流星の軌跡   作:Fiery

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夏なのに クリスマスネタを 大暴投(字余り

まぁ時系列的にね……


そのにじゅうご:恋人としての聖夜

 

 

 

 年の瀬も近づいた十二月二十二日。週の真ん中にクリスマスがあり、二十七日土曜日に終業式が行われ、二十八日からは冬休みとなる。SAO帰還者が通う学校も例外ではなく、そして今週一週間で授業は午前中のみである為、生徒たちの雰囲気は目の前に迫ったイベントへの期待などから浮足立っていると言えた。

 

「~♪」

 

 それは、朝食の準備を機嫌よく行っている朝田詩乃も例外ではない。何せ彼女にとっては今年一年は特別な意味を持っている。好きだった相手と恋人となり、その婚約者に納まって東京で同棲を始め、そして先月にはとうとう結ばれもした。そして今日起き抜けに大切な人から『二十四日と二十五日は一緒に出掛けよう』と告げられ、その上に色々と手配している事も教えてもらった。眠気も吹っ飛び、今から楽しみでしょうがないと言った様子に、告げた本人である涼は今から胃が痛い。

 

「楽しませられなかった時が怖い……!」

 

 彼の心境はこの一言に尽きた。無論彼は愛する人の為に最大限努力もするし、その日の為にエギルにも協力を仰いで人気のスポットやイベントなどをリサーチして楽しめそうなものをピックアップし、さらに厳選した。時間を見ては実際に行われる場所も確認し、地理も覚えて準備を進めてきたのだ。ただし、プレゼントについては本気で思いつかなかった模様。

 

 桜川涼と言う少年は、恋愛についてド素人もいいところである。確かに朝田詩乃と言う器量良しで、自分にも尽くしてくれる恋人であり婚約者がいて、義理の妹である紺野藍子と紺野木綿季の姉妹にも好意を向けられている。その上デビューしてから毎月新曲も出してライブも行うシンガーソングライターの《YuNa》こと重村悠那……彼女の本名については最近知った……には明確に恋心を寄せられている。

 しかし、彼自身は彼女達に対して恋の駆け引きなどは一切しておらず、何なら素の状態で接していただけと断言できる。悠那に至ってはつり橋効果も極まった極限状況での救出劇のせいであると思っていたら、彼女自身がその想いを時間をかけて確認して確定させたのだから、彼自身はそれに関しては本当に何もしていない。つまり経験と言えるのは詩乃に告白した事だけであろう。経験値がゼロから一になっただけの新兵である。そんな彼にクリスマスに贈る洒落たプレゼントが考えられるだろうか? 無理だよ!(断言

 

(予算はある。叔父さんが押し付けてきた迷惑料だけど、今回は使わせてもらう)

 

 先の事件に関する依頼料と言う名目で渡されたその額は二十万円と言う大金であるため、受け取る際にも一悶着あったのだがそれは置いておく。事実として今現在予算はあるので、プレゼントにもある程度は見栄を張れるのだ。だからこそ、それが悩みの種にはなるのだが。

 

「クリスマスの事で何か悩み?」

「……声に出てた?」

「声には出てないけど顔には出てるし、部屋に色々雑誌隠してたでしょ? 付箋だらけの雑誌がベッドの下から出てきたわよ」

 

 詩乃はくすくすと笑いながら、出来立ての朝食をテーブルの上に並べていく。雑誌は涼がプランを練る為に買った物で、デートスポットやおすすめのレストランなどが掲載されている物である。

 

「……いやまぁ、サプライズは苦手だから良いんだけど、ガンガンハードル上がってる気がしてくるなぁ……」

「それでお悩みの涼に、恋人の私から提案です」

「拝聴します」

 

 配膳が終わって席に着くと同時に、涼は姿勢を正して詩乃へと向き直る。

 

「涼の事だから予定で明確に決めてるのは一つか二つくらいでしょ?」

「……俺、そんなにわかりやすい?」

「私にとってはね。それで、空いてる時間は色んなお店を見て回りたいのよ」

「買い物するって事か?」

「貴方と見て回って、貴方が気に入ったものをプレゼントしてもらいたい、っていうのはダメかしら?」

 

