流星の軌跡   作:Fiery

30 / 112
あついしぬ


そのにじゅうさん:終わりの弾丸

 

 

 本戦は直径十キロの島……第一回の会場でもあった《ISLラグナロク》で行われる。様々な環境が混在するそのフィールドに本戦出場者三十名がランダムに、最低でも一キロは離れて配置されるため、リョウゲツとキリトが共闘するつもりなら集合を優先するのが賢いだろうが、集合を優先すれば《死銃》の凶行を止められない可能性が高くなり、単独では油断できる相手ではない。少なくとも、予選を一位通過できる程度の力量を持っているのだから下手を撃てばこちらが狩られる可能性だってあるのだ。

 

「だからと言って、なぁ」

 

 開始直後に送られた山岳地帯で、リョウゲツは《FR-F2》を立てかけて岩陰に座っていた。凶行を止めるという目的がある以上動く事は確定しているため、どう動くかを現在シミュレートしているのだ。今居る山岳地帯は島の南側にあり、北東側が第一回本戦でリョウゲツの初期地点だった森林、北西が見晴らしのいい草原地帯。

 

「……」

 

 思考に耽るリョウゲツの感覚が何かを捉え、立てかけていた《FR-F2》を手に取る。そしてそのまま体を傾ければ、背もたれ代わりにしていた岩から甲高い音が響いた。撃たれたと思考する前に反射で《FR-F2》を構え、射撃方向を逆算して狙いを定めて一発。

 結果は確認せずにそのまま駆け出して別の岩場に隠れて撃った方向を伺えば、慌てた様子で隠れる頭がちらりと見えた。

 それを見送った後で《FR-F2》を仕舞って《M4カービン》を装備する。カウント3からカウントダウンを始め、ゼロになった瞬間に相手が逃げた方向へと疾走を開始。AGI極振りほど速くはないが、スキルの恩恵もあってか疾風のような速さで駆ければ相手をすぐに視界に捉える事が出来た。

 

「はえぇっ!?」

「極振りはもっとえぐいぞ」

 

 弾丸を数発頭部に叩き込んで、あっと言う間に《DEAD》の表示を相手に浮かべた。早速一人落としたリョウゲツが辺りを伺うが、銃声を聞きつけて誰かが近づいてくる様子はない。その事に安堵の息を漏らして、彼はとりあえず島の中心に位置する都市廃墟へと進路を向けた。《死銃》が誰を標的にしているにせよ、島の端から端まで歩くという事はしないだろう。島の中心で《サテライト・スキャン》を待って行動に移す方が効率的で、尚且つ都市廃墟には足になる乗り物が放置されている場合もある。それに自身もキリトと集合を目指すなら足が必要と言う話もある。

 

「そこでまず一発目のスキャンを待つ、か」

 

 不安材料としては《死銃》が使うあのハイディングだ。あれがどういう設定のものか不明の為、《サテライト・スキャン》を潜り抜けられる可能性がある。目に見えない程度ではリョウゲツの感知からは逃れられないが、スキャンを潜り抜けられると接敵する難易度が上がる。それは犠牲者を生み出す確率が上がる事を意味する。

 一呼吸で心を静め、《M4カービン》を仕舞い、キリトに見せた《カスタムイーグル》を二挺手にして走り出す。最初のスキャンまであと十分ほどなので、出来るだけ都市廃墟に近づく必要がある。その際に遭遇したプレイヤーは倒すつもりではあるが、その初手が《死銃》であればその場で仕留める為に挑む。

 

「さて、それじゃあ行くか」

 

 足に力を籠め、都市廃墟を目指して走りだす。真っ直ぐ進むその姿は、フィールドを切り裂く流星のようだった。

 

 

 

 

 

 

 世界は変わり、ALO。

 《世界樹》上にある空中都市《イグドラシル・シティ》の一画にある一室にて、アスナとシノン、それにシリカやリズベット、クラインにリーファにユイまで集まっていた。七人の前には大型スクリーンも兼ねる南向きの窓に映し出された第三回『BoB』本戦の様子が映し出されている。それからわかるように、この集まりの趣旨は第三回『BoB』本戦を観る事……もあるが、アスナとユイ以外に黙ってコンバートしたキリトの応援三割の糾弾五割と言った感じで、後の二割が一緒に参加してるオーリの応援である。

