作者「ヒェッ……」
という事で初投稿です。
「リンク・スタート」
アミュスフィアを被ってお決まりの言葉を呟けば、一瞬の空白の後にわたしの意識は仮想世界へと導かれる。今日降り立ったのは妖精の世界であるアルヴヘイム・オンライン。最後にログアウトした、わたし達のギルド拠点にあるベッドの上で
「お姉ちゃん、今日はどうするの?」
先にダイブしていた妹がベッドの横に立っているのを見て、今日はどうしようかと考えながら体を起こす。ウィンドウからギルドの画面を呼び出してメンバーを確認すれば、今ダイブしている事を示すランプがついているのはわたし達二人だけ。その事に少しだけ寂しさを感じてウィンドウを閉じる。誰かが居れば誘ってどこかのダンジョンでも、と思っていたけれど。
「んー……まだ行った事の無い方に行ってみようか」
「行った事の無い方って言うと、スプリガン領の方?」
「うん、正確にはノーム領とスプリガン領の境目あたりかな」
今日は兄さんと義姉さんはGGOで別行動をしているので、珍しく二人だけの冒険になりそうだと思いながらマップを開く。
「あれ?」
開いたマップには見慣れない印が付いていて、見知った顔がデフォルメされたようなイラストが横にある。そのイラストから吹き出しが出ていて『おすすめ!』と書かれていた。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「んー、ユウキはこれどう思う?」
わたしはマップをユウキに見せて、印とイラストを指さした。それらを見た妹の顔が疑問符を浮かべ、不思議そうな顔をして、イラストをじーっと見て、口を開いた。
「……ストレアさん、だよね」
「よかった、わたしの見間違いじゃなくて」
「でも何でわざわざマップにこんなの書きこんでるんだろ?」
「それは趣味だよー」
「そっか、趣味ならしょうがないよねって出たァァァァッ!?」
背後から声を掛けられて、妹が盛大に飛び上がってビターン! と向こうの壁に背を付けた。わたしも驚いたけど、まだベッドに座っている状態だったから動けなかったし、何となくそういう悪戯をしてきそうな相手には心当たりがあった。
「いやー、ユウキは良いリアクションしてくれるよねー」
楽しそうに笑いながら言うのは、《ナビゲーション・ピクシー》と言う十センチ程度の小さな妖精の姿をした見知った顔――…兄さんの
「ビックリさせないでって言ってるよねボク!」
「ごめんごめん。マスター達は驚いてくれないからつい」
「それで、ストレアさん? このマップの印はどういう意味なんですか?」
「あぁ、うんそれね。アタシって基本的にマスター達がダイブしてないと暇だから色々やってるんだけど、この姿であちこち飛び回っても居るんだ。で、その時見つけたダンジョンがそれで、何と未発見の奴なの!」
「未発見ダンジョン!」
ストレアさんの言葉にユウキが真っ先に食いついた。根っからの冒険好きであるユウキには未発見と言う単語はこの上なく魅力的だろうし、わたしもワクワクしている。『行きたい』という欲求が湧き出しているから、それを止める事は出来ない。
「じゃあ、今日はそこに挑戦してみようか」
「ストレアさんは中の事は知らないんだよね?」
「知らないよー。今はそこまでの権限も無いし」
彼女の姉であるというユイちゃんも似たようなものらしいけど、凄い情報を集めてくる事があるから油断ならない。以前兄さんとキリトさんがストレアさんを確保した時に発生したマップの構造をあっと言う間に把握して最短ルートを示していたのはユイちゃんだと聞いた。地下第八層までは兄さんが覚えていた最短ルートと同じだったみたいだけど、ほとんど情報の無かった地下第九層を最短で突破できたのはユイちゃんのおかげだと言っていた。それがあるから兄さんはストレアさんにそういう『ネタバレ』は緊急事態以外禁止している。
「後はメンバーだね」
「フレンドリスト見たら、シリカさんとリズさんが居るみたい」
「声かけてみて、無理なら二人で行こう」
「りょうかーい」
ユウキがメッセージを送った後、わたし達はアイテムや装備の確認をしていく。以前の冒険で使って足りなくなった消耗品を確認して、個人の倉庫から補充した後は装備の耐久値などを確認。わたしは基本的に後衛だからそこまで減らないけど、ユウキの方は武器の耐久値が危なそうなのがいくつかあるらしい。それを踏まえれば先にリズさんに会いに行ってもいいかな、と考えていた時にユウキに返信が来たようだ。
