シリカを自宅の最寄り駅まで送った後、五人は買い物を済ませて涼と詩乃の家まで来ていた。
比較的新しいマンションのエントランスには暗証番号とカードキーによるドアがあり、部屋のドアもオートロックのカードキー。
表札には『桜川』と『朝田』の名字が並んでおり、詩乃が先導して鍵を開けて、一行は部屋の中へと入っていく。
途中で夕飯用の買い物に寄ったため、涼が大量の買い物袋を持っている。
「どうぞー」
二人で住むには十二分な広さを持った2LDKの部屋には最小限の家具があり、片隅にはまだ段ボールが積まれている。
それでも別に今回の来訪に支障はなく、アスナとリズベット、キリトの三人は物珍しそうにリビングを見渡していた。
「詩乃は先に着替えてこいよ。 俺はお茶でも入れてくるわ」
「わかった」
大量の荷物をキッチンまで運び、作り置きしていた麦茶を入れて三人のいるテーブルへ置く。
詩乃が自室へと消えてから、涼はキッチンの傍に掛けてあった自身のエプロンを付けた。
ちなみに今日作るのはカレーらしい。米は早炊きする予定で、用心の為にレンジ用のご飯まで買っていた。
「中々にいい所ね。セキュリティもしっかりしてて、学校も駅も近いから特に不自由しなさそう」
「その分お高いけどな。俺だけならもっと違う、安い所選んでたわ」
「理由はやっぱ詩乃ちゃん?」
「それ以外に何があると思ってんだよ」
喋りながらも手を洗ってから、手際よく調理を開始する。
詩乃が部屋着に着替えて戻ってきてからは、彼女との会話にシフトする。
キリトは女性陣に囲まれて居づらくなったのか、キッチン側のテーブルへと来ていたが。
「悪いな、こんな提案して」
「気にすんな。材料費は三人に出してもらってんだから」
会話をしながらも、動く手に淀みはない。
明らかに慣れた動きにキリトは感心の声を上げた。
「上手いもんだな。実家でもやってたのか?」
「父さんとキャンプに行くと大体作ってただけだな」
「カレーオンリーか?」
「カレーかバーベキューだな」
それでも楽しかったよ、と涼は笑う。
「意外とアウトドア派なんだなぁ」
「どっちも好きだし、気分にも寄るところはあるけどな。
フルダイブゲームはその辺程々に両立してるからよくやるってだけで」
「外でも体をよく動かすから、ゲームでも動くってか」
「後はどんだけ正確に動かす事が出来るかって感じだな」
ゲーム談義をしながら、後は圧力鍋の圧力が抜けるまで置くだけになったので涼は自室へと着替えに向かう。
10分程度で戻ってくれば、家庭用の据え置きゲーム機で有名キャラのパーティゲームをしていた。
「意外と連打が疲れるなこれ」
「でもVRとはまた違った面白さがあるから、こっちも好きかも」
「あー! ちょ、そこで邪魔しないでよー!?」
「そして私は美味しい所を貰う」
「「「あーっ!?」」」
詩乃が操るキャラクターが三人の隙をついてトップを取るところを見ながら、付け合わせのサラダを作る。事前に好き嫌いやアレルギーは聞いているので、差し障りのない具材ではあるが。
サラダを作り終える頃には、鍋の圧力も抜け切り、カレーが完成する。
後は早炊きのご飯を少し蒸らせば、夕飯の準備は完了だ。
「うーし出来たぞー。 よそって行くから取りにこーい」
「お、待ってました」
「うーん、良い匂い」
「へー、サラダも綺麗に盛り付けるのねー」
「サラダは各自取り皿に取ってくれ。 ドレッシングは市販の奴が三種類。シーザー、ごま、和風おろし。ほれ、詩乃はごまだろ」
「ありがとう。 涼のカレーは結構久しぶりね」
各自が席に着いたところで、和やかな食事が始まった。
◇
「詩乃は今日、話してみてあいつらの事、どう思った?」
食事を終えてキリト達を見送った後、二人並んで食器を洗いながら、印象を尋ねた。
涼としては自分が信用も信頼もして、キリトとアスナにはリアルの連絡先まで渡したのだ。
今日会った皆はSAOで出会った中でもとびきりの仲間。
