流星の軌跡   作:Fiery

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くっそ暑い日が続いていますが皆様いかがお過ごしでしょうか。
新しい日常だとか言われてますが作者は元気です。

カキタメナクナッチャッタ……


幕間はち:ランの大冒険(ALO日帰り:後編)

 門を潜れば、そこは山の中とは思えないほど整然とした通路だった。四方を石造りの床に壁、天井に囲まれたその通路は長く伸びて、先は暗くてよく見えない。光源らしきものはない為、わたしは光る玉を魔法で呼び出す。ふよふよと私の持つ杖の先に十センチ程度の光る玉が現れると、よりはっきりと通路の光景が浮かび上がってきた。

 

「光源を確保しても先が見えないね……」

「まぁ、一本道みたいですし、とりあえず行きましょう?」

 

 ユナさんの言葉にわたし達は頷いて歩き始める。ストレアさんを除いた五人が広がっても十分に広い通路なので特に陣形は決めずに歩いていく。とは言ってもユウキが前を歩いて、明かりを持っている私がその後に続き、リズさんとシリカさんはユナさんの護衛と言う形で進むため自然に決まった配置で歩いていると言っていい。

 そうやって歩いていけば、特に何の問題も無く通路の行き止まりに突き当たる。そして左右にそれぞれ登る階段と降る階段がある。門の方から見て右が登る階段で、左が降る階段だが、どうしよう……

 

「ちょうど、この入口があった所って山で言うとどれくらいの位置なんです?」

「えーっとね……標高の七割くらいの高さかな」

 

 わたしの質問に、フードの中にいたストレアさんが答えてくれる。だったら登る階段の先はそんなに階層は無いのかもしれない。昔のゲームで上の建物でボスを倒したら結局地下への階段があってそっちがよっぽど広く、ラスボスがそっちに居たなんて話もある。でも上がそんなに階層が無いのなら上を先に確認するというのも手だ。

 

「――…と思うんですけど、皆さんどちらが良いです? まずは上に行きたい方」

 

 手を上げたのはユナさん、ストレアさん。ちなみにわたしはこの多数決には入らない。提案している人間が多数決に入るのはよろしくないと思っているからだ。後は、わたしが入ったら偶数になって決められないというのもある。

 

「じゃあ、下に行く方ですか?」

「あー、ボクちょっと気になってる事があるんだけどいい?」

 

 ユウキが手を上げて、わたし達を見渡す。何だろうと疑問符を浮かべると、わたしに上と下の階段の間の壁を照らすように言ってきたので光る玉を壁に向けた。

 

「見間違いだったらいいんだけど、この壁の上の方にも文字書いてない?」

「えーと……あぁ、上の方にある模様がそうみたいだけど……」

 

 確かに、門に書いてたような文様が壁の上部にあったけど、ちょっと高い位置で読みにくい。それにダンジョン内部は飛行も出来ないからどうした物かと考えつつも文字と睨めっこをすれば、何とか途中からは読めた。

 

「『……の装いを望むは上』『……の証を求めるは下』……うーん、それより上はちょっと読めないですね」

「まぁここの壁、門より高いですからね……それに書かれた文字も門の物より小さいし」

「にしても、装いって事は何かの装備って事かしら?」

「それなら証って言うのは、アイテムの事……でしょうか」

「考えても仕方ないけどどっちに行っても何かあるって事なら、行かない方はまた挑戦できるって事だよね?」

「かなぁ……? とりあえず、それを含めてどうします?」

 

 わたしが他の五人に聞けば、全員が上に向かう階段を指さした。装いと言うからには装備が眠っているのではないかという計算だ。証が何なのかわからない以上、可能性が高い方を取るという事になった。

 

「先はどんな感じなのかしらね」

「入口の門でリアルの知識量を試す内容が来ましたし、ひょっとしてギミックとか多いんでしょうか?」

「うへぇ……それだとボク、明日知恵熱出そう」

「パズルとかならわたし、得意ですよー。現場の移動中とかでも出来ますし」

「ギミック解くならアタシが解いても大丈夫だよね?」

「ストレアさん、それは最後の手段ですから」

 

 階段を上りながら、周囲の警戒は怠らない。ダンジョンでは横合いからモンスターが殴りつけてくる事など日常茶飯事だ。その為に索敵が得意な種族だったり、高レベルの索敵スキルを持つプレイヤーなりが必要になる。今回のパーティメンバーで言えば、ストレアさんと言うジョーカーを除けば、ユウキが一番適しているという事になるだろうか。ユウキの種族であるインプは暗闇の中での活動に適した種族であり、光源の無い闇の中でもそれなりに目が利く。だからわたしが照らしている先もよく見えているらしい。

