いちゃつき?
いちゃつき(砂糖
のさんぼんです!(おめめぐるぐる
アスナが《スクワッド・ジャム》参戦の為にGGOにやってきて三日経った。初日は銃器の習熟と動き方の教導。二日目は六人で連携の確認をしながらのレベリングを行い、三日目は既にネームドエネミー討伐によるものにシフトしていた。
そして、今日は休みとして彼女は久々にALOの《森の家》で、恋人と娘との雑談に興じていた。
「結構なハイペース……でいいのか?」
「オーリ君はそう言ってたね。例外は除いて、とも言ってたけど」
三日間でそこまで行ったのは、アスナの才能と経験が大きい。ゲームにあまり触れてこなかった初心者の彼女が、初めてと言っていいSAOで攻略の先陣を切るまでになったのは元からの彼女の聡明さと、そして適応力の高さのおかげだ。元からゲームについての知識が深く、経験も多かったキリトや、教材とはいえフルダイブ下における経験値が高かったオーリとは違い、彼女は全くの一から積み上げた。
故に新規のゲームを始めるにあたって、それにどう習熟するかの方法を彼女はその身に刻み込んでいる。そして、その技巧についても妙な癖が無い為、目の前にいる
「先達が居て、指導が受けられるって言うのがここまでとは思わなかったから」
「確かにな。積み上げてきた物を教えてもらえるって言うのは、凄く有り難いんだよ」
SAOの最初期でそれが出来ていれば、という思考が二人の脳裏を過ったが、すぐにそれを振り払う。あの時は誰もが自分の事だけで手いっぱいだった。キリト、アスナ、オーリが組んでいた事も究極的には自己防衛なのだから。
「二月一日だったよな。皆で応援するよ」
「頑張ってくださいね、ママ! ストレアにも言っておきますから!」
「す、ストレアも頑張ってるから、お手柔らかにね? ユイちゃん」
ヒャッハーしながら重機関砲を撃っていたストレアを思い出して、アスナは苦笑した。ALOでは先陣を切って敵に突撃する両手剣使いで、暴風もかくやという彼女の暴れっぷりはGGOでも変わっていなかった。悪化しているような気もするが
この娘に悪影響があってはいけないが、ユイにとってストレアは妹と言える存在であり、交流を控えろとは言えないので黙認はしている。今度キリトと共にオーリと話し合いを行わなければいけないと、アスナは予定を組み込んだ。
「しかし、レベリングはわかるけど、連携の確認って言うのは何をするんだ?」
「あー……正直色々かな。銃を持って皆と走ったり、色んなシチュエーションで行動したり」
「ぐ、軍隊か何かか?」
「誰がどの程度走れるかを確認して、その速度に合わせて移動。誰がどういう時にどういう行動を取るか確認していれば、いざという時のフォローに回れる。わたし達がSAOでやってた事と変わらないんだけど、銃を持っているだけで行動が変わってくるのにはちょっとびっくりだったね」
アスナの目から見て、明確に変わっているのはコットンことユウキだ。ALO内で、剣を扱う戦いにおいては彼女が最強かもしれないとアスナは思っている。出会った頃は確かにキリトやオーリは彼女に剣の勝負で勝っていたし、自分だってそこそこ戦えていた。しかし、今現在の状況はオーリも既に純粋な剣技では彼女に勝てないし、キリトだって二刀を抜いて互角と言う事態になっている。既に置いていかれたアスナはもっぱらリーファやクラインと鎬を削ることが多くなり、ストレスの溜まったシルフの領主や、たまに体を動かしに来るサラマンダーの将軍も相手にする事もある。
そんなユウキはGGOにおいてはサブマシンガンを握り、スコードロンの切り込み隊長的な役割を担っている。役割自体はALOも大差ないが、動き方が目に見えて違った。銃撃による牽制はGGOなのだから当然としても、動きの緩急はALOにはない銃の照準を絞らせないものである事は明白だった。それを駆使して光剣による近接に持っていくが、そのままサブマシンガンだけで仕留めてしまう事もある。
そして連携は、ALOをファンタジーの騎士団とするなら、GGOはまさしく現実の軍隊と言っていい。どちらもフレンドリィファイアはあるが、危険性はGGOの方が高く、故に互いの位置の把握がよりシビアだ。
「やっぱ軍隊みたいになるんだな……」
「その中でもオーリ君とシノノンの連携は凄いよ。アイコンタクトとかもせずに、オーリ君は対物ライフルの射線を最適なタイミングで開けて、シノノンはそれを分かってるかのように躊躇いなく撃つし」