彼としては、出来れば詩乃にも会ってもらい、気に入ってもらいたいと思っていた。
「そうね……うん、仲良くなれる、と思う。
アスナさんとリズベットさん、シリカちゃんとは連絡先も交換したし」
「なら、良かった」
返ってきた答えに安堵の息を漏らす。
「何? 嫌がると思ったの?」
「違う違う。 連絡先まで交換するとは思ってなかったってだけだよ」
「まぁ、私もこっちに来てからこんな風に友達ができるとは思ってなかったけど」
朝田詩乃という人間はあまり人付き合いを得意とはしていない。
出来ないわけではないが、どうにも苦手意識がある事は確かだ。
なので、心を開いて話せる友達というのも早々できるわけではない。
しかし慣れない土地に来て、ストレスだけが溜まる状況にはしたくなかった。なので、以前から有ったアスナの要請に不承不承ながら乗ったのである。
結果として、桜川涼としてもオーリとしても色々恥をさらしたがその甲斐はあっただろう。
なかったら涼は今日、ベッドの中で羞恥に悶えるだけである。
「でも、せっかく貴方と二人で暮らすんだから、今はこの時間を楽しみたいとも思ってる」
「……そうか」
互いに照れながらも家事を済ませ、入浴を済ませれば後は寝るだけ。
「今日から一緒に寝ない?」
「いきなりすぎない?」
寝る前のリビングでの一時の中で投下された詩乃の爆弾に、思わずそんな言葉が出る。
「あら、ダメ?」
「理由を教えてくれないと判断がつかんよ」
「涼、貴方SAOの中で何人かに告白されてるでしょ?」
「誰から聞いたのかは一先ず置いておこう……全部断ったぞ」
「うん、それも聞いた。そういう噂も特になかったって。
でも、告白してきた子はそれで諦めたの?」
詩乃の言葉に、涼は彼女へと向き合う。
自分としては確かに断り、相手もそれを受け入れたと思っている。
あの極限の状況で、感情の揺らぎを恋愛感情に変換するのはあり得る事だから。彼は誠意を持ってそれは違うと説いた。
「断られて、SAOから生還して、その感情を見つめ直すだけの時間は過ぎた。それでも尚、貴方が好きだと言って来たら……どうするの?」
「それでもだよ、詩乃。俺がその人に報いる事は無い。
出来ないんじゃなくて、無い」
コップの中に残っていた残りの麦茶を飲み干して、シンクへと置いた。
既に空だった詩乃の分も同様にして、涼は彼女の身体を抱き寄せる。
「SAOでの最後の戦いの言葉に嘘は無い。お前への告白を偽りにする気も無い。俺が愛してるという言葉を、心を向けるのは詩乃だけだ」
「うん、嬉しい……涼の言葉に嘘がないってわかるの。でも」
「そこは不安にさせた俺のせいだ。なら、責任は取らないとな」
自身の腕の中にいる彼女の頭を撫でる。
嬉しそうに目を細める詩乃の顔を見れば、愛しさが溢れ出す。
お互いがお互いを十分に堪能した後、視線を合わせた。
「……寝よ?」
「……だな」
◇
「篠崎は何処だ――」
「「ヒェッ」」
翌週月曜日の放課後。
いちゃついていた和人と明日奈のもとに現れたのは、阿修羅すら凌駕する怒気を孕んだ涼。デスゲームを最前線で生き抜いた二人ですら、思わず腰が引ける程度のオーラを振りまいている。
土日を詩乃との作業に費やした中で、例の話の出所を聞き出す事に成功した彼はせめてデコピンの一発や二発くらいお見舞いしなければならぬと思っていた。
ちなみにストッパーになれる詩乃はクラスの用事で遅くなる。
待ち時間ついでに涼はバラしたリズベット…篠崎里香を探しているわけだ。
「あれ、涼。何二人の邪魔してヒェッ」
「見つけましてよ篠崎サァァァン」
イイ笑顔でのこのことやってきた里香を出迎える涼。
「とりあえずデコピン一撃で勘弁してやる」
「いきなり理不尽過ぎない!? 一体何なのよ!?」
「おめーが俺のシークレット情報しれっと告げ口したからだよ察せ」
「でも朝の様子だと別に何の問題にもなってないんでしょうが!