 ちなみにランとユウキはインディとコットンとしてGGOにて観戦中で、こちらは八割兄の応援で、二割がキリトである。

 

「お兄ちゃん、なかなか映らないねー」

「オーリさんは早速ちらっと映ってましたけど、すぐ移動しちゃいましたね」

 

 残念そうに言うリーファと、仲間が折角映ったのにすぐ画面が切り替わって不満そうなシリカ。

 

「にしてもオーリの奴、銃の扱いも上手いのか?」

「そこんとこどうなの? シノン」

「どうって……第一回は見てたのよね?」

「あー……オーリ君映ってたの、例のライトセーバー合戦だけだったから」

 

 クラインとリズの言葉に疑問を返したシノンに答えるのはアスナだった。なら仕方ないか、とシノンは息を一つ吐いて二人の疑問に答える為に口を開く。

 

「射撃の腕に関してだけ言うなら『普通に上手い』って感じね。射程距離内で動かない的なら百発百中、動く相手でも八割くらい」

「それが普通に上手いってどういう評価なのよ……」

「私の狙撃はどんな相手でも十割だもの。まぁそれは良いとして、射撃の腕はそうでも銃撃戦になれば、まぁGGOでも屈指でしょうね」

 

 指で銃の形を作ってスクリーンに狙いを定め、バァンと撃つ真似をする。この中でオーリの事を一番よく知っているであろうシノンの評価を聞いて、六人は感嘆の声を漏らす。

 

「後、キリトに関して言うなら弾斬りが出来るとはいえ、完全に不意打ちで撃たれれば反応できない可能性があるから警戒するのは当然でしょうね。近接に持ち込むなら慎重に索敵しながら遠くから撃たれにくいフィールドに行くのが定石ではあるけど」

「パパなら逆に剣でフイウチですよ!」

 

 ユイの自信たっぷりの言葉に全員がその光景を一瞬想像してシノン以外が笑い声を上げ、シノンは『旦那が似たような事出来るからあり得る』と額に手を当てて溜息を吐いた。《隠密》スキルがあるし、何ならスキルに頼らない隠密の心得もあるかもしれないため、出来ない事は無いだろうとシノンは推測する。

 

「にしても、いきなり大会に出るってのはどういう事なんだ?」

「あー、クラインは昼間居なかったっけ。何でも調査らしいわよ。《ザ・シード》系列のVRMMOに関する色んな噂の検証だって」

「噂ってーと……どういうのだ?」

「GGOなら『トッププレイヤーだけを狙うゴースト』や『荒野フィールドに居るピンク色の悪魔』とか、ALOならそれこそ『牢屋に幽閉されてログアウトできないプレイヤー』とかそんな類の物だけど、まぁ中には真実も混じってる場合がある。そういう問題を虱潰しに検証する為って話らしいわね」

 

 リズの言葉にへぇー、とクラインが漏らす。普通なら気にもしない噂に敏感にならざる得ない程に神経質になっているという証左に、彼も思い当たる節はある。VRプレイヤーが起こす事件が報道されて、結局肩身が狭くなるのは他のVRプレイヤーだ。クラインも会社では特にそういう事は無かったが、それでも街に出れば色々と悪い噂も耳に入ってくる。

 

「噂が『ただのデマでした』か『解決しました』って言えれば良いって事か。で調べる噂の中にこの大会に出る必要がある物があるって事だな」

「そうみたい。オーリ君がそう言ってたから多分間違いじゃないと思うんだけど……」

「それならオーリに任せりゃ……ってキリトが引き受けたんならあいつ自身が動かなきゃならんのは当然か。なら何でオーリの奴も出てんだ?」

「キリトが旦那に協力を依頼してきたみたいで、それに大会に出るなら彼と戦う機会もあるでしょう?」

「あぁ、普段のデュエルの延長線上みたいな扱いなんだね……」

 

 リーファの言葉にシノンは頷きを返した。彼女は事情を全て言うつもりは無いので、特に差し障りの無いものだけを言っている。それだけで勘違いしてくれるというなら、その勘違いをシノンは正さない。

 

「シノンさん、キリトさんとオーリさんはこれからどんな風に動くと思います?」

「中々難しい事聞くわね……まず、予測しやすい旦那の方からだけど、最後の映像からして都市廃墟に向かうんでしょうね。あそこには確か車両が何種類かあったはずだから、それで移動手段を確保する。そこから索敵しつつ島を回るってところね」