 悪戯っぽく笑う詩乃はいつになく魅力的であり、その目には期待の色がありありと見受けられる。そんな彼女の思いを無視する事は、当然ながら涼には絶対に出来ないし、しようとも思わない。

 

「ダメなもんか。要望には全力で応えるよ」

「楽しみにしてる。さ、早く食べて今日も頑張りましょ」

 

 そんな風に、彼自身が自分でハードルを上げている事に気付かない程、世間一般の雰囲気は浮足立っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 それだけ楽しみにしている事があれば、日が経つのはとても早いものだ。本日十二月二十四日はクリスマスイブ。学生達の反応は様々で、さっさと家路に着く者、仲の良い友人とそのまま出掛ける者、何やら決意した表情の者も居て、その雰囲気は教師にも伝播している部分もある。ちなみに和人は明日奈と出掛けて行った。明日の服を買うらしいがまぁ、デートである。ただ、和人達は今日の夜にALOのアップデートでアインクラッド第二十層以降が開放されるのでそれまでにはそれぞれ家に帰り、速攻で第二十一層をクリアして《森の家》を買い戻すのだろう。涼と詩乃は不参加ではあるが迷宮区のマップは渡しており、更には藍子や木綿季経由で《スリーピング・ナイツ》のメンバーも集まる事から戦力的には何の不安もないどころかオーバーキルの可能性すら出る始末である。特に藍子が新しく手に入れた武器は準世界級武器(セミレジェンダリー)と言ってもいい代物であり、その際に取得した魔法は完全に発動できれば上級魔法すら鼻で笑う威力だ。

 

 ちなみに帰還者学校の男女比率は意外と釣り合っていて、男が六の女が四と言った程度に納まっている。何故かと言われれば、それはやはりSAOがゲームだったからか、手を出したのは学生が多く、その中で女子学生の比率も高かった事。もう一つは最前線で攻略に向かう者の多くは男性であり、女性は比較的安全が担保された場所での素材集めや冒険をしていた者が多い。後方でレイティング破りの幼い子供の面倒を見ていた教師志望の女子大生や、彼らの仲間内なら、そこまで前線に出る事のあまり無い鍛冶職のリズベットのような生産職も居る。要は男性プレイヤーより女性プレイヤーの生存率が高かった、という事だ。勿論死亡者が居なかったわけでは決してなく、アスナの様に最前線で陣頭指揮を取っていた女性もいるが、総数に対する比率の話である。

 

「年明けに学校が再開されたら、どれだけカップルが増えているのだろうか……」

「基本的に帰還者の女の子って線が細いのよね……経緯を考えると健康的な痩せ方じゃないんだけど、成長期で取り戻せば不健康な印象は無いし」

「病院でリハビリを受けてれば運動と食事がキッチリ保証されるからな……普通に考えりゃ綺麗にはなるんだよなぁ」

 

 帰宅した後、制服からデートの為にお互い気合を入れた服に着替えた涼と詩乃が、最初の目的地に向かう電車の中でそんな会話をしている。雑談の類で二人に全く他意はない。

 帰還者学校に在籍している女子生徒のレベルは、何気に高い。男子生徒の方は体型的に様々な人間が揃っているが、女子生徒の方はスレンダーなモデル体型が割と多い。SAO事件に巻き込まれて生存した結果、帰還者は皆一様に痩せ細ってしまった自身の現実の体とご対面したわけだが、リハビリの過程で割と理想的な筋肉の付き方や体型にはなるのだ。ただ男子は、退院後に思春期らしく食べたりする訳で体型にばらつきが出たが、女子はそのスタイルを維持、またはより良く成長させようと執心する人間が多かった。故に帰還者学校の女子は、近隣の学校でも噂になる程度に女子のレベルが高い。

 

「和人の奴は例外だな。あいつ、精密検査受けたら消化吸収率がかなり悪かったらしいし」

「それでダイブを長時間してゲームするから尚の事、か。直葉も明日奈も嘆いてたわね」

 

