それは、ある日に父親からかかってきた一本の電話から始まった。
詩乃と一緒にソファに座ってテレビを見ていた涼は、珍しいと思いつつ通話ボタンを押した。
「珍しいね父さん。何かあった?」
『あぁ、涼か。お前と詩乃ちゃんに伝えないといけない事が出来てな』
「俺と詩乃に?」
涼は隣にいる詩乃に目配せをして、通話をスピーカーモードへと変える。
「お久しぶりです、お義父様」
『詩乃ちゃんも居るのか。なら丁度よかった』
「で、伝えないといけないことってのは何なんだ?」
『今近くまで来ているんだが――』
電話もそうなら近くに来ているという事も珍しい。
涼の父親は大体世界を飛び回っている事が多く、家に居るのは一年の半分もない。
その父親が日本に居て、しかも自分達の居る家の近くにいるというのは本当珍しかった。
『涼、お前に義理の妹が出来る事になった』
「ぱーどぅん?」
告げられた内容の理解が追い付かない涼は隣の詩乃を見た。
詩乃も珍しくぽかんとした顔で涼を見ている。
『事情を話せば、お前がSAOに居た時のことが発端でな……』
父親の説明によれば、涼がSAOに囚われた時にその解放手段を文字通り世界を駆けずり回って探したらしい。
その中で望んだ成果ではなかったが、様々な医学知識や難病の画期的な治療法などもあった。
ただ、臨床試験がされていない類のものだったため、父親は自分のツテを使って交渉を持ち掛けていたようだ。
交渉の結果、様々な難病の患者に対して治療が行われた。 その中の二人が件の義理の妹、になるらしい。
『その子の見舞いに今行く所なのさ』
「その話聞くと俺に拒否権絶対ないよね……俺も行けって話だよね」
『言えば詩乃ちゃんもだな。退院したらしばらくそっちに住んでもらおうと思っていてね』
「ちょっと待ってくださいお義父様!それってどういう――」
『なに、私達もそうだが、詩乃ちゃんのお母さんも一緒にそちらで家を買う事にしてね。
私達が引っ越すまでの間、面倒を見てほしいんだよ』
「……最長でどれくらいだよ父さん」
『半年、と言った辺りか。では今から30分後に迎えに行くから、準備しててくれ』
父からの通話を切り、改めて二人は顔を見合わせる。
「済ませておけばよかった」
「いったい何を……いや、説明しなくていいです」
◇
そうしてきっちり30分後に来た父親が運転する車で来たのは横浜の総合病院。
道中で義理の妹になる二人――…双子の姉妹についての話を聞いていた。
両親への治療は間に合わず、双子の姉はぎりぎり間に合い、それを持って妹も治療された。
互いしか寄る辺の無い双子を見てしまえば、父親としては引き取らないという選択肢はなかったに違いない。
母親もこの事については納得と理解を見せて、選択を後押ししたようだ。
「ごめんなさい、ちょっと涙出てきました」
涼と出会うまで、ある意味親に頼れなかった詩乃にとっては、その辛さに共感できる所があった。
双子は今後も定期的に検査を受けなければならないが、それでも今は一時期と比べれば遥かに健康体であるという。
ちなみに父親はあまり言わなかったが、自分が引き取るといった時点で双子の親類には任せられないと判断したのだろう。
『色々買い揃えないといけないな』という言葉で涼はその辺りを察した。
二時間ほど走れば、二人の居る病院へと到着。
受付での手続きを経て病室へ向かえば、そこにはベッドが二つあり、同じ顔立ちの少女二人が話をしていた。
「あ、おじさま!」
二人の内、ボブカットの少女が入ってきた涼の父親を見て嬉しそうに声を上げた。
ロングヘアの少女も同じように嬉しそうに笑って会釈をする。
「やぁ、藍子ちゃん、木綿季ちゃん。元気そうだね」
「はい、おじさま。今月末には退院も叶いそうです」
「なるほど、では私は先生と話をしてこようか。涼」
「父さん、そこで丸投げは流石に難易度が高くねぇ?」
父親は笑いながら二人に涼と詩乃を紹介する。
これから義理の兄、将来の義理の姉になるという事。
退院後は当面二人と暮らす事になる事。
後はざっくりとした予定だけを話して、彼は医師との話し合いに向かった。
「んじゃ改めて俺から。えー、桜川涼だ。