「GGOにある車両って結構簡単に運転できるんですか?」

「あー、GGOで再現されてるのは一昔前のマニュアルタイプの車両がほとんどで、結構練習しないと難しいわよ。現実で乗り慣れてれば別でしょうけど」

 

 オーリは教材での習熟もそうだが、GGOでも運転回数は多いので実装されている大半の車両は乗れるのだとシノンは語る。その多芸さに六人はまた感嘆の声を漏らした。

 

「それで、お兄ちゃんの方はどうかな?」

「うーん……旦那との合流を目指すか、目指さないかで変わるとは思う。目指すならどこかで一度目の《サテライト・スキャン》を迎えてから動くと思うし、目指さないなら初期地点如何によって動き方が変わるから何とも言えないわ」

「映ってないから情報も無いし、流石にシノのんでも想定できないよね」

 

 わたしでも無理、とアスナは言う。わかるのはキリトなら隙あらば相手を不意打ちであろうと倒すだろう事。そして、倒さないのならそれ以上に優先する目的がある時だという事。

 

「まぁ言ってる間に始まって十五分経ったから、最初のスキャンが入るわ。ここから状況は動いてくるでしょう」

 

 シノンの言葉で、全員の視線がスクリーンに向けられる。そこには、各地で銃撃戦が開始された光景が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 インディとコットンは拠点の中で隣り合って座り、十六に分割されたスクリーンに映し出される本戦の光景を見ていた。コットンは固唾を飲んで、インディは知らずの内に胸の前で祈るように手を組んで彼女達の兄と友人が出場する試合を見守っている。

 本戦開始から三十分が経過して、二回のスキャンが入ったこれからは状況が大きく動き出す中盤戦。各プレイヤーが何を考えて動いているか読めてくる頃合いで、各々が標的を見定めて戦いが激化する。画面端に表示されている出場者一覧の中にある二人のステータスは未だに生存を示す【ALIVE】のままなので脱落はしていない。

 

「お姉ちゃん」

「どうしたの?」

「こうやって待ってるのって、しんどいね」

 

 妹のコットンが発した切なげな言葉は、姉であるインディの心境をそのまま映し出していた。少し前までは自分達が置いていく側で、だからこそ日々を一生懸命に生きてきた。未来を得て、新しく家族になってくれる人が出来て、置いていかれるかもしれない側に立った時、どうしようもなく怖かった。なまじ自分達がその状況にあったからこそ、不安と恐怖がより身近にあった。だからこそ、兄を失いたくないと一緒に行く事を希望したし、置いていかれる恐怖を自分達より知っているはずの義姉が自分達を説得してきた事には驚いた。

 

「ボクは多分、お兄ちゃんと会った頃よりも強くなってると思う。キリトさんとは違って銃も使えるし、剣の腕だって負けてないはずなんだ」

 

 強くなれば……兄に頼られても問題ないくらい強くなれば、兄は自分がこの大会に出る事を、死の危険があると分かっているこの事件に関わる事を許してくれたはずだと、コットン(紺野木綿季)は本気でそう思っている。

 それでも兄は、自分を連れて行ってはくれなかった。今回の事に関わらせてはくれなかった。おそらくは叔父と言った警察の人からの依頼が無ければ、自分達姉妹にはずっと黙っていただろう。

 

「それは違うよ。木綿季」

 

 妹の独白を聞いていた姉は、彼女の名前を呼んで首を横に振った。

 

「お姉ちゃん?」

「兄さんはそんな損得勘定だけで決めてないよ。それに、木綿季の事も分かってると思う」

 

 兄はほぼ毎日、必ずどこかで時間を取って自分達と話をしてくれる。学校でも、電話でも、それこそ仮想世界でも、何かしらのコミュニケーションを取ってくれる。そんな兄が、妹の成長に気付かないはずがない。

 

「だったら、何で?」

「わたし達はまだ、兄さん達と出会って半年と少ししか経ってない。それでもわたし達は家族になれたけど、それ以上に認められるには単純に時間が足りなかった」

 

 姉が考えた結論はある意味当然の帰結であり、最もどうしようもない事実。

 それ故に兄は自分達を守るべき妹としてしか見ていないだろう。自分達が兄に憧れを抱いているのと同様に。まだ自分達は兄を十分に理解などしていないし、逆もまた然り。

 