「目と目で通じ合うってレベル超えてるのか……
「GGOでしようものなら、前提とする銃の腕が全く足りないからね……シノノンが言ってる事、誇張でも何でもなかったし」
「え……マジで百発百中なのか?」
「わたしが見てた限りは、だけど……少なくとも狙撃は百パーセントだと思う」
モンスター相手だけだったが、動いている相手の部位……関節部分なんかを容易く撃ち抜いていく光景には寒気すら感じてしまった。下手をすれば、どれだけ撹乱しようとも彼女の前では意味がなく、狙われればその無慈悲な
「アスナはあっちでどれくらいまでになったんだ?」
「とりあえず動きに違和感はなくなったかな? レベルとしては三十くらいだけど、モンスター相手なら慣れたね」
「モンスターってどういうのが多いんだ?」
「やっぱり機械が多いよ。人型に虫型に、ドローンみたいなのも居るし。そういう点でもやっぱり世界観が違うのは実感したなぁ」
話し込んでいれば、ポットの中のお茶も摘まんでいたお菓子もほぼ無くなった頃合い。淹れ直すか、どうしようか少し思案していれば、訪問を告げるノックが響いた。時間はまだまだある。ならば、ゆっくりと今日を過ごそうとアスナは決めて、訪問者を出迎えた。
◇
そんな頃、GGOでは総督府のロビーで、リョウゲツが発行されているクエストのリストを物色している。今日はストレアは単独でモンスター狩り。インディとコットンはトレジャーハントの為の探索。リョウゲツはウタと一緒にクエストを熟すためにこうしてロビーに居た。
「リョウゲツ」
「ん? どうした闇風」
そんな彼に声をかけてきたのは、今やGGOでも最強の呼び声高いプレイヤーである闇風だった。闇風が纏う空気は、普段とは違って友好的な物ではない。故にリョウゲツは、クエストの受注ウィンドウを消して彼と向き合った。
「《スクワッド・ジャム》、出るらしいな」
「まぁ記念参加だな。別ゲーの知り合いもやってみたいって話で大所帯になったけど」
「お前が出るなら、俺も出るぞ」
闇風の宣言に、リョウゲツは思わず『はぁっ!?』と大声を出した。
「面子は?」
「俺、イクス、ダイン、ペイルライダーにベヒモスだな」
「《BoB》本戦出場者が徒党を組むとか反則じゃねぇの……?」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ。お前以外《BoB》には出てないとはいえ、お前のスコードロンのメンバーも大概だろう」
跳び出てきた正論に思わず黙る。確かに、ウタは予選ならばほぼ確実に突破できるし、本戦でもいい所まで行く事が出来る。インディは少し微妙だが、それでも予選ならば突破できるだろうし、コットンならばウタと同様だ。ストレアは未知数だが、プレイヤースキル的には良い所までは行くだろうという手応えはあるとリョウゲツは考えている。
「それに、だ。こういう場でお前と戦いたいと思っている奴は多いんだぞ」
「何でだよ。俺にそこまでの価値があるってか?」
「第一回のお前とサトライザー。そして第三回のお前とキリト。どちらも壮絶な戦いだった――…そんなお前と戦いたいと思うのは、不自然か? 自分よりも強いかもしれないプレイヤーと比べ合ってみたいと思わなければ、《BoB》には出ていない」
「それ、お前が言うかよ優勝者」
「お前が途中で実力者と戦ってくれたおかげ――…と言われている」
その言葉にリョウゲツの目が細まった。
「そう言われちゃ、確かにお前も黙ってはいられないか。いいぜ、やろう」
「あぁ、俺達と戦うまで生きていろよ」
「その言葉、そっちにも返してやる。で、ちょうど良いから条件がある」
ん? と闇風が疑問符を浮かべる。
「俺らが勝ったら、お前の告白成功したかどうかと相手について洗いざらい喋ってもらおう」
「ちょっと待てェーイッ!?」
闇風の絶叫が総督府に響いて、辺りのプレイヤーが二人を見るが、リョウゲツはその視線を無視してニヤニヤと闇風を見、闇風はそれどころではなかった。
「……ここで言うな」
「おめーあれから、それに関してのメッセージはシカトしてんじゃねぇか。尾行しても入念に撒きやがるし」
「ぐっ……というか尾行してまで調べようとするか……!?」
「俺に持ちかけた時点でこうなる事は確定してたんだよなぁ……という事でそれ条件な」