 昼は明日奈の弁当。朝と夜は直葉の料理。ついでに下校時には高頻度で涼と買い食いをしておきながら、まったく太らない和人を思い出す。涼は筋肉と共に体脂肪率も緩やかに増えている。これに関しては詩乃が朝晩に関して完全に食事を管理しているし、普段彼は朝ロードワークを、夕食後に詩乃も交えて筋トレしたりと色々している結果である。ただ、和人はジムには行っているようだが体型に変化が出ないし、体重にも変化がない。それ以上に恐ろしい話として、体脂肪率も筋肉量も変化していないという話だった。それを聞いた涼は明日奈と共に彼を説得して精密検査を受けてもらい、結果として判明したのが彼の消化吸収率の低さだった。

 変な病気とかで無くて本当に良かったのだが、それはそれで彼の生活を鑑みれば命に関わるので現在改善を目指して頑張っている所だ。

 

「それで、どういうプランを旦那様は立ててくれたのかしら?」

「昼と夜は予約済み。後はいくつか見てみたいイルミネーションがあるからそれを回って、家には十一時くらいに帰るって所か」

「じゃあ、お店を見て回る時間が結構取れるわね……」

 

 スマホの画面を見ながら二人でどこに行くかを相談する。お互い、デートをした事は有れど東京に来る前は田舎の方であった為に、出かけるとすれば場所は限られ、互いの家を行き来するのが常と言う状況。東京に来てからは色々と出歩ける場所は増えたが、物価の違いの関係で『近所で充分では……?』と二人の意見が一致を見たので、二十三区内に出る事は少ない。代わりと言っては何だが、仮想世界での行動がデートになっているというのもあって、外出するデートは直近では、近所に足りなくなった物を買いに行くくらいしかなかった。

 

「お昼は何処で食べるの?」

「銀座。夜は恵比寿」

「……お金とか、大丈夫なの?」

「クリスマスイブって事を考えると割と安い方だった。まぁプレゼント分はちゃんと分けても余裕はあるから安心していい」

「なら銀座のデパートを見て回って、六本木の方にも行きましょうか」

「仰せのままに、お嬢様」

 

 涼の気取った台詞に詩乃はくすりと笑みを零す。特別な意味を持った日に、大切な人とこうして一緒に居る事が幸せでたまらないと言った表情を見て、涼の方が照れてしまう。そうしている内に車内にアナウンスが流れ、目的の駅に到着する事を告げていた。

 

「デート開始、ね……結構緊張して来たんだけど」

「それはお互い様、だよ……手を繋いでも?」

「えぇ、エスコートお願いね。期待してるから」

 

 互いの手を握り、電車から降りて歩き出す。互いの体温は、緊張しているからか普段より熱いと二人は感じていた。

 

 

 

 

 

 

 昼食に選んだ場所は銀座のビルの中にあるレストランで、銀座の雰囲気と比べれば幾分カジュアルな印象を受ける店内には、香ばしいローストチキンの香りが漂っていた。普段は寄り付かない場所で、普段と違う雰囲気の中での食事は思いの外楽しく、店のサービスも良かったので機会があればまた違う機会に来ようと二人は考える。たまの贅沢としてなら値段としても妥当な所だったのも大きい。

 

「やっぱり東京は人が多いわね」

「それにクリスマスイブだからカップルも多いみたいだな……つか地元じゃ滅多に見なかったけど、東京は外国人も多いよなぁ」

「そうみたいね……日本人とカップルっぽい人も居るし」

 

 詩乃の視線の先を見てみれば、金髪碧眼で詩乃と同程度の身長の女性が彼女より少し身長の高い黒髪の男性と腕を組んでいる光景が見えた。二人の動作はかなりぎこちないように見える事から、付き合いたてのカップルなのだろうと涼は予想を立てた。そして、何故かその二人にゲームでのある二人がダブって見えた。

 

「どうしたの?」

「いや……まさかあいつら、リアルでも付き合ってないよな……?」

「あいつらって……え、『あの二人』? いやいやそんな、早すぎるわよ」

「だよなぁ」

 

 思いがけず気になる事が出来たが、それは一旦棚上げして涼と詩乃は、レストランから少し歩いたところにあるデパートへと入っていく。クリスマス仕様にデコレーションされた店内はやはり人も多く、それほど人混みに慣れてない二人はお互いの手を強く握って、はぐれないように店内を歩いていく。

 

「一階は何処も基本的に化粧品なのね……」

「後はアクセサリーとブランド品か。こういう構成は地元のでも変わらないな」

 