 

「あ、次の階層だけど……また扉だよ」

 

 ユウキのうんざりしたような声に、何が見えたのかわたしを始め他の皆も分かった様子だった。階段を上りきって照らし出された扉には案の定、三度目となる紋様が描かれていた。

 

「さぁラン! 今度も解読するのよ!」

「あはは……」

 

 リズさんの元気な振りにわたしはちょっと困って笑いながら、扉の文様を見る。知識と照らし合わせて確認して、わたしはもう一度苦笑いを浮かべてユウキを見た。

 

「……お姉ちゃん。まさかだよね?」

「『この先、汝の叡智を持って道を拓け。叡智の果て、我は汝を試さん』だって」

「ギミック系ダンジョン確定……ッ!!」

 

 ユウキが崩れ落ちると同時に扉が開く。門の言葉的には途中までは多分ギミックだろうけど、最後は多分ボス戦になるからそこでユウキには頑張ってもらおうと考え、わたしは扉の先の光景を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 この階層は予想通り、ギミックだらけの階層だった。乗ったら自動で動く床に一方通行の扉。パズルを解かないと開かない行き止まりの壁に、正しい道順で進まないと必ず階層の入口に戻されてしまう迷宮区画とその他諸々……正直、ストレアさんに最短ルートを聞くかどうか迷うくらいの量のギミックが詰め込まれた階層だった。たまにモンスター襲撃系のトラップがあったけど。

 

「これは動く床の分! これはパズルの分! そしてこれが……ヌルヌルの分だァッ!!」

 

 ギミックばかりでストレスの溜まっていたユウキが一蹴していた。その中にはたぶん中ボスみたいな感じでHPバーが複数あった敵も居たけど、それも一蹴していた。最終的には本邦初公開の剣と槍の二刀流まで披露して薙ぎ倒していたから、ストレス溜まってたんだなぁとわたしは笑った。ちなみにヌルヌルと言うのは滑る床の事だ。そこで盛大にコケたユウキは全身がヌルヌルになっていた。水系初級魔法の水流をダメージ覚悟で受けるくらい洗い流して欲しがり、最も威力の低いモノで洗い流した。

 モンスターハウスにも遭遇して、そこで初めてユナさんが《吟唱(エンチャント)》を使用した。それとブーカ特有の《歌》も組み合わせれば上級の支援魔法も凌ぐんじゃないかと言うくらいの効果があり、苦戦するかと思った大量のモンスター相手も苦にはならなかった。ただ、ユナさんの言っていたデメリットを、わたしは甘く見ていた。

 

「前衛のヘイトすら無視して、モンスター全部が突っ込んでくるとは思いませんよ……」

 

 ユウキやリズさんに向かって行ったはずのモンスターが、ユナさんが歌った途端に方向転換までして殺到したのだ。範囲魔法で雑にでも吹き飛ばさないとユナさんと隣に居たわたし、そして護衛についてくれていたシリカさんが物量に圧殺されていた。

 

「あはは……SAOだと皆前衛みたいなものでしたから、わたしを中心にして周りに壁を作って対処してレベリングをしてたんですよね」

「歌姫プレイ?」

「そのおかげで、歌う時は滅多な事で動揺しなくなりました」

「そりゃそうよね」

 

 モンスターハウスはモンスターを全部倒せば安全地帯になったので、そこで一旦休憩してHPとMPの全快を待つ。その間はユナさんの視点で見たSAOの内部の話を聞いていた。一般的にSAO事件の詳細はほとんど出回っていない。国がそう言うのを抑えているらしいけど、わたしやユウキの場合は兄さんが生還者で、兄さんの繋がりで会った人もほとんどが生還者なので断片的だがよく話は聞く。それでもユナさんの話は違った視点があって面白いとは思うし、他の生還者からの視点の話も色々知っている。

 

「そういえば、皆さんはどんなご関係なんですか?」

 

 そんな中で唐突なユナさんの質問に、わたし達は顔を見合わせる。言って良い物かどうか伺えば、リズさんやシリカさんは肯定的だった。別に問題ないだろうと考えているらしい。

 