「ぬうぅぅぅ……い、いいだろう」
「成立だ」
ぽん、と闇風の肩を叩いてリョウゲツが笑う。闇風は『何でこんな事に……』とぼやきながらも、勝てば問題無いんだと自分を奮い立たせた。
「絶対に勝つ」
「こっちの台詞だ」
「話は終わった?」
闇風の後ろで待っていたのか、ひょっこりと顔を出したのは銃士
「イクスは結構久しぶりか」
「そうねー。貴方のガールフレンドやシスターとはちょくちょく会ってるけど」
「そうなのか? ウタ」
「数少ない女性プレイヤーは、それはそれで色々と繋がりもあるから」
それもそうか、とリョウゲツは納得する。GGOにダイブする頻度と、ウタの元々の面倒見の良い性格が合わさって、初心者の女性プレイヤーには結構な頻度で声をかけていた。それが高じて、他の女性プレイヤーとの繋がりにもなったのだろう。大体はこの世界観に馴染めずに離脱していくが、残った一握りは漏れ無く染まって、恩人であろうと戦場で会えば牙を向く事になるが。
「女性だけで狩りに行く事もあるしねー」
「不穏な輩が湧き出してきそうだが、綺麗な花だと思えば銃弾飛ばしてくるからな……」
「どういう事かしら、やーみーかーぜー?」
「ナンデモナイデス」
◇
大会への準備に追われる中でも、涼は自身の日課として例の教材のプレイを欠かした事は無い。それは惰性ではなく、プレイする事による成長……自身の技量が確かに上がっている事が実感できているからだ。というか、この教材が無ければ彼がライバルと思っているキリトとの勝負に負け越している可能性すらあったのだから、止める事はまずありえない。
「――…取ったァッ!」
振るった拳が、相手の胸……丁度心臓の位置へと突き刺さる。相手は彼の父親の姿をしているが、彼には微塵の躊躇いもない。両親が近くに引っ越してきて改めて認識したのは、この教材で相手にしているのは『本人をトレースしたAIである』という事だ。確かにその再現のレベルは高く、最初は手も足も出なかったのは事実。しかしこのAIの欠点としては『成長しない』という事が挙げられる。相手が立ち止まっているのなら、自分が進んでいけばいずれ追いつけるというのは道理ではあった。
桜川涼にとって自分の父親は憧れであり、理想であり、そして頂の見えぬ巨大な山のような存在だった。幼い頃から父親は、彼に様々な事を教えてくれた。そのままで居れば知らなかった世界を見せてくれた。それは母親にも言えて、彼は両親に深く感謝と愛情を抱いている。だからこそ、その両親が用意したであろうこの教材をクリアする事は、彼にとって優先順位は高い。流石に自分の最愛の人よりは劣りはすれども、だ。
「……四か月かぁ」
故に彼が出した結論が『反射と思考の融合』であった。『反射の速度で思考する』『反射神経で思考する』等とも言えるが、要は自分自身の処理速度を上げるという事。トレースAIとの組手も、和人とのデュエルもそうだが、自身と肉薄したレベルの相手や格上の相手では『視てから思考』では遅い。和人とのデュエルでは相手も人間である為、互いに選択ミスや拙い手と言うのはどうしても発生するのでそこで立て直しを図ったり、追撃を図ったりする。たまに和人が最善手を叩き出し続けて涼を圧倒したり、その逆もあったりはする。しかしトレースAIではそういう『ムラ』がほとんどない為、安定してボッコポコにされる。
その事実については最初の一カ月で気が付いたわけだが、それを体得するのに今までかかった……今も完全に出来るとは言い難いが、それでも処理速度が向上した事によって、痛みを感じない難易度ならば安定して評価Aを出せるにまでなっている。そして、一旦の集大成が痛みを伴う難易度での撃破に現れた。
「……次が武器ばかりなんだよなぁ……」
流石の彼も、素手で殴られる以外の痛みは未経験だ。斬られるのも撃たれる刺されるのも、痛みの無いゲームでは十二分に経験はあるが、痛みが伴う物はない。現実でそんな事をされれば死ぬのだから、流石の彼でも怖気づくというのも当然と言えた。
「現実の体には何の影響も無いとはいえ……なぁ」
痛いのは恐ろしい。命に危険が迫っているという事の証明であるのだから。特によく首をチョンパされる刀系列の相手はなるべくご遠慮願いたい。
愛しい人が噛んでくるなどは大歓迎だが、それは特例である。そんな事を考えながら、とりあえずの目標はクリアできたので教材を終了し、意識を現実へと浮上させた。