 もちろん品揃えやそもそも入ってる店舗数などの違いは有る。それでもこの見慣れた構成を見れば回り方も分かる為、二人は迷う事も無くそれぞれの店を見て回る。

 

「お若いご夫婦ですね。新婚ですか?」

「えぇまぁ。初めてのクリスマスなので色々と見て回ろうと思って」

 

 店員に話しかけられて、上機嫌に会話をする詩乃。『俺の嫁さんがチョロい件について』と涼は脳内でスレを立てたがすぐに『詩乃さん可愛い』で千レス埋まったので破棄する。

 詩乃は彼と夫婦と間違えられても全く訂正しない。間違えられた時に嬉しそうに笑うので、涼としても否定して曇らせる事は出来ないからそのままにしている。以前そんな感じのやり取りを姉妹に見られた事があるが、二人は盛大に笑みが引きつっていた。

 

「でしたら、新作のこちらを――」

 

 店員の話を真剣に聞いている詩乃に苦笑しながら、涼はその隣で耳を傾ける。紹介されている品物以外にも目をやれば、化粧品の種類に眩暈がしそうだった。詩乃も女性であるし、自分の母親や彼の母親からの指導もあって化粧に時間はかける。とは言っても、今しているのは将来の肌問題をケアする予防的な物が多く、メイク自体はナチュラルな物で留めている。『元がいいから、それを引き立てるだけでいい』らしいのだが、涼としてはどんな詩乃でも綺麗だし可愛いのでそれでいいじゃないかとは思っている。しかしそれでも、日々微妙な差異があり、色んな面の彼女が見れる事は素直に嬉しい事だ。

 

「涼はどう思う?」

「ん? 俺としてはもう少し、薄い色の方が好みだけど……」

「こうされてはどうでしょう?」

「あー、そうするならこっちの方が良いのか……」

 

 詩乃を最もよく見ている男性の視点で話す涼と、それを聞いて合う物や方法の提案をしていく女性店員に挟まれて、詩乃は少し頬を赤くする。店員の方は商品を売り込むという側面もあるが、それでも結構真剣にどうすれば詩乃がより綺麗になるかを提案しているし、涼は言わずもがなだ。

 

「ではそのセットをください」

「はい、三万円お預かりします」

「えっ?」

 

 少し聞き逃している内に、購入を決定した涼が店員に代金を支払っていた。

 

「おつりはこちらで、商品はこちらになります」

「ありがとう。どうした? 詩乃」

「いや、その、買ってくれたの……?」

「似合うと思ったから当然だろ? 次からはもっと厳選するけどさ」

 

 詩乃は彼から丁寧に包装された化粧品が入った紙袋を受け取り、それを胸に抱きしめる。嬉しくてちょっと泣きそうだなと彼女は思い、流石にここで泣くような事は無い。それでも、人気の少ない休憩スペースには移動して、ベンチに座った。

 

「……ありがとう。大事に使うから」

「おう、それじゃ次は何見ようか。アクセサリーでも見に行くか?」

「服と靴に行きましょう。アクセサリーは……二年後に飛びっきりのがあるでしょ?」

「今からプレッシャーが……それは二年後の誕生日プレゼントにするんだけど」

「ホントに?」

「ホントに。詩乃が俺に愛想尽かして出て行かない限りは、だけど」

「あら、私の事信用してないの?」

 

 拗ねるように口を尖らせる詩乃に涼は謝ってから理由を説明する。詩乃からの想いを疑った事もない事。自分がそれに応えられているか不安がある事。《死銃》事件の際も結局詩乃を不安にさせてしまった事を悔いている事。だからこそ、自分に詩乃と添い遂げるほどの価値があるのか疑っている事を話す。

 

「そんなの、私も一緒よ」

 

 その話を聞いた詩乃は、その一言で斬って捨てた。

 

「私だって、涼の想いは疑ってない。でも、貴方に愛される価値が自分にあるのかどうかはずっと考えてきた。浅ましい嫉妬を見せた事も一度や二度じゃないのは知ってるでしょ?」

「嫉妬、か……まぁ、そうだな」

「その度に涼に愛想尽かされてないか不安になって、抱きしめられると安心して、自分で言っててあれだけど私も結構酷い女よ?」

「そんな事は無いし、詩乃は俺にとって……」

「だから、私と一緒なの」

 