「兄さん繋がりで知り合ったのが切欠ですね」

「オーリ君ですか……確かお二人はSAOを」

「プレイはしてません。今年の四月までわたしとユウキは入院生活をしていたので」

「病気……だったんですか?」

「うん、割と治療が難しい奴だったんだけど臨床試験の被験者になってそれが功を奏したみたいでさ。普通の生活が出来るようになって、今は月一の通院で経過観察中」

 

 ユウキの話にユナさんだけでなく他の三人も驚いていた。そう言えば病気の話とかは一切してない事に今気が付いた。兄さんもわたし達に配慮して、紹介の時に『ちょっと事情がある』程度の説明しかしてないし、ストレアさんに至ってはそんな説明すらしていない。

 案の定、シリカさんからは『何で言わなかったんですか』と言うような視線を感じ、ストレアさんはフードに収まってぺちぺちとわたしの頭を叩いてくる。そんなリアクションにわたしは苦笑しながらも、何となくだけど愛されてるなぁと感じてちょっと嬉しかった。

 

「今はオーリ君と一緒に暮らしてるんですか?」

「お兄ちゃんはシノンお義姉ちゃんと同棲中だよ。ボク達は十月一杯までお兄ちゃん達と一緒だったけど、今はお兄ちゃんの両親と一緒」

「わー……なるほどー……」

 

 同棲、と言う言葉にユナさんが顔を赤くする。わたし達も最初はそういうリアクションをしてたなと、少し懐かしい気持ちになってしまう。一緒に住んで一週間程度であの二人の出す桃色空気には慣れてしまった。一カ月で二人の世界を作っていても普通に声を掛けれるようになったし、何なら一緒に住んでいた半年でおじ様やおば様、義姉さんのお母さんを除けばあの二人のイチャつきに最も冷静に対処できるのはわたし達二人ではないだろうか、と変な自信まで付いた。

 

「そ、その、どうだったんですか?」

「どう、とは?」

「その、何と言うかその……ねぇ?」

 

 頬を赤く染めて、はっきりしないユナさんの言葉にわたしとユウキは疑問符を浮かべる。聞きたい内容の予想は付くが、ここはとぼけておいた方が良いだろう。そこまで赤裸々にプライベートの話をしたいわけでもないし、もうすぐ全快だという事で立ち上がる。

 

「さて、そろそろ準備をしましょう。結構進んだ気がしますし、この階層もそろそろ抜けれると良いんですけど」

「これでもかとギミックを詰め込んだダンジョンよねぇ。うちのノーキンどもだとキレて投げ出してそうなくらい」

「ボク、次の階層もギミックだらけだと叫ぶ自信しかないよ……」

「あはは、ユウキちゃんさっきのモンスターハウスはストレス解消の場だったもんね」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ~!」

 

 

 

 

 

 

 しばらくギミックダンジョンを攻略するのは遠慮したいと思うほどに、今日一日でどれだけ頭を振り絞っただろう。ユウキは早々にリタイアと言う名の素振りを始め、シリカさんとリズさんもしばらくして体を動かす系のギミックにしか参加しなくなった。ユナさんとストレアさん、わたしの三人で攻略していくがストレアさんは助言はしてくれるものの、ネタバレは禁止されているためもどかしそうにしているし、ユナさんはパズルなら得意だったが知識を試すような内容だと流石に辛い様子だった。そんな中でわたしがもう数えるのも億劫になったギミックを解いて、扉を開ける。

 

「ランちゃん凄いね……」

 

 ユナさんは感心しつつも、ギミックの数に辟易した様子だった。わたしの顔も似たような事になってる気はする。そんなしょっぱい感じになりつつ扉の先を見るとそれは待望の上への階段で、何と先には光が見える。

 

「き」

「き?」

 

 

「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」

 

 

「ランが壊れた」

「一番解いたのランちゃんですからね……」

 

 リズさんとシリカさんが何か言ってるけど聞こえません。とりあえずやっと次です。ギミックからやっと解放されるんです。これは喜ばしい事なんですよ!