妹云々はここに来る前に言われたもんだから内心まだ戸惑ってるが……まぁよろしく」
「朝田詩乃。順当にいけば18歳の誕生日と同時に入籍して名字が変わる予定。
まぁ、仲良くしましょう?」
「えっと、わたしは紺野藍子、です。木綿季とは双子で、わたしが姉になりますね」
「ボクは紺野木綿季。これからよろしくね、涼おにーちゃん♪ 詩乃おねーちゃん♪」
えへへ、と人好きする笑みを浮かべる木綿季。
姉の藍子が儚げならば、妹の木綿季は快活と言っていい。
病院に長い間居たという事から、良くも悪くも純粋であるように思える。
「話すって言っても何から話すか……」
「じゃあじゃあ、二人の馴れ初めにボク興味ありまーす!」
「ちょ、木綿季!」
「私が三日三晩語って聞かせてあげるけど大丈夫?」
「詩乃、それ俺にダメージ入るから止めよう?」
そんなこんなで話し始めてみれば紺野姉妹は二人ともALOをやりこんでいる事が分かった。
この場合はゲームとしてやりこんでいるというより、終末期医療としての意味合いが強かっただろう。
確かに仮想世界に現実の筋力はいらない。 誰もが五体満足の身体を持ち、駆け回る事が出来る。
彼女達がやりこんでいたALOは味の再現すらして見せた物であるが故に、五感全てで世界を体感できるのだ。
例え仮想でも、望むように生きながら生を終える事が出来る――…そういう救いの形も、確かにあるだろう。
「二人は、退院したら何をしてみたいんだ?」
「えぇ、と……おじさまの話ですと、学校には行けるようですので、今は特に」
「うーん、ボクもかなぁ。
でも、ギルドの皆もおじさまのおかげで治って、今は離れ離れだからダイブして会いたいなぁとは思ってる」
「うちも一応フルダイブ設備はあるからその辺りは心配ないけど」
「後はねー、キャンプかな。おじさまがよくおにーちゃんと行った話をしてくれたから」
「キャンプね。その辺は父さんと話してみるか」
流石に本格的な物は二人の身体が付いていかないだろうから、近場でするのが無難だろう。
そう思って心のメモ帳に書き込んでいけば、父親が戻ってきた。
話した内容としては退院時期の調整と、二人の編入時期の事だ。
四月末に退院は当初の予定通りで、学校の編入時期は五月のゴールデンウィーク明けになるという。
それに付随して学校への顔出しなどで、姉妹への外出許可の話もしたという。
「父さん、二人はどこに編入する予定なんだ?」
「お前達と一緒だよ。学年は二つ下になる」
「……あそこ、生還者用の学校だよね?今更だけどさ」
「正確には救済措置の為の学校だ。しかし建てた物、作った仕組みを救済が終わった後で無くすわけじゃない。
故に今後もそういう学校として機能させるためにはこういう編入や詩乃ちゃんで使った入学制度もある」
「まぁ、あそこは現状その辺大らかだろうしな……」
「という事で来週はお試しで土日、二人にはお前の所に泊まってもらうからな」
「父さん!そういう事は直前で言うなよ。ベッドとかそういうのどーすんだよっ!?」
「何、二人の部屋の家具についてはもう発注も終わって貸倉庫に置いてある。
後は運び込むだけだ」
「最初っからそのつもりであの家用意したな?」
「私が言わなくても一部屋開いていた事が予想外ではあった。流石私達の息子だと感心したぞ」
「これ俺、一発殴っても許されるよね?実の父親でも許されるよね?」
◇
●SAO男子部屋
おーり:突然義理の妹が出来る事になった件について
きりと:詳しく
えぎる:詳しく話してもらおうか
くらいん:爆発しろ
おーり:すみませんマジで必死なんです距離感とかどうしたらいいの?
おーり:ちなみに2個下の双子の姉妹
※きりと さんが あすな さんを招待しました
※きりと さんが りずべっと さんを招待しました
※きりと さんが しりか さんを招待しました
おーり:おいばかやめろ
きりと:女性の事は女性に聞くしかないだろ
きりと:というかお前の相方に聞けばいいじゃん
あすな:ん?何々どうしたの?
おーり:ここで相談する前に散々話し合ったけど相方も一人っ子だから
りずべっと:いきなり招待されてちょっとびっくりした
しりか:どうしましたかー?