「二人ともオッケーだって。後シリカさんがもう一人いいかなって」
「じゃあリズさんのお店で集合で、そこで会いますって」
「はいはーい」
◇
ALOに新しく実装された都市《イグドラシル・シティ》
巨大な《世界樹》上にある空中都市が実装されてから、大半のプレイヤーは拠点をこちらに移している。キリトさんとアスナさんは共同で拠点を借りているし、鍛冶師のリズさんや商人をしているエギルさんもこっちで店を開いた。相対的に央都や各種族領の首都はプレイヤーの人数が減ってはいるけど、空中都市と央都を繋ぐポータルはあるし、各種族領の首都へは文字通り飛んでいける。そんなわけで正直不便さという物はなく、兄さんと義姉さんは相変わらず央都に拠点を置いてこの世界を楽しんでいる。
そんな空中都市の慣れた道を歩いて行けば、目的地である《リズベット武具店》にたどり着き、『CLOSE』の札が掛けられた扉を開く。
「「こんにちはー」」
「お、来た来た。シリカー、二人とも来たわよー」
カウンターの奥で座っていたリズさんが店の奥へと声を掛ければ、シリカさんが奥から現れる。相棒のピナも一緒だ。
「ランちゃん! ユウキちゃん!」
「シリカさん、今日は有難うございます。リズさんも急なのに」
「いいのよ、今日はどうしようかーなんて思ってたくらいなんだから」
「それでシリカさん、もう一人って?」
「ふっふっふ、もうすぐ来てくれるはずですけど、会えば二人も驚きますよ!」
興奮気味のシリカさんがここまで言う人はどんな人だろうか? シリカさんはちょっとミーハーと言うか、アイドルや芸能人などの有名人に結構熱中している。だったらALOの有名プレイヤーかなと思うけどちょっと想像がつかない。ゲームの中ではそう言うのをあまり気にしないって言うのもあるけど、プレイヤーの情報よりダンジョンや冒険スポットの情報の方が遥かに気になるからと言うのもある。
リズさんに視線を向ければ首を横に振った。どうやらリズさんも知らされていないらしいけど、待つなら都合が良いとリズさんにお願いして、ユウキの装備を少し見てもらう事にした。
「剣と槍とメイスねぇ……アンタ達の兄貴の趣味が出てるわ」
「あ、やっぱわかるもんなんだ」
「あいつが言うには『とりあえずこの三つ使っとけば大体いける』らしいからね」
「斬撃と刺突と殴打、ですね」
「そーそー。ま、これくらいならそっちの持ってきた鉱石で事足りるしすぐ終わるわ」
そう言ってリズさんは武器と鉱石を持って鍛冶場へと入って行った。耐久値回復の為の修理はそこまで時間がかからない。レプラコーンの魔法の中にも鉱石を触媒にして耐久値を回復させる魔法があるくらいだ。ただ、その魔法だとこういう風に鍛冶場で修理するより余計に鉱石を使う必要があるのだとか。
「にしても、ダンジョンなんてよく見つけましたね」
「わたし達が見つけたわけじゃないんですよね」
「アッタシだよー」
「ふぇっ!? あ、ストレアさんですか」
待っている間は手持無沙汰なので、雑談して時間を潰す。と言ってもシリカさんとは学校でもよく話すから、話題はもっぱらストレアさんの事になる。彼女は普段、兄さんがダイブしていない時は
「前から思ってたんですけど、教材ってVRので合ってますよね?」
「うん、そうだよ。大体は市販されてる奴だし」
「それってどれくらい効果がある物なんです? やったら皆オーリさんみたいになる感じですか?」
「兄さんと射撃に関しては義姉さんも比較対象にしてはいけません。わたし達から見てもあの二人はおかしいです」
「効果としてはやっぱりちゃんと理屈が通ってるから、それが分かるだけでもだいぶ違うよね。リーファさんが剣道やってて強いのと似たような感じ」
「シリカちゃんにオススメの見繕ってあげようか? 短剣で良さそうなの有るよ」
「そ、そこまでして強くならなくても良いかなぁ……」
ストレアさんの悪魔のささやきをシリカさんが苦笑いで断った。
確かに、わたしやユウキは兄さんに追いつくという目標もあるから教材をやっている所もあるので、そういうモチベーションが無ければVR教材をするのはちょっと辛いと思う。ゲームの様に派手なエフェクトなんかは無くてひたすらに難易度に合わせたAIと戦うだけだったり、型を反復したりと正直言って地味である。後は合う合わないもあるから、相手に必要な物を選べるセンスが無いと軽々しくオススメとかできないのも難点だ。その点、わたし達はおじ様や兄さんが選んでくれる物が悉く当たりなので、かなり恵まれているだろう。