 

「一番乗りだー!」

「きゃっほーい!」

「あ、ちょ、ユウキもストレアさんもズルい!」

「途端に元気になりましたね。かくいうわたしもですけど!」

「ユナさんまで!? リズさん行きましょう!」

「こらー! あたし達を置いて走るなー!?」

 

 ユウキを先頭に階段を駆け上がるわたし達。階段自体はほどほどに長いが、それも気にならないくらいに勢いよくわたし達は駆けあがる。そして階段を上り切り、光の先へと進んだ時にわたしは思わず息を飲んだ。

 

「綺麗……」

 

 それが誰の口から漏れた言葉なのかはわからない。わたしかもしれないし、他の誰かかもしれないけど、その言葉はわたし達の総意だった。

 青色……青空の色をした、向こう側が透けて見える宝石で埋め尽くされた高い天井。それを支えるのはそれ自体が白く、淡く発光している石柱に、壁も同じ材質なのだろうと分かる白い壁。床は天井のような空ではなく、海のように深い青の、こちらは先の見通せない宝石で出来たものだった。空と海の間に居るような、不思議な広間に出たわたし達の視線の先に、わたし達の身長は軽く超えるであろう白銀の台座があり、その上には何かが突き立っている。

 

「あれは……?」

「武器、かな……? 槍っぽいけど」

「杖じゃよ」

 

 ()()()()()()()()()()()()わたしの真後ろから声を掛けられて、全員が後ろを振り向く。しかし、何の姿も確認できず、全員が背中合わせで周囲を伺う。

 

「ここじゃここ」

 

 良く通る声が、今度は台座の方から響く。そちらに視線を送れば、その台座に一人の少女が腰かけていた。絹糸のような長い金髪で体には白のローブを着ている。顔立ちは幼さが残っているが、深いダークブルーの瞳に宿る老獪な光が見た目通りの年齢ではない事を示していた。

 その女性は楽しそうに……あるいは興味深そうにわたし達を眺め、口元をにやりと歪める。決まった応答しかしないNPCでは有り得ない動きに一瞬、プレイヤーなのかと言う思考が脳裏に走り、わたしはそれをそのままストレアさんに尋ねた。

 

「それはない。あれはNPCで間違いないけど……コアに近い部分のモジュールが働いてる」

「……すみません、どういう事です?」

「アタシやユイよりは自由度は低いけど、AIがあのNPCを動かしてる」

 

 ストレアさんの回答は『NO』であり、それは同時にこのNPCがこのダンジョンのキーパーソンである事を示していた。

 

「なるほど。複数の妖精が叡智の試練を潜り抜けたかと思えば、そこの水妖精のおかげか」

 

 彼女の言葉と共に、その視線がわたしへと固定されるのを感じる。何故分かったのかと言う疑問はない。システムが動かしているのだから『誰が解答を入力したか』などのデータは常に集めているはずで、それを参照すれば容易い事だ。ただそれでも、ここまで自然に話されると見ていたのかと思ってしまうくらいに違和感がない。

 

「闇と工匠と猫は論外。歌は見込み薄か……水妖精、名は?」

「……ラン、です」

 

 少しだけ名乗るかどうか迷ったが、素直に名乗る事にした。何かよくわからない流れに乗っている気がするけど、ここで名乗る事に対するデメリットはない。それにこれがこのダンジョンのシナリオであるならこの流れに乗らないという選択肢は無いだろう。

 その証拠に、NPCは満足そうに頷いてより楽しそうな表情を作った。

 

「妾の名は《ゲンドゥル》。かつては《戦乙女(ヴァルキュリア)》とも呼ばれていた」

「神話での有名所が出てきたわね……」

 

 リズさんの言葉通り、《戦乙女(ヴァルキュリア)》はALOの大元の世界観を構成している北欧神話でも有名な固有名詞だ。《ワルキューレ》とも呼ばれたりするけど、大体は神々の最終戦争に備えて戦場で死んだ戦士を神の館に運ぶ役割を背負っていたり、何なら人間の英雄と恋に落ちたりしている。その恋のほとんどは悲恋で終わるのだけど。

 そんな思考をしていれば、彼女……戦乙女のNPCであるゲンドゥルさんが台座に突き立てられていた杖……先端に直径十センチ程度の水晶が付き、その周りを覆うように銀と青の金属の花弁が付いたもの……を抜き、それを上に掲げる。

 

「ランよ」

「は、はい」

「この杖が何かわかるか?」

「……いえ、まったく」

 

 唐突な問いに素直に答えるとゲンドゥルさんはくつくつと笑い、嬉しそうに話し始める。彼女の手にしている杖は神より彼女が賜ったものであり、彼女の力が全て込められたものである事。そういう武器がこのALOの世界各地に隠されている事。

 

「そして、そうして隠されている武器の総称は《天賜兵装(てんしへいそう)》……妾達の力が込められたものという事で《天賜兵装(ヴァルキュリア)》とも呼ぶがな」

「下にある『証』というのは?」

「かつて妾がヴァルハラへと運んだ英雄殿の象徴の事よ。他の隠れた者にとっては、愛した相手でもあるがのぅ……名は《英雄武装(エインヘリヤル)》」

 

 彼女はそこまで語った後で、わたし達を一瞥する。

 

「歳を取ると長々と語ってしまう……さて、ランと他の妖精よ。『これ』が欲しいか?」

 

 問いかけと同時に、彼女の身体から金色の光が燃えさかる炎のような形で溢れ出す。キーパーソンじゃなくてボスだった……いえ、ボスもキーパーソンではあるんですけど!