「……詩乃?」
「あ、戻ってきた」
現実へと戻って、自身の重さ以外の物を感じて声を掛ければ、予想通りの人の声が返ってきた。彼の胸の上に頭を乗せて、詩乃は彼の鼓動を聞きながら意識が戻ってきた事を確認する。
そんな彼女の髪に触れて、感触を楽しむように頭を撫でる。嬉しそうに笑う顔を見れば、それだけで愛しいと思う感情が溢れてしまう。詩乃も詩乃で、撫でられながらも体勢を変えて彼に抱きついている。
「ぎゅー」
「俺を悶え殺す気ですか詩乃さん」
「可愛かった?」
「可愛くないって言う奴が居たら、俺はそいつと一生理解し合えないな」
涼は甘えてくれる詩乃を、詩乃は包んでくれる涼を堪能しながら、少しの時間を過ごす。二人は既に寝間着に着替えており、後は眠るだけと言う状況だからこそのスキンシップ。
「……詩乃はこうするの好きだよな」
「そうね。涼の鼓動を聞いてると安心するの」
「何で……って聞く必要はない、か」
「えぇ。考えた通りよ」
詩乃のこの行動は、涼がSAOに囚われている時から行われている物だ。あの頃の彼女が唯一悪夢を見なかったのが、彼の鼓動を聞きながら眠った時だったという。涼がSAOから帰還しても、しばらくは病室でこうしていた。その時はまだ恋人ではなかったので、詩乃も躊躇いがちに抱き着いてきたし、涼も意識しすぎて心臓の鼓動が正規のペースを刻めなかった。
この事を知られれば『そこまでしておきながら恋人で無かったとは一体』と、仲間内から言われる事確実な事をして、それでも告白したのは目覚めてから二カ月後だというのは互いにヘタレが過ぎる。
SAO事件が終結し、生還者達が目覚めてから一年以上経過したが、『まだ』一年だ。社会から二年もの間取り残された生還者達の中には、未だに事件の前の生活には戻れない者も居る。酷い話であれば、生還した時にはもう自分の居場所が無かった――…なんて事もあったという。そんな直接の被害者である生還者達は元より、彼彼女達の家族や大切な人にも、あの事件は傷跡を残していた。
例えばシリカの親は、以前にも増して過保護になったと聞く。まぁ彼女についてはレイティング破りの上で囚われたのだから、そうなるだろうなと仲間内ではわかりきった事であったし、本人も受け入れている上にまだ理解があるから問題は無い。ただ、酷い物で言えば一家離散などもあるらしい。というかユナのマネージャーであるノーチラスがそれだと聞いて、流石に本人以外誰も笑えなかった。今は重村教授が身元引受人になって、マネージャー業の傍ら勉学に励んでいるという。
そして、朝田詩乃が負った心の傷も、一年やそこらでは到底癒えるものでもない。涼はそんな事は百も承知で彼女と添い遂げる事を決めて、今こうして二人の時間を過ごしている。
「ねぇ、涼」
「……どうした?」
「私、幸せよ。貴方と恋人になって、結ばれて、一緒に歩いて行ける事が」
くすり、と笑いながら告げられた言葉は、今の涼が一番欲しい言葉だった。彼の心の中に、詩乃への愛以外の感情が無いという事は口が裂けても言えない。彼女を傷つけてしまった負い目もある。贖罪もある。それを悟られて、失望されるのが怖いという思いだってある。
「詩乃……」
「私達の間には色々あったし、これからも色々あると思う。でも、それでも変わらないのはね、涼。私は貴方の事が一番好きって言う事。私の中にだって、こうすれば貴方を繋ぎ止めていられるとか、色んな打算や黒い感情くらいあるのよ?」
涼の上に跨ってその眼を真っ直ぐに見る彼女は、そんな心はお見通しだと言わんばかりに微笑んだ。
「似たような話、イブにもしたわよ?」
「……そういやそうだ。ダメだなぁ、考え出すと不安になる」
苦笑しながら、改めて詩乃を抱きしめる。彼女が居てくれるから、自分は踏み外さないのだと彼は思う。もう、彼女が居ないとダメなくらいになっている自分にはもう驚かない。そうなって構わないと思ったから、今自分はそこに向かっている。彼女とずっと一緒に歩む未来へと歩いているのだから。
「いつも有難う、詩乃」
「どういたしまして、涼」
おやすみ、と唇を重ね合わせて、二人はそのまま眠りへと落ちていく。その日は、とても幸せな夢を見た気がすると、二人は翌日の朝食の時に話をした。
ちょっとね、初心に戻ってヒロインを可愛く動かしたいなって……