そんな感じで盛り上がっていればリズさんが戻ってきて、修理ついでに強化までしてくれた武器を渡してくる。流石にそれは費用を払おうと思ったけど『これから冒険なんだから、前衛の装備は良い物にするのは当然でしょ』と言われ、受け取ってもらえなかった。
「ユウキ、このダンジョンアタックはちゃんとね!」
「今までちゃんとしてないみたいに言わないでよ!?」
「ちゃんとしてるのはわかってるけど、ここまでしてもらってダメでしたは格好悪いから」
「あはは、ちょっと強化した程度でそんなに畏まられても困っちゃうわね」
そのまま話をしていれば、店のドアがノックされた。シリカさんがドアを少し開けて確認してみれば、待ち人だったらしく少し興奮気味に話をしてからわたし達の方を見た。
「さぁ、特別ゲストですよ! どうぞー!」
「その紹介は逆に入りづらいかも……どうもー、よろしくお願いしますね」
入って来たのは、ファンタジーの吟遊詩人のような服を着た白い髪のブーカの女性。その容姿と名前はわたしと妹……もっと言えば兄さんと義姉さんもちょっと忘れられそうにない、今流行りの有名人。
「「ユナさんかぁ……」」
「あー……この人ならシリカのテンションの高い理由に説明がつくわね」
「あれっ!? 皆さん反応薄いですよ!? あのユナさんですよユナさん!」
「逆に新鮮なリアクションですけど、わたしだって傷つきますよ?」
楽しそうと言う意味でもそうだけど、何か色々と濃いダンジョンアタックになりそうな予感がひしひしとしてきました……
「ラン、どうしたの? お菓子食べる?」
「あ、有難うございます……ってこれ、わたしの虎の子の世界樹チョコじゃないですか!?」
ストレアさんが出してきたのはわたしがストレージに入れていた秘蔵のチョコレートだった。後でこっそり食べようと思ってストレージに入れてたのにー!?
◇
とりあえずストレアさんを簀巻きにした後にわたしの服のフードに入れて、三人をわたしとユウキが先導して飛んでいく。目的のダンジョンは場所としては、中央と各種族の領地を隔てる山脈部分にあり、しかもノーム領側の氷雪地帯と被った所。つまり高くて寒い所にそれはある。
「《ホットドリンク》買い込んでて良かった……」
一応、冷気耐性のある装備が必要であるという事は伝えていて、皆さんそれは装備してくれてたけど予想以上に入口がある所が寒い。万が一の為と《防寒》のバフを付与する《ホットドリンク》を余裕を持って買っていて助かった。ほぅ、と息を吐けば白くなり、辺り一面誰の足跡もない新雪で覆われた山の頂上から見下ろす景色は、晴れていれば絶景だったろうが生憎、今は曇っている。
「うーん、こういう景色はゲームならではですね」
「現実でこういう景色を見るなんて、あたし達無理ですもんね……」
「この景色も簡単に見れるってわけじゃないけどね」
その新雪にざくざくと音を立てながら足跡を付けていく。詳細な場所は明記されていないマップなのでストレアさんを解放して案内を頼んで、とりあえずこれでチョコの恨みは水に流そうと思いつつ、六人と一匹で話しながら入口を目指す。ユナさんにはストレアさんの事については口外しないように頼んだ。一応レアな情報なのでと念押しすれば彼女も『もちろん』と頷いてくれた。元々冒険はあまりしないらしく、種族間のPvPにも興味の無いユナさんは情報にもあまり頓着しない。いい楽器の情報くらいは求めているけど、そんな事より歌をどうすればより多くの人に届けられるかを考えている。
「そういえばユナさんは何で、今日ついてこようと思ったんですか?」
「今日は一日オフなので、たまには普段しない事をしようと思ったんです。でも普段冒険せず弾き語りばかりであまり詳しくないし、エーくん……マネージャーは別件の仕事で居ないのでどうしようかな、と思ってたらシリカちゃんとばったり」
「それで、タイミングよくユウキちゃんからメッセージがあったんで誘いました!」
「なるほどなー。じゃあユナさん重点的に守った方が良いのかな?」
「ユウキがアタッカー、ランが魔法、シリカが遊撃と支援であたしが護衛って所?」
「そこにユナさんの《
「あー、町の外であまり歌ってないから今の仕様どうなってるんだろ……」