 

「欲しければその『叡智』がただの『知識』ではなく、『力』でもある事を示すがいい!」

「全員戦闘準備! 口ぶりからして相手はおそらく――」

 

 わたしの言葉を引き継ぐように、彼女の掲げる杖の先端から巨大な炎の塊が生み出される。火属性中級魔法に似た魔法があるけど、それよりもはるかに大きい。そんな物を生み出せる彼女のボスとしてのスペックはすさまじいが、傾向は定まってくる。おそらく魔法に特化したタイプであるはずだが、ボスだから自信はない。

 

「ユウキ! シリカさん! リズさんは攻撃重点! ユナさんは《吟唱(エンチャント)》は無しで《歌》を! わたしは」

「妾と魔法を比べ合おうぞ! ラン!」

 

 今度はゲンドゥルさんの言葉が、わたしに行動を強制してくる。生み出された炎の塊の属性は見たままだろうけど、威力はおそらく並の中級魔法ではあっさり破られる。

 

「《我は放つ 全て凍てつく息吹を束ね 迫る災禍を打払う 白銀の閃光を》」

 

 故にわたしが選択したのは、わたしの種族である水妖精族(ウンディーネ)が最も得意とする水属性魔法の上級魔法をそれにぶつける方法だ。ちなみにALOにおいて、攻撃魔法に攻撃魔法をぶつけて相殺するという防御手段は確かに存在するが、基本的に相手の攻撃魔法は防御魔法を使用して防ぐ。それに対して攻性防御とも言えるこの方法はメリットとデメリットがある。

 メリットは魔法の競り合いに勝てばそのままカウンターとして相手に放った魔法で攻撃出来る事だ。これは相手が魔法を使った硬直等もあるのでほぼ当たる上に、当たる場合は無防備に近いのでダメージも大きい。そして完全に相手の魔法を相殺できればこちらはノーダメージで済むというのも大きい。

 対してデメリットは普通に防御魔法で防いだ方がMP的に安上がりだし、防げなかった時はメリットがそのまま自分達にデメリットとして襲い掛かってくる。

 それでもこの方法を選んだのは、直感的にあの魔法が手持ちの防御魔法で防げないと思ったからだ。わたしは魔法を使う後衛で一応、攻撃・防御・支援・回復と魔法は一通りを覚えており、各属性も揃えたバランス型。幅広く対応はできるけど一点突破力と言うのはどうしても低い。それを補うために攻撃魔法に重点を置き、種族に対応した水属性の魔法を伸ばした。何が言いたいかと言えば、わたしの手持ちであれに対抗できそうな魔法がこれしかなかったという事だ。

 

「《アブソリュート・レイ》!」

「《フレイム・ブラスト》!」

 

 彼女が放った巨大な炎の塊と、わたしが放つ集束した冷気の閃光が間の空間でぶつかり合う。視界の端ではユナさんがわたしから離れ、ユウキ達の方へと走っていき、ユウキ達もゲンドゥルさんへと攻撃を仕掛けるために接近していたからそれは良い。ただ、わたしにとって既に異常事態が発生していた。

 

(火に優位な水で、しかも相手は中級でこっちは上級なのに、押し切れない……!?)

