が可能で、キリトはその倍。セミオートの銃相手ならまだ間に合うが、フルオート相手では絶対に間に合わない。キリトは銃撃を遮蔽物で凌ぎながら考え、一つの結論へたどり着いた。

 

「ならそれに対応できる動き方がある……!」

 

 想像するのはALOで相対した魔法や弓矢の弾幕。それも複数人がかりのそれを想像して、イメージを修正していく。魔法はある程度ホーミングするがそれを無くし、より速く。矢は軌道を山なりではなく、真っ直ぐに。そうイメージを突き詰めていけば、ふとイメージに行き当たる物があった。

 

(あいつの槍の間合いで連撃受けてるイメージで対応すれば行けるか……?)

 

 流石にまったく同じとは言わないが、その方が修正するズレが少ないだろうと結論付け、キリトは遮蔽物から飛び出した。そのタイミングを読んでいたように高速で弾丸が飛来するが、その事自体は驚くに値しない。ALOでリョウゲツやその嫁に散々やられた手口である為、冷静に銃弾を斬りながら彼我の距離を一気に潰しにかかった。それを見たリョウゲツはまた銃を持ち替える。

 

「虎の子を見せてやるよ」

 

 ストレージから取り出したのは二挺の大型拳銃。キリトでも知っている銃……デザートイーグルに酷似したそれは、リョウゲツが虎の子と言うからにはただの銃という事は無いだろう。事実としてキリトの考えは正しく、彼が握る二挺拳銃はデザートイーグルを独自にカスタマイズした物である。武装にそれほど頓着しないリョウゲツがカスタマイズしてまで使っているという事をキリトが知れば、この銃の危険度をSAOで言う魔剣クラスと認定したに違いない。

 

 発砲音の後、キリトの手から光剣のユニットが弾き飛ばされる。その事に驚愕はあるがそれは後回しにして、キリトは分析を開始。

 

「予測線の発生と同時に着弾した……!?」

「その距離からこっちは、今の俺の領域だ」

 

 銃を構えたリョウゲツともう一つの光剣ユニットを握るキリトは、まるで『あの時』に戻ったかのような緊張感を携えて睨みあう事数秒。セットしていたアラームが鳴り響いた事で二人は構えを解いた。キリトは床に落ちたユニットを拾って、リョウゲツは銃をストレージに入れる。

 

「それ、本戦で使うのか?」

「奴相手なら抜くさ。お前に見せたのは、スイッチを入れるため」

 

 その言葉の意味を理解できないキリトではない。確かに、過去の亡霊が現れたというのならその手がかりが、向き合わなければいけない罪がそこにある。

 

「……お前は、受け入れたのか?」

「結局な、こいつは自分の問題なんだ。許すも許さないも、忘れるのも忘れないのも。俺は受け入れて、一生向き合う事にした。詩乃にも全部話してな」

 

 リョウゲツの独白に、キリトは少なからず衝撃を受ける。それは純粋な驚きと、自分と同じかそれ以上にため込む性質の男が、愛する人に自分の闇を話した事に対する安堵だった。

 

「――…だから俺に奴の裁きは必要ない。それでも裁くというなら、俺は奴に現実を突きつけてやるさ」

 

 彼の言葉は、征く道を定めた者が宿す信念のようなものがあった。正しさや間違いではなく、自分の選択に殉ずる事を選んだ。歩き切った果てでしか答えを得られない苦難の道を歩む決意をした、殉教者のような覚悟。

 友のその選択が、キリトには眩しく見える。自分が未だに持てない覚悟を持った事への羨望は確かにある。しかし自分も世話をかけてばかりなので相手がその背負ったものを愛する人に少しでも渡す覚悟を持てたと言うのは、素直に喜ばしい事だった。

 

「なら、奴を止めに行くか。俺達の手で」

「あぁ、頼りにしてるよ、兄弟」

 

 二人はフィールドから出て、本戦出場者のための待機フィールドへと向かっていく。第三回『バレット・オブ・バレッツ』本大会開幕まで、後三十分を切っていた――

 

 

 

 

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