むしろさらに磨きがかかってんのよバカップルか!」
「自覚はある」
「あるんかい!? こいつ隠さなくて良くなったから開き直って……!?」
言い合いをしながらも手に力を込めて渾身のデコピンを食らわせようとにじり寄る涼。
そんな彼から一定の距離を保って後退する里香。 こういう時の息はあっている。
「あの二人はリアルでもあんな感じで収まるんだな」
「仲が良いのか悪いのか……悪友って感じよね」
「あー……里香さんも口を滑らせたばかりに……」
和人と明日奈、合流した珪子の視線の先ではパチーン!と良い音をさせてデコピンが炸裂していた。
「イィッタァーイッ!?」
「意外と良い音が鳴ってすっきりしたわー」
「痛そうですねぇ」
「まだデコピンで済んでるだけマシのような気もするんだよな。
ぶっちゃけ、結果次第じゃ涼がいきなり不登校とかになってた可能性も」
「うーんあり得る……」
もしもの場合を考えて、三人は苦笑した。
先日に見た互いの愛情の深さからすれば、どちらも登校してこない可能性もあっただろう。
ただ、今となってはその考えはもしもでしかない。 現に二人は恋人繋ぎで登校してきたのだ。
もう周りの視線なんて気にしない程に互いを自身の世界の中心に置いていた。
「くらえっ!」
「イイッ↑タイ↓アタマガァァァ↑」
「何か今の言い方おかしかったぞ余裕あるなあいつ」
里香からの反撃のデコピンをライフで受け、額を押さえている。
SAO内ではある意味定型となっていたやり取りだが、リアルでも拝めるとは思っていなかった。
日常では終始こんな感じであったため、涼については三枚目な印象が強いのだ。
まさかリアルで再会して、数日でバカップル属性まで獲得するとは思っていなかったが。キャラ崩壊も良い所である。
「……一体何をしているのやら」
「やっほー詩乃のん。今から帰るの?」
「えぇ、そこの旦那を連れていきたいのだけど」
「こっちもこっちで旦那呼びに格上げされてるゥー」
現れた詩乃も詩乃で、圧力というか風格のようなものが備わっていた。
和人は和人で、貴重な男友達がまた一歩墓場に前進した事を実感せざる得ない。
「詩乃さん、あたしが帰った後で何か変わった事ありました?」
「とりあえず旦那と寝る部屋を一緒にしたわ。その先はまだだけど」
「一体何が……」
珪子が苦笑するも、詩乃は特に気にしない。
本当に、一緒に寝る事にしただけなのだから説明も終わっている。
おかげで土日は部屋の模様替えやら何やらで潰れてしまったが、好きな人と一緒に何かをするのは喜ばしい事だった。
「ちょっとした事があって、改めて気づいた事があっただけ」
「そ、それは一体?」
興味津々な珪子の視線を受け、詩乃は同性でも見惚れるような艶のある笑みを浮かべる。
「――…私、独占欲が強いの。
だから、旦那の一番は誰にも渡さない。渡したくないって簡単な事にね」
「「「ヒェッ…」」」
詩乃の口から漏れた言葉に、三人は背筋が寒くなる感覚だった。
言っている言葉は他愛もない……はずの決意というか、再確認のようなものだ。ただ、それを言った時の表情と雰囲気がヤバいのである。
和人はこれが愛が重いって奴か……と戦慄し、明日奈は友人の覚醒に苦笑するしかない。
「何よ、怖がらなくてもいいじゃない」
「それだけ愛が深くないと、恋人とか旦那さんって出来ないんでしょうか……?」
「並の男なら潰れると思うから、程々でいいんじゃないかしら。
私の旦那も、明日奈の彼も並じゃないってだけで」
「遠回しに、わたしも愛が重いって言われてる?」
「寛容さが違うだけで重さ的には大体一緒だと思っているわ。
常時バイタルチェックは正直うちもやりたいと思ってたけど、見て一喜一憂は流石にしないと思うの」
「うーん、否定意見がすぐに出てこない」
「そうか……俺はそんなに愛されてたのか」
「すみません、和人さんまでトリップするの止めてくれません?」
◇
「という事でシノンの弓作るんだよおうあくしろよ」