「だから、これからもっと知ってもらおう。わたし達の事。これからもっと教えてもらおう。兄さんの事」

 

 その為に今は、信じて待とう。目に涙を溜めてそう言う姉に、妹は同じように涙を溜めて頷いた。そんな時に、二人揃って言い知れぬ不吉な何かを感じてスクリーンを見る。インディは急いでその不吉な何かを感じたウィンドウを拡大すれば、そこには荒野に倒れている青い服を着たプレイヤー……《ペイルライダー》の姿があり、ステータスを確認すればまだ死んでいない。だから不吉な何かは《ペイルライダー》から感じたモノではない。それは姿が見えないだけで、この画面のどこかに居ると、二人の第六感が告げていた。

 

「……死神」

 

 次の瞬間に、突如として画面内に現れたプレイヤーを見て、インディは感じたモノの正体にたどり着く。それは治療を受ける前まで感じていた……自分のすぐ傍にいたモノ、『死』だ。

 ただ、自分が感じていたモノは悪意など無い、自然の摂理としての『死』だったのに対して、現れたプレイヤー……ボロボロにほつれたダークグレーのマントに、内部を完全に闇で隠すフード。その闇の奥で赤く揺らめく、鬼火のような二つの眼。そんな『死神』から感じるそれは、感じた事のある『死』よりもいっそう禍々しく、邪悪だと感じた。

 

「この、プレイヤーが」

「……《死銃(デス・ガン)》」

 

 二人の視線の先で、《死銃》は動けない《ペイルライダー》にその手に持った拳銃の銃口を向ける。持っている銃は何の変哲もないコモンの銃で、確か《トカレフ TT-33》だったはずだとインディは記憶している。威力は拳銃の中でも標準で、特筆すべき点は無いそれを何故《死銃》が構えているのか、その理由にインディは即座に思い至る。

 

「それで撃つ事が条件……? いや、違う」

 

 ()()()()()()()()。そう直感が囁き、画面を見続ければ《死銃》は自分達に馴染みのある動作を行った。銃を持たない方の手の人差し指と中指の先で額・胸・左肩・右肩へと素早く触れる。その動作は、自分達が実の母から教えられた『お祈り』の動作であり、ゲームの中でもヒーラーのロールプレイをしているプレイヤーがやっているのを見た事がある。込められた祈りの違いは有れど動作としてはあり触れた物ではあるが、《死銃》のそれは多分ロクでもない物が込められていると、インディは思った。

 

「……来る」

 

 唐突なコットンの声に、インディは疑問符を浮かべて妹に視線を移す。彼女の表情は笑顔であり、その表情でインディは言葉の意味を悟った。

 拡大した画面から、新しい音が響く。響く轟音は以前インディも操った事のある車両のエキゾーストノート。その音に一瞬だけ《死銃》の意識が目の前のプレイヤーから逸れて、それが致命的な隙となった。《死銃》の手から《トカレフ TT-33》が弾き飛ばされるのと同時に、画面にそれを行ったプレイヤーが映し出される。

 

「兄さん! キリトさん!」

 

 映し出されたのは二人乗りのバイクを駆るキリトと、その後ろで《FR-F2》のスコープを覗くリョウゲツだった。

 

 

 

 

 

 

 オーリ……こっちじゃリョウゲツだった、とは最初の《サテライト・スキャン》直後に島の中心エリアで合流出来たから、近くにあったバイクを拝借して二人乗りで付近を哨戒した。あいつは持っていたスナイパーライフルのスコープを覗いて周りを見て、俺が運転。リョウゲツはGGOでも斥候職……ここじゃ〈アサルト〉っていうらしい、なので索敵はお手の物だ。

 しかし、《サテライト・スキャン》にも映らなかった《死銃》を見つけるのは簡単じゃなく、二回目のスキャンでも奴の名前は出なかった。

 

「やっぱあの姿を消しているカラクリが関係してるんだろうな」

「ハイディングって言うよりステルスか……」

「ぶっちゃけレア銃よりえげつねぇ性能してるわ実際」

 

 スキャン結果を知らせる端末を見ながら、物陰にて一息つく。今俺達に近い位置に居るプレイヤーはこいつが言っていた《ダイン》と《ペイルライダー》で、相性的には《ダイン》が不利だろうという話だ。

 

「あ、ダイン死んだ」

 