仕様? と聞けばユナさんが説明してくれた。《
「そのデメリットで瀕死になった時にオーリ君に助けられたんですよね」
何でも、ダンジョン内で遭難したプレイヤーを助けに行った時、ユナさんが同行した救助隊も遭難しかけたらしい。モンスターに囲まれた時、ユナさんは彼らからモンスターを引き離すために《
その話を聞いた時、惚れられたのって兄さんの自業自得だとわたしは思った。そんなヒーローみたいな事したら相手に悪感情を持って無い限り、女性ならころっと行きそうな気がする。ユウキを見れば同じ事を思ったのか、わたしを見て頷いたのでわたしも頷きを返した。
「ほぇー……オーリさんもやりますねぇ」
「まぁその頃は自覚してなかったようだしセーフ……なのかしら?」
リズさんの疑問は多分セーフだと思う。兄さんが義姉さんに説明してるし、義姉さんも納得済みだ。ただ敵意はまだあるようで、前にわたし達四人にユナさんとマネージャーさんを加えた六人で冒険した時は『当たっても一発だけなら誤射かもしれない』と言ってて慌てて止めたのを思い出す。流石に敵の居ない方に向かって撃ったら誤射じゃないです義姉さん。それでなくても弓の命中率が対モンスターなら十割の義姉さんが外したなんて言っても説得力がありません。
「だから、命の対価としてはライブチケットとか安いんですけど受け取ってもらえないんですよね……」
「ユナさんのライブチケットですと……!?」
あ、兄さんに別方面からアプローチしようとしてる。シリカさんがユナさんのファンなのは知ってるだろうし、そういうお礼を受け取らないというのは人によっては失礼に見える。そしてシリカさんとわたし達に繋がりがあるという事は、兄さんとも繋がりがあるという事は簡単に思いつく。それにシリカさんとユナさんは例のパーティの時にリアルでも会ってもいるだろうから、良い手だなと思う。でも兄さん素直に受け取るかなぁ……受け取ってシリカさんに横流ししそうだなぁ……
「ライブチケットってそんなに手に入らないの?」
「夏休みにシリカ、九月のライブ抽選落ちたって凹んでた事あるのよ」
「九月のだと、応募が多くて倍率が五十倍だったかな?」
「ごじゅ……!? あの時のはそんな倍率だったんですか……」
聞こえてくる話にうわー、と思いながら歩き続ける。話に入っていけないストレアさんに色々と説明をしていたら『マスター、ユイのパパの事言えないじゃん』と漏らしていた。キリトさんも似たような経緯でリズさんやシリカさんに惚れられてるらしい。兄さんには義姉さんが、キリトさんにはアスナさんが居るけど、ユナさんもシリカさんもリズさんも今の所諦めるつもりはない様子だ。仲を認めてはいるけどそれとこれとは別で、隙あらばと狙っているのが分かる。アスナさんはその辺り寛容でみんな仲良くって感じですけど、義姉さんは独占欲が強いと公言している通り、結構容赦ない。わたしやユウキについては義妹で家族だからある程度許容している部分があるけど、それを超えようとすればしれっと釘くらい刺してきそうだ。
「着いたよー」
くるり、とストレアさんが振り向いてわたし達に告げる。思考をいったん止めて彼女の指さす先を見れば、雪が覆い隠している隙間から巨大な門が見えた。今居るこの場所から見なければそこにあるとわからない。飛んで山を越えれば雪しか見えず、また下から登ってもここに着くのは困難だろう。それに上から降りてくるにしても道が分からなければ見落としてしまう可能性も高い、中々いやらしい配置にそれはあった。
「「「「「おおおぉ……」」」」」
思わず声が漏れる。微かに暗いが、雪が光を通しているのかキラキラと光って門を照らしている光景は、現実ではまず見れないものだった。ある意味神々しいとも言うべき光景に既に満足しかけたが、ここからが本番だと気を引き締める。
「凄そうでしょ!」
「これは期待できそうです」
「これだけでも来る価値はあったけど、この先も期待できそうだね」
「この門だけでも凄そうってわかるからね」
「ファンタジー……まさにファンタジー……!」
「ユナさんすっごく感動してるし……」
隙間は人一人なら容易く通れる程度の幅なので、一列に並ぶ。順番は素早さの関係で先頭はシリカさん、ユウキ、わたし、ユナさん、最後にリズさんという並び。ストレアさんはわたしのフードが気に入ったのかそこに収まっている。隙間自体はそんなに奥行きも無く、大体五メートルほどだろうか。結構しっかりと凍っているようで、多少触っても崩れそうにはなかったのである程度は安心できる。