「押しかけてきてまで言う事それ!? というかシノンもこの馬鹿止めてよ!」
その次の休み、二人はオーリとシノンとしてALOにダイブしていた。
目的としてはシノンの装備を整えるために、まず武器を求めた。
そこで白羽の矢が立ったのがSAOと同じく鍛冶屋を営んでいるリズベット。
「オーリ、ちゃんとして」
「わかったよ。とりあえず、さっきも言ったがシノンに弓を作ってもらいたい」
「態度の落差が酷過ぎる……どんなのがいいのよ?」
「長弓で射程距離が長ければ長いほど。 その次に耐久力があれば良い」
「んー、長弓だと標準的なのしか今は無いのよね」
そこまで需要があるわけじゃないし、と在庫を確認しながらぼやく。
確かにこの世界では狙撃特化ビルド的なモノは確認できなかったな、とオーリは思った。
弓を使うとすれば短弓を使っての機動型後衛。 これはシルフに多く見られる構成だった。
後は威力を突き詰めたバリスタのようなものを使う固定砲台。 これは言わずもがなでシノンのニーズとは合っていない。
「まぁ、練習用や予備も必要だからその標準的なのはいくつか売ってくれ。で、作ろうとすると素材は何が必要になってくるんだ?」
「相変わらず話が早いわね。ついでに不足分も取ってきてくれればいいんだけど」
「おめー俺をSAO時代の便利屋のままだと勘違いしてないか?」
「いいじゃない『よろず屋』でしょー」
材料のリストを渡され、それに目を通しながら愚痴る。
ただ結局はシノンの訓練にもなるのでそれ以上は言わない。
準備をしてくる、とオーリが店を出ればシノンとリズだけになった。
「『よろず屋』って?」
「『蒼の流星』ってのが、あいつのSAO時代で一番通りの良い二つ名なんだけど、他にも色々呼ばれてたのよ。その中であたし達職人や商人の間で呼ばれてたのがそれ。
由来としてはプレイヤーが出す細々としたクエストを一手に引き受けてたって理由だけど、もう一つ理由があるの」
「もう一つの理由?」
「扱う武器を選ばない、
職人からのクエストは報酬がその職人が作った武器である場合がある。
武器の質はピンキリではあるものの、産廃というのは意外と少ない。
ただ、職人によって得意とする作成武器が違うので色んな武器が彼の下へ集まった。
「後はちゃんと使用感も報告してくれるのよね。
それでインスピレーションを得て一廉の職人になった奴も居るし」
「ふーん……色々やってたのね。
ちなみに旦那の一番得意としてた武器って聞いてる?」
「それは聞いてないけど、よく使ってたのは槍のはずよ。
あいつが手に入れたものの中で『鎧の魔槍』ってのがあってね」
何でもその槍は固有のソードスキルを持ち、音声入力で槍と鎧に分離、鎧の装着と解除ができるとの事。ちなみに鎧自体にも隠し武器がいくつかあり、オーリのスタイルによく合っていたようだ。
「ALOであるかわからないけど、有ったら多分古代武具級の性能。
ただ、オーリが使ったら下手な伝説武器渡すより戦果を上げるでしょうね」
「リズは作れないの?」
「あー無理無理。プレイヤー用の鍛冶フォーマットであれだけのギミックは仕込めないわね」
「ちなみにどれくらいのなら作れるの?」
「槍で言うなら……最上級一歩手前くらい? 剣なら最上級も作れるんだけどねぇ」
「当然素材も料金もそれなり、ね……」
リズとの鍛冶話は、シノンにとってもそれなりに興味深い代物である。
知らなかった物を知るというのは素直な感動がある、という事を彼女は愛する人に教えられた。
ただ、自分の一番の適性は射撃である事を知っているし、鍛冶職に惹かれるわけでもない。
要は知識として知っていればいいのだと結論付けてはいるが、それはこの時間を大事にしない事にはならない。
「にしても、あいつ遅いわね。 準備って言ってもそんな時間かかるかしら?」
「そんなことはないはずだけど」
ピクリ、とシノンの猫耳が動いたかと思えば瞬間、彼女は種族の俊敏性をフルに活用して店から飛び出した。
それを見たリズは一言だけ、確信をもって口にする。