 そう言って詩乃は涼の眼を真っ直ぐに見つめた。そのまま数秒見つめ合って、二人は苦笑いを漏らす。互いが互いに相手の事を疑っておらず、その疑いを自分に向けていた事実にそうするしかなかったから。

 

「前に明日奈に似た者夫婦かって言ったけど、俺らもそうかな?」

「そうね。今度は桐ケ谷君や明日奈に似た者夫婦かって言われそう」

「じゃあ、再来年の詩乃の誕生日にプロポーズします。答えはその時聞かせてほしい」

「うん、待ってます。ちゃんと答えは聞かせるから」

 

 二人は頷きあって立ち上がる。その手は固く握られている。お互いをもう離す事は無いと言っているように。

 

 

 

 

 

 

 それからも二人のデートは順調だった。服や靴は流石にピンとくる物が無かったがそれでも楽しそうに選んでいた彼女を見て、涼は穏やかに笑っていた。流石にランジェリーの店に引きずり込まれそうになった時は笑顔も引き攣って抵抗を示したが、詩乃が上目遣いで瞳を潤ませて『……ダメ?』と消え入りそうな声で呟けば速攻で陥落し、クリスマスイブに羞恥刑を食らう彼氏の出来上がりである。

 こうしてランジェリー店に連れ込まれるのは二度目であるし、以前と違って互いに肌を重ね合った関係ともなれば余裕があるかと思いきや、涼は全く余裕もなくそれは詩乃も同様で、何なら想像が出来てしまう分だけ、余裕なんて幻想は打ち砕かれてしまう。店員たちは訓練されたもので、そんな新婚夫婦にもカップルにも見える二人を遠巻きに微笑ましく観察しながら他の客の目に触れないように守ったりもしている。

 

「……ど、どれが、いい? どれでもいいは、ダメだから」

「ここで聞くの? マジかよ……」

 

 それでも恋人の要望に応えるために、涼は既に羞恥で焼け付きそうな思考を必死に回す。詩乃が提示している選択肢は三つ。

 まずは定番……と言っていいかどうかは不明だが、白地にピンクの花柄をあしらった可愛らしいデザインのブラとショーツの組み合わせ。以前のような攻めたデザインではなく、シンプルだがそれ故に色んな場面で使えるだろう物である。

 次はシンプルに黒い下着。これも奇を衒ったものではなく若干スポーツタイプ寄りのデザインをしたものになっている。詩乃自身も出歩く事や外で行うアクティビティは嫌いではなく、涼に付き合ってスポーツで汗を流す事もあるから選択肢としては有り得るものである。

 最後に青色の上下があるが、これは詩乃が涼を誘惑する為に買った物に近い。露出はそれほどでもないが、レースをふんだんに使い、ショーツの食い込みもきわどい。涼が今日これで誘惑されれば明日、学校にいけない事が確定する程度に破壊力のある代物だ。

 

「正直、全部似合うんだよ……逆に詩乃に似合わないのを教えてくれよ……」

 

 違う意味で絶望したような声を出す涼。彼女の色んな面を知っているからこそ、選ばれた下着のどれを着ても、似合う彼女が想像できてしまう。だからこそ、と言うべきか彼の思考が振り切れるのにそんなに時間は掛からなかった。

 

「……全部買うから後日着てほしい」

「ふぇっ!? ちょ、ちょっと待って涼。揶揄ったのは悪かったから正気に戻ってっ!?」

「俺は正気じゃないけど真っ当です。恋人にどれも着てほしいから全部買うんです」

「落ち着いて!? ほ、ほら、違う所行きましょう? ね? お、お騒がせしました」

 

 商品を戻した詩乃が彼の手を引いて店を出る。そんな所まで微笑ましく温い目で見られている事に、二人は気付かなかった。

 

 流石にもう、デパートで買い物できない雰囲気……と言うより詩乃の心情だったので、イルミネーションを見ながら六本木へと移動を開始する。そこで時間を潰したら、次は恵比寿でのディナーと言う道程で、後は時間が許す限りデートをして帰る事になる。

 