えぎる:何かオーリに義理の妹が出来るとか
くらいん:二人も
りずべっと:アンタゲームの主人公みたいな事になってんのね
おーり:うるせぇおめーは早く装備作れよ
りずべっと:いつものキレがない。かなりマジな話?
あすな:文字なのにわかっちゃうんだ
しりか:どういう経緯なんですか?
おーり:あ、うん。詳細は省くけど俺の父親が関わった姉妹で
おーり:ちょっと事情があって引き取る事にしたんだって
おーり:で、こっちの学校に五月のGW明けから来るのね
おーり:学校はうちの学校な。シリカの一つ下の学年なので仲良くしたってください
おーり:後親がこっちに引っ越してくるまでの間はうちに住むんだって
しりか:あ、はい。ちゃんと紹介してくださいねー
おーり:ちなみにこの話聞いたの昨日な。相手との対面も昨日な
りずべっと:ちょ、いきなりすぎる
きりと:随分と急な決定なんだな
おーり:親は随分前から計画してたというか今住んでる家もそれ見越してたみたい
おーり:で、今度の土日にお試しで泊まりに来るからいっそのこと皆を紹介したいと思った
あすな:それみんな巻き込まれてしまえって事?(笑
おーり:それもあるけど一応好意が8割だよ
きりと:残り2割は何なんだよ
おーり:ALOすりゃどうせ関わるだろって言う打算
くらいん:可愛い?
おーり:可愛いけどクラインさんは歳の差考えてくださいね?
おーり:下手するうちの父親が出てくるから
くらいん:お義父さん娘さんを僕にくださいか……
おーり:ちなみにうちの父親はゲーム内の俺より強いんで
くらいん:ヒェッ
きりと:人類かな?
あすな:何それ怖い
えぎる:リアルニンジャ……実在したのか
しりか:え、ゲームのオーリさんより?えっ?
りずべっと:アンタの家系に妖怪とか居るの?
おーり:やめろよ、不安になるだろ
おーり:それよりも今度の土日、昼間行ける人。『ダイシー・カフェ』で顔合わせしたいです
きりと:最初の距離感云々はどうしたよ
おーり:わからないまま距離感考えるより皆と会わせてその場の雰囲気で考えればいいやと思った
きりと:本音出てる(笑
おーり:詳細は今日の夕方くらいに父親から連絡あるはずなんでその後で
えぎる:別に構わんぞ。人数と時間が分かれば確保しておこう
おーり:あざっす。料金とかは今回親のあれだから毟ってきます
きりと:俺は特に予定は入ってないかな
あすな:わたしもー。オーリ君の家族になる子に興味ある
くらいん:あー、会社の都合で出勤だわ。 夕方以降はダメか?
りずべっと:あたしはいくわよー
おーり:流石に夕方以降連れまわすのは気が引けますわ
しりか:こっちも大丈夫でーす
きりと:あ、そうだ。もう一人増えていい?
おーり:誰よ?
きりと:リーファだよ。違う学校だけど、お前と歳一緒だし
おーり:そりゃ有り難い。エギルさん、もう一人増えていいです?
えぎる:余裕見て10人までなら行けるようにしておこう
おーり:ありがとうございます
おーり:キリト、ちなみにリーファ氏とはどんなご関係?
きりと:従妹だよ。まぁ妹みたいなもんだけど
おーり:どんな距離感?
きりと:あの辺の年頃は難しいからわからん
おーり:これ使えねーなって言った方が良いのか重みが凄くて参考になるのかもうわかんねぇな
おーり:じゃあ面子はこれで、時間はまた後でメッセージ入れます
えぎる:嫁さんにも言っとけよ
おーり:隣で抱き着いて見てます(嫁より
くらいん:オーリ君ちょっとALOで爆弾抱えて火焔斬り喰らってくれない?