 

 彼女が唱えた魔法の名前からして、火属性の中級魔法で間違いないはずだ。ダンジョンボスが相手であっても属性相性を利用して、唱えられた魔法より上位の魔法であれば押し切れる事は以前にも同じ事をして確認できている。それでも押し切れないという事はそれだけステータスに差があるという事なのか、もしくは。

 

「……その、杖の効果!?」

「然様じゃ。凡百の魔法の使い手であっても、この形態のこの杖を持てば英雄に比肩できる程度にはなれるからのぅ」

「それを貴女(ボス)が使うのは卑怯じゃないかな!」

 

 台座を駆け登ったユウキがゲンドゥルさんに接敵する。既に愛用の剣が抜かれており、そこにはソードスキル発動の証である光が宿っていた。それにあの構えはとっておきのオリジナルの物だ。

 

「《マザーズ――」

「《鎧化(アムド)》」

 

 最初の一撃目が叩き込まれる直前、ユウキの前からゲンドゥルさんが消えた。その際に意識が逸れたからか、それとも別の要因かわからないけど炎の威力が弱まったのでそのまま相殺にまで持っていく。冷気の閃光と炎の塊が互いを消滅させ合い、最後は弾けて烈風を辺りにまき散らす。ソードスキルを避けられたユウキは無理矢理に発動をキャンセルして、杖の無くなった台座の上で油断なく辺りを警戒していた。

 

「判断力も思い切りもよい。特に数多覚えているであろう魔法から、妾の放った魔法を打ち破る可能性が唯一ある物を選んだのは見事」

「!? ユウキちゃん! 上です!」

 

 ユナさんの声にわたし達は台座の更に上を見る。そこには、横に羽飾りの付いた兜を被り、銀と青の軽装の鎧を白のローブの上に身に着けて、背中から()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()ゲンドゥルさんの姿。手に持つ杖は水晶が剥き出しになっており、花弁らしき装飾が無くなっている。

 

「まさか、あの馬鹿が使ってた《鎧の魔槍》と同系統!?」

 

 その杖の変化から、リズさんはあの杖がどういうものかわかったらしい。

 

「どういう物なんです?」

「手短に説明すると、武器だけの状態は攻撃特化の性能をしてるけど、武器と防具に分かれると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()武器って事!」

「何じゃ、《天賜兵装(ヴァルキュリア)》に似た物を知っておるのか……驚かせようと思っとったが」

 

 シリカさんの疑問にリズさんが答えて、ゲンドゥルさんが残念そうに口を一文字に結ぶ。

 

「……その《天賜兵装(ヴァルキュリア)》は、皆同じような物なんですか?」

「まぁ妾達個別に合わせた物になっておるが、基本は同じよ。そこの工匠が言った通り、二つの形態を持っておる。それで――」

 

 杖が掲げられて、そこに凄い勢いで魔力が集束するようなエフェクトが発生する。

 

「こっちが《戦乙女》としての妾の本領よ」

「!? 《我らに魔に抗う力を与えよ》《レジスト・マジック》!」

「《吟唱(エンチャント)》! 《抵抗する者達の歌(レジスタンス)》!」

 

 ()()()()()()、とわたしとユナさんがありったけの魔法抵抗を上げる手段を投入する。ユウキ達の方はシリカさんがピナのブレスで抵抗を上げていた。それでも耐えられるかはわからない。詠唱は無いけど、エフェクトからしてあれはこの広間全部を覆う程度の範囲魔法だ!

 

「耐えろよ? まだ試しておらぬ事があるのだから」

 

 

 

 《プライマリィフレイム・プロミネンス》

 

 

 

 魔法名だけがやけに鮮明に聞こえて、わたしの視界は金色の炎で埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 極大の火属性()()()魔法が炸裂し、広間には爆炎の残滓である煙が漂う。広間の中心……杖が突き立っていた台座の上にはその身にすらダメージを負い、纏う鎧も少し亀裂が走っているゲンドゥルが立っていた。そんな彼女は未だ油断なく、眼下に広がる煙の向こう側を見ていた。

 

「《我らを……満たす、聖なる水よ 冷たき死を遠ざけ……立ち上がる力を与えよ》」

 

 微かに響いた詠唱は途切れ途切れだが、システムはそれを成立と見做した。発動した魔法は床に巨大な魔法陣を描き、放つ光が煙を切り裂いて詠唱者の姿を見せる。

 

「――…よくぞ生き残った」

 

 ゲンドゥルは感無量と言わんばかりに呟いた。視線の先に居るのは防具として纏っているローブが所々焼け落ちているランだ。彼女はうつ伏せに倒れてはいるが、リメインライトになっていない事から死んでいない事は明白であり、その横では彼女のストレージに避難して無傷だったストレアが必死になってその口元にMPを回復させるポーションを掛けている。

 ランが発動したのはパーティ全員を危険域からでも七割は回復させる最上級回復魔法。それを使ったという事はすなわち、()()()()()()()()()()()()()()という事である。

 

「《吟唱(エンチャント)》、《ある英雄の生涯(ニーベルンゲン)》!」

 