「そう言えば詩乃って、エステとか興味あったりするのか?」

「無いとは言わないし一回くらい、とは思うけど……今はデートしてる方が良いわ」

 

 六本木の複合施設ではイルミネーションを見ながら、改めてショッピングを楽しんだり。

 

「良い雰囲気。来た事あるの?」

「前を通った時に良さそうだなとは思ってたんだよ。で、エギルさんに評判を確認した」

「同業者によく聞けたわね……」

 

 予約していたビストロでのディナーに舌鼓を打ち、未成年なのでお酒は飲めなかったが、それでも洒落た雰囲気の中で楽しく食事をし。

 

「……凄いわね。地元で見た満天の星空にも負けてない」

「だな……そういえば、年末年始はどうする? 帰省するなら付き合うぞ」

「あー……その事なんだけど、母さんが気にしてるの」

「気にしてるって何を……あぁ、そういう事か」

 

 イルミネーションを見ながらの詩乃の言葉に、涼は心当たりがあった。彼女の母は実家に家族……詩乃と、彼女が顔を知らない父親と共に、三人で帰る際に事故にあったという。その際に不幸が重なって父親は亡くなったと聞いていた。

 

「俺は詩乃だけじゃなくて、陽菜乃さんにも証明する必要があるわけだ」

「証明って……あぁ、そうね。『私を置いて死なない』って、ずっと証明し続けないとね」

 

 イルミネーションから視線を落として、詩乃は隣に居る最愛の人へと寄りかかる。そんな自分を抱きかかえるように彼の手が回され、お互いの温もりを感じ合う。

 

「詩乃は付いて行くのか?」

「んー、今年は帰省しないわ。母さんは帰省するけど、頼んでビデオ通話するつもり」

「何でまた?」

「向こうで涼と年越しはした事あるけど、こっちでは年越しした事ないから。それに、藍子と木綿季が貴方と家族になって初めての年越しなんだから、こっちに居ないとマズいでしょ?」

「まぁ、それもそうだけど……ごめんな」

「ばーか。こういう時はありがとうで良いのよ」

「……うん、ありがとう」

 

 よろしい、と詩乃が満足そうに笑い、より強く彼に擦り寄っていく。時間は確かに過ぎていく。気が付けば激動の年と言えた今年も終ろうとしていて、年を越せばあっと言う間に、恋人になってから一年経つ事となる。そんな事実に二人は一日一日生きる事の……もっと言えば、大切な人と過ごす時間の大切さと言うのが、妹である藍子と木綿季が日々感じていた事を、ほんの少しだけでも理解できた。

 

 そんな時に、涼の携帯がメールの着信を告げた。

 

「ん? 木綿季か……って、もう買い戻したのかあいつら」

 

 小さく笑った涼が持つ携帯の画面を詩乃が見れば、そこにはログハウスのような場所で笑いあう義妹達と、仲間達の姿。中心にいるのはキリトとアスナとユイで、三人を囲むように義妹と仲間が写っている。詩乃も涼から話は聞いていた、三人の思い出の場所。

 

「おめでとうって送っておく?」

「ついでにイルミネーションの写真も添付しとくか」

 

 並木道を覆う青いイルミネーションを写真に収めて、キリトとアスナへ『おめでとう』と送る。しばらくはパーティでもしているだろうから、返事が来るのは日付が変わった後だろう。

 

「って言ってる間にもうこんな時間か」

 

 メッセージを送り返した後で時間を確認すれば、確かにキリト達が《森の家》を買い戻すには十分な……通常で考えれば早すぎる攻略ペースではあるが、時間になっている。今日のイブは二人でデートだったが、明日は家族皆でパーティの予定だ。その中には当然の様に詩乃の母親も入っている。

 

「なぁ、詩乃」

「何? 涼」

 

 呼びかけられて詩乃が顔を上げた瞬間、涼はその唇にキスをした。彼女もそれを受け入れて、長い間互いの熱を唇を通して伝えあう。そんな恋人達を、青い光は祝福するように照らしているようだった。

 

 

 

 




フルダイブ技術が発達して、VR空間でデートってのは普通にあるだろうと妄想はしても、現実で会いたいって思うのも人情だろうなぁ、と思う。
遠距離のカップルとかはVR一択っぽいけど。
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