おーり:嫉妬するよりその下心もっと何とかしましょうよ
くらいん:やめろ、その正論は俺に効く
◇
それからは学校の合間に、運び込んだ家具の設置から掃除にと熟していればあっと言う間に土曜日が来る。
涼と詩乃は父親に指定された時間に、制服を着て学校の校門前に居た。
今日の予定としては学校での編入についての説明や制服の採寸、校内見学が正午前に終わり、そこから夕食までは自由。
夕食については父親も含めて外食する予定なので時間は厳守。
明日の日曜日は病院へ向かう事を考えれば昼過ぎには出発する必要があるだろう。
「しかし、もうこの時期は冬服だとやっぱ暑いな」
「通知では、五月から夏服の着用はOKだったわね」
「この服まだ一カ月しか着てないんだと考えると名残惜しくもある」
「それはわかるけど、GW中にはクリーニングに出しておきましょう?」
他愛もない話をしながら待っていれば、校舎の方から駆けてくる少女と、それを追うもう一人の少女。
前者が木綿季で、後者が藍子。二人の後ろからは父親がゆっくりと歩いてくる。
「おにーちゃーん、おねーちゃーん」
「おう木綿季。あんまりはしゃぐと疲れるぞ」
「はぁ…はぁ…もう、木綿季…すみません、涼兄さん…詩乃義姉さん…」
「藍子ちゃんは逆に体力無いのね」
「まぁリハビリ自体はほぼ完了しているからね。後は生活の中で取り戻していくだけさ」
ここで夕食の集合場所を確認した後いったん父親と別れ、四人が向かうのは『ダイシー・カフェ』
集合時間には少し早いが、エギルに連絡を取れば場所自体は確保できているから問題ないとの事だった。
「お、早いな」
「それはこっちの台詞なんだよなぁ」
店についた後で席に向かえば、見知った顔と見知らぬ顔が居た。
見知った顔が和人なので、見知らぬ顔は彼が言っていたリーファなのだろう。
黒い髪で顔立ちは確かに彼に近いものを感じるから、間違いは無さそうだ。
「えっと、お兄ちゃん……?」
「あぁ、紹介するよスグ。こいつが例の助っ人のオーリ」
「どーも、ドン引きされてたオーリです。
一応本名も言っとくと桜川涼です」
「あ、ご丁寧にどうも。お兄ちゃんの従妹の桐ケ谷直葉です。
ALOではリーファって名乗って…って知ってますよね?」
「俺は知ってるけど今日のメインは知らないからそっちのが有り難いよ」
横にズレれば、藍子と木綿季がおずおずと前に出てくる。
「は、初めまして」
「初めましてー…」
「二人がそうなのか?」
「そうなんだけど随分大人しいな特に木綿季」
「あ、あはは……いざとなったら緊張するもんだよねー」
「実際体験してみるといろいろと違うなぁって…」
照れたように笑う二人に、涼と和人はやれやれと肩を竦める。
「とりあえず座りましょう?藍子ちゃんと木綿季ちゃんは真ん中。
直葉さん…でいいかしら?」
「あ、はい。えっと」
「朝田詩乃。あの時の弓使いのシノンよ」
「あ、貴女が……」
直葉がALOで見たプレイヤーの中でぶっちぎりのインパクトを持っていた二人。
あの時からALO内で話す事はあったので、実際会っても印象は割とそのままだ。
ただ、今日のメインであるという紺野姉妹…後で自己紹介をしあった…を早々に座らせて、相方の隣をちゃっかり確保する程度に強かなのは苦笑するしかない。
そうしていれば、残りの明日奈、里香、珪子が合流してくる。
「んじゃ藍子と木綿季の歓迎会しまーす拍手―」
「わーい。涼君、二人とも可愛いからお持ち帰りしていい?」
「いきなり理性を振り切るんじゃあないよ。
好感度上げてちゃんと個別に交渉して許可取ってからな」
「兄さん!?」「おにーちゃん!?」
「安心しろ。変な奴じゃないのは保障するから」
「まぁ明日奈は下の子いないし多少はね?」
開始からグダグダする歓迎会ではあるが、それでも意外と話は盛り上がった。
やはりALOという共通の話題があるのと、二人が結構なプレイヤーである事が原因だろう。
いつの間にか集まった面子も歓迎会からゲーム談義に花を咲かせている。
特に今までこの面子では最年少だった珪子は『今度一緒に冒険しましょう!』と楽しそうだった。
「何か綾野がお姉さんしてる所見るとほっこりするわ」
「どういうことですかそれ!」
「わかるわかる。珪子ちゃん今まで私達の中で一番年下だったから。
新しい一面というか、新鮮よね」
「詩乃さんまでー!?」
「あたしも正直それはわかる」
里香が頷けば和人と明日奈も頷く。
紺野姉妹と直葉以外のそんな態度に彼女は頬を膨らませて抗議する。
「木綿季もそんな感じの所があるから、ちょっとわかるかな……」
「藍子ちゃんまで!?」
「おねーちゃんちょっとそれどういう事さ!?」
これで主人公周りは大体整ったはず。
何で出したか? 趣味です。