 台座の近くから歌が響く。それは英雄の歌。その者が歩んだ生涯を綴る歌。その効果は時間経過と共にHPが減少し続けるデメリット付きの特大のバフ。それにユナが持つ《吟唱(エンチャント)》の効果も相まってそのバフ量は一人のプレイヤーが出せるバフ量としては最大の物であり。

 

「「「いっけぇぇぇぇぇ!!」」」

 

 それを受けて飛び出したプレイヤー三人と使い魔一匹も、歴戦の猛者である。一足飛びに斬りかかるのは、敏捷性に長けているケット・シーのシリカ。逆手に持った短剣は既にソードスキルを発動する為の光が宿っていた。

 それを躱すべくゲンドゥルが一歩後退るが、既にそれだけでは彼女の間合いからは逃げられない。ピナのブレスに牽制されて足が止まった所に、右上から左下への切り下ろしから切り上げて切り払い、再び切り下ろしから切り上げる短剣の軌跡が描くのは五芒星。

 

「《五つ星》!」

「っぐうぅ!?」

 

 ゲンドゥルが苦悶の声を上げるが、彼女のHPバーは先程の自爆で半分ほど消失していたとはいえ、それでも残りが四割と少し。ノックバックには少し足りないダメージから、ゲンドゥルが魔法名を唱えようと動くが、その前に横合いから腹部を殴り飛ばされる。

 

「かはっ!?」

「論外って言ったあたし達の攻撃はどうよ!」

 

 一撃を繰り出したのはリズで、連撃ではないが高威力の戦槌のソードスキルである《アサルト・スマッシュ》が今度こそ彼女を台座から、既に待ち構えていたユウキの元へと弾き飛ばした。

 

「お姉ちゃんの仇……!」

 

 死んでないよ!? とユウキの言葉にランがツッコミを入れるが、それに構わずユウキは動く。構えた剣には既に闇色の光が輝いており、飛来する戦乙女へと先程は避けられた一撃を放つ。

 

「おぉぉぉあぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 鋭い気合と共に、まずはゲンドゥルの左肩から斜め右下への五連撃。吹き飛ばしの硬直が解けない内に今度は彼女の右肩から斜め左下への五連撃。合計十の剣閃が戦乙女の胸部にエックスの軌跡を描き、その交差した場所に渾身の一閃が叩き込まれ、胸の中心を鎧ごと貫かれた勢いのまま彼女は台座の根元へと叩き付けられた。

 

「……知らぬ、剣技よな……何と、言う……?」

 

 急速に減っていくゲンドゥルのHPバーを視界に入れながら、ユウキは剣を持ったまま彼女の元へと歩み寄る。

 

「……《マザーズ・ロザリオ》」

「なる、ほどな……母を想う、良き名よ……」

 

 くつくつと彼女は笑うが、その口からは血のように赤いダメージエフェクトが漏れている。先程の《マザーズ・ロザリオ》が致命の一撃(クリティカル)である手ごたえがユウキにはあった。

 

「思わぬ所で、未知を知ったが……まだ、終わらんぞ……?」

 

 それでも、ゲンドゥルは杖を支えに立ち上がる。三人がそれぞれ与えた傷から赤い血のようなエフェクトを漏らしながらも、最後に試す事が残っているから彼女はまだ終わらない。そんなAIらしからぬ、鬼気迫る声と表情にユウキやそれを見ていた他の三人は息を呑んだ。

 

「ランよ」

 

 バチリ、とゲンドゥルの身体に紫電が走る。そして、最初の時の様に金色の炎のような光がその体から溢れ出した。彼女の声に応じるように、ランも杖を支えに立ち上がって真っ直ぐに死力を振り絞る戦乙女と相対する。

 

()()()()()()()()()()()()()()()、これにて見定めよう」

 

 戦乙女が歌う。それは失われた英雄への手向けとして歌われた鎮魂歌。しかし歌を紡ぐ度、彼女の光はその強さを増していく。

 それに倣うように、ランも戦乙女が紡ぐ歌を歌いあげていく。歌を進める毎にランの身体からも同じような金色の光が溢れ出し、強さを増していく。事ここに至って、ラン以外の四人も気付いた。この戦闘の勝利条件が戦乙女の撃破ではないという事に。

 

 そもそも、彼女にとってこれは戦闘ではなかったのだと。

 

「――…この魔法は強すぎる。使い所は見極めよ」

 