 伏せた状態でスコープを覗き、戦闘を見守っていたリョウゲツが呟く。俺も少しだけ物陰から顔を出し、貰った双眼鏡で見れば確かに【DEAD】と表示された大柄な体躯のプレイヤーとその横に立つ青い服のプレイヤーが居た。そして、その立っていた青い服のプレイヤーが突如としてぱたり、と倒れ込んだ。何だ、と思えば「電磁スタン弾だ。ALOで言えば麻痺させるデバフだな」と解説が入る。

 

「そんな事よりキリト、バイク準備しろ。()()()

「了解だ」

 

 リョウゲツの言葉に疑いを持つ事無く、俺はバイクに跨りエンジンをかける。《ダイン》や《ペイルライダー》が居る場所までは約一kmだが、この世界なら問題無いと言える距離。バイクを走らせると同時、リョウゲツが後ろに飛び乗るのを確認してアクセルを全開にする。現実でも規制間近のガソリンエンジンのバイクに乗っている俺としては、このバイクは実にしっくりくる。何より、全開で飛ばしても誰も非難するような目で見ないというのが良かった。

 

「出た」

 

 スナイパーライフルを構え、スコープを覗いているリョウゲツが短い言葉で言うのは《死銃》の出現。肉眼ではまだ見えない距離だが、確かにそこに嫌なものを感じる。

 

「とりあえず何かしようとしたら撃つ」

「行けるのか? まだ距離はあるぞ」

「射程内なら当ててやるよ」

「頼もしすぎるな!」

 

 はっ、とお互いに笑って俺は前を見てギアを上げ、エンジン音と排気音を響かせて加速していく。直後にリョウゲツがスナイプして、《死銃》を撃った。ここなら肉眼で状況が分かる。持ってた銃を撃ち抜くとかマジかよ……

 

「ウタなら倍の距離で余裕だぞ」

「こっちでお前の嫁さんとは絶対戦わない」

 

 近づくまでに蜂の巣になる光景……いや、この場合だとヘッドショット一撃か、を想像して苦笑い。ALOでも似たような事に何度かなってるけど、弓でそれなら銃だともうお手上げじゃないか。その想像を頭の中から追い払って少し体勢を崩した《死銃》を見る。

 

「そのまま突っ込め!」

「おうよ!」

 

 今度はフルオートの銃に持ち替えて《死銃》の動きを制限しながら叫ぶ相方の言葉のまま、更にスピードを上げる。奴は仕方なく迎撃を選んだのか、一本の剣を取り出した。形状は細剣……いや、突く事に特化した突剣だ。『あの時』に戦った突剣使いの事は覚えている。雑多に蹴散らした一人としてだが……そうだ、奴も『赤い眼』だ。

 思い出した時には既にバイクは奴への直撃コースだった。奴は俺達に向かってその剣を突きさすように構えを取る。それと同時、俺はウィリーの要領で前輪を跳ね上げてバイクから飛び降りる。リョウゲツは言わなくても前輪を跳ね上げた時点で察したのか、俺に聞こえるように舌打ちして上に飛んだ。その手には例の二挺拳銃を持っている。

 発砲音は一つ。《死銃》にバイクの前輪が命中した直後に、あいつがそのエンジンを撃ち抜いて爆発を起こす。あ、《ペイルライダー》が巻き込まれて吹っ飛んだ後に頭上に【DEAD】の表示が出た。苦情はリョウゲツか《死銃》にお願いします。

 

「……倒したか?」

「無傷じゃないだろうが、倒せてないと思うぞ」

 

 直後、燃え盛る炎の中からゆらりと黒い影が揺らめく。ダークグレーのマントは燃え落ちてなくなり、その顔の全面を覆う赤い眼のゴーグルが露わになり、両腕の前腕に巻かれたボロボロの包帯。全身を包む黒い戦闘用の、某スパイゲームのような服。その手には突剣を持った《死銃》の姿がそこにはあった。

 

「コケに、しやがって」

 

 恨みの籠った呟きと共に、奴は俺に向かって突っ込んでくる。あぁ、その突きは見た事がある。だから回避してその手首を掴み、もう片方の手に握った光剣を起動。奴の腕を根元から断ち切れば、奴は急いでその場から飛び退いた。

 

「どうした、《赤目のザザ》。お前の恨みはそんなもんなのか?」

 