「修羅場か……」
一瞬だけ見えたシノンの顔が、まだ見ぬ相手への敵意で歪んでいたのだから。
◇
その頃、準備の為に出ていたオーリは一人でリズの店への道を歩いていた。少し準備に手間取ったが、店自体はすぐそこなので問題ないだろうと思いながら。
「やっと……やっと見つけた!」
そんな声に反応してそちらを見れば、どこかで見たような面影を持つ音楽妖精族・ブーカの女性が走ってきている。
脳裏に引っかかる記憶を引き上げようとする数瞬で、女性は目の前まで来ていた。
「わ、わたしの事、覚えていますか?」
「えぇー……」
引っかかるものはある。 しかもごく最近の記憶。
何処だ、と思考を巡らせて浮かんだのは愛する人の顔。
とりあえず、このフラグを立てたであろうリズベットにありったけの素材を叩き付けて弓も自分の武器も揃えさせてやる、と結論付けた。八つ当たり過ぎる。
「ユナさんか。お久しぶりです」
ユナ――…かつてSAOで死を迎える定めだった女性。
彼女はその定めから救われた。 一人の英雄の手によって。
まるで映画の様に。 まるで漫画の様に。 ゲームの中でそれは成された。故に彼女はその英雄へと恋慕の情を抱いた。 ヒーローに救われたヒロインの様に。
これが定まった展開ならば、二人は結ばれてハッピーエンド――…とはならない。ゲームであっても遊びではない。現実として、彼は彼女の思いに応える事は無かった。
「はい、お久しぶりです。あの……」
「俺の答えは、変わりませんよ」
問おうとした言葉の答えを先に返されて、彼女の呼吸が一瞬止まる。
彼の態度は変わらない。 あの時と一切何も。
真剣に誠意を持って自分を見ているのに、そこには愛が無い。
それで理解する。彼は自分に愛を向けない。
「どうして、ですか?」
だから、問わずにはいられなかった。
現実に戻ってから半年、彼にもう一度会うという思いでここまでやってきた。その思いを否定されたくないと、睨み付けるように。
「俺にはもう、一生をかけると決めた相手が居るんです。普通の事ですよ」
視線を受け止めて尚、オーリはユナから視線を外す事は無い。
至極真っ当な答えだった。 問答無用で納得しなければならないほどの決意に溢れた言葉。その決意に圧されて、ユナは言葉が紡げなかった。
「何をしているの? オーリ」
そんな中で声をかけてきたのはシノン。
彼女は努めてユナを無視して、オーリだけを見ている。
「あぁ、シノンか。ごめん、遅くなった」
「ほんとよ」
二人の他愛のないやり取りを見て、ユナは悟ってしまった。
彼が自分に向けない
「あ、あの……」
「――…何か?」
声を掛ければ、真っ先にシノンが返答する。
平坦な声音は何かを抑え込んでいるような、そんな危うさを孕んでいた。
それに気づいているオーリはシノンの肩に手を置き、その身を自分の方へと寄せる。
シノンが飛びかからないようにするのと同時に、彼女を守るという意思表示。
「オーリ、この人は誰?」
「SAO時代の知り合い」
「ユ、ユナです。オーリ君に昔助けられて、その」
「そう。それで、
ユナの眼が最大まで開かれ、シノンはそれを冷淡に見ている。
オーリは状況を見守るだけ。先に断っているので、余程の事が無ければシノンに任せる事にしていた。
「お、夫……?」
「現実ではまだ婚約者だけど、ALOでは先日結婚したわ」
本当なのか、とユナはオーリへと視線を向けた。
「どっちも、俺から告白しました」
「結婚したプレイヤーに送られるアイテムもあるわ」
二人の左手薬指に填まっているのは確かに、結婚したプレイヤーだけが持つ特別なアクセサリ。
目の前にある確かな事実に、ユナは膝をついた。
そんな彼女を見て、シノンはゆっくりと歩み寄って、その耳元で囁く。
「――…別に好きでいる事を止めろとは言わないわ。
でもこれだけは覚えておいて」
私は、誰にも彼の一番を譲る気なんて、無いから。
ユナにだけ聞こえるように、シノンは敵意を剥き出しにして呟いた。
オーディナル・スケール消滅!(ぉぃ