 ゲンドゥルの言葉と同時に、ランの前にその魔法の名前が表示され、彼女は小さく笑みを零した。これは試験(クエスト)だ。この、既に()()()()()()戦乙女がその力を振うに足る者を見極め、継承させるための。

 

 そして、それは成る。二人の魔法使いが、その名を高らかに唱える事で。

 

『《ジャッジメント・ボルテックス》!!』

 

 

 

 

 

 

 気が付けば、わたし達はダンジョンの入口だったあの扉の外で倒れていた。どうやら魔法の発動と同時に強制的に転移させられたようで色々と負荷がかかったらしく、何時転移したかもちょっと覚えていないし、体勢もあれだったようだ。

 

「みなさーん……生きてますかー?」

「生きてるわよー」

「生きてますよー」

「ピィー」

「大丈夫ー」

「な、何とか生きてます……」

「いやー、すっごかったね最後」

 

 皆の声が聞こえたのでとりあえず一安心だと息を吐く。よいしょ、と体を起こせば今は閉じられている扉の前に見知った杖が突き立っているのを見つけた。視線を皆に向ければ、皆は笑ってわたしの背中を押す。

 

「ランが居なきゃあのダンジョン突破できなかったんだし、何なら最後のあれは完全に手に取る流れでしょ」

「ここでお姉ちゃん以外が手に取ったら空気読めてないってレベルじゃないし、手に取らなかったらあの人が化けて出て来てもう一戦とかになりそうだよ」

「むしろ何故戸惑ったのか、アタシにはそれが分からない」

「わたしは良い物見せてもらいましたし、久しぶりにちゃんとゲームした! って感じで大満足ですよ」

「ほらほら、手に取って手に取って」

 

 シリカさんにぐいぐい押されて、わたしは杖の前まで移動する。意を決して手に取れば、それは見た目とは裏腹に非常に軽くて驚いた。

 

「《装杖ゲンドゥル》……か」

 

 ウィンドウに表示された名前がそのままだったので思わず苦笑する。まぁあの人の言動を振りかえればそれも当然だろう。この杖は確かに、さっきまで自分達と戦っていたあのNPCで、わたしにこの杖を託してくれたあの戦乙女でもあるのだから。

 

「あ、そう言えば今何時ですか?」

「へ? えーと……あぁ、結構ダイブしちゃってますね」

 

 わたしに答えてくれたのはシリカさんだった。見せてくれた時間は丁度アタックを開始してから三時間ほど経過した時刻を示している。ゲンドゥルさんのクエストは大体二十分くらいだったから、あのギミック地獄に二時間四十分も使った事になる。

 

「えっと、シリカさん、リズさん、ユナさん、今日は有難うございました」

「有難うございました!」

 

 わたしが集まってくれた三人にお礼を言えば、ユウキもわたしの隣に立ってお礼を言う。

 

「水臭い事は言いっこ無しよ。何だかんだであたし達も楽しんでるんだから」

「そうですよ。また何かあったら呼んでくださいね! 駆けつけちゃいますよあたしは!」

「わたしも次があったら呼んでもらっちゃおうかな? あ、フレンド登録送るんでお願いしますね」

 

 ユナさんの言葉で、結局皆ユナさんをフレンド登録した。ちなみにユナさんがフレンド登録している人数は意外と少なくて、今回登録した私達四人を除くとマネージャーさんと兄さん、キリトさんにアスナさんと後はエギルさんだけ。下手な相手を登録すると粘着されるから仕方ないとも言える。SAO時代は粘着が実際あったらしくてそれ以来信用できる相手しか登録はしないそうだ。

 

「最後の最後でちょっと重い話がありましたけど……皆さん、お疲れさまでした!」

「「「「お疲れさまでした!」」」」

 

 こうして、今回のわたし達の冒険は終わりを告げたのだった。

 

 

 

 




・今回のボス
ロリババア。古めかしい口調で喋るトランジスタグラマー。
ダンジョンの下層にある英雄とは恋仲だったが目の前で死なれているとか、その為に戦乙女らしからぬ自我を持ったとかカーディナルが数秒で考えた設定が付与されていたりいなかったり。

装杖
兄が使っていた武器の系譜。
魔法威力の上昇率がおかしい系。ただし世界級武器は除く。こんな感じのものがALOの世界にはまだ数点あるらしい。ダンジョンを見つけるにはリアルラックが必須とか見つけさせる気がほとんど無い模様。

ちなみに天賜と英雄は同数存在する。
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