隙間の先は、雪と氷のドームに覆われていて結構広い……門がこれも高さが五メートルくらいで、幅も同じくらい。複雑な紋様……文字に見えない事もないものが大きく浮かび上がっているけど、禍々しいとか邪悪な感じはしない。そんな門が開いたとしても全然余裕があるくらいにこの空間は広い。
「わたし、ここで満足しそうなんですけど」
「わかるー……あたしもこれで満足しそう」
ユナさんとリズさんの言葉に思わず、わたしも同意しそうになった。ちょうど晴れ始めたのか雪と氷で光が乱反射してキラキラと光りだし、この空間が光で満たされる。真っ白な空に描かれた、次々と煌めいては消える星空。風が無いので言うほど寒さも感じず、門の所に座って皆で見上げれば仮想世界である事すら忘れて見入ってしまう光が織りなす絶景がそこにはあった。いつも常備している撮影用のアイテムでその光景を切り取り、個人領域に保存する。次に兄さんと義姉さんがALOに来たら自慢しようと心に決めて、わたしは立ち上がった。自慢する話は多いほどいい。
「はいはい! 皆さん目的を果たすのはここからですよ!」
パンパン、と手を叩いてわたしは声を出す。今日の目的はダンジョンに挑戦する事で、観光じゃない。とはいっても、まずこの門を開かない事にはどうしようもないのだけど。
「とりあえず押してみる?」
「一番パワーの有りそうなのって誰ですかね?」
「種族的にはリズさんですよね」
「そう言われると否定し辛いんだけど……」
「じゃあリズさんが門の真ん中で、残ったわたし達は左右に分かれるという事で」
とりあえず並んでやってみたけど、結果はお察しだった。門はびくともしないので力押しは諦めてギミックを探す事にする。開ける為のヒントや仕掛けが近くに無いかを探すけど、それらしいものは見当たらなかった。
「んー……あれ? これ、《
離れた所から門を見ていたユナさんが声を上げる。こっちこっちと手を振るので彼女が居る辺りから門を眺めれば、その紋様が詠唱の時に浮かび上がる文字に見えなくもない。
「えー……これなんて読むの?」
「リアル知識を試す系だったらあたしお手上げなんだけど」
「あたしもですよ……」
「ALOって世界観的には北欧神話だから、古ノルド語? 普通読めないよねぇ」
「……『汝、この門を開きたくばこれを唱えよ』『我は天より賜う事を望み、地に眠る誉を求める者なり』?」
わたしが呟けば門がゆっくりと開いていく。それを見ながら一時期ALOの世界観を調べた際、辞書片手に古ノルド語のスペルを解読した時を思い出した。あれのおかげで詠唱もスラスラと言えるようになったものだ。
そんな事を考えていたら、皆さんが私を見ている事に気付いた。その目は何と言うか、信じられない物を見た時のような感じで、わたしは疑問符を浮かべる。
「えーっと……何か?」
「何か? じゃないよお姉ちゃん! さらっと解読してボクびっくりしたんだけど!?」
「さらっとって言うか、詠唱の時に出る文字とかは勉強したし」
「ランちゃん、あれ読めるってどこで勉強したんです!?」
「図書館とかで本を借りました」
「もしかして、オーリの所で一番ヤバいのってランなのかしら……」
「いや、流石にあのクラスでヤバいという事は……方向性の問題ですかね」
「流石に、驚きましたね……これスクリーンショット取ってから、リアルで調べようと思ってたんですけど」
「リアルで調べるとどれくらいかかるんでしょうか……後日このメンバーで集まれる保障もないですし」
「ランって、アタシやユイみたいに検索できるわけじゃないから自前の知識でしょ?」
「え? まぁそりゃそうですけど、雑学みたいなものですし……」
「その雑学が役に立ったんだから誇っても良いんだって!」
ぺちぺちとストレアさんがわたしの肩を叩く。その仕草に何となく励まされている気がして、わたしは少しだけ笑った。別に自分を卑下したつもりはないけどそんな風に見えたのだとしたら申し訳ないと思うし、彼女のかけてくれた声に温かいものを感じたのは事実だから。
「じゃあ門も開いた事だし、ダンジョンアタック開始ー!」
「「「「「おー!」」」」」
ユウキの元気な声に皆で応えて、改めてわたし達の冒険が始まった。
後編に続くんじゃ