 あえての挑発。奴のSAO時代の名前を呼び、俺はもう一本の光剣を起動して『あの時』と同じように《二刀流》の構えを取る。それだけで、奴の変化は劇的だった。

 恨みや怒りと言ったような負の感情が奴の全身から噴き出したかのように、奴の纏っていた雰囲気が何か黒いものへと変わる。顔を覆うゴーグルのせいで表情はわからないけど、多分ヤバそうな笑い顔を浮かべてそうな、そんな感じだった。

 

「《黒の剣士》」

 

 かつての俺の二つ名を呼ぶ声が狂気に歪む。奴の口から出てくるのは、タガの外れた笑い声だ。その笑いはたっぷりと一分程度は続いて、ぱったりと止まる。だらりと片腕が垂れ下がり、俯いた奴から読み取ったイメージは――…獣が獲物に襲い掛かる直前に伏せるもの。

 

「死ねェッ!!」

 

 直後、飛びかかってくる《死銃》……いや、かつてSAOでレッド(殺人者)だったプレイヤー『ザザ(XaXa)』は、ストレージから抜き打ちで二本目の突剣を繰り出した。それを光剣で断ち切ろうと刃を合わせた瞬間に違和感を察知して、今度は俺が後ろへと跳んだ。

 

「何だあの剣?」

「宇宙船の装甲材を加工したんだろうな。対エネルギーコーティングで光剣を抜けてくるぞ」

 

 マジかよ、と呟けばマジだよ、と返ってくる。リョウゲツとの軽口はどんなにキツイ時でも俺の精神に余裕を作る為の物だ。二年以上――…三年経ったか? 培った習慣はこんな時であっても機能する。余裕を取り戻して思考を回す。あの突剣は光剣で斬れなかった。リョウゲツの話の通りなら鍔迫り合いは出来ない。パリィも出来ないとなれば少しやりづらいな。

 

「というかこのゲーム、実体剣あるのかよそっちが良かったわ」

「プレイヤーメイドなんだよなぁ……後普通に買えるのはナイフくらいだよ」

「お前ら、俺を、舐めてる、のか?」

「「いいえ?」」

 

 俺達の返答がお気に召さなかったのか、ザザがまた襲い掛かってくる。『キリト君とオーリ君が掛け合いしてるとナチュラルに敵を煽るよね』と以前アスナが言っていたが、俺はそんなつもりはない。こいつは知らない。

 俺達は左右に散ってザザの突撃を回避し、俺が剣を構えようとしたところで銃声が一つ響く。がくりと片膝を折った奴が目に入り、その向こうにはやはりというか銃を構えたリョウゲツが居た。

 

「何故、だ。《黒の剣士》は、いい。だが、何故、この男も、これほど、強い?」

「何故ってそりゃあ……」

「てめぇが弱いだけだろ《死銃(デス・ガン)》」

 

 俺の言葉を遮るように声を上げたリョウゲツが握っていた銃は例の大型拳銃ではなく、黒い銃だった。後でランが教えてくれたが、その銃は《トカレフ TT-33》と言って、《死銃》が《ペイルライダー》を撃とうとした時に握っていた物。リョウゲツがスナイパーライフルで破壊したと思ったが、まだ撃つだけの耐久は残していたらしい。あいつは上空に銃口を向けて連続で発砲し、弾が出なくなっても数回引鉄を引いた後でそれを《死銃》に向かって投げる。あいつの表情は何処か不満そうで、言葉よりも雄弁に『こんなものか』と《死銃》に告げているようだった。

 

「……やっぱり銃に特別な力があるわけじゃない。現にお前は撃たれても生きてるしな」

「何が、言いたい? リョウゲツ」

「別に何も……いや、一言だけあるな」

 

 今度はあいつ自身の大型拳銃を構えて、その銃口から伸びる予測線が《死銃》の額部分に固定される。奴はそれを前にして動かないまま、あいつの顔を見た。

 

「お前『達』のゲームは、これで終わりだ」

「何も、終わっていない。終わらせるのは――」

「《PoH》を()()()()()、俺の仕事だ」

 

 直後に響く銃声が、因縁の一つを撃ち貫いていった。

 

 

 

 




ボスがさっくりすぎるのは仕様です。
精神的に超安定している魔改造キリト相手だけでも辛いのに、それに比肩するオリ主が居てタッグ組んできたら余程のイカレじゃないと対戦自体が成立しないんだよなぁ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。